統計学の復習 第14章 §14.6 ★★★ b1 は Yi の重み付き和なので、平均 β1・分散 σ2/Sxx が第7章の公式から出る。Ve=Se/(n−2) で σ2 を推定すると、傾きの検定統計量は tn−2 に従い、F=t2 になる
モデルの仮定
ここからは、式 (14.8) の誤差 ε1,…,εn が互いに独立で、どれも N(0,σ2) に従うと仮定する。xi は定数なので、Yi∼N(β0+β1xi,σ2) で、Y1,…,Yn は独立である。最小二乗の式 (14.10) の yi を確率変数 Yi に置き換えたものを推定量として扱い、同じ字 b0,b1,Se で書く。
傾きの推定量の平均と分散
Sxy=∑(xi−xˉ)(Yi−Yˉ)=∑(xi−xˉ)Yi(∑(xi−xˉ)=0 なので Yˉ の項が消える)だから、
b1=i=1∑nwiYi,wi=Sxxxi−xˉ(14.24)
と、b1 は Yi の重み付き和で書ける。重みは
∑wi=0,∑wixi=Sxx∑(xi−xˉ)xi=SxxSxx=1,∑wi2=Sxx2Sxx=Sxx1
を満たす(2つ目は ∑(xi−xˉ)xi=∑(xi−xˉ)(xi−xˉ)=Sxx による)。
定理 14.10(傾きの推定量の分布)
誤差が独立に N(0,σ2) に従うとき、
E[b1]=β1,V[b1]=Sxxσ2,b1∼N(β1, Sxxσ2).(14.25)
証明
期待値の線形性から E[b1]=∑wi(β0+β1xi)=β0∑wi+β1∑wixi=β1 である。Yi は独立なので、第7章 §7.2 の n 個の和の分散の公式で共分散の項が消え、V[b1]=∑wi2V[Yi]=σ2∑wi2=σ2/Sxx である。独立な正規分布に従う変数の1次結合は正規分布に従う(第6章 §6.3 の再生性)ので、b1 は正規分布に従う。
V[b1]=σ2/Sxx は、x の散らばり Sxx が大きいほど傾きを精度よく推定できることを表している。x の値が狭い範囲に固まっていると、y のわずかなぶれで傾きが大きく動く。正規性の仮定を使ったのは最後の1文だけで、平均と分散の式は誤差が独立で等分散でありさえすれば成り立つ。
誤差分散の推定と自由度 n−2
σ2 は未知なので、残差平方和から推定する。
定理 14.11(残差平方和の期待値)
誤差が独立で平均 0・分散 σ2 のとき、E[Se]=(n−2)σ2 である。したがって
Ve=n−2Se(14.26)
は σ2 の不偏推定量である。
証明
式 (14.16) から Se=Syy−b12Sxx で、2つの項の期待値を別々に計算する。Yi−Yˉ=β1(xi−xˉ)+(εi−εˉ) なので
E[Syy]=β12Sxx+2β1∑(xi−xˉ)E[εi−εˉ]+E[∑(εi−εˉ)2]=β12Sxx+(n−1)σ2
である。中央の項は E[εi]=0 から 0、最後の項は第9章 §9.3 の不偏分散の定理(E[∑(Xi−Xˉ)2]=(n−1)σ2)を εi に当てはめた。一方、定理 14.10 から E[b12]=V[b1]+E[b1]2=σ2/Sxx+β12 なので、E[b12Sxx]=σ2+β12Sxx である。引き算すると
E[Se]=β12Sxx+(n−1)σ2−σ2−β12Sxx=(n−2)σ2.
不偏分散で n−1 で割ったのは、Xˉ を推定したことで偏差平方和の期待値が σ2 の1個ぶん減ったからであった(第9章 §9.3)。回帰では、その1個ぶん(Yˉ を引いた分)に加えて、傾き b1 を推定した分 E[b12Sxx]−β12Sxx=σ2 がもう1個減る。この証明の中で、減る量が切片と傾きの推定の1個ずつとしてそのまま見えている。推定した母数が β0,β1 の2つなので、Se の自由度は n−2 である。関心があるのが傾きだけでも切片も同時に推定しているので、自由度は n−1 にはならない。説明変数が p 個の重回帰では、推定する係数が p+1 個なので自由度は n−p−1 である。
傾きの t 検定
正規性の仮定の下では、さらに次が成り立つ。証明には Se が独立な標準正規変数 n−2 個の2乗和の σ2 倍として書けることを示す必要があり、これは第10章で n=2 の場合だけ確かめ、一般の n では1級の巻へ送った Xˉ と S2 の独立性と同じ種類の議論になるので、結果だけを使う。
定理 14.12(傾きの t 統計量)
誤差が独立に N(0,σ2) に従うとき、Se/σ2∼χn−22 で、Se と b1 は独立である。したがって
T=Ve/Sxxb1−β1∼tn−2.(14.27)
式 (14.27) は、Z=(b1−β1)/σ2/Sxx∼N(0,1) と W=Se/σ2∼χn−22 から T=Z/W/(n−2) と書けるので、第10章 §10.3 の t 分布の定義そのものである(σ は分子と分母で約分される)。証明は数理統計の解説 第9章 §9.1 で扱う。Ve/Sxx を b1 の標準誤差 SE(b1) と呼ぶ。統計ソフトの出力の係数の表で「標準誤差」の列に出る値がこれで、「t 値」の列は b1/SE(b1) である。
傾きが 0 かどうか、すなわち x が y の予測に役立つかどうかの検定は、帰無仮説 H0:β1=0、対立仮説 H1:β1=0 について、
t0=SE(b1)b1=Ve/Sxxb1
を計算し、∣t0∣>tn−2(α/2) なら H0 を棄却する。検定の手順の一般論は第12章で扱う。β1 の信頼係数 1−α の信頼区間は、第10章と同じピボットの手順で
b1±tn−2(α/2)SxxVe(14.28)
である。
この t0 は相関係数だけで書くこともできる。b1=Sxy/Sxx と Ve=Syy(1−r2)/(n−2)(式 (14.16))を入れると
t02=Syy(1−r2)/{(n−2)Sxx}Sxy2/Sxx2=SxxSyy(1−r2)(n−2)Sxy2=1−r2(n−2)r2,t0=1−r2rn−2(14.29)
となる(t0 と r は同じ符号)。「母相関係数が 0 か」を調べる無相関の検定の統計量はこの右辺で、傾きの t 検定と同じ検定である。
回帰の分散分析表と F=t²
平方和の分解 Syy=SR+Se を、自由度とともに表にしたものを回帰の分散分析表と呼ぶ。
| 要因 | 平方和 | 自由度 | 平均平方 | 分散比 |
| 回帰 | SR | 1 | VR=SR/1 | F0=VR/Ve |
| 残差 | Se | n−2 | Ve=Se/(n−2) | |
| 全体 | Syy | n−1 | | |
自由度も平方和と同じく足し算になる(1+(n−2)=n−1)。SR=b12Sxx なので
F0=Veb12Sxx=(Ve/Sxxb1)2=t02(14.30)
である。H0:β1=0 の下で F0 は自由度 (1,n−2) の F 分布に従い(F 分布の定義は第15章)、F1,n−2(α)=tn−2(α/2)2 なので、F0>F1,n−2(α) による検定は両側の t 検定と同じ結論を出す。説明変数が p 個の重回帰では、回帰の自由度が p、残差の自由度が n−p−1 になり、F0=(SR/p)/{Se/(n−p−1)} で「すべての偏回帰係数が 0」を検定する。
予測値のばらつき
x=x0 での y の平均 β0+β1x0 の推定量 Y^0=b0+b1x0 は、回帰直線が (xˉ,Yˉ) を通ることから Y^0=Yˉ+b1(x0−xˉ) と書ける。Cov(Yˉ,b1)=∑in1wiσ2=nσ2∑wi=0(第7章の共分散の双線形性)なので
V[Y^0]=V[Yˉ]+(x0−xˉ)2V[b1]=σ2(n1+Sxx(x0−xˉ)2)(14.31)
である。x0 が xˉ から離れるほど分散が大きくなり、平均の点で最も精度がよい。σ2 を Ve で置き換えれば、tn−2 による信頼区間が作れる(総合問題 (5))。
相関係数の区間推定(Fisher の z 変換)
2変数がともに確率変数で2変量正規分布に従うとき、母相関係数 ρ の区間推定には、相関係数を
z=21log1−r1+r(14.32)
と変換した量を使う。これを Fisher の z 変換と呼ぶ。r の分布は ρ が ±1 に近いほど片側に偏り、分散も ρ によって変わるが、z は近似的に N(21log1−ρ1+ρ, n−31) に従い、分散が ρ によらなくなる。そこで z±zα/2/n−3 を区間とし、両端を逆変換 r=tanhz=(e2z−1)/(e2z+1) で ρ の尺度に戻す。
ここで現れる n−3 は、自由度の数え方(データ数から推定した母数の数を引く)から出たものではない。z の分散を n について展開したとき、1/n でなく 1/(n−3) と書くと近似がよくなる、という近似の事情による。単回帰の t 検定の n−2 とは別物で、この1か所だけが例外である。近似がなぜこの形になるかは、数理統計の解説 第5章 §5.3 のデルタ法と、§5.5 の分散を一定にする変換で扱う。
例題 14.7 傾きの t 検定と分散分析表 ★★★
オリジナル例題 14.4・14.5 のデータ(n=5、Sxx=10、Syy=22、Sxy=13、b1=1.3、Se=5.1)について、誤差が独立に N(0,σ2) に従うとする。
- σ2 の不偏推定値 Ve と、b1 の標準誤差を求めよ。
- H0:β1=0、H1:β1=0 を有意水準 5% で検定せよ(t3(0.025)=3.182)。
- 分散分析表を作り、F0=t02 と、t0 が式 (14.29) に一致することを確かめよ(F1,3(0.05)=10.13)。
- β1 の 95% 信頼区間を求め、(2) の結論と照らし合わせよ。
解答
(1) Ve=5.1/(5−2)=1.7、SE(b1)=1.7/10=0.17=0.4123 である。
(2) t0=1.3/0.4123=3.153 である。自由度は n−2=3 で、∣t0∣=3.153<3.182 なので、有意水準 5% で H0 は棄却されない。相関係数は 0.876 と大きいが、n=5 では傾きが 0 でないと結論するには足りない。
(3) 分散分析表は次のとおりである。
| 要因 | 平方和 | 自由度 | 平均平方 | 分散比 |
| 回帰 | 16.9 | 1 | 16.9 | 9.94 |
| 残差 | 5.1 | 3 | 1.7 | |
| 全体 | 22.0 | 4 | | |
F0=16.9/1.7=9.941 で、t02=3.1532=9.941 と一致する。F0<F1,3(0.05)=10.13 で、結論は (2) と同じである(3.1822=10.13)。また r2=169/220=0.7682 から rn−2/1−r2=0.8765×3/0.2318=1.5181/0.4815=3.153 で、t0 と一致する。
(4) 式 (14.28) から 1.3±3.182×0.4123=1.3±1.312 で、区間は [−0.012, 2.612] である。区間がわずかに 0 を含むことは、(2) で H0:β1=0 がわずかに棄却されなかったことと対応している。
例題 14.8 相関係数の区間推定 ★★
オリジナル2変量正規分布に従う母集団から n=28 組の標本を取り、相関係数 r=0.60 を得た。母相関係数 ρ の 95% 信頼区間を Fisher の z 変換で求めよ(z0.025=1.960)。
解答
z=21log0.41.6=21log4=0.6931 である。標準誤差は 1/28−3=1/5=0.2 で、半幅は 1.960×0.2=0.392 なので、z の尺度での区間は [0.3011, 1.0851] である。逆変換 tanh で戻すと、tanh0.3011=0.292、tanh1.0851=0.796 で、ρ の区間は [0.292, 0.796] である。区間は r=0.60 を中心にしておらず、1 に近い側が狭い。r は 1 を超えないので、1 の側に裾を伸ばせないからである。標準誤差に使ったのは n−2=26 でも n=28 でもなく n−3=25 である。
確認テスト
オリジナル
- 14.6-1 単回帰の傾きの t 検定の自由度を答え、なぜその数になるかを1文で説明せよ。
- 14.6-2 確認テスト 14.3-2・14.4-2 のデータ(n=6、Sxx=17.5、Sxy=14、Syy=20)で、H0:β1=0 を有意水準 5% の両側で検定せよ(t4(0.025)=2.776)。
- 14.6-3 n=39 の標本で相関係数 r=0.40 を得た。母相関係数の 95% 信頼区間を Fisher の z 変換で求めよ(z0.025=1.960)。
- 14.6-4 n=12 のデータで Syy=50、r2=0.6 であった。回帰の分散分析表を作り、有意水準 5% で回帰が有意かを判定せよ(F1,10(0.05)=4.965)。
- 14.6-5 式 (14.31) を x0=0 に当てはめて V[b0]=σ2(1/n+xˉ2/Sxx) を示せ。また Cov(b0,b1)=−xˉσ2/Sxx を示せ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com