統計学の復習 第12章 §12.3 ★★★ 第1種の過誤の確率 α は自分で決めるが、第2種の過誤の確率 β は真の母数の値ごとに決まり、n を増やすことでしか α を保ったまま小さくすることができない
2種類の誤り
検定の結論と真実の組み合わせは4通りある。
| H0 を棄却しない | H0 を棄却する |
| H0 が正しい | 正しい判断(確率 1−α) | 第1種の過誤(確率 α) |
| H1 が正しい | 第2種の過誤(確率 β) | 正しい判断(確率 1−β=検出力) |
定義 12.4(過誤の確率と検出力)
母平均が μ のときの確率を Pμ と書く。
- 第1種の過誤は、H0 が正しいのに H0 を棄却することで、その確率 Pμ0(棄却) が有意水準 α である。
- 第2種の過誤は、H1 が正しいのに H0 を棄却しないことで、その確率を β(μ)=Pμ(棄却しない)(μ は H1 の値)と書く。
- 1−β(μ)=Pμ(棄却) を、μ での検出力と呼ぶ。
α と β は条件が違う確率なので、足して 1 になる関係はない。H0 が正しいときに棄却しない確率は 1−α で、β ではない。
記号の違い
この巻では2級の慣習に合わせて、β を第2種の過誤の確率、1−β を検出力と書く。数理統計の解説 第7章は、棄却する確率を母数の関数とみた検出力関数そのものを β(θ) と書く(この巻の 1−β(μ) に当たる)。1級の答案では問題文の定義に従う。
第2種の過誤の確率を計算する
α と β の扱いは非対称である。α は「0.05 にする」と決めればそのとおりになる。H0 が μ を1つの値に固定しているので、その値のもとで棄却域の確率を 0.05 に合わせることができるからである。一方、β を計算するには「H1 が正しいときの分布」が要るが、H1:μ=μ0 は分布を1つに決めない。したがって β は、真の μ の値を1つ指定して初めて計算できる、μ の関数である。
母分散既知の正規母集団で、H0:μ=μ0、H1:μ>μ0 を有意水準 α で検定する場合に β(μ) を求める。棄却域は Z=(Xˉ−μ0)/(σ/n)>zα、Xˉ について書けば
Xˉ>c,c=μ0+zαnσ
である。真の母平均が μ のとき Xˉ∼N(μ,σ2/n) なので、Xˉ を真の μ で標準化して
Pμ(Xˉ≤c)=P(σ/nXˉ−μ≤σ/nc−μ)=Φ(σ/nμ0−μ+zα)
を得る。δ=(μ−μ0)n/σ と置くと、
β(μ)=Φ(zα−δ),1−β(μ)=Φ(δ−zα),δ=σ(μ−μ0)n(12.2)
である。両側の対立仮説 H1:μ=μ0 で棄却域が ∣Z∣>zα/2 のときは、同じ標準化で
β(μ)=Pμ(−zα/2≤Z≤zα/2)=Φ(zα/2−δ)−Φ(−zα/2−δ)(12.3)
となる。Z=(Xˉ−μ0)/(σ/n) は、真の μ のもとでは N(δ,1) に従うからである。
図 12.1 は、菓子の例で μ0=200、σ/n=1、α=0.05 の上側検定と、真の母平均 μ=202 の場合を描いたものである。臨界値 c=201.645 の右で H0 の分布の下の面積が α、左で真の分布の下の面積が β である。

図 12.1 上側の z 検定(μ0=200、σ/n=1、α=0.05)の2つの過誤。臨界値の右で実線の下の面積が第1種の過誤の確率 α=0.05、左で破線の下の面積が真の μ=202 での第2種の過誤の確率 β=0.361 である。
β を決める4つの要素
式 (12.2) の β=Φ(zα−δ) は zα について増加し、δ について減少する。このことから β の動き方が次のように読み取れる。
- α を小さくすると zα が大きくなり、β は増える。図 12.1 では縦線が右へ動き、破線の下の左側の面積が広がる。2つの誤りの確率の一方を減らすと、他方が増える。
- 真の差 μ−μ0 が大きいほど δ が大きく、β は小さい。小さな差ほど見逃しやすい。
- σ が小さいほど δ が大きく、β は小さい。
- n を大きくすると δ が n に比例して大きくなり、β は小さくなる。α は自分で決めた値なので、n を変えても変わらない。α を保ったまま β を小さくする方法は、n を増やすことである。
検出力 1−β(μ) を μ の関数として描いたものを検出力曲線と呼ぶ。図 12.2 は、上の上側検定の検出力曲線を n=36 と n=81 で比べたものである。2本の曲線はどちらも μ=200 で高さ α=0.05 を通り、n が大きい方が μ>200 で速く 1 に近づく。

図 12.2 上側の z 検定(μ0=200、σ=6、α=0.05)の検出力曲線。点は μ=202 での検出力(n=36 で 0.639、n=81 で 0.912)。どちらの曲線も μ=μ0 で α を通る。
検出力を指定した値にするための n は、式 (12.2) を n について解いて求めることができる。この逆算は第16章で詳しく扱い、この章では章末の総合問題で1回通す。
例題 12.3 第2種の過誤の確率を計算する ★★★
オリジナル菓子の例で、H0:μ=200、H1:μ>200 を有意水準 5% で検定する(σ=6)。
- n=36 のとき、Xˉ についての棄却域を求めよ。
- 真の母平均が μ=202 のとき、第2種の過誤の確率と検出力を求めよ。
- n=81 に増やしたとき、(2) はどう変わるか。
- n=36 のまま有意水準を 1% にすると、(2) はどう変わるか。
解答
(1) σ/n=1 なので c=200+1.645×1=201.645。棄却域は Xˉ>201.645 である。
(2) δ=(202−200)36/6=2 なので、式 (12.2) から
β(202)=Φ(1.645−2)=Φ(−0.355)=0.361,1−β(202)=0.639.
真の母平均が 2g 多くても、約 36% の確率でそれを見逃す。
(3) σ/n=6/9=2/3、δ=2×9/6=3 なので β(202)=Φ(1.645−3)=Φ(−1.355)=0.088、検出力は 0.912 である。α は 0.05 のままである。
(4) z0.01=2.326 に取り替えると β(202)=Φ(2.326−2)=Φ(0.326)=0.628 で、検出力は 0.372 に下がる。第1種の過誤を厳しく抑えると、第2種の過誤が増える。
確認テスト
オリジナル
- 12.3-1 次の文の正誤を答えよ。(a) 標本の大きさを増やすと、第1種の過誤の確率は小さくなる。(b) 有意水準を小さくすると、第2種の過誤の確率は大きくなる。(c) α+β=1 である。(d) 第2種の過誤の確率は真の母数の値によって変わる。
- 12.3-2 例題 12.3 と同じ設定(σ=6、n=36、α=0.05)で、対立仮説を両側 H1:μ=200 にしたとき、真の μ=202 での第2種の過誤の確率を式 (12.3) で求め、片側の場合と比べよ(Φ(−0.04)=0.4840、Φ(−3.96)=0.00004)。
- 12.3-3 新薬の臨床試験で、H0「新薬は従来薬と効果が同じ」、H1「新薬の方が効果が大きい」とする。次の誤りはそれぞれ第何種の過誤か。(a) 本当は効果が同じなのに、新薬の方が効果が大きいと結論した。(b) 本当は新薬の方が効果が大きいのに、効果に差があるとはいえないとした。
- 12.3-4 式 (12.2) の検出力 1−β(μ)=Φ(δ−zα) について、(i) μ について増加すること、(ii) μ=μ0 で α に等しいこと、(iii) μ>μ0 を固定して n→∞ とすると 1 に近づくことを示せ。
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