√の差の有理化と、長さか角度か
目次
- 1. 上陸地点を B と C の間に限ってよい理由
- 2. 角度を変数にとる解き方
- 3. 「分子の有理化」が使えるのはいつか
- 4. 場合分けに自分で気付く
- 5. 長さを変数にとるか、角度を変数にとるか
この頁は、授業で扱った問題(沖の島から小船で岸へ渡り、岸沿いを歩いて目的地へ向かうときの最短時間を求める問題1塾の授業で扱った問題は塾の教材なので、数値を変えた類題に差し替えています。)の補足です。まず設定と結論を確認しておきます。
島 A から海岸へ下ろした垂線の足を B とし、AB=a とします。目的地 C は海岸上にあり BC=b です。船の速さは時速 3 km、歩く速さは時速 5 km で、上陸地点 P を BP=x の位置に選ぶと、かかる時間は
T(x)=3x2+a2+5b−x(0≦x≦b)
です。微分すると
T′(x)=3x2+a2x−51=15x2+a25x−3x2+a2
となり、分子が 0 になるのは x=43a のときだけです。この点が区間 0≦x≦b の中にあるかどうかで答えが分かれ、b>43a なら B から 43a の点に、b≦43a なら C に直接上陸するのが最も速い、というのが結論でした。以下では、この解答の途中で軽く流した点を一つずつ掘り下げます。
1. 上陸地点を B と C の間に限ってよい理由
解答では最初から 0≦x≦b としました。B より左(C と反対側)や C より右に上陸する可能性を捨ててよいのは、そうした地点には必ず「それより速い区間内の地点」が見つかるからです。
図1 B の左の上陸点 P′ と、B について対称な点 PB の左に距離 x だけ離れた点 P′ に上陸したとします。B について P′ と対称な点 P を考えると、AB が海岸に垂直なので AP′=AP で、船に乗っている時間は等しくなります。ところが上陸後に歩く距離は、P′ からなら b+x、P からなら ∣b−x∣ で、後者のほうが短い。したがって P′ は P に負けます。
図2 C を越えた点 P に上陸して歩いて戻る場合と、C に直接上陸する場合C を越えた点 P に上陸する場合は、C に直接上陸する場合と比べます。B から遠い点ほど A からも遠いので AC<AP で、船の時間は C のほうが短い。しかも C に上陸すれば歩く必要がありません。こちらも区間内の点 C に負けます。
どちらの比較も、「船の距離」と「歩く距離」の両方で同時に勝つ相手を見つけているので、速さ 3, 5 の値には関係なく成り立ちます。
2. 角度を変数にとる解き方
同じ問題を、長さ x でなく角度で解くこともできます。この方針をとった人は、以下の流れと自分の答案を比べてください。
図3 A での角 θ=∠BAP と θ0=∠BACθ=∠BAP とおきます。P が B から C まで動くと θ は 0 から θ0=∠BAC まで動くので、変域は 0≦θ≦θ0(ただし tanθ0=ab)です。直角三角形 ABP から AP=cosθa、BP=atanθ なので、かかる時間は
T(θ)=3cosθa+5b−atanθ
です。これを微分して整理すると
T′(θ)=15cos2θa(5sinθ−3)
となり、符号は sinθ−53 だけで決まります。sinθ1=53 となる角 θ1(0<θ1<2π)を境に T は減少から増加に変わります。cosθ1=54、tanθ1=43 なので、これは x=atanθ1=43a に当たります。
微分を使わない見方もあります。tanθ=cosθsinθ を使って通分すると
T(θ)=5b+5a⋅cosθ35−sinθ
と書けます。cosθ−0sinθ−35 は、点 (0,35) と単位円上の点 (cosθ,sinθ) を結ぶ直線の傾きです。傾きは負なので、cosθ35−sinθ はその直線の傾きの大きさ(急さ)を表します。
図4 点 (0,35) から単位円の四分円へ引いた直線。最もゆるやかになるのは接点 (54,53) を通るとき点 (0,35) から四分円上の点へ引いた直線が最もゆるやかになるのは、直線が円に接するときです。接点では半径と直線が直交するので、原点 O・接点 T・点 D(0,35) は斜辺 OD=35、OT=1(半径)の直角三角形を作ります。cos∠DOT=5/31=53 で、この角は Y 軸から測った角なので、T の Y 座標は 53 です。つまり接点は (54,53) で、sinθ=53 の点です。θ0≧θ1 ならこの接点が変域に入り、θ0<θ1 なら変域の右端 θ0(C に上陸)が最も速くなります。どの方法で解いても、極値の点が変域に入るかどうかの場合分けは避けられません。
3. 「分子の有理化」が使えるのはいつか
− の符号の調べ方
A≧0, B≧0(ただし A,B が同時に 0 ではない)のとき
A−B=A+BA−B
で、右辺の分母は正なので、A−B の符号は A−B の符号と一致する。
授業で扱った問題の T′(x) の分子 5x−3x2+a2 もこの形に直せます。ただしそれは、x≧0 なので 5x=25x2 と書けるからです。3x2+a2=9x2+9a2 と合わせると
5x−3x2+a2=5x+3x2+a216x2−9a2
となって、符号は 16x2−9a2 で決まります。x が負になりうる場面でこの手順を機械的にまねると、次のような誤りに陥ります。関数
f(x)=2x+5−x2(−5≦x≦5)
の増減を調べる場合で見てみましょう。
×よくある誤り×
−5<x<5 で微分すると
f′(x)=2−5−x2x=5−x225−x2−x⋯(i)
分子を有理化して
25−x2−x=25−x2+x4(5−x2)−x2=25−x2+x5(4−x2)⋯(ii)
「分母は正」とみなすと、f′(x) の符号は 4−x2 の符号となり、x=−2 で極小、x=2 で極大……
崩れているのは(ii) の「分母は正」の部分です。25−x2+x が正だと言えるのは x≧0 のときだけで、x<0 では正とは限りません。実際、x=−2 を代入すると 2⋅1+(−2)=0 で分母が 0 になり、(ii) の式は意味を失います((i) で直接計算すると f′(−2)=2−1−2=4 で、0 ではありません)。さらに −5<x<−2 では分母が負です。公式 A−B=A+BA−B で分母が正になるのは足し合わせる2つがどちらも だからで、x を x2 と書き換えてよいのは x≧0 のときに限られます。正しくは x=0 を境に場合を分けます。
正しい議論
⑴ −5<x<0 のとき (i) の分子は 25−x2>0 と −x>0 の和なので正。よって f′(x)>0。
⑵ 0≦x<5 のとき (ii) の分母は正なので、f′(x) の符号は 4−x2 の符号に一致し、x=2 を境に正から負へ変わる。
| x | −5 | ⋯ | 2 | ⋯ | 5 |
| f′(x) | | + | 0 | − | |
| f(x) | −25 | ↗ | 5 | ↘ | 25 |
最大値は f(2)=5、最小値は f(−5)=−25。
4. 場合分けに自分で気付く
文字定数を含む最大・最小
関数や区間が文字定数を含むときは、極値をとる点が区間の中にあるかどうかで場合分けが起きやすい。
授業で扱った問題で x=43a と b の大小が問題になったのは、この典型です。以前にも同じ型を扱いました。たとえば a>0 として f(x)=x−alogx の 1≦x≦2 での最小値を考えると、f′(x)=xx−a なので極小の点は x=a です。これが区間の左にあるか(a≦1、最小値 f(1)=1)、中にあるか(1<a<2、最小値 f(a)=a−aloga)、右にあるか(a≧2、最小値 f(2)=2−alog2)の3通りに分かれます。
ここまでは式から場合分けを見つけました。授業で扱った問題のような図形の問題では、計算を始める前に図から見当をつけることもできます。手がかりになるのは極端な場合です。
⑴ a が b よりずっと大きいとき
図5 島が沖遠くにあり、目的地 C が B のすぐ近くにある場合島が沖遠くにあり、C は B のすぐそばです。B と C の間のどこに上陸しても船で進む距離はほぼ a で変わらないので、歩く距離のない C に直接向かうのがよさそうだと分かります。
⑵ a が b よりずっと小さいとき
図6 島が岸に近く、目的地 C が遠い場合島は岸のすぐ近くで、C は遠くにあります。上陸地点を変えると船の距離も歩く距離も大きく変わるので、どこが最適かは計算しないと分かりません。
2つの極端な場合で答えの様子が違う以上、その間のどこかに境目があるはずだ、と予想できます。場合分けを見落とさないためには、
- 動く点をいろいろな位置に置いて図を何枚か描く
- 特に、極端な場合(ある長さが他よりずっと大きい・小さい)を描く
ことを習慣にしてください。
5. 長さを変数にとるか、角度を変数にとるか
ここは少し難しめなので、余力のある人向けです。次の問題を考えます(京大の1994年の入試問題の中心部分を、要点だけに絞って言い直したものです)。
問題
弧の長さが 1 の円弧 PQ を考える。円の半径 r は 2πr>1 の範囲で自由に変えられる。弧 PQ と弦 PQ で囲まれた部分(弓形)の面積 S が最大になるときの S を求めよ。
半径 r を変数にすると、弦の長さや三角形の面積を r で書くのに苦労します。そこで弧 PQ に対する中心角 θ を変数にとります。弧の長さが rθ=1 なので r=θ1 で、2πr>1 は 0<θ<2π と同じです。
図7 弧の長さ 1 の円弧と弓形。左は中心角 θ が π 以下、右は π を超える場合弓形は扇形 OPQ と三角形 OPQ の差(θ≦π)または和(θ>π)です。θ>π のとき三角形 OPQ の頂角は 2π−θ で、sin(2π−θ)=−sinθ なので、どちらの場合も
S=21r2θ−21r2sinθ=2θ2θ−sinθ
という同じ式になります。微分すると
dθdS=2θ4θ2(1−cosθ)−2θ(θ−sinθ)=2θ32sinθ−θ(1+cosθ)
です。分母は正なので、分子 g(θ)=2sinθ−θ(1+cosθ) の符号を調べます。ここで角度を変数にした場合の定石、「三角関数は積の形にまとめる」を使います。φ=2θ(0<φ<π)とおき、sinθ=2sinφcosφ、1+cosθ=2cos2φ を代入すると
g=4sinφcosφ−4φcos2φ=4cosφ(sinφ−φcosφ)
と因数分解できます。後ろの因子 h(φ)=sinφ−φcosφ は h(0)=0、h′(φ)=φsinφ>0(0<φ<π)なので、0<φ<π でつねに正です。したがって g の符号は cosφ の符号と一致し、θ<π で正、θ>π で負になります。
| θ | (0) | ⋯ | π | ⋯ | (2π) |
| dθdS | | + | 0 | − | |
| S | | ↗ | 2π1 | ↘ | |
よって θ=π(半円、r=π1)のとき最大で、最大値は 2π1 です。
この問題から読み取れるのは、
円の一部が出てくる図形では、中心角を変数にとると式が素直になることが多い
ということです。理由は扇形の面積 21r2θ や弧の長さ rθ に角度そのものが現れることにあります。これを長さだけで書こうとすると、長さから角度を取り出す関数(逆三角関数。高校では扱いません)が必要になり、式にできません。
図形量の最大・最小の進め方
Step 1. 動くもの(長さか角度)を変数にとる
Step 2. 変数の変域を求める
Step 3. 求めたい量を変数で表す
Step 4. Step 2 の範囲で Step 3 の式の最大・最小を調べる(微分・グラフ・不等式など)
ただし、上の問題のように、何を変数にするかは「求めたい量を図形の言葉でどう書くか」を考えて初めて決まることがよくあります。Step 1 だけを先に片付けようとせず、Step 3 と行き来しながら決めてください。
変数を決めたあとの微分の手間にも、長さと角度で違いがあります。
- 長さ:三平方の定理から が出やすく、 を含む式の微分と符号の判定が必要になる
- 角度:三角関数が出て、微分したあとで sin, cos を積の形にまとめる作業が必要になる(上の g の因数分解がその例)
長さを選んで が出たときは、微分する前に次を試す価値があります。
を含む積の最大・最小
正の因子との積なら、その因子を の中へ入れ、中身の最大・最小を考える。
例として f(x)=x6−x2 (0<x<6) の最大値を求めます。x>0 なので
f(x)=x2(6−x2)=6t−t2
と書けます(t=x2、0<t<6)。 の中身 6t−t2=9−(t−3)2 は t=3 で最大値 9 をとるので、f は x=3 で最大値 3 をとります。微分は一度も使っていません。
微分する前に
- 符号の分からない部分だけを取り出して微分する
- log に掛かっている x の式は、先に割って外せないか考える
- を含む積は、全部を の中に入れて中身を調べる
- 入り組んだ式は、まとまりを1文字に置き換える
- 三角関数の2乗や3乗は、倍角の公式で1次に直してから扱う
一方、積の形にならず どうし(あるいは と正の量)の差が残るときは、§3 の分子の有理化が役に立ちます。
微分したあとに
- 因数分解して、因子ごとに符号を見られる形にする
- 因数分解できないときも、符号が明らかな因子から先に片付ける
- A−B は有理化して A−B の符号を調べる(両方が であることを確かめてから)
1 塾の授業で扱った問題は塾の教材なので、数値を変えた類題に差し替えています。
塾の授業で配った補足資料をもとに、問題を類題に差し替えて書き直しました。
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