数理統計 第2章 §2.4 ★★★ 母関数を微分して積率を出す・独立和の母関数は積・母関数が一致すれば分布が一致する。再生性の証明の定石
分布を確率関数や密度のまま扱うと、独立な確率変数の和の分布は畳み込みの和・積分になり、計算が重い。母関数は分布を1つの関数に変換し、畳み込みを関数の積に置き換える。期待値の形で定義されるので、§2.3 の計算規則をそのまま使うことができる。
確率母関数
定義 2.14(確率母関数)
非負の整数値をとる X について
GX(s):=E[sX]=k=0∑∞P(X=k)sk(∣s∣≤1)(2.14)
を X の確率母関数と呼ぶ。
∣s∣≤1 では係数の和が1なので、級数は絶対収束する。確率母関数はべき級数で、係数が確率そのものなので、
P(X=k)=k!GX(k)(0)(2.15)
によって確率関数が戻る。したがって確率母関数が一致すれば分布が一致する。点 s=1 の近くで項別微分すると
GX′(1)=k∑kP(X=k)=E[X],GX′′(1)=k∑k(k−1)P(X=k)=E[X(X−1)](2.16)
となる(s↑1 の左極限として読む。積率が有限なら値は一致する)。分散は
V[X]=G′′(1)+G′(1)−G′(1)2
となる。E[X(X−1)⋯(X−r+1)] を r 次の階乗積率と呼ぶ。離散分布では、階乗積率の方が通常の積率より計算しやすいことが多い。
ポアソン分布 Po(λ) では
G(s)=k=0∑∞e−λk!(λs)k=e−λeλs=eλ(s−1)
である。G′(1)=λ, G′′(1)=λ2 から、E[X]=V[X]=λ を得る。
積率母関数
定義 2.15(積率母関数・キュムラント母関数)
原点を含むある開区間 ∣t∣<h の上で、常に E[etX] が有限になるとする。このとき
MX(t):=E[etX](∣t∣<h)(2.17)
を X の積率母関数と呼ぶ。KX(t):=logMX(t) をキュムラント母関数と呼ぶ。
積率母関数の名前は、次の展開に由来する。指数関数の展開の期待値を項別に取ると
MX(t)=E[r∑r!trXr]=r∑E[Xr]r!tr
となり、tr/r! の係数が r 次積率になる。0の近傍で有限であるという条件の下で、この項別の操作は正当化でき、
MX(r)(0)=E[Xr](r=1,2,…)(2.18)
が成り立つ。特にすべての次数の積率が存在する。キュムラント母関数については、M(0)=1 を使って
K′(0)=M(0)M′(0)=E[X],K′′(0)=M(0)2M′′(0)M(0)−M′(0)2=E[X2]−E[X]2=V[X]
となり、平均と分散が1回・2回の微分で直接出る。微分係数 K(r)(0) を r 次のキュムラントと呼ぶ。
定理 2.16(積率母関数の基本性質)
- 定数 a,b について MaX+b(t)=ebtMX(at)。
- 独立な X,Y がともに積率母関数を持つならば MX+Y(t)=MX(t)MY(t)。
- (一意性)2つの確率変数の積率母関数が0のある近傍で一致すれば、2つは同じ分布に従う。
(1) は et(aX+b)=ebte(at)X の期待値を取ればよい。(2) は次のように示す。2つが独立なら、関数 etX と etY も独立である。命題 2.9 (3) から次が従う。
E[etXetY]=E[etX]E[etY]
(3) の証明には複素解析(ラプラス変換の一意性)が要るので、本書では結果として使う。1級の答案でも、次のように書けば十分である。
積率母関数が N(μ,σ2) のものと一致するので、一意性から X∼N(μ,σ2)。
(2) と (3) を組み合わせると、和の分布を同定する定石ができる。独立な X1,…,Xn の積率母関数を掛ける。結果が既知の分布の積率母関数の形になっていれば、一意性から和はその分布に従う。和をとっても同じ族に留まる性質を再生性と呼ぶ。
再生性の示し方(答案の型)
- 各 Xi の積率母関数 MXi(t) を定義から計算する(どの範囲で有限かも書く)。
- 独立性を明記して M∑Xi(t)=∏iMXi(t) と掛ける。
- 積が既知の分布の積率母関数の形であることを示し、一意性(定理 2.16 (3))で分布を結論する。
例:独立な Xi∼Po(λi) では MXi(t)=eλi(et−1) である。積は
e(∑λi)(et−1)
なので、∑Xi∼Po(∑λi)。
正規分布の積率母関数を導いておく。Z∼N(0,1) について、指数の部分を平方完成すると
MZ(t)=∫−∞∞etz2π1e−z2/2dz=et2/2∫−∞∞2π1e−(z−t)2/2dz=et2/2
である(最後の積分は N(t,1) の密度の積分で1)。X=μ+σZ∼N(μ,σ2) の積率母関数は、定理 2.16 (1) から
MX(t)=exp(μt+2σ2t2)(t∈R)(2.19)
となる。キュムラント母関数は KX(t)=μt+σ2t2/2 という2次式になる。3次以上のキュムラントがすべて0であることが、正規分布の特徴である。
独立な Xi∼N(μi,σi2) と定数 ai を考える。1次結合 ∑aiXi の積率母関数は
exp{(∑aiμi)t+(∑ai2σi2)t2/2}
である。したがって次が成り立つ。
∑aiXi∼N(∑aiμi, ∑ai2σi2)
積率がすべて存在しても積率母関数が存在するとは限らない
X∼N(μ,σ2) とし、Y=eX と置く。Y は対数正規分布に従う。式 (2.19) で t=k とおくと
E[Yk]=E[ekX]=exp(kμ+k2σ2/2)
で、すべての次数で有限になる。しかし t>0 では E[etY]=∞ で、積率母関数は存在しない(確認テスト 2.4-4)。
さらに対数正規分布には、同じ積率の列を持つ別の分布が存在することが知られている。積率の列だけでは分布が決まらない場合がある。定理 2.16 (3) の一意性は、「0の近傍で積率母関数が有限」という仮定を前提にしている。
特性関数
積率母関数は存在しないことがあるので、どの分布にも定義できる変換として、指数を純虚数にしたものを使う。
定義 2.17(特性関数)
φX(t):=E[eitX]=E[costX]+iE[sintX](t∈R)(2.20)
を X の特性関数と呼ぶ(i は虚数単位)。
∣eitX∣=1 なので期待値は常に存在し、∣φX(t)∣≤1, φX(0)=1 である。積率母関数と同じく、次の2つの性質を持つ。
- φaX+b(t)=eibtφX(at)。
- 独立和の特性関数は積になる。
さらに次の2つが成り立つ(証明は確率論の教科書に譲る)。
定理 2.18(特性関数の一意性と積率)
- 特性関数が一致する2つの分布は一致する。さらに ∫∣φX(t)∣dt<∞ ならば、次の連続な密度を持つ(反転公式)。
f(x)=2π1∫e−itxφX(t)dt
2. E[∣X∣r]<∞ ならば、特性関数は r 回微分可能である。その微分係数は φX(r)(0)=irE[Xr]。
積率母関数が存在する分布では φX(t)=MX(it) が成り立つ。例えば N(μ,σ2) の特性関数は exp(iμt−σ2t2/2) である。積率母関数が存在しない例として、コーシー分布の特性関数は φ(t)=e−∣t∣ で、原点で微分可能でない。
これは期待値が存在しないこと(確認テスト 2.3-1)と対応している。特性関数は第5章で中心極限定理を証明するときの道具になる(特性関数の各点収束が分布の収束を意味する、という連続性定理を使う)。
無限分解可能性
再生性を逆向きに使う概念も定義しておく。
定義 2.19(無限分解可能)
任意の正の整数 n について、独立同分布な Yn,1,…,Yn,n があって
X=dYn,1+⋯+Yn,n
と書けるとき、X の分布は無限分解可能であるという。特性関数で言えば、任意の n について
φX(t)={φn(t)}n
となる特性関数 φn があることである。
ポアソン分布 Po(λ) は、Po(λ/n) に従う独立な確率変数の和と同じ分布である。実際、積率母関数は
eλ(et−1)={e(λ/n)(et−1)}n
で、右辺の括弧の中は Po(λ/n) の積率母関数だからである。正規分布とガンマ分布(形の母数を n で割る)も無限分解可能である(確認テスト 2.4-5)。
一方、有界な台を持つ非退化な分布(二項分布や一様分布など)は無限分解可能でない。答案で「無限分解可能であることを示せ」と問われたら、母関数を n 乗根の形に書き、根の側が同じ族の母関数になっていることを示せばよい。
例題 2.4 ガンマ分布の積率母関数と再生性 ★★★
オリジナルX∼Ga(α,β) とする。すなわち密度は次のとおりである。
f(x)=Γ(α)βαxα−1e−x/β(x>0)
- t<1/β で MX(t)=(1−βt)−α となることを示せ。
- キュムラント母関数から平均と分散を求めよ。
- Xi∼Ga(αi,β)(i=1,…,n)が独立のとき、その和の分布を求めよ。これを使い、Ex(λ) に従う独立な n 個の和の分布を答えよ。
解答
(1) 定義から
MX(t)=∫0∞Γ(α)βαxα−1e−x(1/β−t)dx.
t<1/β のとき 1/β−t>0 なので、積分は収束する。新しい尺度を
β′=1/β−t1=1−βtβ
とおく。被積分関数は Ga(α,β′) の密度の β′α/βα 倍で、密度の積分は1なので
MX(t)=(ββ′)α=(1−βt)−α(t<1/β).
t≥1/β では被積分関数が無限遠で減衰しないので、積分は発散する。
(2) K(t)=−αlog(1−βt) を微分すると
K′(t)=1−βtαβ,K′′(t)=(1−βt)2αβ2.
t=0 を代入して E[X]=αβ, V[X]=αβ2。
(3) 独立性から積率母関数は積になり、t<1/β で
M∑Xi(t)=i=1∏n(1−βt)−αi=(1−βt)−∑iαi.
これは Ga(∑iαi,β) の積率母関数なので、一意性から和はこの分布に従う。尺度がそろっていることが必要で、尺度が違う指数分布の和はガンマ分布にならない。
指数分布 Ex(λ) の密度は、Ga(1,1/λ) の密度と一致する。よって独立な n 個の和は Ga(n,1/λ) に従う。特に Ga(n/2,2) は、自由度 n のカイ二乗分布である(第3章・第5章)。この結果から、独立なカイ二乗分布の和について次も従う。
χm2+χn2∼χm+n2
例題 2.5 確率母関数による間引きの分布 ★★
オリジナルある日に窓口へ来る客の数 N が Po(λ) に従う。各客は他と独立に確率 p で書類を提出する。提出すれば Bj=1、しなければ Bj=0 とする。B1,B2,… は客の数と独立とする。
書類の数 S=B1+⋯+BN(客が0人なら S=0)について、次の問いに答えよ。
- GS(s)=GN(GB(s)) を示せ。ここで GB は Bj の確率母関数である。
- 書類の数の分布を求め、その期待値を答えよ。
解答
(1) N=n で条件付けると S=B1+⋯+Bn である。各項は独立なので
E[sS∣N=n]=j=1∏nE[sBj]=GB(s)n
となる(客の数と各 Bj が独立なので、条件付けても Bj の分布は変わらない)。全確率の公式で客の数について平均すると
GS(s)=n=0∑∞P(N=n)GB(s)n=GN(GB(s)).
(2) GB(s)=(1−p)+ps、GN(u)=eλ(u−1) なので
GS(s)=exp{λ((1−p)+ps−1)}=exp{λp(s−1)}.
これは Po(λp) の確率母関数である。係数から確率関数が決まる(式 (2.15))ので、S∼Po(λp) で
E[S]=GS′(1)=λp.
ポアソン分布の個数を確率 p で間引くと、ポアソン分布のまま平均が p 倍になる。期待値だけなら E[S]=E[E[S∣N]]=E[Np]=λp でも出るが、分布まで決めるには母関数が必要である。
確認テスト
オリジナル
- 2.4-1 (a) 区間 (0,1) 上の一様分布の積率母関数を求めよ。(b) 区間 (−1,1) 上の一様分布の特性関数が、原点以外で sint/t であることを示せ。
- 2.4-2 二項分布 Bin(n,p) の確率母関数を求め、式 (2.16) から平均と分散を導け。
- 2.4-3 X∼Ex(λ) の積率母関数を求め、E[Xk]=k!/λk を示せ。さらに歪度が2であることを示せ。
- 2.4-4 X∼N(μ,σ2)、Y=eX とする。(a) E[Y] と V[Y] を求めよ。μ=0,σ=1 のときの値も答えよ。(b) t>0 で E[etY]=∞ を示せ。
- 2.4-5 正規分布 N(μ,σ2) とガンマ分布 Ga(α,β) が無限分解可能であることを、積率母関数を使って示せ。
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