数理統計 第7章 §7.2 ★★★ z, t, χ2, F の各検定。統計量の分布を (7.1) から導けることが答案の前提
正規母集団の検定は、どれも「H0 のもとで分布が完全に分かる統計量を作る」という同じ方針で組み立てる。未知のパラメータが分布に残っている統計量では棄却限界が決まらないので、未知の母数を消す形(標準化や比)に直すことが要点になる。
1標本:平均の検定
X1,…,Xn を独立に N(μ,σ2) からの標本とする。帰無仮説 H0:μ=μ0 を検定する。
σ2 が既知なら、帰無仮説のもとで次が成り立つ。これを使うのがz 検定である。
Z=σn(Xˉ−μ0)∼N(0,1).
分散が未知のときは σ を S で置き換えた
T=Sn(Xˉ−μ0)(7.4)
を使う。帰無仮説のもとで T∼tn−1 となることは、次のように (7.1) から導ける。
命題 7.4(1標本 t 統計量の分布)
帰無仮説を H0:μ=μ0 とする。そのもとで、(7.4) の統計量は tn−1 に従う。
証明
次の2つの統計量を考える。
Z=σn(Xˉ−μ0)∼N(0,1),W=σ2(n−1)S2∼χn−12.
標本平均と標本分散が独立なので、Z と W も独立である。比を取ると
W/(n−1)Z=S2/σ2n(Xˉ−μ0)/σ=Sn(Xˉ−μ0)=T
となり、σ が分子と分母で消える。左辺は t 分布の定義の形なので T∼tn−1。
対立仮説に応じて棄却域は次のようになる(水準 α)。
H1:μ=μ0 なら ∣T∣>tn−1(α/2),H1:μ>μ0 なら T>tn−1(α),H1:μ<μ0 なら T<−tn−1(α).
対になったデータ (Xi,Yi) の平均の差を調べるときは、対応のある検定を使う。差 Di=Xi−Yi を1標本とみなし、同じ t 検定をかける。仮定するのは、差が独立に N(μD,σD2) に従うことだけである。対の2つの値の相関は、差の分散 σD2 に吸収される。
1標本:分散の検定
H0:σ2=σ02 には
χ2=σ02(n−1)S2 ∼ χn−12(H0 のもと)(7.5)
を使う。棄却域は対立仮説の向きで決まる。
- 両側対立仮説 H1:σ2=σ02 では、次のどちらかで棄却する。
χ2<χn−12(1−α/2)またはχ2>χn−12(α/2).
- 片側対立仮説 H1:σ2>σ02 では、χ2>χn−12(α) で棄却する。
カイ二乗分布は左右非対称なので、両側検定の2つの棄却限界は σ02 を中心に対称にはならない。母平均が既知なら ∑(Xi−μ)2/σ02∼χn2 を使い、自由度が1つ増える。
2標本:平均の差の検定
2つの標本を互いに独立にとる。
X1,…,Xm∼N(μ1,σ12),Y1,…,Yn∼N(μ2,σ22).
帰無仮説 H0:μ1=μ2 を検定する。不偏分散をそれぞれ S12、S22 とする。
等分散 σ12=σ22=σ2 を仮定する場合、共通の分散の推定に両方の標本を使った合併分散
Sp2=m+n−2(m−1)S12+(n−1)S22
を作り、
T=Spm1+n1Xˉ−Yˉ(7.6)
とする。
命題 7.5(2標本 t 統計量の分布)
等分散を仮定する。このとき帰無仮説 H0:μ1=μ2 のもとで、(7.6) の統計量は tm+n−2 に従う。
証明
2つの標本平均は独立で、Xˉ∼N(μ1,σ2/m)、Yˉ∼N(μ2,σ2/n) である。よって帰無仮説のもとで
Xˉ−Yˉ∼N(0,σ2(m1+n1)),Z=σ1/m+1/nXˉ−Yˉ∼N(0,1).
一方、次の2つは独立である。
σ2(m−1)S12∼χm−12,σ2(n−1)S22∼χn−12.
カイ二乗分布の再生性から、和について次が成り立つ。
W=σ2(m+n−2)Sp2∼χm+n−22.
各標本の中で、標本平均と標本分散は独立である。2つの標本どうしも独立だから、Z と W は独立である。したがって Z/W/(m+n−2)=T∼tm+n−2 となる(σ は約分で消える)。
等分散を仮定しない場合は、次の統計量の分布が分散比 σ12/σ22 に依存する。
S12/m+S22/nXˉ−Yˉ
そのため正確な t 分布にはならない(Behrens–Fisher 問題)。実用上は、自由度を
ν=m−1(S12/m)2+n−1(S22/n)2(S12/m+S22/n)2
とした tν で近似する(Welch の検定)。分母の S12/m+S22/n をカイ二乗分布の定数倍で近似し、平均と分散を合わせて自由度を決めたものである。
2標本:分散の比の検定
帰無仮説 H0:σ12=σ22 には F=S12/S22 を使う。次の2つが独立であることから出発する。
σ12(m−1)S12∼χm−12,σ22(n−1)S22∼χn−12.
F 分布の定義から
S22/σ22S12/σ12∼Fm−1,n−1
である。帰無仮説のもとでは2つの分散が約分されて F∼Fm−1,n−1 となる。両側検定では次のどちらかで棄却する。
F<Fm−1,n−1(1−α/2)またはF>Fm−1,n−1(α/2).
数表には上側の点しか載っていないことが多いので、下側の点は
Fm,n(1−α)=Fn,m(α)1(7.7)
で求める。理由は次のとおりである。F∼Fm,n なら 1/F∼Fn,m なので
P(F≤x)=P(1/F≥1/x)
となる。右辺は x=1/Fn,m(α) のときに α になる。
正規母集団の検定のまとめ
| 仮説 | 統計量 | H0 のもとでの分布 |
| μ=μ0(σ2 既知) | n(Xˉ−μ0)/σ | N(0,1) |
| μ=μ0(σ2 未知) | n(Xˉ−μ0)/S | tn−1 |
| σ2=σ02 | (n−1)S2/σ02 | χn−12 |
| μ1=μ2(等分散) | (Xˉ−Yˉ)/(Sp1/m+1/n) | tm+n−2 |
| σ12=σ22 | S12/S22 | Fm−1,n−1 |
例題 7.2 1標本の t 検定と分散の検定 ★★★
オリジナルある部品の長さを 10 個測った。標本平均は xˉ=10.8、標本標準偏差は s=1.2 である(不偏分散の平方根)。長さは N(μ,σ2) に従うとする。
- H0:μ=10 対 H1:μ=10 を有意水準 0.05 で検定せよ。p 値も求めよ。
- H0:σ2=1 対 H1:σ2>1 を有意水準 0.05 で検定せよ。
解答
- 命題 7.4 より、帰無仮説のもとで T=10(Xˉ−10)/S∼t9。観測値は
t=1.210×0.8=2.108.
両側の棄却限界は t9(0.025)=2.262 である。∣t∣=2.108<2.262 なので H0 は棄却しない。p 値は 2P(t9≥2.108)=0.064 で、0.05 を上回る。2. (7.5) より
χ2=19s2=9×1.44=12.96.
片側の棄却限界は χ92(0.05)=16.919 である。12.96<16.919 なので棄却しない。
例題 7.3 2標本の等分散の確認と平均の差の検定 ★★
オリジナル2つの製法で作った製品の強度を測り、次の値を得た。
- 製法1:m=8 個、標本平均 5.2、不偏分散 s12=1.5。
- 製法2:n=10 個、標本平均 4.1、不偏分散 s22=1.1。
それぞれ N(μ1,σ12)、N(μ2,σ22) からの独立な標本とする。
- H0:σ12=σ22 を両側・有意水準 0.05 で検定せよ。数表の値 F7,9(0.025)=4.197、F9,7(0.025)=4.823 を使ってよい。
- 等分散を仮定して、H0:μ1=μ2 を有意水準 0.05 で検定せよ。対立仮説は次の2通りとする。
H1:μ1=μ2,H1:μ1>μ2.
解答
- 統計量の値は F=s12/s22=1.5/1.1=1.364。棄却限界は次の2つである(下側は (7.7) による)。
上側 F7,9(0.025)=4.197,下側 F9,7(0.025)1=4.8231=0.207.
0.207<1.364<4.197 なので等分散の仮説は棄却しない。2. 合併分散は
sp2=167×1.5+9×1.1=1610.5+9.9=1.275.
命題 7.5 より T∼t16 で、観測値は
t=1.275(1/8+1/10)5.2−4.1=0.2868751.1=0.53561.1=2.054.
結論は対立仮説の向きで分かれる。
- 両側検定:棄却限界は t16(0.025)=2.120。観測値 2.054 はこれを下回るので棄却しない(p 値 0.057)。
- 片側検定:棄却限界は t16(0.05)=1.746。観測値 2.054 はこれを上回るので棄却する(p 値 0.028)。
同じデータでも、対立仮説の向きを先に決めているかどうかで結論が変わる。片側検定はデータを見る前に「μ1<μ2 は考えなくてよい」と言える根拠があるときにだけ使う。
確認テスト
オリジナル
- 7.2-1 対応のある2標本(同じ人の前後の測定など)に、独立2標本の t 検定 (7.6) を使うと何がまずいか。1行で答えよ。
- 7.2-2 正規母集団 N(μ,σ2) からの大きさ 15 の標本で、不偏分散 s2=2.9 を得た。H0:σ2=1.5 対 H1:σ2=1.5 を有意水準 0.05 で検定せよ。
- 7.2-3 6人について、ある処置の前後の測定値の差(後 − 前)が 1.2, 0.8, −0.3, 1.5, 0.9, 0.7 であった。差は N(μD,σD2) に従うとする。H0:μD=0 対 H1:μD=0 を有意水準 0.05 で検定せよ。
- 7.2-4 分散が既知の正規母集団で、H0:μ=μ0 対 H1:μ=μ0 の両側 z 検定を考える。棄却域は
∣n(Xˉ−μ0)/σ∣>zα/2
とする。δ=n(μ−μ0)/σ とおくと、検出力関数が
β(μ)=Φ(δ−zα/2)+Φ(−δ−zα/2)
と書けることを示せ。また検出力関数が μ=μ0 で最小値 α をとることを示せ。
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