数理統計 第6章 §6.4 ★★ 多パラメータの Fisher 情報行列と、Kullback–Leibler 情報量から導く AIC
本の「発展的事項」の節に当たるこの節では、1級の範囲に入る話題として、パラメータが複数あるときの Fisher 情報行列と、最尤法をモデル選択へ広げる AIC を扱う。AIC は 2025年 統計数理 問1 の題材(区分定数型の密度での最尤推定と AIC の導出)でも問われた。
Fisher 情報行列
パラメータがベクトル θ=(θ1,…,θk)⊤ のとき、スコアはベクトル s=∂logf/∂θ になる。Fisher 情報量は次の k×k 行列
I(θ)jl=Eθ[sjsl]=−Eθ[∂θj∂θl∂2logf(X;θ)](6.10)
になる。2つ目の等号は、補題 6.12 の証明を偏微分で繰り返せば同じように示せる。
定理 6.16(多パラメータの Cramér–Rao の不等式 ★★)
正則条件のもとで Eθ[T]=g(θ) とし、勾配を
∇g=(∂θ1∂g,…,∂θk∂g)⊤
と書く。このとき
Vθ[T]≥n1∇g⊤I(θ)−1∇g.
証明
定理 6.13 の証明と同じく、次の2つが成り立つ(後者は行列)。
Cov(T,∂θj∂ℓ)=∂θj∂g,V[∂θ∂ℓ]=nI(θ)
任意のベクトル a について、Cauchy–Schwarz から
(a⊤∇g)2=Cov(T,a⊤∂θ∂ℓ)2≤V[T]⋅na⊤Ia
である。a=I−1∇g とおくと
(∇g⊤I−1∇g)2≤V[T]⋅n∇g⊤I−1∇g
となる。両辺を正の数 n∇g⊤I−1∇g で割ればよい。
定理 6.14 も同じ形で拡張され、n(θ^n−θ)dNk(0,I(θ)−1) となる。1つの成分の漸近分散は (I−1)11 であって、1/I11 ではない。ほかのパラメータが未知であることで推定が難しくなる分が、逆行列を取る操作に入っている。
正規分布の Fisher 情報行列
θ=(μ,v)、v=σ2 とする。logf=−21log(2πv)−2v(x−μ)2 の2階偏導関数は
∂μ2∂2logf=−v1,∂μ∂v∂2logf=−v2x−μ,∂v2∂2logf=2v21−v3(x−μ)2.
期待値を取って符号を変えると、E[X−μ]=0、E[(X−μ)2]=v から
I(μ,v)=(1/σ2001/(2σ4)).
非対角成分が 0 なので、μ の推定の精度は分散が既知か未知かによらない。σ^ML2 の漸近分散は 2σ4/n である。
Kullback–Leibler 情報量
データが従う真の分布を g(x)、モデルを f(x;θ) とする。2つの分布の離れ具合を次の量で測る。
定義 6.17(Kullback–Leibler 情報量)
D(g∥f)=Eg[logf(Z)g(Z)]=∫g(z)logf(z)g(z)dz.(6.11)
命題 6.18(KL 情報量の非負性 ★★)
D(g∥f)≥0 で、等号は f=g(ほとんどいたるところ)のときに限る。
証明
log は狭義凹関数なので、Jensen の不等式から−D(g∥f)=Eg[logg(Z)f(Z)]≤logEg[g(Z)f(Z)]=log∫g>0f(z)dz≤log1=0。等号は f(Z)/g(Z) が確率1で定数のとき、すなわち f=g のときに限る。
KL 情報量は次の2項に分かれる。
D(g∥fθ)=Eg[logg(Z)]−Eg[logf(Z;θ)]
第1項はパラメータによらない。よって D を小さくすることは、平均対数尤度 Eg[logf(Z;θ)] を大きくすることと同じである。最尤法は、この期待値を標本平均
n1ℓ(θ)=n1i∑logf(Xi;θ)
で置き換えて最大化している。大数の法則で、標本平均は平均対数尤度に収束する。したがって最尤推定量は、D(g∥fθ) を最小にするパラメータに近づく。
関連:型の方法と大偏差
虎の巻『相対エントロピーから情報と物理を組み立てる』第1部第8章「大偏差・Sanov・Stein の補題」は、経験分布(型)と真の分布の間の KL 情報量が、めったに起きない標本の確率を e−nD の速さで決めること、検定の第2種の誤りの減り方が D で測られること(Stein の補題)を示す。D を「分布の隔たり」と読む動機を知りたいときに、AIC の導出の前後で読むとよい。
AIC の導出
入れ子のモデルでは、パラメータを増やしても最大対数尤度 ℓ(θ^) は減らない(小さいモデルの最大点が大きいモデルの候補に含まれる)。そのため最大対数尤度の大きさだけでモデルを比べると、いつもパラメータの多いモデルが選ばれる。
そこで、推定したモデル f(⋅;θ^) が「新しいデータ」をどれだけうまく説明するかを表す量
nEZ[logf(Z;θ^)](Z は X と独立に g に従う)
を比べる。ℓ(θ^) は、同じデータでパラメータを合わせたうえで同じデータを評価している。そのため、この量を大きめに見積もる。その偏りを求める。
命題 6.19(AIC の偏り補正 ★★)
真の分布がモデルに含まれる(g=f(⋅;θ0))とする。パラメータの次元が k で、正則条件が成り立つとき、標本の大きさを無限大にすると
E[ℓ(θ^)−nEZ[logf(Z;θ^)]]→k.(6.12)
導出
θ^−θ0=δ とおき、I=I(θ0) と書く。偏りを ℓ(θ0) と nEZlogf(Z;θ0) を経由して3つに分ける。
(a) ℓ(θ0) を最尤推定量の周りで展開する。そこでは1階導関数が 0 なので
ℓ(θ0)≈ℓ(θ^)+21δ⊤ℓ′′(θ^)δ≈ℓ(θ^)−2nδ⊤Iδ(−ℓ′′/n→I を使った)
である。よって ℓ(θ^)−ℓ(θ0)≈2nδ⊤Iδ となる。
(b) 平均対数尤度を φ(θ)=EZ[logf(Z;θ)] とおく。これは θ0 で最大になる(命題 6.18)。よって勾配は 0 で、2階導関数は −I である。したがって
nφ(θ^)≈nφ(θ0)−2nδ⊤Iδ
となる。
(c) E[ℓ(θ0)]=nE[logf(X1;θ0)]=nφ(θ0)。
3つを合わせると
ℓ(θ^)−nφ(θ^)≈{ℓ(θ0)−nφ(θ0)}+nδ⊤Iδ.
右辺第1項の期待値は (c) から 0 である。第2項については、多パラメータの漸近正規性から
nI1/2δdNk(0,Ek)
が成り立つ。よって nδ⊤Iδ=∥nI1/2δ∥2 は χk2 に分布収束し、その期待値は次元に等しい。(期待値の収束には一様可積分性が要るが、試験の導出ではこの段を認めてよい。)
そこで ℓ(θ^)−k を「新しいデータでの対数尤度」の推定値に使い、−2 倍した
AIC=−2ℓ(θ^)+2k(6.13)
を AIC(赤池情報量規準)と呼ぶ。候補のモデルそれぞれで AIC を計算し、最小のモデルを選ぶ。第1項はデータへの当てはまりの良さ、第2項はパラメータの個数に対する罰則で、パラメータを1個増やすなら最大対数尤度が 1 以上増えなければ選ばれない。回帰モデルの変数選択での使い方は第9章 §9.3 で扱う。
例題 6.6 2群のポアソンモデルを AIC で比べる ★★
オリジナルある部品の欠陥数を、工程 A の製品 10 個と工程 B の製品 10 個で数えた。工程 A の合計は 30、工程 B の合計は 50 だった。各製品の欠陥数は独立にポアソン分布に従うとして、次の2つのモデルを AIC で比べよ。
- モデル1:A・B とも同じ平均 λ(k=1)。
- モデル2:工程ごとの平均 λA,λB(k=2)。
解答
観測値を xij と書く(前の添字が工程、後ろの添字が製品の番号)。ポアソン分布の対数尤度は∑i,j(xijlogλi−λi−logxij!) で、最後の項 C=∑logxij! は2つのモデルで共通なので、AIC の差には現れない。
モデル1:λ^=80/20=4。ℓ1=80log4−20⋅4−C=80log4−80−C。
モデル2:λ^A=30/10=3、λ^B=50/10=5。ℓ2=30log3−30+50log5−50−C。
差を取ると −80 と −30−50 が打ち消し、
ℓ2−ℓ1=30log3+50log5−80log4=32.958+80.472−110.904=2.527.
したがって
AIC1−AIC2=(−2ℓ1+2)−(−2ℓ2+4)=2(ℓ2−ℓ1)−2=3.05>0
で、AIC が小さいのはモデル2である。工程ごとに平均が違うとするモデルが選ばれる。パラメータを1個増やしたことで、最大対数尤度が 2.53 増えた。これが罰則の増分 1(AIC では 2)を上回った。
確認テスト
オリジナル
- 6.4-1 分散が共通の2つの正規分布
g=N(μ1,σ2),f=N(μ2,σ2)
について D(g∥f) を求めよ。2. 6.4-2 正規分布を θ=(μ,σ)(分散でなく標準偏差)でパラメータ付けしたときの Fisher 情報行列を求め、σ^ML の漸近分散を書け。σ^ML2 の漸近分散 2σ4/n からデルタ法で求めた値と一致することを確かめよ。3. 6.4-3 例題 6.6 で、工程 A の合計が 36、工程 B の合計が 44 だったとき、どちらのモデルが選ばれるか。4. 6.4-4 n=100 回のベルヌーイ試行で成功が x 回だった。次の2つのモデルを比べる。
- モデル0は p=1/2 とする(k=0)。
- モデル1は p を自由とする(k=1)。
(a) x=60 のときどちらが選ばれるか。(b) x>50 の範囲で、モデル1が選ばれる最小の x を求めよ。5. 6.4-5 命題 6.19 の導出で「nδ⊤Iδ の極限分布は χk2」を使った。これを n(θ^−θ0)dNk(0,I−1) から示せ。
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