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曲線の速度としての接ベクトル

2026年10月22日14分で読めますAI生成教科書『基礎理論』第2章 接ベクトルとベクトル場
目次
  1. 差の取れない空間で速度を定める
  2. 方向微分としての接ベクトル
  3. 2つの定義の一致
  4. 確認テスト
  5. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

物理のための微分幾何入門 第2章 §2.1 ★★★ 接ベクトルの2つの定義(曲線の速度と方向微分)が同じものを指すことを示す

第1章では、多様体を座標近傍の張り合わせとして定め、同じ点を別のチャートで指せることを確かめた。この章では、多様体の各点に向きと大きさを持つ対象、すなわち接ベクトルを定める。接ベクトルは曲線の速度であり、同時に関数を微分する操作でもある。この2つの見方が一致することが、章の最初の結果になる。

次に、座標から決まる接ベクトル ∂/∂qi\partial/\partial q^i を調べる。この記号は「qiq^i だけを動かし、残りの座標を止める」方向を表す。止める座標を取り替えると、同じ座標についての偏微分でも向きが変わる。加速する座標での時間の偏微分や、熱力学の (∂U/∂V)S(\partial U/\partial V)_S と (∂U/∂V)T(\partial U/\partial V)_T の違いは、この1つの事実から説明できる。

後半ではベクトル場とその積分曲線(流れ)を扱い、最後に写像による接ベクトルの押し出し f∗f_* を定める。第3章の1形式は接ベクトルの双対として定まり、第5章の計量は2つの接ベクトルの内積として定まる。第13章の Lie 微分と第14章の Hamilton ベクトル場も、この章のベクトル場と流れを使って組み立てる。

この章の約束

  • 多様体は MM、その次元は nn と書く。座標は上付きの添字で q1,…,qnq^1,\dots,q^n と書き、組をまとめて qq と書く。
  • 和は ∑\sum を省かずに書く。添字の上下の意味(上付きはベクトルの成分、下付きは1形式の成分)は第3章で確かめる。
  • 「滑らか」は何回でも微分できることを指す。多様体の上の滑らかな実数値関数の全体を C∞(M)C^\infty(M) と書く。

差の取れない空間で速度を定める

平面や空間の中を動く点なら、速度は位置ベクトルの差を時間で割った極限として定まる。多様体ではこの定義が使えない。球面上の2点を結ぶ矢印は球面からはみ出すし、振り子の角度 θ\theta と θ+2π\theta+2\pi は同じ配置を指す。多様体の2点の差という量は、そもそも定まっていない。

そこで、差を使わない2つの方法を用意する。1つ目は、点を通る曲線を座標で書き、その座標の微分を速度とみなす方法である。2つ目は、点の上の関数がその曲線に沿ってどれだけの割合で変わるかを速度とみなす方法である。どちらも座標や関数を経由するので、点どうしの差を必要としない。

定義 2.1(点を通る曲線と速度の同値)

点 p∈Mp\in M を通る滑らかな曲線とは、次の性質を持つ写像 γ\gamma をいう。すなわち、00 を含む開区間から多様体への滑らかな写像で、γ(0)=p\gamma(0)=p を満たすものである。この点を含むチャートの座標を qiq^i とする。曲線の座標表示を qi(t)=qi(γ(t))q^i(t)=q^i(\gamma(t)) と書く。この点を通る2本の曲線 γ1,γ2\gamma_1,\gamma_2 が

ddtqi(γ1(t))∣t=0=ddtqi(γ2(t))∣t=0(i=1,…,n)(2.1)\frac{d }{d t}q^i(\gamma_1(t))\Big|_{t=0}=\frac{d }{d t}q^i(\gamma_2(t))\Big|_{t=0}\qquad(i=1,\dots,n)\tag{2.1}

を満たすとき、2本は同じ速度を持つといい、γ1∼γ2\gamma_1\sim\gamma_2 と書く。この同値類 [γ][\gamma] を、曲線の速度としての接ベクトルと呼ぶ。

この定義は、チャートの選び方に依らない。別のチャートの座標を q′jq'^j とすると、これは元の座標の滑らかな関数である。連鎖律から

ddtq′j(γ(t))∣t=0=∑i=1n∂q′j∂qi(p) ddtqi(γ(t))∣t=0\frac{d }{d t}q'^j(\gamma(t))\Big|_{t=0}=\sum_{i=1}^n\frac{\partial q'^j}{\partial q^i}(p)\,\frac{d }{d t}q^i(\gamma(t))\Big|_{t=0}

が成り立つ。右辺は元の座標での速度の成分だけで決まる。したがって、元の座標で速度が一致する2本は、新しい座標でも一致する。

図

図 2.1 点 pp を通る3本の曲線。γ1\gamma_1 と γ2\gamma_2 は pp で接していて同じ速度 vv を持つので、同じ接ベクトルを定める。γ3\gamma_3 は向きの違う接ベクトルを定める。

方向微分としての接ベクトル

2つ目の方法では、接ベクトルを「関数を受け取って数を返す操作」として定める。平面の方向微分 v⋅∇f\bm{v}\cdot\nabla f は、関数について線形で、積の微分の規則を満たす。この2つの性質だけを取り出して定義にする。

定義 2.2(点での微分)

写像 v:C∞(M)→Rv:C^\infty(M)\to\mathbb{R} が次の2条件を満たすとき、これを点 pp での微分(導分)と呼ぶ。

v(af+bg)=a v(f)+b v(g),v(fg)=f(p) v(g)+g(p) v(f).(2.2)v(af+bg)=a\,v(f)+b\,v(g),\qquad v(fg)=f(p)\,v(g)+g(p)\,v(f).\tag{2.2}

ここで f,gf,g は任意の滑らかな関数、a,ba,b は任意の実数である。2つ目の式を Leibniz 則と呼ぶ。同じ点での微分の全体は、和と実数倍について実ベクトル空間になる。

曲線 γ\gamma からは、その点での微分が1つ作れる。

vγ(f)=ddtf(γ(t))∣t=0.(2.3)v_\gamma(f)=\frac{d }{d t}f(\gamma(t))\Big|_{t=0}.\tag{2.3}

1変数の微分の線形性と積の微分の公式から、この vγv_\gamma は (2.2) を満たす。座標で書くと、連鎖律から

vγ(f)=∑i=1n∂f∂qi(p) q˙i(0),q˙i(0)=ddtqi(γ(t))∣t=0(2.4)v_\gamma(f)=\sum_{i=1}^n\frac{\partial f}{\partial q^i}(p)\,\dot q^i(0),\qquad \dot q^i(0)=\frac{d }{d t}q^i(\gamma(t))\Big|_{t=0}\tag{2.4}

となる。ここで ∂f/∂qi\partial f/\partial q^i は、関数を座標の関数とみたときの偏微分である。

(2.4) の右辺は速度の成分 q˙i(0)\dot q^i(0) だけで決まる。したがって、同値な2本の曲線は同じ微分を与える。特に、座標の方向の微分

∂∂qi∣p: f↦∂f∂qi(p)\frac{\partial }{\partial q^i}\Big|_p:\ f\mapsto\frac{\partial f}{\partial q^i}(p)

は、qiq^i だけを単位の速さで増やす曲線の微分である。

2つの定義の一致

微分が局所的な操作であることを先に確かめる。

補題 2.3(微分は局所的)

点 pp での微分を vv とする。定数関数 cc については v(c)=0v(c)=0 である。また、この点のある近傍で2つの関数が一致するなら、その微分の値も一致する。

証明

Leibniz 則に f=g=1f=g=1 を入れると、次の式になる。

v(1)=1⋅v(1)+1⋅v(1)=2v(1).v(1)=1\cdot v(1)+1\cdot v(1)=2v(1).

よって v(1)=0v(1)=0 で、線形性から v(c)=c v(1)=0v(c)=c\,v(1)=0 となる。

次に、差 h=f−gh=f-g がこの点のある近傍 WW で消えるとする。滑らかな関数(隆起関数)ϕ\phi で、この点で値 11 をとり、台がこの近傍に含まれるものをとる。すると積 ϕh\phi h は多様体の全体で 00 になる。Leibniz 則と h(p)=0h(p)=0 から

0=v(ϕh)=ϕ(p) v(h)+h(p) v(ϕ)=v(h)0=v(\phi h)=\phi(p)\,v(h)+h(p)\,v(\phi)=v(h)

となる。線形性から v(f)=v(g)v(f)=v(g) が従う。

補題 2.4(Hadamard の補題)

座標で点 pp を q=aq=a と書く。この点を中心とする座標の球 BB の上で、関数 ff が滑らかとする。このとき球の上の滑らかな関数 gig_i があって、次の式が成り立つ。

f(q)=f(a)+∑i=1n(qi−ai) gi(q),gi(a)=∂f∂qi(a).(2.5)f(q)=f(a)+\sum_{i=1}^n(q^i-a^i)\,g_i(q),\qquad g_i(a)=\frac{\partial f}{\partial q^i}(a).\tag{2.5}

証明

球の点 qq を固定する。線分 a+s(q−a)a+s(q-a)(0≤s≤10\le s\le1)は球に含まれる。微分積分学の基本定理と連鎖律から

f(q)−f(a)=∫01ddsf(a+s(q−a)) ds=∑i=1n(qi−ai)∫01∂f∂qi(a+s(q−a)) dsf(q)-f(a)=\int_0^1\frac{d }{d s}f\bigl(a+s(q-a)\bigr)\,\mathrm{d} s=\sum_{i=1}^n(q^i-a^i)\int_0^1\frac{\partial f}{\partial q^i}\bigl(a+s(q-a)\bigr)\,\mathrm{d} s

となる。最後の積分を gi(q)g_i(q) と置けばよい。被積分関数は座標について滑らかなので、積分記号の下で微分して gig_i も滑らかである。中心 q=aq=a を入れると、被積分関数は積分変数に依らない定数 ∂f/∂qi(a)\partial f/\partial q^i(a) になる。

定理 2.5(接ベクトルの2つの定義の一致)

点 pp を通る曲線の同値類に、微分 vγv_\gamma を対応させる写像を考える。この写像は、同値類の全体からこの点での微分の全体への全単射である。さらに、この点での微分 vv はすべて

v=∑i=1nv(qi) ∂∂qi∣p(2.6)v=\sum_{i=1}^n v(q^i)\,\frac{\partial }{\partial q^i}\Big|_p\tag{2.6}

とただ1通りに書ける。座標の方向の微分(i=1,…,ni=1,\dots,n)は微分の空間の基底をなし、この空間は nn 次元である。

証明

単射であること。微分 vγv_\gamma を座標関数 qjq^j に作用させる。(2.4) で ∂qj/∂qi=δij\partial q^j/\partial q^i=\delta^j_i だから、次の式を得る。

vγ(qj)=q˙j(0).v_\gamma(q^j)=\dot q^j(0).

したがって、2本の曲線の微分が一致すれば速度の成分が一致し、2本は同値である。座標関数は点の近くでしか定義されない。補題 2.3 により、隆起関数を掛けて多様体の全体へ延ばしたものを使えばよい。

展開 (2.6)。点 pp での微分を vv とし、関数を任意に1つとる。補題 2.3 により、関数を点の近くの式 (2.5) に置き換えて微分を作用させてよい。線形性と Leibniz 則から

v(f)=v(f(a))+∑i=1n[(ai−ai) v(gi)+gi(a) v(qi−ai)]=∑i=1n∂f∂qi(p) v(qi)v(f)=v\bigl(f(a)\bigr)+\sum_{i=1}^n\Bigl[(a^i-a^i)\,v(g_i)+g_i(a)\,v(q^i-a^i)\Bigr]=\sum_{i=1}^n\frac{\partial f}{\partial q^i}(p)\,v(q^i)

となる。定数の微分が 00 であることを2か所で使った。これが (2.6) である。

全射であること。与えられた微分 vv に対して、座標で次のように書ける曲線をとる。

qi(t)=ai+t v(qi).q^i(t)=a^i+t\,v(q^i).

(2.4) から、この曲線の微分は ∑i∂if(p) v(qi)\sum_i\partial_i f(p)\,v(q^i) である。これは展開 (2.6) により v(f)v(f) に等しい。

基底であること。(2.6) は、座標の方向の微分が空間を張ることを示す。係数 cic^i の一次結合が 00 になるとする。これを座標関数 qjq^j に作用させると cj=0c^j=0 を得るので、一次独立でもある。

定義 2.6(接空間)

定理 2.5 で同一視した空間を点 pp での接空間と呼び、TpMT_pM と書く。

その元を、この点での接ベクトルと呼ぶ。基底 ∂/∂qi∣p\partial/\partial q^i|_p を座標基底と呼ぶ。接ベクトルを座標基底で展開したときの係数 vi=v(qi)v^i=v(q^i) を成分と呼ぶ。偏微分の記号を短く ∂i\partial_i とも書く。

多様体が Rn\mathbb{R}^n で、座標が直交座標 xix^i のときを考える。このとき ∂/∂xi\partial/\partial x^i は、番号 ii の単位ベクトルに当たる。接空間は「その点を始点とする矢印の空間」と同じものになり、方向微分は v⋅∇f\bm{v}\cdot\nabla f に戻る。

振り子の配位空間

平面振り子の配置は角度 θ\theta で決まり、配位空間は円周 S1S^1 である(第1章 §1.3)。振り子の運動 θ(t)\theta(t) は円周の上の曲線である。その接ベクトルは θ˙ ∂θ\dot\theta\,\partial_\theta である。角度に 2π2\pi を足しても微分 θ˙\dot\theta は変わらないので、点の差を使わずに角速度が定まる。

例題 2.1 等速円運動の接ベクトル ★★

オリジナル平面上の曲線 γ(t)=(Rcos⁡ωt, Rsin⁡ωt)\gamma(t)=(R\cos\omega t,\ R\sin\omega t) を考える。半径 R>0R>0 と角速度 ω\omega は定数とする。

  1. 時刻 tt での接ベクトルを、直交座標の座標基底で書け。
  2. 関数 f=x2+y2f=x^2+y^2 と g=xyg=xy に、その接ベクトルを作用させよ。
  3. 関数 ff への作用が 00 になる理由を、曲線の形から説明せよ。
解答
  1. 成分は座標関数の時間微分である。2つの成分 x˙=−Rωsin⁡ωt\dot x=-R\omega\sin\omega t と y˙=Rωcos⁡ωt\dot y=R\omega\cos\omega t から

v=−Rωsin⁡ωt ∂∂x+Rωcos⁡ωt ∂∂y.v=-R\omega\sin\omega t\,\frac{\partial }{\partial x}+R\omega\cos\omega t\,\frac{\partial }{\partial y}. 2. 展開 (2.6) を使う。関数 ff については

v(f)=2x x˙+2y y˙=2R2ω(−cos⁡ωtsin⁡ωt+sin⁡ωtcos⁡ωt)=0.v(f)=2x\,\dot x+2y\,\dot y=2R^2\omega\bigl(-\cos\omega t\sin\omega t+\sin\omega t\cos\omega t\bigr)=0.

関数 gg については

v(g)=y x˙+x y˙=R2ω(cos⁡2ωt−sin⁡2ωt)=R2ωcos⁡2ωt.v(g)=y\,\dot x+x\,\dot y=R^2\omega\bigl(\cos^2\omega t-\sin^2\omega t\bigr)=R^2\omega\cos2\omega t. 3. 曲線は半径 RR の円の上にある。したがって合成 f(γ(t))=R2f(\gamma(t))=R^2 は時刻に依らない。定義 (2.3) から、その微分は 00 である。

確認テスト

オリジナル

  1. 2.1-1 平面の2本の曲線 γ1(t)=(t, t2)\gamma_1(t)=(t,\ t^2) と γ2(t)=(sin⁡t, 1−cos⁡t)\gamma_2(t)=(\sin t,\ 1-\cos t) は原点を通る。原点で同じ接ベクトルを定めることを確かめよ。
  2. 2.1-2 関数 f=x2y+y3f=x^2y+y^3 と曲線 γ(t)=(1+t, 1+2t)\gamma(t)=(1+t,\ 1+2t) を考える。微分 vγ(f)v_\gamma(f) を2通りに計算せよ。1つは合成を直接微分する方法、もう1つは展開 (2.6) を使う方法である。
  3. 2.1-3 単位円 x2+y2=1x^2+y^2=1 の上半分では、角度 θ\theta も横の座標もチャートになる。曲線 γ(t)=(cos⁡(π/2+ωt), sin⁡(π/2+ωt))\gamma(t)=(\cos(\pi/2+\omega t),\ \sin(\pi/2+\omega t)) を考える。この曲線が点 (0,1)(0,1) で定める接ベクトルを、それぞれの座標基底で書け。
  4. 2.1-4 点 pp での微分を vv とする。2つの関数がともにこの点で 00 になるなら、積の微分が 00 であることを示せ。これを使って、点で2次の零点を持つ関数の微分が 00 であることを示せ。ここで2次の零点を持つとは、次の形に書けることをいう。

f=∑i,j(qi−ai)(qj−aj) hij.f=\sum_{i,j}(q^i-a^i)(q^j-a^j)\,h_{ij}.

木下の勉強ステータス

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