ヤングの不等式とその応用
目次
- 1. ヤングの不等式
- 面積で見る
- 2. 授業で扱った問題との関係
- 3. 応用①:重み付きの相加平均・相乗平均の関係
- 4. 応用②:ヘルダーの不等式とミンコフスキーの不等式
授業で扱った問題は、正の数a,bについて
1+b+2ab−eb≦2∫0alog(1+2x)dx
を示す問題でした1塾の授業で扱った問題は塾の教材なので、数値を変えた類題に差し替えています。。授業ではbを固定してaの関数とみなし、微分して増減を調べました。この方法で確かに示せますが、なぜ左辺にebが、右辺にlogが現れるのか、という組み合わせの理由は見えにくいままです。実はこの不等式は、ある関数とその逆関数の積分を並べた一般的な不等式の、特別な場合になっています。この頁ではその不等式を図で納得し、そこから相加平均・相乗平均の関係の拡張や、ベクトルの長さに関する不等式にまでつなげます。
1. ヤングの不等式
ヤング(Young)の不等式
関数f(x)はx≧0で連続かつ狭義単調増加で、f(0)=0、x→∞limf(x)=∞をみたすとする。このとき、正の数a,bに対して
ab≦∫0af(x)dx+∫0bf−1(y)dy
が成り立つ。等号が成り立つのはb=f(a)のときだけである。
仮定のうち「f(0)=0」「x≧0で連続」「x→∞でいくらでも大きくなる」の3つは、fが0以上の数全体を0以上の数全体へ漏れなく1対1に移すことを保証しています。こうしておくと逆関数f−1(y)がy≧0のどこでも定義され、右辺の2つ目の積分が意味をもちます。たとえばf(x)=1+xxは連続で増加しf(0)=0ですが、値が1に届かないので、b≧1ではf−1(b)がありません。
面積で見る
y=f(x)のグラフを描き、2つの積分を面積として読みます。∫0af(x)dxは、曲線の下側で0≦x≦aの部分(灰色)の面積です。∫0bf−1(y)dyはyで積分しているので、y軸の側から見た面積、つまり曲線の左側で0≦y≦bの部分(青)の面積です。左辺のabは、太線で囲んだ横a・縦bの長方形の面積です。

上の図はb<f(a)の場合です。長方形の中の点は、曲線より左上にあれば青に、右下にあれば灰色に入るので、長方形は青と灰色でちょうど埋めつくされます。そのうえ灰色は、長方形の上辺y=bからy=f(a)までの細い部分だけ長方形からはみ出しています。したがって「灰色+青」は長方形よりはみ出し分だけ大きく、不等式は等号なしで成り立ちます。

b>f(a)のときは役割が入れかわり、青が長方形の右側x>aへはみ出します。どちらの場合も、はみ出しの部分がなくなるのは、点(a,b)がグラフy=f(x)上にあるとき、つまりb=f(a)のときです。これが等号の条件です。
2. 授業で扱った問題との関係
f(x)=log(1+2x)はx≧0で連続かつ増加し、f(0)=0で、x→∞のときいくらでも大きくなるので、ヤングの不等式の仮定をみたします。y=log(1+2x)をxについて解くとx=2ey−1なので、f−1(y)=2ey−1です。ヤングの不等式に代入すると
ab≦∫0alog(1+2x)dx+∫0b2ey−1dy
で、右辺の2つ目の積分は21[ey−y]0b=2eb−b−1です。両辺を2倍して移項すると
1+b+2ab−eb≦2∫0alog(1+2x)dx
となり、授業で扱った問題の不等式そのものが出てきます。ebはlogの逆関数を積分したところから来ていたわけです。等号の条件b=f(a)も、b=log(1+2a)という形でそのまま読み取れます。
3. 応用①:重み付きの相加平均・相乗平均の関係
fをxのべき乗にとると、相加平均と相乗平均の関係を一般化した不等式が得られます。
p>1としてf(x)=xp−1とおきます。これはヤングの不等式の仮定をみたし、逆関数はf−1(y)=yp−11です。ここでqを
p1+q1=1(同じことだが q−1=p−11)
で決めると、f−1(y)=yq−1と書けます。2つの積分はpap、qbqなので、
ab≦pap+qbq(a,b>0, p,q>1, p1+q1=1)
となります。これもヤングの不等式と呼ばれることが多く、等号はb=ap−1、すなわちap=bqのときです。
ここで文字を置きかえます。P=p1、Q=q1とおくとP,Q>0、P+Q=1です。さらにA=ap、B=bqとおくと(a,b>0なのでA,B>0)、a=AP、b=BQとなるので、上の不等式は
APBQ≦PA+QB(A,B>0, P,Q>0, P+Q=1)
と書きかえられます。左辺はAとBに重みP,Qをつけた相乗平均、右辺は同じ重みの相加平均で、これを重み付きの相加平均・相乗平均の関係と呼びます。P=Q=21とおくと、おなじみのAB≦2A+Bに戻ります。重みが偏った例としてP=31、Q=32、A=8、B=1を入れると、左辺は831⋅1=2、右辺は38+32=310で、確かに左辺のほうが小さくなっています。等号はA=Bのときです。
4. 応用②:ヘルダーの不等式とミンコフスキーの不等式
ヤングの不等式は、数の組(ベクトル)の大きさについての有名な2つの不等式の出発点にもなります。
ヘルダーの不等式
p,q>1、p1+q1=1とする。複素数x1,⋯,xn, y1,⋯,ynに対して
k=1∑n∣xkyk∣≦(k=1∑n∣xk∣p)p1(k=1∑n∣yk∣q)q1
p=q=2の場合が、コーシー・シュワルツの不等式∑∣xkyk∣≦∑∣xk∣2∑∣yk∣2です。
証明(応用①の形を1項ずつ使う)
右辺の2つの因数をそれぞれX、Yと書きます(どちらかが0なら、その組の数がすべて0で両辺とも0なので、X,Y>0としてよい)。各kについて、a=X∣xk∣、b=Y∣yk∣に応用①の不等式ab≦pap+qbqを使うと(aかbが0のときも両辺の大小は保たれる)
XY∣xkyk∣≦p1⋅Xp∣xk∣p+q1⋅Yq∣yk∣q
これをk=1,⋯,nで足すと、∑∣xk∣p=Xp、∑∣yk∣q=Yqなので右辺の和はp1+q1=1になり、∑∣xkyk∣≦XYを得ます。
ミンコフスキーの不等式
p≧1とする。複素数x1,⋯,xn, y1,⋯,ynに対して
(k=1∑n∣xk+yk∣p)p1≦(k=1∑n∣xk∣p)p1+(k=1∑n∣yk∣p)p1
(∑∣xk∣p)p1を「p乗で測ったベクトル(x1,⋯,xn)の長さ」とみると、これは「和の長さは長さの和以下」という三角不等式の形です。実際、p=2で成分が実数なら、平面や空間でのおなじみの三角不等式∣u+v∣≦∣u∣+∣v∣そのものです。なおp<1では成り立たず、たとえばp=21、(x1,x2)=(1,0)、(y1,y2)=(0,1)で左辺は4、右辺は2になります。
証明(ヘルダーの不等式から)
p=1は各項の三角不等式∣xk+yk∣≦∣xk∣+∣yk∣を足すだけなので、p>1とし、qをp1+q1=1で決めます。S=∑∣xk+yk∣pとおき、S>0の場合を考えます。∣xk+yk∣p=∣xk+yk∣⋅∣xk+yk∣p−1≦∣xk∣∣xk+yk∣p−1+∣yk∣∣xk+yk∣p−1を足し、右辺の2つの和にそれぞれヘルダーの不等式を使います。(p−1)q=pなので∑(∣xk+yk∣p−1)q=Sとなり、
S≦{(∑∣xk∣p)p1+(∑∣yk∣p)p1}Sq1
両辺をSq1で割ると、1−q1=p1より左辺はSp1になり、示すべき式が出ます。
ヤングの不等式からヘルダー、ヘルダーからミンコフスキーへと、1本の面積の図から順に積み上がっていく関係になっています。大学で関数の大きさを積分で測る場面(関数解析)では、この2つが基本的な道具として使われます。
1 塾の授業で扱った問題は塾の教材なので、数値を変えた類題に差し替えています。
塾の授業で配った補足資料をもとに、問題を類題に差し替えて書き直しました。
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