ex で割ってから微分
目次
- 1. 引き算でなく割り算で比べる
- 差を微分すると何が起きるか
- 比を微分すると何が起きるか
- x<0 ではどうなるか
- 2. マクローリン展開
- Sn はどういう多項式か
- 図で見る:cosx の場合
- よく使う展開
- 3. 分子を組み替えて ∑n!p(n) を求める
- 鍵になる約分
- 係数は小さい n を代入して決める
授業では、ex を多項式で近似した式に e−x を掛けた関数を微分して上下から評価し、n=0∑∞n!11n! は 1 から n までの積で、0!=1 と約束する。=e を導く問題を扱いました2塾の授業で扱った問題は塾の教材なので、数値を変えた類題に差し替えています。。続けて分子を 2+4+⋯+2n=n(n+1)=2n+n(n−1) と組み替え、n=1∑∞n!2+4+⋯+2n=3e も求めました。この補遺では、その中で使った道具を3つ取り出して、それぞれ単独で使える形に整理します。
1. 引き算でなく割り算で比べる
以下、n=0,1,2,… に対して
Sn(x)=1+x+2!x2+⋯+n!xn
とおきます。目標は「x>0 のとき ex>Sn(x)」を示すことです。
差を微分すると何が起きるか
Sn(x) を微分すると、k!xk は (k−1)!xk−1 に変わり、定数項 1 は消えます。各項が1つ手前の項にずれるので、
Sn′(x)=Sn−1(x)
です(S0′(x)=0)。そのため差 ex−Sn(x) を微分すると ex−Sn−1(x) となり、形は同じで添字が1つ減っただけです。符号が分かるのは ex−S0(x)=ex−1 まで下りたときなので、この方針では微分と「x=0 で 0」の確認を n 段くり返すことになり、答案としては数学的帰納法で書くのが筋になります。
比を微分すると何が起きるか
そこで、差ではなく比 exSn(x) を調べます。
gn(x)=e−xSn(x)
とおいて積の微分をすると
gn′(x)=e−x(Sn′(x)−Sn(x))=e−x(Sn−1(x)−Sn(x))=−e−xn!xn
となります。Sn−1 と Sn は最後の項 n!xn しか違わないので、引き算でほとんどが打ち消し合い、単項式が1つだけ残るわけです。
x>0 では gn′(x)<0 です。gn は x≧0 で連続なので x≧0 で狭義単調減少となり、x>0 で
gn(x)<gn(0)=1
が成り立ちます3冒頭の問題で e−x を掛けた関数が 1 より小さいことを示した部分は、この gn(x)<1 にあたります。。両辺に ex (>0) を掛ければ ex>Sn(x) です。
なぜ割ると1回で済むのか
多項式 p(x) に対して (e−xp(x))′=e−x(p′(x)−p(x)) です。ex が微分しても形を変えない関数であるため、ex で割った式の微分には「p′−p」という引き算が現れます。p=Sn のときは、上で見たとおり Sn′ が Sn とほとんど同じ多項式なので、この引き算で式がほぼ消えます。ex と ex の近似式を比べる場面で割り算が都合よいのは、このためです。
e^x の不等式証明
ex と多項式を比べるときは、差をとる前に両辺を ex で割った形を考える。微分が1回で済むことがある
x<0 ではどうなるか
同じ gn′(x)=−e−xn!xn から、x<0 での大小も読み取れます。ここでは xn の符号が n の偶奇で変わる点に注意します。
- n が偶数のとき:xn≧0 なので gn′(x)≦0 で、等号は x=0 だけです。導関数が 0 になるのが1点だけなら、gn は実数全体で狭義単調減少です。したがって x<0 では gn(x)>gn(0)=1、つまり ex<Sn(x) となり、x>0 のときと大小が逆になります。
- n が奇数のとき:x<0 では xn<0 なので gn′(x)>0 で、gn は x≦0 で増加します。よって x<0 でも gn(x)<1、つまり ex>Sn(x) です。
下の図は n=1(黒)と n=2(朱)の y=gn(x) です。どちらも点 (0,1) を通りますが、g1 は x=0 で最大値 1 をとる山形、g2 は減少し続ける曲線で、x=0 で接線が水平になるだけです。たとえば x=−1 では e−1≒0.368 に対して S2(−1)=21 なので、確かに ex<S2(x) になっています。

2. マクローリン展開
Sn はどういう多項式か
Sn(x) の各項の係数は、次の性質から決まっています。
x=0 での値と、1 階から n 階までの微分係数が、すべて ex と一致する n 次多項式
実際、多項式 c0+c1x+⋯+cnxn を k 回微分して x=0 を代入すると、xk の項だけが生き残って k!ck になります。これを ex の k 階微分係数 1 に合わせると ck=k!1 で、Sn の係数がちょうど得られます。
同じことを一般の関数 f(x) で行うと、x=0 で n 階まで f と一致する多項式は
k=0∑nk!f(k)(0)xk
です。次数 n を限りなく大きくしたものを考えるのが、マクローリン展開です。x=0 の代わりに x=α で合わせる場合は xk を (x−α)k に替え、これをテイラー展開と呼びます(マクローリン展開は α=0 のテイラー展開です)。
テイラー展開・マクローリン展開
f(x)=k=0∑∞k!f(k)(α)(x−α)k=f(α)+f′(α)(x−α)+2!f′′(α)(x−α)2+⋯
α=0 の場合をマクローリン展開という。
f(x)=k=0∑∞k!f(k)(0)xk=f(0)+f′(0)x+2!f′′(0)x2+⋯
右辺を (x−α) の1次の項までで打ち切った f(α)+f′(α)(x−α) は、x=α での接線の式そのものです。打ち切る次数を上げるほど、x=α の近くで曲線によりよく沿う多項式が得られます。
とはいえ、枠の等式がいつも正しいとは限りません。等号で結んでよいのは、右辺の級数が収束して、その和が f(x) に一致する範囲に限られます。何回でも微分できるのに、マクローリン展開がもとの関数と一致しない関数もあります4f(x)=e−1/x2 (x=0)、f(0)=0 がその例です。この関数は x=0 での微分係数がどの階でも 0 なので、マクローリン展開の右辺は恒等的に 0 になりますが、f(1)=e1=0 です。。剰余項(打ち切ったときの誤差)を式で表す形は、平均値の定理のまわり で扱っています。
図で見る:cosx の場合
cosx は微分するたびに −sinx, −cosx, sinx, cosx と巡るので、x=0 での微分係数は 1,0,−1,0,1,0,… です。したがってマクローリン展開には偶数次の項だけが並び、符号が交互に変わります。下の図は y=cosx(朱)と、その展開を 2,4,6,8,10 次で打ち切った多項式(黒、数字が次数)です。

どの多項式も x=0 の近くでは cosx に重なり、次数を上げるほど重なる範囲が外へ広がっていきます。一方、どの次数で打ち切っても、∣x∣ が大きい所では多項式は ±∞ に飛んでいきます。cosx の展開がすべての実数 x で成り立つというのは、x を1つ固定して次数を上げていけば値が cosx に近づく、という意味です。
よく使う展開
覚えておきたい展開
ex=1+x+2!x2+3!x3+4!x4+⋯cosx=1−2!x2+4!x4−6!x6+⋯sinx=x−3!x3+5!x5−7!x7+⋯1−x1=1+x+x2+x3+x4+⋯log(1+x)=x−2x2+3x3−4x4+⋯1+x21=1−x2+x4−x6+x8−⋯Arctanx=x−3x3+5x5−7x7+⋯coshx=2ex+e−x=1+2!x2+4!x4+6!x6+⋯sinhx=2ex−e−x=x+3!x3+5!x5+7!x7+⋯
Arctanx は tanx (−2π<x<2π) の逆関数を表します。等号で結べる x の範囲は式ごとに違います。x にどんな実数を入れてもよいのは ex、cosx、sinx、coshx、sinhx の5つです。残りは範囲が限られ、1−x1 と 1+x21 は −1<x<1、log(1+x) は −1<x≦1、Arctanx は −1≦x≦1 のときに限ります。たとえば 1−x1 の式に x=2 を入れると、左辺は −1 なのに右辺の和は限りなく大きくなります。
授業で扱った問題との関係も、この一覧から読み取れます。x>0 での不等式 x>log(1+x)>x−2x2 は、log(1+x) の展開を1次で打ち切った式と2次で打ち切った式で、log(1+x) を上下から挟んだものです。また n=0∑∞n!1=e は、ex の展開に x=1 を代入した式にあたります。§1 の結果 Sn(1)<e は、その部分和がつねに e より小さいことを言っています。
3. 分子を組み替えて ∑n!p(n) を求める
鍵になる約分
k を正の整数とし、n から始めて 1 ずつ減らしながら k 個掛けた積 n(n−1)⋯(n−k+1) を考えます。n≧k なら
n!n(n−1)⋯(n−k+1)=(n−k)!1
と約分できます。0≦n<k のときは積の中に 0 が入るので、この項は 0 です。したがって N≧k として
n=0∑Nn!n(n−1)⋯(n−k+1)=n=k∑N(n−k)!1=m=0∑N−km!1 N→∞ e
となります(m=n−k と置き直しました)。k=0 の「積」は 1 と約束すれば、n=0∑∞n!1=e もこの形に含まれます。
ここから次のことが分かります。分子の多項式 p(n) を
p(n)=c0+c1n+c2n(n−1)+c3n(n−1)(n−2)+⋯
の形に書き直せれば、和は有限個の「e に収束する和」の定数倍の和になり、
n=0∑∞n!p(n)=(c0+c1+c2+⋯)e
です。冒頭の和で分子が 2+4+⋯+2n だったことには特別な意味はなく、効率よく答えにたどり着けたのは、n(n+1)=2n+n(n−1) と組み替えたことによります。係数の和 2+1 から 3e が出ます(n=0 の項は 0 なので、和を n=1 から始めても値は同じです)。
係数は小さい n を代入して決める
係数 c0,c1,… を求めるには、n=0,1,2,… を順に代入するのが手早い方法です。n=j を代入すると、cj+1 以降の項は積に 0 を含んで消えるので、未知数が1つずつ増える連立方程式を上から順に解けば済みます。
例として n3 を書き直してみます。
n3=c0+c1n+c2n(n−1)+c3n(n−1)(n−2)
とおいて n=0,1,2,3 を代入すると、
n=0n=1n=2n=3: 0=c0: 1=c0+c1 より c1=1: 8=c0+2c1+2c2 より c2=3: 27=c0+3c1+6c2+6c3 より c3=1
と、上から順に決まります。
両辺はどちらも n の3次以下の多項式で、n=0,1,2,3 の4つの値で一致しています。3次以下の多項式は4点の値で決まるので、両辺は多項式として等しく、
n3=n(n−1)(n−2)+3n(n−1)+n
が成り立ちます。係数の和は 1+3+1=5 なので
n=1∑∞n!n3=5e
です。
練習
次の和を求めてみましょう。
⑴ n=1∑∞n!n2 ⑵ n=0∑∞n!n2+3n+2 ⑶ n=1∑∞n!n4
答え合わせ用(自分で求めてから開く)
⑴ n2=n(n−1)+n より 2e。
⑵ n2+3n+2=n(n−1)+4n+2 より (1+4+2)e=7e。
⑶ n4=n(n−1)(n−2)(n−3)+6n(n−1)(n−2)+7n(n−1)+n より (1+6+7+1)e=15e。
同じ方法で n=1∑∞n!n5=52e も出ます5n=1∑∞n!nk を e で割った値は k=1,2,3,4,5 で 1,2,5,15,52 となります。この数の並びはベル数と呼ばれ、k 個のものをいくつかの組に分ける方法の総数に一致します。。
1 n! は 1 から n までの積で、0!=1 と約束する。
2 塾の授業で扱った問題は塾の教材なので、数値を変えた類題に差し替えています。
3 冒頭の問題で e−x を掛けた関数が 1 より小さいことを示した部分は、この gn(x)<1 にあたります。
4 f(x)=e−1/x2 (x=0)、f(0)=0 がその例です。この関数は x=0 での微分係数がどの階でも 0 なので、マクローリン展開の右辺は恒等的に 0 になりますが、f(1)=e1=0 です。
5 n=1∑∞n!nk を e で割った値は k=1,2,3,4,5 で 1,2,5,15,52 となります。この数の並びはベル数と呼ばれ、k 個のものをいくつかの組に分ける方法の総数に一致します。
塾の授業で配った補足資料をもとに、問題を類題に差し替えて書き直しました。
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