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ヤングの不等式とその応用

2025年度 高2発展2026年10月6日9分で読めます塾講師木下微分
目次
  1. 1. ヤングの不等式
  2. 面積で見る
  3. 2. 授業で扱った問題との関係
  4. 3. 応用①:重み付きの相加平均・相乗平均の関係
  5. 4. 応用②:ヘルダーの不等式とミンコフスキーの不等式

授業で扱った問題は、正の数a, ba,\,bについて

1+b+2ab−eb≦2∫0alog⁡(1+2x) dx1+b+2ab-e^b\leqq2\int_0^a\log(1+2x)\,dx

を示す問題でした1塾の授業で扱った問題は塾の教材なので、数値を変えた類題に差し替えています。下の脚注へ。授業ではbbを固定してaaの関数とみなし、微分して増減を調べました。この方法で確かに示せますが、なぜ左辺にebe^bが、右辺にlog⁡\logが現れるのか、という組み合わせの理由は見えにくいままです。実はこの不等式は、ある関数とその逆関数の積分を並べた一般的な不等式の、特別な場合になっています。この頁ではその不等式を図で納得し、そこから相加平均・相乗平均の関係の拡張や、ベクトルの長さに関する不等式にまでつなげます。

1. ヤングの不等式

ヤング(Young)の不等式

関数f(x)f(x)はx≧0x\geqq0で連続かつ狭義単調増加で、f(0)=0f(0)=0、lim⁡x→∞f(x)=∞\displaystyle\lim_{x\to\infty}f(x)=\inftyをみたすとする。このとき、正の数a, ba,\,bに対して

ab≦∫0af(x) dx+∫0bf−1(y) dyab\leqq\int_0^af(x)\,dx+\int_0^bf^{-1}(y)\,dy

が成り立つ。等号が成り立つのはb=f(a)b=f(a)のときだけである。

仮定のうち「f(0)=0f(0)=0」「x≧0x\geqq0で連続」「x→∞x\to\inftyでいくらでも大きくなる」の3つは、ffが00以上の数全体を00以上の数全体へ漏れなく1対1に移すことを保証しています。こうしておくと逆関数f−1(y)f^{-1}(y)がy≧0y\geqq0のどこでも定義され、右辺の2つ目の積分が意味をもちます。たとえばf(x)=x1+xf(x)=\dfrac{x}{1+x}は連続で増加しf(0)=0f(0)=0ですが、値が11に届かないので、b≧1b\geqq1ではf−1(b)f^{-1}(b)がありません。

面積で見る

y=f(x)y=f(x)のグラフを描き、2つの積分を面積として読みます。∫0af(x) dx\displaystyle\int_0^af(x)\,dxは、曲線の下側で0≦x≦a0\leqq x\leqq aの部分(灰色)の面積です。∫0bf−1(y) dy\displaystyle\int_0^bf^{-1}(y)\,dyはyyで積分しているので、yy軸の側から見た面積、つまり曲線の左側で0≦y≦b0\leqq y\leqq bの部分(青)の面積です。左辺のababは、太線で囲んだ横aa・縦bbの長方形の面積です。

y=f(x) のグラフ(下に凸な増加関数)と、横 a・縦 b の長方形(太線)。b は f(a) より小さい。曲線の左で y≦b の部分が青、曲線の下で x≦a の部分が灰色。灰色の一部が長方形の上にはみ出している

上の図はb<f(a)b<f(a)の場合です。長方形の中の点は、曲線より左上にあれば青に、右下にあれば灰色に入るので、長方形は青と灰色でちょうど埋めつくされます。そのうえ灰色は、長方形の上辺y=by=bからy=f(a)y=f(a)までの細い部分だけ長方形からはみ出しています。したがって「灰色+青」は長方形よりはみ出し分だけ大きく、不等式は等号なしで成り立ちます。

同じ曲線で b を f(a) より大きくとった場合。長方形は縦長になり、今度は青の部分が長方形の右にはみ出している

b>f(a)b>f(a)のときは役割が入れかわり、青が長方形の右側x>ax>aへはみ出します。どちらの場合も、はみ出しの部分がなくなるのは、点(a, b)(a,\,b)がグラフy=f(x)y=f(x)上にあるとき、つまりb=f(a)b=f(a)のときです。これが等号の条件です。

2. 授業で扱った問題との関係

f(x)=log⁡(1+2x)f(x)=\log(1+2x)はx≧0x\geqq0で連続かつ増加し、f(0)=0f(0)=0で、x→∞x\to\inftyのときいくらでも大きくなるので、ヤングの不等式の仮定をみたします。y=log⁡(1+2x)y=\log(1+2x)をxxについて解くとx=ey−12x=\dfrac{e^y-1}{2}なので、f−1(y)=ey−12f^{-1}(y)=\dfrac{e^y-1}{2}です。ヤングの不等式に代入すると

ab≦∫0alog⁡(1+2x) dx+∫0bey−12 dyab\leqq\int_0^a\log(1+2x)\,dx+\int_0^b\frac{e^y-1}{2}\,dy

で、右辺の2つ目の積分は12[ey−y]0b=eb−b−12\dfrac12\Big[e^y-y\Big]_0^b=\dfrac{e^b-b-1}{2}です。両辺を22倍して移項すると

1+b+2ab−eb≦2∫0alog⁡(1+2x) dx1+b+2ab-e^b\leqq2\int_0^a\log(1+2x)\,dx

となり、授業で扱った問題の不等式そのものが出てきます。ebe^bはlog⁡\logの逆関数を積分したところから来ていたわけです。等号の条件b=f(a)b=f(a)も、b=log⁡(1+2a)b=\log(1+2a)という形でそのまま読み取れます。

3. 応用①:重み付きの相加平均・相乗平均の関係

ffをxxのべき乗にとると、相加平均と相乗平均の関係を一般化した不等式が得られます。

p>1p>1としてf(x)=xp−1f(x)=x^{p-1}とおきます。これはヤングの不等式の仮定をみたし、逆関数はf−1(y)=y1p−1f^{-1}(y)=y^{\frac1{p-1}}です。ここでqqを

1p+1q=1(同じことだが q−1=1p−1)\begin{aligned}\frac1p+\frac1q&=1\qquad \left(\text{同じことだが } q-1=\frac1{p-1}\right)\end{aligned}

で決めると、f−1(y)=yq−1f^{-1}(y)=y^{q-1}と書けます。2つの積分はapp\dfrac{a^p}{p}、bqq\dfrac{b^q}{q}なので、

ab≦app+bqq(a, b>0,  p, q>1,  1p+1q=1)\begin{aligned}ab&\leqq\frac{a^p}{p}+\frac{b^q}{q}\qquad \left(a,\,b>0,\ \ p,\,q>1,\ \ \frac1p+\frac1q=1\right)\end{aligned}

となります。これもヤングの不等式と呼ばれることが多く、等号はb=ap−1b=a^{p-1}、すなわちap=bqa^p=b^qのときです。

ここで文字を置きかえます。P=1pP=\dfrac1p、Q=1qQ=\dfrac1qとおくとP, Q>0P,\,Q>0、P+Q=1P+Q=1です。さらにA=apA=a^p、B=bqB=b^qとおくと(a, b>0a,\,b>0なのでA, B>0A,\,B>0)、a=APa=A^P、b=BQb=B^Qとなるので、上の不等式は

APBQ≦PA+QB(A, B>0,  P, Q>0,  P+Q=1)\boldsymbol{A^PB^Q\leqq PA+QB}\qquad(A,\,B>0,\ \ P,\,Q>0,\ \ P+Q=1)

と書きかえられます。左辺はAAとBBに重みP, QP,\,Qをつけた相乗平均、右辺は同じ重みの相加平均で、これを重み付きの相加平均・相乗平均の関係と呼びます。P=Q=12P=Q=\dfrac12とおくと、おなじみのAB≦A+B2\sqrt{AB}\leqq\dfrac{A+B}2に戻ります。重みが偏った例としてP=13P=\dfrac13、Q=23Q=\dfrac23、A=8A=8、B=1B=1を入れると、左辺は813⋅1=28^{\frac13}\cdot1=2、右辺は83+23=103\dfrac83+\dfrac23=\dfrac{10}3で、確かに左辺のほうが小さくなっています。等号はA=BA=Bのときです。

4. 応用②:ヘルダーの不等式とミンコフスキーの不等式

ヤングの不等式は、数の組(ベクトル)の大きさについての有名な2つの不等式の出発点にもなります。

ヘルダーの不等式

p, q>1p,\,q>1、1p+1q=1\dfrac1p+\dfrac1q=1とする。複素数x1, ⋯ , xn, y1, ⋯ , ynx_1,\,\cdots,\,x_n,\ y_1,\,\cdots,\,y_nに対して

∑k=1n∣xkyk∣≦(∑k=1n∣xk∣p)1p(∑k=1n∣yk∣q)1q\sum_{k=1}^n|x_ky_k|\leqq\left(\sum_{k=1}^n|x_k|^p\right)^{\frac1p}\left(\sum_{k=1}^n|y_k|^q\right)^{\frac1q}

p=q=2p=q=2の場合が、コーシー・シュワルツの不等式∑∣xkyk∣≦∑∣xk∣2∑∣yk∣2\displaystyle\sum|x_ky_k|\leqq\sqrt{\sum|x_k|^2}\sqrt{\sum|y_k|^2}です。

証明(応用①の形を1項ずつ使う)

右辺の2つの因数をそれぞれXX、YYと書きます(どちらかが00なら、その組の数がすべて00で両辺とも00なので、X, Y>0X,\,Y>0としてよい)。各kkについて、a=∣xk∣Xa=\dfrac{|x_k|}{X}、b=∣yk∣Yb=\dfrac{|y_k|}{Y}に応用①の不等式ab≦app+bqqab\leqq\dfrac{a^p}p+\dfrac{b^q}qを使うと(aaかbbが00のときも両辺の大小は保たれる)

∣xkyk∣XY≦1p⋅∣xk∣pXp+1q⋅∣yk∣qYq\frac{|x_ky_k|}{XY}\leqq\frac1p\cdot\frac{|x_k|^p}{X^p}+\frac1q\cdot\frac{|y_k|^q}{Y^q}

これをk=1, ⋯ , nk=1,\,\cdots,\,nで足すと、∑∣xk∣p=Xp\displaystyle\sum|x_k|^p=X^p、∑∣yk∣q=Yq\displaystyle\sum|y_k|^q=Y^qなので右辺の和は1p+1q=1\dfrac1p+\dfrac1q=1になり、∑∣xkyk∣≦XY\displaystyle\sum|x_ky_k|\leqq XYを得ます。

ミンコフスキーの不等式

p≧1p\geqq1とする。複素数x1, ⋯ , xn, y1, ⋯ , ynx_1,\,\cdots,\,x_n,\ y_1,\,\cdots,\,y_nに対して

(∑k=1n∣xk+yk∣p)1p≦(∑k=1n∣xk∣p)1p+(∑k=1n∣yk∣p)1p\left(\sum_{k=1}^n|x_k+y_k|^p\right)^{\frac1p}\leqq\left(\sum_{k=1}^n|x_k|^p\right)^{\frac1p}+\left(\sum_{k=1}^n|y_k|^p\right)^{\frac1p}

(∑∣xk∣p)1p\left(\sum|x_k|^p\right)^{\frac1p}を「pp乗で測ったベクトル(x1, ⋯ , xn)(x_1,\,\cdots,\,x_n)の長さ」とみると、これは「和の長さは長さの和以下」という三角不等式の形です。実際、p=2p=2で成分が実数なら、平面や空間でのおなじみの三角不等式∣u⃗+v⃗∣≦∣u⃗∣+∣v⃗∣|\vec u+\vec v|\leqq|\vec u|+|\vec v|そのものです。なおp<1p<1では成り立たず、たとえばp=12p=\dfrac12、(x1, x2)=(1, 0)(x_1,\,x_2)=(1,\,0)、(y1, y2)=(0, 1)(y_1,\,y_2)=(0,\,1)で左辺は44、右辺は22になります。

証明(ヘルダーの不等式から)

p=1p=1は各項の三角不等式∣xk+yk∣≦∣xk∣+∣yk∣|x_k+y_k|\leqq|x_k|+|y_k|を足すだけなので、p>1p>1とし、qqを1p+1q=1\dfrac1p+\dfrac1q=1で決めます。S=∑∣xk+yk∣pS=\displaystyle\sum|x_k+y_k|^pとおき、S>0S>0の場合を考えます。∣xk+yk∣p=∣xk+yk∣⋅∣xk+yk∣p−1≦∣xk∣ ∣xk+yk∣p−1+∣yk∣ ∣xk+yk∣p−1|x_k+y_k|^p=|x_k+y_k|\cdot|x_k+y_k|^{p-1}\leqq|x_k|\,|x_k+y_k|^{p-1}+|y_k|\,|x_k+y_k|^{p-1}を足し、右辺の2つの和にそれぞれヘルダーの不等式を使います。(p−1)q=p(p-1)q=pなので∑(∣xk+yk∣p−1)q=S\displaystyle\sum\left(|x_k+y_k|^{p-1}\right)^q=Sとなり、

S≦{(∑∣xk∣p)1p+(∑∣yk∣p)1p}S1qS\leqq\left\{\left(\sum|x_k|^p\right)^{\frac1p}+\left(\sum|y_k|^p\right)^{\frac1p}\right\}S^{\frac1q}

両辺をS1qS^{\frac1q}で割ると、1−1q=1p1-\dfrac1q=\dfrac1pより左辺はS1pS^{\frac1p}になり、示すべき式が出ます。

ヤングの不等式からヘルダー、ヘルダーからミンコフスキーへと、1本の面積の図から順に積み上がっていく関係になっています。大学で関数の大きさを積分で測る場面(関数解析)では、この2つが基本的な道具として使われます。

1 塾の授業で扱った問題は塾の教材なので、数値を変えた類題に差し替えています。

塾の授業で配った補足資料をもとに、問題を類題に差し替えて書き直しました。

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