数理統計 第7章 §7.3 ★★★ 尤度比検定と Wilks の定理。新しいモデルで「検定統計量を導出せよ」と言われたときの標準手順
§7.2 の検定は、どれも統計量の形を先に与えていた。モデルが変わったときに検定統計量を自分で作る一般的な方法が尤度比検定である。
尤度比検定
定義 7.6(尤度比検定)
尤度を L(θ) とし、
Λ(x)=supθ∈ΘL(θ)supθ∈Θ0L(θ)(7.8)
を尤度比と呼ぶ。値は 0≤Λ≤1 の範囲にある。Λ≤k のとき帰無仮説を棄却する検定を尤度比検定という。定数 k はサイズが α になるように決める。
分母は全体での最大尤度、分子は帰無仮説の制約のもとでの最大尤度である。比の大きさは次のように読む。
- H0 が正しければ、制約を課しても尤度はあまり下がらない。比は 1 に近い。
- H0 が誤っていれば、制約で尤度が大きく下がる。比は小さくなる。
計算は次の手順で行う。
- 全体での最尤推定量 θ^ を求め、L(θ^) を書く。
- 帰無仮説のもとでの最尤推定量 θ^0 を求め、L(θ^0) を書く。
- 比 Λ=L(θ^0)/L(θ^) を、既知の分布を持つ統計量の単調関数として書き直す。書き直せれば正確な棄却域が得られる。書き直せなければ Wilks の定理による近似の棄却域を使う。
命題 7.7(正規平均の尤度比検定は t 検定)
標本が独立に N(μ,σ2) に従うとする(分散は未知)。仮説 H0:μ=μ0 対 H1:μ=μ0 の尤度比は、T=n(Xˉ−μ0)/S を用いて
Λ=(1+n−1T2)−n/2(7.9)
と書ける。したがって尤度比検定は両側 t 検定 ∣T∣>tn−1(α/2) と一致する。
証明
尤度は次のとおりである。
L(μ,σ2)=(2πσ2)−n/2exp(−2σ2∑(xi−μ)2).
μ を固定して σ2 について最大化する。
∂σ2∂logLσ2σ2maxL=−2σ2n+2σ4∑(xi−μ)2=0=n1∑(xi−μ)2=(2π⋅n1∑(xi−μ)2)−n/2e−n/2(停留条件)(これを解いた)(代入した)
2つの最大化はそれぞれ次の点でとる。
全体: μ=xˉ, σ^2=n1∑(xi−xˉ)2;H0: μ=μ0, σ^02=n1∑(xi−μ0)2.
定数 e−n/2 と (2π)−n/2 は比で消えるので
Λ=(σ^02σ^2)n/2.
平方和の分解 ∑(xi−μ0)2=∑(xi−xˉ)2+n(xˉ−μ0)2 より、σ^02=σ^2+(xˉ−μ0)2 である。nσ^2=(n−1)s2 を使うと
σ^2σ^02=1+σ^2(xˉ−μ0)2=1+(n−1)s2n(xˉ−μ0)2=1+n−1t2.
これを −n/2 乗すれば (7.9) を得る。尤度比は T2 の減少関数である。よって Λ≤k は ∣T∣≥k′ と同値である。
Wilks の定理
尤度比を既知の分布の統計量に書き直せないときは、n→∞ での分布を使う。
定理 7.8(Wilks の定理 ★★★)
正則条件のもとで、次を仮定する。
- Θ は Rp の開集合である。
- Θ0 はその p−r 次元の部分集合である。
- 真の θ は Θ0 の内点にある(帰無仮説の集合自身の次元で見る)。
このとき帰無仮説のもとで
−2logΛ d χr2(n→∞)
が成り立つ。自由度 r=dimΘ−dimΘ0 は、帰無仮説が固定する自由なパラメータの個数である。
証明(p=1、H0:θ=θ0 の場合)
この場合は自由度が1である。θ^=θ^ML と書くと、−2logΛ=2{ℓ(θ^)−ℓ(θ0)} である。ℓ(θ0) を θ^ のまわりで2次まで Taylor 展開する。2点の間のある θ~ について
ℓ(θ0)=ℓ(θ^)+ℓ′(θ^)(θ0−θ^)+21ℓ′′(θ~)(θ0−θ^)2.
最尤推定量なので ℓ′(θ^)=0。よって
−2logΛ=−ℓ′′(θ~)(θ^−θ0)2={−n1ℓ′′(θ~)}⋅{n(θ^−θ0)}2.
右辺の2つの因子の極限を順に調べる。
- 第1因子:θ^ は一致推定量なので、θ~→θ0(確率収束)。大数の法則により
−n1ℓ′′(θ0)=−n1∑∂θ2∂2logf(Xi;θ0)→I(θ0).
正則条件(ℓ′′ の連続性と一様な可積分性)を使う。θ~ で評価した値も同じ極限 I(θ0) に収束する。2. 第2因子:(7.2) より
nI(θ0)(θ^−θ0)→Z∼N(0,1).
Slutsky の定理から
−2logΛ=I(θ0)−n1ℓ′′(θ~)⋅{nI(θ0)(θ^−θ0)}2 d 1⋅Z2∼χ12.
一般の r の場合も、2つの最尤推定量のまわりで同じ2次展開を行い、r 次元の正規ベクトルの2次形式に帰着させて示す。真の値が Θ0 の境界にある場合は内点の仮定が崩れ、極限はカイ二乗分布にならない(分散成分 σa2=0 の検定など)。
Wald 検定とスコア検定
Wilks の定理の証明に現れた2次形式からは、尤度比と漸近的に同じ働きをする統計量があと2つ作れる。1次元の H0:θ=θ0 として、
WR=(θ^−θ0)2In(θ^)(Wald 統計量),=In(θ0)U(θ0)2,U(θ)=∂θ∂ℓ(スコア統計量、Raoの検定)(7.10)(7.11)
と定める。2つの作り方は次のとおりである。
- Wald 統計量:(7.2) を、θ^ で評価した Fisher 情報量で標準化したもの。
- スコア統計量:帰無仮説のもとでスコアは次の平均と分散を持ち、中心極限定理で正規に近づく。それを標準化したもの。
E[U(θ0)]=0,V[U(θ0)]=In(θ0).
どちらも帰無仮説のもとで χ12 に分布収束する。スコア統計量は帰無仮説のもとでの量しか使わないので、全体での最尤推定量が求めにくいときに使いやすい。有限の n では3つの値は一致しないが、帰無仮説の近くでは差が op(1) になる。
例題 7.4 指数分布の尤度比検定・Wald 検定・スコア検定 ★★★
オリジナルX1,…,Xn は独立に Ex(λ) に従う。H0:λ=λ0 対 H1:λ=λ0 を考える。
- −2logΛ を Xˉ で表せ。
- Wald 統計量 (7.10) とスコア統計量 (7.11) を求め、両者が一致することを示せ。
- 次の数値で、3つの統計量の値を求めよ。
n=20,xˉ=1.4,λ0=1.
Wilks の定理による近似で、有意水準 0.05 の判定をせよ。さらに 2λ0∑Xi∼χ2n2 を使う正確な両側検定でも判定せよ。
解答
- 対数尤度と最尤推定量は次のとおりである。
ℓ(λ)ℓ′(λ)=nlogλ−λ∑xi=n(logλ−λxˉ),=n(1/λ−xˉ)=0⟹λ^=1/xˉ.
よって
−2logΛ=2{ℓ(λ^)−ℓ(λ0)}=2n{−logxˉ−1−logλ0+λ0xˉ}=2n{λ0xˉ−1−log(λ0xˉ)}.
不等式 u−1−logu≥0 が成り立つ(等号は u=1)。よって値は非負で、λ0xˉ が 1 から離れるほど大きい。2. ℓ′′(λ)=−n/λ2 なので In(λ)=n/λ2。Wald 統計量は
W=(λ^−λ0)2⋅λ^2n=n(1−λ^λ0)2=n(1−λ0xˉ)2.
スコアは U(λ0)=n(1/λ0−xˉ) で、
R=n/λ02n2(1/λ0−xˉ)2=n(1−λ0xˉ)2.
よって W=R。このモデルでは、最尤推定量で評価した情報量 nxˉ2 と比 (λ^−λ0)/λ^ の組み合わせが、スコアの形とちょうど一致する。3. 数値では λ0xˉ=1.4 なので
−2logΛ=40(1.4−1−log1.4)=40(0.4−0.33647)=2.541,W=R=20×0.42=3.200.
棄却限界は χ12(0.05)=3.841 で、どちらも下回るので棄却しない。
正確な検定では統計量の値は 2λ0∑xi=2×28=56 で、
χ402(0.975)=24.433<56<χ402(0.025)=59.342
なので、こちらも棄却しない。
例題 7.5 2つのポアソン母集団の平均の比較 ★★
オリジナル2組の標本を互いに独立にとる。
X1,…,Xm∼Po(λ1),Y1,…,Yn∼Po(λ2)(各組の中も独立).
H0:λ1=λ2 の尤度比検定統計量 −2logΛ を求めよ。次の数値で、Wilks の定理を使い有意水準 0.05 の判定をせよ。
m=n=10,∑xi=30,∑yj=48.
解答
対数尤度は、パラメータによらない項を除いて
ℓ(λ1,λ2)=(∑xi)logλ1−mλ1+(∑yj)logλ2−nλ2.
全体では λ^1=xˉ、λ^2=yˉ である。帰無仮説のもとでは、共通の λ について次を最大化する。
ℓ=(∑xi+∑yj)logλ−(m+n)λ⟹λ^0=m+n∑xi+∑yj.
一次の項は、次の等式により比で消える。
−mλ^1−nλ^2=−(m+n)λ^0=−(∑xi+∑yj).
よって
−2logΛ=2{(∑xi)logλ^0xˉ+(∑yj)logλ^0yˉ}.
全体のパラメータは2次元、帰無仮説のもとでは1次元なので、Wilks の定理の自由度は r=1 である。数値では
xˉ=3.0,yˉ=4.8,λ^0=78/20=3.9
なので
−2logΛ=2{30log(3.0/3.9)+48log(4.8/3.9)}=2{30×(−0.26236)+48×0.20764}=4.192.
棄却限界 χ12(0.05)=3.841 を上回るので、帰無仮説を棄却する(近似の p 値は 0.041)。
確認テスト
オリジナル
- 7.3-1 正規母集団 N(μ,σ2) で、平均と分散がともに未知とする。次の2つの仮説の尤度比検定に Wilks の定理を使うとき、それぞれの自由度を答えよ。
(a) H0:μ=0,(b) H0:μ=0, σ2=1.
2. 7.3-2 X1,…,Xn は独立に N(0,σ2) に従う(平均は既知で 0)。帰無仮説 H0:σ2=σ02 の尤度比を考える。次の記号を使う。
σ^2=n1∑Xi2,u=σ^2/σ02.
このとき −2logΛ=n(u−1−logu) を示せ。また次の数値で、有意水準 0.05 の判定を2通りで行え。
n=25,∑xi2=40,σ02=1.
1つは Wilks の近似、もう1つは ∑Xi2/σ02∼χ252 による正確な両側検定である。3. 7.3-3 X∼Bin(100,p) で x=60 を観測した。帰無仮説 H0:p=0.5 について、3つの統計量の値を求め、有意水準 0.05 で判定せよ。3つとは、尤度比統計量 −2logΛ、Wald 統計量、スコア統計量である。4. 7.3-4 分散が既知の正規母集団 N(μ,σ2) で、帰無仮説 H0:μ=μ0 の尤度比を求めよ。さらに −2logΛ が帰無仮説のもとで(漸近でなく)正確に χ12 に従うことを示せ。
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