数理統計 第6章 §6.3 ★★★ 不偏性・平均二乗誤差・一致性、Fisher 情報量と Cramér–Rao の下限、最尤推定量の漸近正規性
推定量 θ^ は確率変数なので、その良さは分布で測る。次の3つを順に定義する。
- 不偏性:分布の中心が真の値にあるか。
- 平均二乗誤差:真の値の周りにどれだけ集まるか。
- 一致性:標本を増やせば真の値に近づくか。
不偏性と平均二乗誤差
定義 6.7(不偏推定量・偏り・平均二乗誤差)
すべての θ∈Θ で Eθ[θ^]=θ が成り立つ推定量を不偏推定量という。b(θ)=Eθ[θ^]−θ を偏り(バイアス)、MSEθ(θ^)=Eθ[(θ^−θ)2] を平均二乗誤差という。
命題 6.8(平均二乗誤差の分解 ★★★)
MSEθ(θ^)=Vθ[θ^]+b(θ)2.
証明
m=Eθ[θ^] とおき、θ^−θ=(θ^−m)+(m−θ) と分けて2乗の期待値を取る。m−θ=b(θ) は定数で、E[θ^−m]=0 である。よって交差項 2b(θ)E[θ^−m] は消え、
E[(θ^−θ)2]=E[(θ^−m)2]+b(θ)2
となる。
不偏分散 S2 が σ2 の不偏推定量であることを確かめておく。平方和は
∑(Xi−μ)2=∑(Xi−Xˉ)2+n(Xˉ−μ)2
と分かれる(交差項 2(Xˉ−μ)∑(Xi−Xˉ) は 0 になる)。両辺の期待値を取ると
E[∑(Xi−Xˉ)2]=nσ2−n⋅nσ2=(n−1)σ2
である。これを n−1 で割ったものが不偏分散なので、E[S2]=σ2 である。この計算は正規性を使っていない。
不偏であることは、平均二乗誤差が小さいことを保証しない。正規母集団で、平方和を定数 c で割った推定量
σ^c2=c1∑(Xi−Xˉ)2
を比べる。平方和を W=∑(Xi−Xˉ)2 とおく。第5章 §5.2 で示したとおり、W/σ2 は自由度 n−1 のカイ二乗分布に従う。その平均は n−1、分散は 2(n−1) なので
E[W]=(n−1)σ2,V[W]=2(n−1)σ4
である。よって
σ4MSE(σ^c2)=c22(n−1)+(cn−1−1)2.(6.6)
u=1/c とおいて右辺を u で微分すると
4(n−1)u+2(n−1){(n−1)u−1}=2(n−1){(n+1)u−1}
となる。よって u=1/(n+1) のとき最小になる。代表的な3つの c で値を並べると次のとおりである。
- c=n+1(最小):(n+1)22(n−1)+4=n+12。
- c=n(最尤推定量):n22n−1。
- c=n−1(不偏分散):n−12。
平均二乗誤差では c=n+1 が最も小さく、不偏分散が最も大きい(図 6.2)。偏りを少し許すと分散が減り、合計が小さくなる例である。

図 6.2 正規母集団で ∑(Xi−Xˉ)2/c を σ2 の推定量に使ったときの平均二乗誤差 (6.6)。どの n でも c=n+1 が最小、不偏分散 c=n−1 が最大である。
平均二乗誤差の小ささで推定量を選ぶとき、すべての θ で一様に最小となる推定量は一般に存在しない。定数の推定量 θ^≡θ0 は、真の値が θ0 のとき誤差 0 である。したがって一様最小な推定量があるとすれば、どの真の値でも誤差 0 でなければならず、不可能である。
そこで推定量の範囲を不偏推定量に絞り、その中で分散が最小のもの(一様最小分散不偏推定量)を探す、という考え方が出てくる。この探索は第10章 §10.2 で Rao–Blackwell・Lehmann–Scheffé の定理として完成する。この章では、不偏推定量の分散がどこまで小さくなりうるかの下限を求める。
一致性
定義 6.9(一致推定量)
推定量の列 θ^n が、すべての真の値 θ と、すべての正の数について
n→∞limPθ(∣θ^n−θ∣>ε)=0
を満たすとする(真の値に確率収束する)。このとき θ^n を一致推定量という。
命題 6.10(平均二乗誤差による十分条件 ★★)
n→∞ で MSEθ(θ^n)→0 なら、その推定量の列は一致推定量である。
証明
Markov の不等式を (θ^n−θ)2 に使うと
P(∣θ^n−θ∣>ε)≤P((θ^n−θ)2≥ε2)≤ε2MSEθ(θ^n)→0.
命題 6.8 と合わせると、「偏りと分散がともに 0 に収束すれば一致推定量」と読める。一様分布 U(0,θ) の X(n) は直接確かめることもできる。0<ε<θ について
P(∣X(n)−θ∣>ε)=P(X(n)<θ−ε)=(1−θε)n→0
である。
Fisher 情報量
ここから先は、次の正則条件を仮定する。
- (i) 密度が正になる x の範囲が θ によらない。
- (ii) Θ は開区間で、logf(x;θ) はパラメータについて2回微分可能である。
- (iii) 次のような積分をパラメータで微分するとき、積分と微分の順序を交換できる。
∫f(x;θ)dx,∫T(x)fn(x;θ)dx
指数型分布族は正則条件を満たす。U(0,θ) は (i) を満たさない。
定義 6.11(スコアと Fisher 情報量)
s(x;θ)=∂θ∂logf(x;θ) をスコア関数、
I(θ)=Eθ[s(X;θ)2](6.7)
を1標本あたりの Fisher 情報量という。大きさ n の標本の対数尤度を ℓ(θ)=∑ilogf(Xi;θ) とする。これについて In(θ)=Eθ[(∂ℓ/∂θ)2] とおく。
補題 6.12(スコアの平均と分散 ★★★)
正則条件のもとで、
Eθ[s(X;θ)]=0,I(θ)=Vθ[s(X;θ)]=−Eθ[∂θ2∂2logf(X;θ)],In(θ)=nI(θ).
証明
∫f(x;θ)dx=1 をパラメータで微分する。∂f/∂θ=sf だから
0=∫∂θ∂fdx=∫s(x;θ)f(x;θ)dx=Eθ[s]
である。これをもう一度 θ で微分すると
0=∫(∂θ∂sf+s∂θ∂f)dx=∫∂θ∂sfdx+∫s2fdx=Eθ[∂θ2∂2logf]+Eθ[s2].
平均が 0 なので E[s2]=V[s] で、2つ目の等式を得る。最後に、∂ℓ/∂θ=∑is(Xi;θ) は平均 0 の独立な確率変数の和である。よって分散は和になり、In=nI である。
2つの表し方のうち、−E[∂2logf/∂θ2] の方が計算は楽なことが多い。2階導関数が X について1次式になる分布では期待値がすぐ取れるからである。
Cramér–Rao の不等式
定理 6.13(Cramér–Rao の不等式 ★★★)
正則条件を仮定する。統計量 T=T(X) が、すべての真の値で Eθ[T]=g(θ) を満たすとする(つまり不偏推定量)。さらに分散が有限なら
Vθ[T]≥nI(θ)g′(θ)2.(6.8)
等号が成り立つための必要十分条件は、ある a(θ) があって、確率1で次の式が成り立つことである。
∂θ∂ℓ=a(θ)(T−g(θ))
証明
g(θ)=∫T(x)fn(x;θ)dx をパラメータで微分し、正則条件 (iii) で微分と積分を交換する。∂fn/∂θ=(∂ℓ/∂θ)fn だから
g′(θ)=∫T(x)∂θ∂ℓfn(x;θ)dx=Eθ[T∂θ∂ℓ]=Covθ(T,∂θ∂ℓ).
最後の等号は補題 6.12 の E[∂ℓ/∂θ]=0 による。Cauchy–Schwarz の不等式 Cov(U,W)2≤V[U]V[W] を使うと
g′(θ)2≤Vθ[T]⋅Vθ[∂θ∂ℓ]=Vθ[T]⋅nI(θ)
となり、(6.8) が従う。Cauchy–Schwarz の等号は、T−E[T] と ∂ℓ/∂θ が確率1で比例するときに限る(後者は平均が 0 なので中心化は要らない)。すなわち ∂ℓ/∂θ=a(θ)(T−g(θ)) のときである。
右辺 g′(θ)2/(nI(θ)) を Cramér–Rao の下限という。g(θ)=θ なら下限は 1/(nI(θ)) で、「1標本あたりの情報量が大きいほど、そして標本が多いほど、不偏推定量の分散を小さくできる」と読める。分散が下限に一致する不偏推定量を有効推定量という。
等号条件を θ について積分すると、ℓ(θ)=A(θ)T(x)−B(θ)+H(x) の形になる。これは指数型分布族 (6.3)(k=1)の形である。したがって有効推定量が存在するのは、指数型分布族で、しかも推定したい量が十分統計量の期待値 g(θ)=E[T] である場合に限られる。たとえば正規分布の μ には Xˉ が有効推定量だが、例題 6.5 で見るように、同じ族でも推定する量の選び方によって下限が達成されないことがある。
正則条件が成り立たない場合
U(0,θ) では台が θ に依存するので、Cramér–Rao の不等式は使えない。実際、不偏推定量 nn+1X(n) の分散は n(n+2)θ2 である(確認テスト 6.3-3)。この分散は 1/n でなく 1/n2 の速さで小さくなる。
形式的に I(θ)=E[(∂logf/∂θ)2]=1/θ2 と計算して下限 θ2/n を出すと、それより小さい分散の不偏推定量があることになり矛盾する。「下限を計算せよ」と問われたら、まず台が θ によらないかを確かめる。
情報理論から見た Fisher 情報量
パラメータを θ から θ+δ に少しずらした2つの分布を考える。その Kullback–Leibler 情報量(§6.4)をずれについて展開すると、2次の項 21I(θ)δ2 に Fisher 情報量が現れる。この見方と、Cramér–Rao の不等式・最尤推定の漸近有効性の関係は、虎の巻『相対エントロピーから情報と物理を組み立てる』第1部第7章でも扱う。
例題 6.4 ポアソン分布の Cramér–Rao の下限 ★★★
オリジナルX1,…,Xn が独立に Po(λ) に従う(パラメータは正)。
- Fisher 情報量 I(λ) を求めよ。
- Xˉ が λ の有効推定量であることを示せ。
- g(λ)=e−λ=P(X1=0) の不偏推定量の分散の下限を求めよ。
解答
(1) 対数密度とその導関数は
logf(x;λ)=xlogλ−λ−logx!,s=λx−1,∂λ2∂2logf=−λ2x
である。補題 6.12 から
I(λ)=−E[−λ2X]=λ2λ=λ1
である。(確かめとして E[s2]=V[X]/λ2=λ/λ2=1/λ でも同じ値になる。)
(2) E[Xˉ]=λ で不偏、V[Xˉ]=λ/n である。下限は 1/(nI(λ))=λ/n で、分散と一致する。よって Xˉ は有効推定量である。等号条件の形でも確かめられる。
∂λ∂ℓ=λ∑Xi−n=λn(Xˉ−λ)
で、a(λ)=n/λ の比例関係になっている。
(3) g′(λ)=−e−λ なので、下限は
nI(λ)g′(λ)2=n/λe−2λ=nλe−2λ.
e−λ は十分統計量 ∑Xi の期待値の形ではないので、等号を達成する不偏推定量は存在しない。e−λ の不偏推定量 (1−1/n)∑Xi の分散は、第10章で導くとおり
e−2λ(eλ/n−1)
である。eλ/n−1>λ/n なので、この分散は下限より真に大きい。
例題 6.5 ベータ型の分布で推定量の分散と下限を比べる ★★★
オリジナル例題 6.1・6.2 の設定(密度 f(x;θ)=θxθ−1、区間 (0,1))を考える。n≥3 とし、T=−∑logXi とする。
- Fisher 情報量 I(θ) を求めよ。
- 最尤推定量 θ^=n/T の期待値を求め、偏りを除いた不偏推定量 θ∗ を作れ。
- V[θ∗] を求め、Cramér–Rao の下限と比べよ。
- 1/θ の推定量 T/n は有効推定量であることを示せ。
解答
(1) logf=logθ+(θ−1)logx より ∂2logf/∂θ2=−1/θ2。よって I(θ)=1/θ2。
(2) 例題 6.1 (3) から T∼Ga(n,1/θ)。r<n について
E[T−r]=∫0∞t−rΓ(n)θntn−1e−θtdt=Γ(n)θn⋅θn−rΓ(n−r)=θrΓ(n)Γ(n−r)
(∫0∞tn−r−1e−θtdt=Γ(n−r)/θn−r を使った)。r=1,2 では
E[T−1]=n−1θ,E[T−2]=(n−1)(n−2)θ2.
したがって E[θ^]=n−1nθ で、偏りは n−1θ。θ∗=nn−1θ^=Tn−1 は不偏である。
(3) V[θ∗]=(n−1)2E[T−2]−θ2=θ2(n−2n−1−1)=n−2θ2。下限は 1/(nI(θ))=θ2/n で、V[θ∗]/(θ2/n)=n/(n−2)>1。θ∗ は下限を達成しないが、比は n→∞ で 1 に近づく。なお最尤推定量そのものの平均二乗誤差は、分散
V[θ^]=n2E[T−2]−(Eθ^)2=(n−1)2(n−2)n2θ2
に偏りの2乗を足して得る。結果は次のとおりで、θ∗ の値より大きい。
MSE(θ^)=(n−1)(n−2)(n+2)θ2 > n−2θ2=(n−1)(n−2)(n−1)θ2=V[θ∗]
(4) E[T/n]=E[Y1]=1/θ で不偏、V[T/n]=V[Y1]/n=1/(nθ2)。g(θ)=1/θ の下限はg′(θ)2/(nI(θ))=(1/θ4)/(n/θ2)=1/(nθ2) で一致する。等号条件の形でも、∂ℓ/∂θ=n/θ−T=−n(T/n−1/θ) と比例関係になっている。同じ統計モデルで、1/θ には有効推定量があり、θ にはない。
最尤推定量の漸近正規性
有限の標本では、最尤推定量は不偏とも有効とも限らない。しかし n が大きいときには、下限 1/(nI(θ)) を分散とする正規分布に近づく。
定理 6.14(最尤推定量の漸近正規性 ★★★)
正則条件に加えて、次の2つを仮定する。
- 対数尤度の3階導関数が、真の値の近くで可積分な関数で押さえられる。
- 最尤推定量 θ^n が一致推定量である。
このとき
n(θ^n−θ) d N(0,I(θ)1)(n→∞).(6.9)
証明の筋道
尤度方程式 ℓ′(θ^n)=0 を真の値 θ の周りで展開する。θ^n と真の値の間のある θ~n について
0=ℓ′(θ)+(θ^n−θ)ℓ′′(θ~n)
となる。両辺を整えて
n(θ^n−θ)=−ℓ′′(θ~n)/nℓ′(θ)/n.
分子と分母を別々に調べる。
- 分子は正規分布に収束する。 分子の ℓ′(θ)=∑is(Xi;θ) は、平均 0・分散 I(θ) の独立同分布の和である。中心極限定理により、分子は N(0,I(θ)) に分布収束する。
- 分母は I(θ) に収束する。 一致性と3階導関数の仮定から、分母と −ℓ′′(θ)/n の差は 0 に確率収束する。その −ℓ′′(θ)/n は、大数の法則で −E[∂2logf/∂θ2]=I(θ) に確率収束する。
Slutsky の定理(第5章 §5.3)から、比は次の分布に分布収束する。
I(θ)N(0,I(θ))=N(0,I(θ)1)
最尤推定量の関数の漸近分布は、次のデルタ法で出す。
命題 6.15(デルタ法 ★★★)
n(θ^n−θ)dN(0,τ2) とする。関数 g が真の値で微分可能で、g′(θ)=0 なら
n(g(θ^n)−g(θ))dN(0,g′(θ)2τ2).
証明
差を次のように書く。
g(θ^n)−g(θ)=g′(θ)(θ^n−θ)+rn(θ^n−θ)
θ^n は真の値に確率収束するので、rn は 0 に確率収束する。n(θ^n−θ) は分布収束するので確率的に有界である。よって第2項に n を掛けたものは 0 に確率収束する。Slutsky の定理から結論を得る。
最尤推定量に定理 6.14 と命題 6.15 を続けて使う。すると g(θ^n) の漸近分散は g′(θ)2/(nI(θ)) となる。これは Cramér–Rao の下限と一致する。この意味で最尤推定量は漸近有効である。
(6.9) の I(θ) を I(θ^n) で置き換えると、近似 95% 信頼区間
θ^n±nI(θ^n)z0.025(z0.025=1.960)
が得られる。区間推定の組み立ては第8章 §8.2 で扱う。
関連:最尤推定を相対エントロピーの最小化として読む
虎の巻『相対エントロピーから情報と物理を組み立てる』第1部第7章「Fisher 情報と Cramér–Rao」の「最尤推定と漸近有効性」の節は、最尤推定を経験分布との相対エントロピーの最小化と読み、漸近分散 1/(nI(θ)) が Cramér–Rao の下限に達することを同じ見方で導いている。本節の定理 6.14 の「なぜ I(θ) が出るか」を腑に落としたいときに読むとよい。
確認テスト
オリジナル
- 6.3-1 成功確率 p のベルヌーイ試行(0<p<1)を考える。Fisher 情報量 I(p) を求めよ。また、標本比率 Xˉ が有効推定量であることを示せ。
- 6.3-2 Xi∼N(μ,σ2) で、平均は既知、分散 v=σ2 が未知とする。I(v) を求めよ。また、v^=n1∑(Xi−μ)2 が有効推定量であることを示せ。
- 6.3-3 Xi∼U(0,θ) とする。(a) θ1=nn+1X(n) が不偏であることを示し、分散を求めよ。(b) 積率推定量 θ2=2Xˉ の分散を求めよ。n≥2 では θ1 の方が分散が小さいことを示せ。
- 6.3-4 Xi∼Ex(λ) とする。(a) I(λ) を補題 6.12 の2通りの式で求めよ。(b) 最尤推定量 λ^=1/Xˉ の漸近分布を書け。(c) λ∗=(n−1)/∑Xi(n≥3)が不偏であることを示し、分散を求めて Cramér–Rao の下限と比べよ。
- 6.3-5 正規母集団の不偏分散 S2 が σ2 の一致推定量であることを、平均二乗誤差を用いて示せ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com