量子力学の様々な構成方法 第9部 第3章 §9.3.2 ★★ 量子ビットでは隠れた変数の模型が実際に作れることを示し、定理が3次元以上でしか成り立たない理由を確かめる
2次元で着色が自明な理由
量子ビット H=C2 では、射線 ∣x⟩ に直交する射線は ∣x⊥⟩ の1本しかない。正規直交基底は互いに交わらない2本組 {∣x⟩,∣x⊥⟩} に分かれ、1本の射線は1つの基底にしか属さない。だから、各組から好きな方を 1 に選べば KS 着色ができ、非文脈性はそもそも制約にならない。Bloch 球の言葉では、射線は単位ベクトル n(P^n=21(1^+n⋅σ))に対応し、直交する射線は −n である。KS 着色は、球面を「n と −n の一方だけが黒」となるように塗ることに当たる。第9部第2章で Gleason の定理が2次元で破れたのも同じ理由である。
着色が作れるだけでなく、その混合で Born の規則を再現する模型も作ることができる。Bell(1966)と Kochen–Specker(1967)はどちらも、量子ビットについてそのような模型を示した。ここでは計算しやすい形の1つを使う。
模型と、Born の規則の再現
命題 9.3.4(量子ビットの隠れた変数の模型 ★★)
量子ビットの純粋状態を Bloch ベクトル m(∣m∣=1)で表す。隠れた変数 λ を単位球面上の単位ベクトルとし、その分布を
qm(λ)=⎩⎨⎧πλ⋅m0(λ⋅m>0)(λ⋅m≤0)(立体角 dΩ について)(9.3.3)
と定める。物理量 n⋅σ の値を vλ(n⋅σ)=sgn(λ⋅n) で割り当てると、
Pr(n⋅σ=+1)=∫λ⋅n>0qm(λ)dΩ=21+m⋅n(9.3.4)
となり、Born の規則 Tr(ρ^P^n)=21(1+m⋅n) と一致する。
証明
まず規格化を確かめる。m を極にとった極座標で λ⋅m=cosϑ なので ∫qmdΩ=π1∫02πdφ∫0π/2cosϑsinϑdϑ=π1⋅2π⋅21=1。
次に確率を計算する。x+=max(x,0)=21(x+∣x∣) を使って qm=2π1(λ⋅m+∣λ⋅m∣) と書くと
Pr(+)=2π1[∫λ⋅n>0λ⋅mdΩ+∫λ⋅n>0∣λ⋅m∣dΩ].
第1項は m⋅∫λ⋅n>0λdΩ で、半球の上の λ の積分は対称性から n の向きを向き、大きさは ∫λ⋅n>0λ⋅ndΩ=π(規格化の計算と同じ)なので、第1項は πm⋅n。第2項は、λ→−λ で半球 λ⋅n>0 が反対の半球に移り、∣λ⋅m∣ は変わらないので、球面全体の積分 ∫∣λ⋅m∣dΩ=2π の半分 π である。よって Pr(+)=2π1(πm⋅n+π)=21(1+m⋅n)。λ⋅n=0 となる λ は測度 0 なので、Pr(−)=1−Pr(+) である。
混合状態(∣r∣<1)は純粋状態の混合 ρ^=∑jpjρ^mj に書けるので、分布も q=∑jpjqmj と混ぜれば、確率の線型性で 21(1+r⋅n) が出る。この模型は非文脈的である。量子ビットの文脈は {n⋅σ} とその関数だけで、vλ(n⋅σ) は λ と n だけで決まり、vλ(−n⋅σ)=sgn(−λ⋅n)=−vλ(n⋅σ) と (V2) を満たしているからである。

図 9.3.1 量子ビットの模型を、m と n を含む平面で切った断面。λ は m の向きの半球(横線より上)に密度 λ⋅m/π で分布する。n⋅σ=+1 になるのは λ が破線の右上側(λ⋅n>0)にあるときで、その重みは cos2(θ/2)。赤の扇形は、n の半球のうち m の半球から外れた部分(λ が来ない)と、m の半球のうち n の半球から外れた部分(値 −1)を示す。
例題 9.3.2 模型で確率を計算する ★★
オリジナル状態を m=ez(∣↑⟩)とする。
- (1) n=(sinθ,0,cosθ) で θ=π/3 のとき、(9.3.4) から Pr(n⋅σ=+1) を求め、Born の規則 ∣⟨n∣↑⟩∣2=cos2(θ/2) と比べよ。
- (2) θ=π/2(σx の測定)で、λ の値が +1 になる領域を言葉で書き、確率 21 を確かめよ。
- (3) 同じ λ で σx と σz を「両方とも」値を持たせるこの模型は、例題 9.3.1 の von Neumann の仮定を満たすか。
解答
(1) m⋅n=cos3π=21 なので Pr(+)=21(1+21)=43。Born の規則は cos26π=43 で一致する。
(2) λ は上半球(λz>0)に密度 λz/π で分布し、σx=+1 となるのは λx>0 の側である。密度 λz/π は λx→−λx の鏡映で変わらないので、上半球の右半分と左半分の重みは等しく、Pr(+)=21。(9.3.4) でも m⋅n=0 から 21。
(3) 満たさない。vλ(σx)+vλ(σz)∈{0,±2} だが、σx+σz=2n⋅σ(n=(1,0,1)/2)の値は vλ(2n⋅σ)=±2 である。それでもこの模型は Born の規則をすべて再現する。交換しない組の値に和の関係を求めない限り、隠れた変数は量子ビットと両立する。von Neumann の仮定が強すぎたことの具体例になっている。
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