場の量子論入門 第4部 第3章 §4.3.1 ★★★ 準備:正準運動量とハミルトニアン、そして展開係数
『量子力学入門』第9部では、同種粒子の状態ベクトルをフェルミオンなら反対称・ボソンなら対称にする、という要請を置いた。なぜそうなるのかは非相対論の量子力学の枠内では答えられず、実験に合わせた仮定だった。場の理論ではこれが定理になる。本章はその証明の骨格を、Dirac 場について具体的に辿る。
Lagrangian 密度(4.1.6)から、ψ に共役な運動量は
π=∂ψ˙∂L=iψ†
である。L が ψ˙ について1次であることに注意したい。スカラー場では L が ϕ˙2 を含み π=ϕ˙ となったが、Dirac 場では π が ψ 自身(の共役)に比例してしまう。この構造の違いが、のちに交換関係と反交換関係を分ける根になる。
ハミルトニアン密度は H=πψ˙−L から
H=iψ†ψ˙−ψˉ(iγ0∂0+iγi∂i−m)ψ=ψˉ(−iγi∂i+m)ψ=ψ†(−iα⋅∇+βm)ψ
となる。1粒子の Dirac ハミルトニアンと同じ形の演算子が、場の期待値として挟まれた形である。ここで重要なのは、H が ψ について1次と1次の積であって2乗の和ではないことである。スカラー場の H=21(ϕ˙2+(∇ϕ)2+m2ϕ2) は形からして正定値だったが、Dirac 場の H にはそのような明白な正定値性がない。正定値性は量子化の仕方(交換か反交換か)を選んで初めて出てくる。
自由場の一般解を平面波で展開する。第2章の u,v を使い、第2部と同じ相対論的規格化で
ψ(x)ψˉ(x)=∫(2π)3d3p2Ep1s∑(bpsu(p,s)e−ip⋅x+cps†v(p,s)e+ip⋅x),=∫(2π)3d3p2Ep1s∑(bps†uˉ(p,s)e+ip⋅x+cpsvˉ(p,s)e−ip⋅x)(4.3.3)
と書く。b は粒子(電子)の消滅演算子、c† は反粒子(陽電子)の生成演算子と読む予定である。複素スカラー場(第2部 第5章)で a と b† を分けたのと同じ構造で、場が複素(Hermite でない)なので粒子と反粒子が別物になる。
この展開をハミルトニアンに代入し、スピノルの直交関係を使って整理すると
H=∫(2π)3d3pEps∑(bps†bps−cpscps†)(4.3.5)
が得られる。ここまでは演算子の順序を一切動かしていないので、交換関係を課すか反交換関係を課すかに依らない共通の出発点である。注目すべきは第2項の符号と演算子の順序で、c が c† の左に来た −cc† の形になっている。次節以降で分かるように、この1つの符号が統計を決める。
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