指数法則型とコーシーの関数方程式
目次
- 1. 指数法則型:代入で分かること
- 2. 0 での微分係数を与えると全体が決まる
- 3. コーシーの関数方程式:有理数での値
- 無理数での値は式だけでは決まらない
- 4. 連続性を足すと kx に限られる
授業の例題は、f(x+y)=f(x)f(y) を満たし x=0 で微分可能で f′(0)=2 である f(x) を求める問題でした1塾の授業で扱った問題は塾の教材なので、数値を変えた類題に差し替えています。。この等式を手がかりに f(0) の値を出し、微分可能性を示し、(f(x)e−2x)′ を調べて f(x) を決めます。このように「式の形」だけが与えられ、それを満たす関数を探す問題を関数方程式といいます。
この頁では、入試でよく見る2つの型を扱います。
- 指数法則型:f(x+y)=f(x)f(y)(ax がこれを満たす)
- 加法型(コーシーの関数方程式):f(x+y)=f(x)+f(y)(kx がこれを満たす)
どちらも、まずうまい値を代入して性質を1つずつ取り出すのが出発点です。ただし式だけから分かるのは「x が有理数のときの値」までで、関数全体を決めるには微分可能性や連続性のような条件がもう1つ要ります。この「どこまでが式だけで言えて、どこから追加の条件が要るのか」の線引きを見ていきます。
以下、x,y は実数全体を動き、f は実数に実数を対応させる関数とします。
1. 指数法則型:代入で分かること
指数法則型の関数方程式
すべての実数 x,y について
f(x+y)=f(x)f(y)⋯⋯(A)
が成り立つとき、f について何が言えるか。
代入する値を選ぶときの手がかりは、「式が簡単になる値」です。具体的には 0 を入れる、同じ値を2つ入れる、符号を逆にした値を組にする、の3つを順に試します。
① y=0 とおく。(A) は f(x)=f(x)f(0)、つまり
f(x){1−f(0)}=0
になります。これがすべての x で成り立つので、f(0)=1 なら f(x) はどの x でも 0 です。逆に恒等的に 0 の関数は (A) を満たすので、これは本当に解の1つです。以下ではこの自明な解を除き、f(x)=0 となる x が少なくとも1つあるとします。すると f(0)=1 が決まります。
② x=y=2t とおく。(A) は
f(t)={f(2t)}2
になります。右辺は実数の2乗なので、どんな t についても f(t)≧0 です。
③ y=−x とおく。(A) の左辺は f(0)=1 なので
f(x)f(−x)=1
です。積が 1 なので f(x) は 0 になれません。②とあわせると、f(x)>0 がすべての x で成り立ちます。
④ 対数をとる。③で f がつねに正と分かったので、g(x)=logf(x) とおけます。(A) の両辺の対数をとると
g(x+y)=g(x)+g(y)
となり、積の関係が和の関係に変わりました。これは3節で扱う加法型そのものです。3節の結論(有理数 r について g(r)=g(1)r)を使うと、a=f(1) とおいて
f(r)=eg(1)r=ar(r は有理数)
が得られます。たとえば f(1)=3 と分かっていれば、f(21)=3、f(−2)=91、f(32)=39 まで代入だけで決まります。一方、f(2) のような無理数での値はこの議論からは出てきません。その理由は3節で見ます。
2. 0 での微分係数を与えると全体が決まる
1節では、有理数での値しか決まりませんでした。ここに「x=0 で微分可能」という条件を1つ足すと、関数がすべての実数で決まります。
0 での微分係数を足した問題
f が (A) を満たし、さらに x=0 で微分可能で f′(0)=c(c は 0 でない定数)であるとする。f(x) を求めよ。
f(0)=1 であること。1節の①から、f(0)=1 でなければ f は恒等的に 0 です。そのとき f′(0)=0 となって c=0 に反するので、f(0)=1 です。
すべての x で微分可能であること。微分係数の定義に (A) を入れます。h=0 として
hf(x+h)−f(x)=hf(x)f(h)−f(x)=f(x)⋅hf(h)−f(0)
です(f(0)=1 を使って 1 を f(0) に書き換えました)。右端の分数は h→0 で f′(0)=c に近づくので、左辺も極限をもち
f′(x)=cf(x)
がすべての x で成り立ちます。(A) のおかげで、x=0 での情報がそのまま任意の点 x へ運ばれるのがこの計算の要点です。
f を決める。f′=cf から f を出すには、e−cx を掛けた関数の導関数を見ます。
(f(x)e−cx)′=f′(x)e−cx−cf(x)e−cx={f′(x)−cf(x)}e−cx=0
導関数がつねに 0 なので f(x)e−cx は定数で、x=0 を入れるとその定数は f(0)=1 です。よって
f(x)=ecx
授業の例題は c=2 の場合で、答えは e2x でした。この道筋は f で割らないので、f>0 を先に示しておく必要がありません(ff′=c と変形して積分する道もありますが、その場合は1節の③で f>0 を確かめてから割ります)。
3. コーシーの関数方程式:有理数での値
コーシーの関数方程式
すべての実数 x,y について
f(x+y)=f(x)+f(y)⋯⋯(B)
が成り立つとき、f について何が言えるか。
1節と同じく、簡単な値から代入していきます。目標は、x を何倍かしたときに f(x) も同じ倍率になること(f(rx)=rf(x))を、倍率 r を自然数・整数・有理数と広げながら示すことです。
㋐ x=y=0 とおく。f(0)=2f(0) なので f(0)=0 です。
㋑ y=−x とおく。f(0)=f(x)+f(−x) と㋐から、f(−x)=−f(x) です(f は奇関数)。
㋒ 自然数倍。n を自然数として、f(nx)=nf(x) を n についての数学的帰納法で示します。n=1 は明らかです。f(nx)=nf(x) を仮定し、(B) で y を nx にすると
f((n+1)x)=f(x)+f(nx)=f(x)+nf(x)=(n+1)f(x)
となって、n+1 でも成り立ちます。
㋓ 整数倍。m が負の整数なら −m は自然数なので、㋒と㋑から
f(mx)=f((−m)(−x))=(−m)f(−x)=(−m)(−f(x))=mf(x)
です。m=0 は㋐の f(0)=0 そのものなので、f(mx)=mf(x) はすべての整数 m で成り立ちます。
㋔ 有理数倍。自然数 n について、㋒の x を nx に置き換えると f(x)=nf(nx)、つまり f(nx)=n1f(x) です。これと㋓を組み合わせると、整数 m と自然数 n について
f(nmx)=n1f(mx)=nmf(x)
となります。どの有理数も nm の形に書けるので、有理数 r と実数 x について f(rx)=rf(x) です。
㋕ まとめ。㋔で x=1 とおき、k=f(1) と書くと
f(r)=kr(r は有理数)
が得られます。有理数の上では、f のグラフは直線 y=kx に乗っています。
無理数での値は式だけでは決まらない
㋔の議論は「x を有理数倍する」ことしか使っていません。2 は 1 の有理数倍ではないので、f(2) は f(1) から決まりません。決まるのは f(2) を基準にした値(f(32)=3f(2) など)と、和の形の値(f(1+2)=f(1)+f(2) など)だけです。
具体的に見てみます。p,q を有理数として、p+q2 の形の数だけを考え、そこで
f(p+q2)=p+3q
と決めます(p+q2 の形の書き方は1通りなので、これで値が1つに決まります)。2つの数を足すと p 同士、q 同士が足されるので、この f は (B) を満たします。有理数(q=0)では f(r)=r で直線 y=x に乗りますが、f(2)=3 は 1⋅2 とは違います。
図1 f(p+q2)=p+3q のグラフの点。有理数での点(黒丸)は直線 y=x に、2 の有理数倍での点(黒丸)は直線 y=23x に乗り、1+2 のような和の形の点(白抜きの丸)はどちらの直線にも乗らない図1で黒丸は2本の直線に分かれて並び、1+2 のような和の形の点(白抜きの丸)はどちらの直線にも乗りません。この f は p+q2 の形の数でしか定義していませんが、大学で学ぶ道具(ハメル基底)を使うと、同じ発想で実数全体に定義された (B) の解で、kx の形でないものが作れることが知られています2ハメル基底による構成には選択公理(「空でない集合の族から1つずつ要素を選べる」という公理)が要ります。高校の範囲では、「(B) だけでは kx と決まらない」ことを3節の p+q2 の例で納得できれば十分です。。
4. 連続性を足すと kx に限られる
(この節は発展的な内容です。)
3節で見たとおり、(B) だけでは f(x)=kx と言い切れません。ところが「f は連続」という条件を足すと、無理数での値も決まります。
連続な解は kx だけ
f が (B) を満たし、すべての実数で連続ならば、f(x)=f(1)x である。
理由は、どの実数も有理数で好きなだけ近づけるからです。実数 x に収束する有理数の数列 r1,r2,… をとります(x の小数展開を第 n 位で打ち切った数を rn にすればよい)。連続性から f(rn)→f(x) で、3節より f(rn)=krn→kx です。極限は1つなので f(x)=kx となります。
実は、連続性は1点だけで足ります。f が x=a で連続だとして、任意の点 x とそこへ近づく数列 xn をとると、(B) から
f(xn)=f((xn−x+a)+(x−a))=f(xn−x+a)+f(x−a)
です。xn−x+a→a なので a での連続性から f(xn−x+a)→f(a) となり、右辺は f(a)+f(x−a)=f(x) に近づきます。つまり f は x でも連続です。1点での情報が全体へ運ばれるのは、2節の微分可能性と同じ仕組みです。
連続性のほかにも、次のどれか1つが成り立てば (B) の解は kx に限られることが知られています。
- ある1点で右側連続、または左側連続
- ある区間で単調(増加または減少)
- ある区間の上で値が有界(a≦x≦b なら c≦f(x)≦d となる定数 a,b,c,d がある)
- ある区間で積分可能
裏返すと、kx でない解は、どの点でも片側連続ですらなく、どの区間でも単調でも有界でもなく、どの区間でも積分できない関数です。このように直感に反する性質をもつ関数を、数学では「病的な」関数と呼びます。その極端さをよく表すのが次の定理です。
定理
f が (B) を満たし、kx の形でないとする。このとき y=f(x) のグラフは xy 平面で稠密である。つまり、平面上のどんなに小さな円をとっても、その中にグラフの点がある。
証明の考え方(押すと開く)
k=f(1) とします。f が kx の形でないので、f(b)=kb となる実数 b があります。有理数 p,q について、(B) と3節から
f(p+qb)=f(p)+f(qb)=kp+qf(b)
なので、グラフ上の点 (p+qb, f(p+qb)) は
uvpu+qv,=(1, k),=(b, f(b))
と書けます。u と v が平行になるのは f(b)=kb のときだけなので、この2つは平行ではありません。平行でない2つのベクトルを使うと、平面のどの点も su+tv(s,t は実数)と表せます。s,t をそれぞれ有理数 p,q で近似すれば、pu+qv はその点にいくらでも近づきます。図2は、p,q を細かい刻みにするほど点の網目が細かくなり、平面を埋めていく様子です。
図2 平行でない2つのベクトル u, v と、pu+qv の点。p,q が整数のときを黒丸、21 刻みのときを小さな点で打った1 塾の授業で扱った問題は塾の教材なので、数値を変えた類題に差し替えています。
2 ハメル基底による構成には選択公理(「空でない集合の族から1つずつ要素を選べる」という公理)が要ります。高校の範囲では、「(B) だけでは kx と決まらない」ことを3節の p+q2 の例で納得できれば十分です。
塾の授業で配った補足資料をもとに、問題を類題に差し替えて書き直しました。
← 塾講師木下の記事一覧へ