統計学の復習 第16章 §16.2 ★★★ 検出力は「対立仮説が正しいときに H0 を棄却する確率」で、母数の真の値の関数になる。α を下げると下がり、n を増やすと上がる
2種類の誤りと検出力
仮説検定(第12章)では、帰無仮説 H0 を棄却するかどうかを、検定統計量が棄却域に入るかどうかで決める。判断の誤りは2種類あり、第12章 §12.3 で定義したとおり、H0 が正しいのに棄却する誤りが第1種の過誤(確率は有意水準 α)、対立仮説 H1 が正しいのに棄却しない誤りが第2種の過誤(確率 β)である。この節では、第12章で1つの対立仮説の値について計算した β を、母数の関数として調べ直す。
| H0 が正しい | H1 が正しい |
| H0 を棄却する | 第1種の過誤(確率 α) | 正しい判断(確率 1−β) |
| H0 を棄却しない | 正しい判断(確率 1−α) | 第2種の過誤(確率 β) |
定義 16.3(検出力)
H1 が正しいときに H0 を棄却する確率 1−β を、その検定の検出力と呼ぶ。H1 が「μ>μ0」のように母数の範囲を表すときは、β は母数の真の値 μ によって変わるので β(μ) と書き、μ の関数 1−β(μ) を検出力関数と呼ぶ。
注意
この巻は第12章 §12.3 と同じく、β を第2種の過誤の確率、1−β を検出力と書く(2級の対策本と問題文の流儀)。数理統計の解説 第7章は棄却する確率そのものを検出力関数 β(θ) と書くので、この章の 1−β(μ) が数理統計の解説の β(μ) に当たる。どちらの流儀かは、β(μ0) が α か 1−α かで見分けられる。
α は H0 が正しいという1つの状況で決まる確率なので、研究者が事前に 0.05 のように決めることができる。これに対して β は、H1 のもとで母数の真の値がどこにあるかによって変わり、真の値は分からないので、1つの数として決めることはできない。検出力を論じるときは、必ず「真の値が μ1 のときの検出力」のように、H1 の中の特定の値を指定する。
片側 z 検定の検出力関数
X1,…,Xn を N(μ,σ2) からの無作為標本とし、σ は既知とする。H0:μ=μ0、H1:μ>μ0 を有意水準 α で検定する。検定統計量 Z0=(Xˉ−μ0)/(σ/n) が zα 以上なら棄却する。これを Xˉ の言葉に直すと、棄却域は Xˉ≥c、c=μ0+zασ/n である。
真の平均が μ のとき、Xˉ∼N(μ,σ2/n)(第6章の線形結合の再生性)なので、(Xˉ−μ)/(σ/n)∼N(0,1) である。棄却する確率は
P(Xˉ≥c)=P(σ/nXˉ−μ≥σ/nc−μ)=1−Φ(σ/nμ0−μ+zα)
となる。1−Φ(−w)=Φ(w)(第6章)を使って整理する。
定理 16.4(片側 z 検定の検出力関数)
上の片側検定の検出力関数は
1−β(μ)=Φ(σn(μ−μ0)−zα)(16.4)
である。Δ=(μ−μ0)/σ(差を標準偏差で測ったもの。効果量と呼ぶ)を使えば 1−β(μ)=Φ(Δn−zα) と書ける。両側検定(H1:μ=μ0、∣Z0∣≥zα/2 で棄却)では
1−β(μ)=Φ(Δn−zα/2)+Φ(−Δn−zα/2)(16.5)
である。
両側の式 (16.5) は、Z0≥zα/2 と Z0≤−zα/2 の確率の和として、片側と同じ計算を2回すれば得られる。Δ>0 では第2項は Φ(−zα/2−Δn)<Φ(−zα/2)=α/2 で小さく、多くの場合は無視できる。
検出力関数の性質
(16.4) の Φ は増加関数なので、括弧の中の Δn−zα が大きいほど検出力は大きい。このことから次の性質をすべて読み取ることができる。
命題 16.5(片側検定の検出力の性質)
(16.4) の検出力関数について、
- μ=μ0 で 1−β(μ0)=Φ(−zα)=α である。
- μ について増加し、μ→∞ で 1 に近づく。μ<μ0 では α より小さい。
- μ>μ0 を固定すると、n について増加し、n→∞ で 1 に近づく。
- α を小さくすると zα が大きくなるので、すべての μ で検出力は下がる(β は上がる)。
- σ が小さいほど Δ が大きくなり、検出力は上がる。
(1) と (3) をあわせると、n を増やしても有意水準 α は変わらず、変わるのは検出力(β)の方だということが分かる。n を増やすと Xˉ の分布は細くなるが、棄却の境界 c=μ0+zασ/n も同じ割合で μ0 に近づくので、H0 のもとで境界を越える確率は α のまま保たれる。H1 のもとでは Xˉ の分布の中心 μ は動かないまま境界が近づくので、境界を越える確率が上がる。(4) は、α と β の間の取引関係である。n を固定したまま第1種の過誤を減らそうとすると、第2種の過誤が増える。両方を同時に減らす方法は、n を増やすか、σ を小さくする(測定を精密にする、局所管理を取り入れる)ことである。

図 16.1 片側 z 検定(α=0.05)の検出力関数 (16.4)。横軸は効果量 Δ。どちらの曲線も Δ=0 で α=0.05 を通る(n を変えても α は変わらない)。Δ>0 では n=25 の方が速く 1 に近づき、検出力が 0.8(上の破線)に達する Δ は n=9 で 0.83、n=25 で 0.50 である。
例題 16.2 充填量の検査の検出力 ★★★
オリジナルある飲料の充填量は N(μ,102)(単位 mL)に従い、規格の平均は μ0=500 である。充填機の設定が上にずれたかどうかを、n=25 本の平均 Xˉ で H0:μ=500、H1:μ>500 として有意水準 5% で検定する。
- 棄却域を Xˉ の範囲で表せ。
- 真の平均が μ=504 のときの検出力と、第2種の過誤の確率を求めよ。
- 真の平均が μ=505 のときの検出力を求めよ。また、有意水準を 1% にすると μ=505 での検出力はいくらになるか。
解答
(1) σ/n=10/5=2、z0.05=1.645 なので、c=500+1.645×2=503.29 で、棄却域は Xˉ≥503.29 である。
(2) μ=504 のとき Xˉ∼N(504,22) なので
1−β=P(Xˉ≥503.29)=P(Z≥2503.29−504)=P(Z≥−0.355)=Φ(0.355)=0.639
である。(16.4) で Δn=(4/10)×5=2 として Φ(2−1.645)=Φ(0.355) と書いても同じである。第2種の過誤の確率は β=1−0.639=0.361 で、平均が 4 mL ずれていても、ほぼ3回に1回は見逃す。
(3) Δn=(5/10)×5=2.5 なので、1−β=Φ(2.5−1.645)=Φ(0.855)=0.804 である。有意水準 1% では z0.01=2.326 で、1−β=Φ(2.5−2.326)=Φ(0.174)=0.569 に下がる。第1種の過誤を 0.05 から 0.01 に減らした代わりに、第2種の過誤は 0.196 から 0.431 に増えた。
確認テスト
オリジナル
- 16.2-1 次の文の正誤を答え、誤りなら正しく直せ。(a) 検出力とは、帰無仮説が正しいときにそれを棄却しない確率である。(b) 有意水準を 5% から 1% に下げると、検出力は下がる。(c) 標本の大きさを増やすと、第1種の過誤の確率は小さくなる。(d) 片側 z 検定の検出力関数は、μ=μ0 で有意水準に等しい。
- 16.2-2 N(μ,152) からの n=16 の標本で、H0:μ=100、H1:μ>100 を有意水準 5% で検定する。棄却域を Xˉ で表し、μ=106 のときの検出力を求めよ。
- 16.2-3 16.2-2 と同じ設定で、両側検定(H1:μ=100、有意水準 5%)にしたときの μ=106 での検出力を (16.5) で求め、16.2-2 と比べよ。
- 16.2-4 (16.4) から命題 16.5 の (1)・(2)・(4) を示せ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com