ハミルトニアンの選び方で固体を考える 第1部 第3章 §1.3.2 ★★★ 散乱ベクトルが逆格子ベクトルに一致する方向にだけ強い散乱が出る。Bragg の式はその言い換え
Laue 条件
例題 1.3.1 の1次元の計算を3次元に広げる。結晶が基本並進ベクトル a1,a2,a3 の方向にそれぞれ N1,N2,N3 個の単位胞を持つ平行六面体なら、格子の和は3つの等比級数の積になり、
∣L(q)∣2=i=1∏3sin2(q⋅ai/2)sin2(Niq⋅ai/2)(1.3.5)
である。これが N1N2N3 の2乗の大きさになるのは、3つの q⋅ai がすべて 2π の整数倍のときに限る。q⋅ai=2πhi を満たす q は、前の章の逆格子の定義 ai⋅bj=2πδij から q=∑jhjbj、すなわち逆格子ベクトルそのものである。
命題 1.3.1(Laue 条件 ★★★)
単位胞の数 N→∞ の極限で、結晶からの弾性散乱の強度は、散乱ベクトルが逆格子ベクトルに一致する方向
q=k′−k=G,∣k′∣=∣k∣(1.3.6)
にだけ集まる。式 (1.3.5) の極限は ∣L(q)∣2→Nvc(2π)3∑Gδ(3)(q−G)(vc は単位胞の体積)である。
後半の式は、1次元の結果「主極大の下の面積が N に比例する」を3次元に写したものである。各方向で∫sin2(Nix/2)/sin2(x/2)dx=2πNi(主極大1つあたり)なので、q の空間での体積要素の Jacobian (2π)3/vc と合わせてこの形になる。
Laue 条件は、前の章で「格子の周期を持つ関数の Fourier 成分は G だけ」と述べたことの実験版である。周期的なポテンシャルは q=G の Fourier 成分しか持たないので、Born 振幅 (1.3.3) もそこでしか 0 でない。散乱の向きを測れば逆格子が分かり、逆格子が分かれば前の章の関係で実空間の格子が分かる。
Bragg の式
Laue 条件を、格子面の言葉で言い直す。逆格子ベクトル G は、それに垂直な格子面の族に対応し、互いに平行な隣の格子面までの距離を d とすると、その方向の最短の逆格子ベクトルの長さは 2π/d である(前の章)。一般の G はその n 倍で ∣G∣=2πn/d と書くことができる。一方、弾性散乱で入射方向と散乱方向のなす角を 2θ とすると、∣q∣=2ksinθ である(k と k′ が長さ k の二等辺三角形を作る)。∣q∣=∣G∣ と k=2π/λ を代入すると
2dsinθ=nλ(1.3.7)
を得る。これが Bragg の式で、θ は入射波と格子面のなす角である。q=G は格子面に垂直なので、入射波と散乱波は格子面について鏡のように対称になる。W. H. Bragg と W. L. Bragg はこれを「格子面で反射された波が強め合う条件」として導いた(W. H. Bragg and W. L. Bragg (1913), Proc. R. Soc. Lond. A 88, 428)。Laue 条件の側から見ると、「反射」は格子面の族ごとに足し合わせた干渉の結果であり、鏡で反射しているわけではない。

図 1.3.2 Bragg の式の幾何。散乱ベクトル q=k′−k が格子面に垂直な逆格子ベクトル G に一致すると、入射と散乱は格子面について対称になり、∣q∣=2ksinθ=2πn/d が 2dsinθ=nλ になる。
Ewald 球
Laue 条件 (1.3.6) の2つの式を1つの図にまとめたのが Ewald の作図である。逆格子の空間に、ベクトル k の終点を逆格子の原点 O に合わせて置き、始点 C を中心に半径 k の球(Ewald 球)を描く。k′ も長さ k で C から出るので、その終点は球面上にある。k′−k=G は、この球面の上に逆格子点 G が乗っていることと同じである。式で書くと ∣k+G∣2=k2、すなわち
2k⋅G+∣G∣2=0(1.3.8)
である。
この作図から、回折実験の3つの方式の違いが読み取れる。単色の X 線で結晶を止めておくと、球面にちょうど逆格子点が乗ることはまれで、一般には回折斑点が1つも出ない。そこで、(i) 結晶を回して逆格子を球に対して回す(回転結晶法)、(ii) 波長を連続に変えて球の半径を動かす(Laue 法。白色 X 線を使う)、(iii) 微結晶の粉をあらゆる向きに並べて、逆格子点を原点からの距離 ∣G∣ が同じ球殻に塗り広げる(粉末法)、のどれかで球と逆格子点を出会わせる。また、球の直径は 2k なので、∣G∣>2k の逆格子点はどう回しても球に乗らない。2dsinθ=λ で sinθ≤1 なので、d<λ/2 の格子面は見えない。波長を短くするほど細かい構造まで分かるのはこのためである。

図 1.3.3 Ewald の作図(2次元の断面)。黒い点が逆格子点、O が逆格子の原点。k の終点を O に置き、始点 C を中心に半径 k=∣k∣ の円を描く。円周に乗った逆格子点 G の方向 k′=k+G にだけ回折が起きる。図は ∣k∣2=∣k+G∣2 を満たすように k=(2.6,−1.5)、G=(0,3) に選んだ。
例題 1.3.2 Ewald 球に乗る条件を数える ★★
オリジナル格子定数 a の単純立方格子を考え、逆格子ベクトルを G=(2π/a)(h,k,l) と書く。波数 k=(2π/a)κez(κ>0)の単色波を入射させる。
- (1) 式 (1.3.8) から、逆格子点 (h,k,l) が Ewald 球に乗る条件を κ で書け。
- (2) (0,0,−1) の点が球に乗る κ を求め、このときの回折を Bragg の式で言い直せ。
- (3) κ=1.3 のとき、∣h∣,∣k∣,∣l∣≤3 の範囲で球に乗る逆格子点(原点を除く)はあるか。
解答
(1) 2k⋅G+∣G∣2=0 に代入すると (2π/a)2[2κl+h2+k2+l2]=0、すなわち h2+k2+l2=−2κl。
(2) (0,0,−1) を入れると 1=2κ、κ=1/2。このとき ∣k∣=π/a、λ=2a で、散乱波は k′=k+G=−k、つまり真後ろへ戻る(2θ=π、θ=π/2)。Bragg の式では d=a、n=1 で 2asin(π/2)=λ がちょうど成り立つ。これが単純立方格子で見える最も長い波長である。
(3) 条件 h2+k2+l2=−2.6l の左辺は整数なので、右辺 −2.6l も整数でなければならない。∣l∣≤3 の整数で 2.6l が整数になるのは l=0 だけで、このとき左辺 h2+k2=0 から原点しか残らない。したがって球に乗る点は無く、結晶を止めて単色波を当てても回折は1本も出ない。本文の「単色波で結晶を止めると一般には斑点が出ない」の具体例であり、結晶を回すか波長を変えるかしないと測ることができない。
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