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座標基底と変換則

2026年10月22日23分で読めますAI生成教科書『基礎理論』第2章 接ベクトルとベクトル場
目次
  1. 座標基底と成分の変換則
  2. 偏微分は相方の座標で変わる
  3. 加速する座標と時間の偏微分
  4. 熱力学の添字 と
  5. 「陽に依存する」は関数と座標の組の性質
  6. 確認テスト
  7. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

物理のための微分幾何入門 第2章 §2.2 ★★★ 偏微分 ∂/∂q\partial/\partial q は、その座標1つでなく座標の組全体で決まることを示す

座標基底と成分の変換則

同じ点の近くに2つのチャートがあり、座標を qiq^i と q′jq'^j とする。接ベクトルは座標に依らない対象なので、それぞれの座標基底での展開が2通りある。その2つの展開の関係が変換則である。

定理 2.7(座標基底と成分の変換則)

2つのチャートの座標 qiq^i と q′jq'^j が、共通の点を含むとする。その点を pp と書く。このとき次の式が成り立つ。

∂∂q′j∣p=∑i=1n∂qi∂q′j(p) ∂∂qi∣p.(2.7)\frac{\partial }{\partial q'^j}\Big|_p=\sum_{i=1}^n\frac{\partial q^i}{\partial q'^j}(p)\,\frac{\partial }{\partial q^i}\Big|_p.\tag{2.7}

接ベクトルの成分は次のように変わる。

v′j=∑i=1n∂q′j∂qi(p) vi.(2.8)v'^j=\sum_{i=1}^n\frac{\partial q'^j}{\partial q^i}(p)\,v^i.\tag{2.8}

2つの式に現れる行列 ∂qi/∂q′j\partial q^i/\partial q'^j と ∂q′j/∂qi\partial q'^j/\partial q^i は、互いの逆行列である。

証明

任意の関数 ff に左辺を作用させる。古い座標を新しい座標の関数とみて連鎖律を使うと

∂f∂q′j=∑i=1n∂f∂qi∂qi∂q′j\frac{\partial f}{\partial q'^j}=\sum_{i=1}^n\frac{\partial f}{\partial q^i}\frac{\partial q^i}{\partial q'^j}

となる。これは (2.7) の右辺を同じ関数に作用させたものと等しい。

成分は v′j=v(q′j)v'^j=v(q'^j) である。展開 (2.6) を新しい座標関数に使うと、v(q′j)=∑ivi ∂q′j/∂qiv(q'^j)=\sum_i v^i\,\partial q'^j/\partial q^i となる。これが (2.8) である。

最後に、恒等写像 q↦q′↦qq\mapsto q'\mapsto q に連鎖律を使うと

∑j=1n∂qi∂q′j∂q′j∂qk=∂qi∂qk=δki\sum_{j=1}^n\frac{\partial q^i}{\partial q'^j}\frac{\partial q'^j}{\partial q^k}=\frac{\partial q^i}{\partial q^k}=\delta^i_k

となるので、2つの行列は互いの逆である。

基底は行列 ∂q/∂q′\partial q/\partial q' で変わり、成分はその逆行列 ∂q′/∂q\partial q'/\partial q で変わる。この2つの変化が打ち消し合うので、接ベクトルそのものは変わらない。

∑jv′j∂∂q′j=∑j,i,k∂q′j∂qkvk ∂qi∂q′j∂∂qi=∑i,kδki vk∂∂qi=∑ivi∂∂qi.\sum_{j}v'^j\frac{\partial }{\partial q'^j}=\sum_{j,i,k}\frac{\partial q'^j}{\partial q^k}v^k\,\frac{\partial q^i}{\partial q'^j}\frac{\partial }{\partial q^i}=\sum_{i,k}\delta^i_k\,v^k\frac{\partial }{\partial q^i}=\sum_i v^i\frac{\partial }{\partial q^i}.

成分の変換則 (2.8) に従う量を、反変ベクトルと呼ぶことがある。成分を上付きの添字で書くのは、この変わり方を記号で区別するためである。

極座標の座標基底

平面の直交座標 (x,y)(x,y) と極座標 (r,θ)(r,\theta) は、次の式で結ばれる。

x=rcos⁡θ,y=rsin⁡θ.x=r\cos\theta,\qquad y=r\sin\theta.

(2.7) から

∂∂r=cos⁡θ ∂∂x+sin⁡θ ∂∂y,∂∂θ=−rsin⁡θ ∂∂x+rcos⁡θ ∂∂y.\frac{\partial }{\partial r}=\cos\theta\,\frac{\partial }{\partial x}+\sin\theta\,\frac{\partial }{\partial y},\qquad \frac{\partial }{\partial \theta}=-r\sin\theta\,\frac{\partial }{\partial x}+r\cos\theta\,\frac{\partial }{\partial y}.

後者の大きさは 11 でなく rr である。座標基底は正規直交とは限らない(大きさを測るには計量が要り、第5章で扱う)。

偏微分は相方の座標で変わる

変換則 (2.7) から、偏微分の記号についての大事な事実が読み取れる。記号 ∂/∂q1\partial/\partial q^1 は「その座標を増やす向き」と読みたくなるが、その読み方は正確でない。正確には「残りの座標 q2,…,qnq^2,\dots,q^n をすべて止めたまま、この座標を単位の速さで増やす曲線の速度」である。どの座標を止めるかを変えれば、曲線も速度も変わる。

命題 2.8(相方を取り替えたときの偏微分)

2つのチャートの座標を (q1,q2,…,qn)(q^1,q^2,\dots,q^n) と (q1,q′2,…,q′n)(q^1,q'^2,\dots,q'^n) とする。2つは最初の座標を共有している。後者のチャートでの最初の座標についての偏微分を ∂/∂q1∣q′\partial/\partial q^1|_{q'} と書くと、次の式が成り立つ。

∂∂q1∣q′=∂∂q1∣q+∑k=2n(∂qk∂q1)q′∂∂qk∣q.(2.9)\frac{\partial }{\partial q^1}\Big|_{q'}=\frac{\partial }{\partial q^1}\Big|_{q}+\sum_{k=2}^n\left(\frac{\partial q^k}{\partial q^1}\right)_{q'}\frac{\partial }{\partial q^k}\Big|_{q}.\tag{2.9}

係数 (∂qk/∂q1)q′(\partial q^k/\partial q^1)_{q'} は、新しい相方を止めて最初の座標を動かしたときの、古い座標 qkq^k の変化率である。

証明

変換則 (2.7) で、新しいチャートの1番目の座標を q′1=q1q'^1=q^1 とすればよい。右辺の係数のうち、最初の座標の項は ∂q1/∂q′1=1\partial q^1/\partial q'^1=1 である。番号 k≥2k\ge2 の項の係数は、新しいチャートの偏微分 ∂qk/∂q′1\partial q^k/\partial q'^1 である。これは新しい相方を止めて最初の座標を動かしたときの、古い座標の変化率にほかならない。

(2.9) の右辺の第2項が、偏微分の向きのずれを表す。新しい相方を止めて最初の座標を動かすと、古い相方 qkq^k が一緒に動いてしまう。その動いた分だけ、向きが ∂/∂qk\partial/\partial q^k の方へ傾く。第3章で扱う微分 dq1\mathrm{d} q^1 は関数1つで決まるが、偏微分 ∂/∂q1\partial/\partial q^1 は座標の組全体で決まる。

図

図 2.2 子午面(xx と zz の平面、x>0x>0)の点 pp(r=2.5r=2.5、θ=50∘\theta=50^\circ)で、同じ rr についての偏微分を2つのチャートでとった図。(r,θ)(r,\theta) では θ\theta を止めるので ∂r\partial_r は動径の向き(大きさ1)。(r,z)(r,z) では zz を止めるので ∂r\partial_r は水平で、大きさは 1/sin⁡θ≈1.311/\sin\theta\approx1.31 になる。

動径の偏微分を2つのチャートでとる

子午面(x>0x>0 の半平面)に、極座標を次の式で入れる。

x=rsin⁡θ,z=rcos⁡θ.x=r\sin\theta,\qquad z=r\cos\theta.

もう1つのチャートとして、同じ動径と高さの組 (r,z)(r,z) をとる(x=r2−z2x=\sqrt{r^2-z^2})。高さを止めて動径を動かすと、積 rcos⁡θr\cos\theta が一定に保たれる。その微分 cos⁡θ dr−rsin⁡θ dθ=0\cos\theta\,\mathrm{d} r-r\sin\theta\,\mathrm{d}\theta=0 から

(∂θ∂r)z=cos⁡θrsin⁡θ.\left(\frac{\partial \theta}{\partial r}\right)_z=\frac{\cos\theta}{r\sin\theta}.

命題 2.8 から、次の式を得る。

∂∂r∣z=∂∂r∣θ+cos⁡θrsin⁡θ∂∂θ∣r.\frac{\partial }{\partial r}\Big|_z=\frac{\partial }{\partial r}\Big|_\theta+\frac{\cos\theta}{r\sin\theta}\frac{\partial }{\partial \theta}\Big|_r.

横の座標 xx に作用させると、2つの偏微分の値は異なる。角度を止めた方は (∂x/∂r)θ=sin⁡θ(\partial x/\partial r)_\theta=\sin\theta を与える。高さを止めた方は次の値を与える。

(∂x∂r)z=sin⁡θ+cos⁡θrsin⁡θ rcos⁡θ=1sin⁡θ=rr2−z2.\left(\frac{\partial x}{\partial r}\right)_z=\sin\theta+\frac{\cos\theta}{r\sin\theta}\,r\cos\theta=\frac{1}{\sin\theta}=\frac{r}{\sqrt{r^2-z^2}}.

同じ関数を同じ動径で偏微分しても、相方が角度か高さかで答えが変わる(図 2.2)。

加速する座標と時間の偏微分

時間を含む問題では、時刻も座標の1つとして扱う。直線上を動く粒子の位置と時刻の組は、平面 R2\mathbb{R}^2 の点(事象)を指す。この平面に、慣性系のチャート (x,t)(x,t) を入れる。さらに、加速度 aa で動く系のチャート (q,s)(q,s) を次の式で入れる。

x=q+12as2,t=s.(2.10)x=q+\tfrac12 a s^2,\qquad t=s.\tag{2.10}

時刻の座標 ss と tt は同じ関数である。それでも、2つのチャートの時間の偏微分は別のベクトルになる。変換則 (2.7) の係数は、次の4つである。

∂x∂q=1,∂t∂q=0,∂x∂s=as,∂t∂s=1.\frac{\partial x}{\partial q}=1,\qquad \frac{\partial t}{\partial q}=0,\qquad \frac{\partial x}{\partial s}=as,\qquad \frac{\partial t}{\partial s}=1.

したがって

∂∂q∣s=∂∂x∣t,∂∂s∣q=∂∂t∣x+as ∂∂x∣t(2.11)\frac{\partial }{\partial q}\Big|_s=\frac{\partial }{\partial x}\Big|_t,\qquad \frac{\partial }{\partial s}\Big|_q=\frac{\partial }{\partial t}\Big|_x+a s\,\frac{\partial }{\partial x}\Big|_t\tag{2.11}

となる。

慣性系の時間の偏微分 ∂/∂t∣x\partial/\partial t|_x は「位置を止めて時刻を進める」向きで、図 2.3 の縦の矢印である。加速する系の時間の偏微分 ∂/∂s∣q\partial/\partial s|_q は「加速する系で見た位置を止めて時刻を進める」向きである。この向きは放物線 q=一定q=\text{一定} に接する。2つは同じ時刻を同じ速さで進めるが、空間の向きの成分が asas だけ違う。

図

図 2.3 加速する座標 (2.10)(a=1a=1)。青い放物線は q=一定q=\text{一定} の線。点 PP(q=1q=1、s=1.2s=1.2)で、xx を止める時間の偏微分 ∂t∣x\partial_t|_x は縦の向き、qq を止める時間の偏微分 ∂s∣q\partial_s|_q は放物線に接する向き (as,1)=(1.2,1)(as,1)=(1.2,1) になる。灰の水平の矢印は ∂x=∂q\partial_x=\partial_q。

位置の関数 f=xf=x で違いを確かめる。慣性系のチャートでは、この関数は時刻を含まない。したがって (∂f/∂t)x=0(\partial f/\partial t)_x=0 である。加速する系のチャートでは f=q+12as2f=q+\tfrac12as^2 なので、(∂f/∂s)q=as(\partial f/\partial s)_q=as となる。

同じ関数が、片方のチャートでは時刻に陽に依存せず、もう片方では陽に依存する。(2.11) をこの関数に作用させても、同じ値 0+as⋅1=as0+as\cdot1=as が出る。

例題 2.2 加速する座標での自由粒子のラグランジアン ★★★

オリジナル質量 mm の自由粒子のラグランジアンは、慣性系のチャートで L=12mx˙2L=\frac12m\dot x^2 である。加速する座標 (2.10) に移ると、速度は x˙=q˙+as\dot x=\dot q+as になる。したがって同じ関数は

L′(q,q˙,s)=12m(q˙+as)2L'(q,\dot q,s)=\tfrac12m(\dot q+as)^2

と書ける(ドットは時刻での微分)。

  1. 慣性系のラグランジアンは時刻に陽に依存しないが、新しい表示 L′L' は陽に依存することを確かめよ。
  2. 新しい表示から運動方程式を求め、慣性系の解 x=x0+vtx=x_0+vt と同じ運動を表すことを確かめよ。
  3. エネルギー関数 h′=q˙ ∂L′/∂q˙−L′h'=\dot q\,\partial L'/\partial\dot q-L' を求め、解に沿って保存しないことを確かめよ。さらに dh′/ds=−∂L′/∂s\mathrm{d} h'/\mathrm{d} s=-\partial L'/\partial s を確かめよ。
  4. 新しい表示と次のラグランジアンの差が、時刻についての全微分になることを示せ。

L′′=12mq˙2−maq.L''=\tfrac12m\dot q^2-maq.

そのうえで、後者のエネルギー関数が保存することを確かめよ。

解答
  1. 慣性系の表示 L=12mx˙2L=\frac12m\dot x^2 は、変数 (x,x˙,t)(x,\dot x,t) の関数として時刻を含まない。したがって ∂L/∂t=0\partial L/\partial t=0 である。新しい表示を変数 (q,q˙,s)(q,\dot q,s) の関数とみて、時刻で偏微分すると

∂L′∂s=ma(q˙+as)≠0.\frac{\partial L'}{\partial s}=ma(\dot q+as)\neq0. 2. 偏微分は ∂L′/∂q˙=m(q˙+as)\partial L'/\partial\dot q=m(\dot q+as) と ∂L′/∂q=0\partial L'/\partial q=0 である。Euler–Lagrange 方程式は

dds[m(q˙+as)]=0,すなわちq¨=−a.\frac{d }{d s}\bigl[m(\dot q+as)\bigr]=0,\qquad\text{すなわち}\qquad \ddot q=-a.

加速する系では、慣性力 −ma-ma が働くように見える。解は q=x0+vs−12as2q=x_0+vs-\frac12as^2 である。これを (2.10) に入れると x=x0+vsx=x_0+vs となり、慣性系の等速運動に戻る。3. 定義に入れて整理する。

h′=mq˙(q˙+as)−12m(q˙+as)2=12mq˙2−12ma2s2.h'=m\dot q(\dot q+as)-\tfrac12m(\dot q+as)^2=\tfrac12m\dot q^2-\tfrac12ma^2s^2.

解の上では q˙=v−as\dot q=v-as なので

h′=12m(v−as)2−12ma2s2=12mv2−mavsh'=\tfrac12m(v-as)^2-\tfrac12ma^2s^2=\tfrac12mv^2-mavs

となり、dh′/ds=−mav≠0\mathrm{d} h'/\mathrm{d} s=-mav\neq0 である。一方、解の上で −∂L′/∂s=−ma(q˙+as)=−mav-\partial L'/\partial s=-ma(\dot q+as)=-mav なので、2つは一致する。4. 新しい表示を展開すると、次の形になる。

L′=12mq˙2+masq˙+12ma2s2.L'=\tfrac12m\dot q^2+mas\dot q+\tfrac12ma^2s^2.

後ろの2項について、次の2つの式が成り立つ。

masq˙=dds(masq)−maq,12ma2s2=dds(16ma2s3).mas\dot q=\frac{d }{d s}(masq)-maq,\qquad \tfrac12ma^2s^2=\frac{d }{d s}\Bigl(\tfrac16ma^2s^3\Bigr).

したがって

L′=L′′+dds(masq+16ma2s3).L'=L''+\frac{d }{d s}\Bigl(masq+\tfrac16ma^2s^3\Bigr).

全微分の差は運動方程式を変えない(虎の巻『解析力学から様々な理論分野を組み立てる』第1部第4章)。ラグランジアン L′′L'' は時刻を陽に含まない。したがって、そのエネルギー関数 E′′=12mq˙2+maqE''=\frac12m\dot q^2+maq は保存する。実際、解を入れると次のように時刻に依らない。

E′′=12m(v−as)2+ma(x0+vs−12as2)=12mv2+max0.E''=\tfrac12m(v-as)^2+ma\bigl(x_0+vs-\tfrac12as^2\bigr)=\tfrac12mv^2+max_0.

例題 2.2 は、「ラグランジアンが時刻に陽に依存するか」が運動そのものの性質でないことを示す。同じ運動を表す同じ関数でも、チャートを取り替えると陽な時刻依存が現れる。さらに全微分を足して別のラグランジアンに替えると、陽な時刻依存はまた消える。どの保存量が見えるかは、関数とチャートの組で決まる。

熱力学の添字 (∂U/∂V)S(\partial U/\partial V)_S と (∂U/∂V)T(\partial U/\partial V)_T

一定量の気体の平衡状態は2つの量で決まり、状態の全体は2次元の多様体になる(第1章 §1.3)。この多様体には、エントロピーと体積の組、温度と体積の組、温度と圧力の組など、いくつものチャートがある。内部エネルギー UU は、状態の上の1つの関数である。熱力学で偏微分に添字を付けるのは、相方の座標を明示するためである。

記号 (∂U/∂V)S(\partial U/\partial V)_S は、チャート (S,V)(S,V) での体積方向の偏微分である。記号 (∂U/∂V)T(\partial U/\partial V)_T は、チャート (T,V)(T,V) での体積方向の偏微分である。2つのチャートは体積の座標を共有するので、命題 2.8 がそのまま使える。

∂∂V∣S=∂∂V∣T+(∂T∂V)S∂∂T∣V.(2.12)\frac{\partial }{\partial V}\Big|_S=\frac{\partial }{\partial V}\Big|_T+\left(\frac{\partial T}{\partial V}\right)_S\frac{\partial }{\partial T}\Big|_V.\tag{2.12}

内部エネルギーに作用させると、次の関係になる。

(∂U∂V)S=(∂U∂V)T+(∂U∂T)V(∂T∂V)S.(2.13)\left(\frac{\partial U}{\partial V}\right)_S=\left(\frac{\partial U}{\partial V}\right)_T+\left(\frac{\partial U}{\partial T}\right)_V\left(\frac{\partial T}{\partial V}\right)_S.\tag{2.13}

粒子数 NN の単原子理想気体で値を確かめる。内部エネルギーは U=32NkBTU=\frac32N k_{\mathrm B} T で、温度だけの関数である。したがってチャート (T,V)(T,V) では、内部エネルギーは体積に陽に依存しない。すなわち (∂U/∂V)T=0(\partial U/\partial V)_T=0 である。

一方、断熱変化では TV2/3TV^{2/3} が一定に保たれる。その微分から (∂T/∂V)S=−2T3V(\partial T/\partial V)_S=-\frac{2T}{3V} を得る。(2.13) に入れると、次の値になる。

(∂U∂V)S=0+32NkB⋅(−2T3V)=−NkBTV=−p.\left(\frac{\partial U}{\partial V}\right)_S=0+\tfrac32N k_{\mathrm B}\cdot\Bigl(-\frac{2T}{3V}\Bigr)=-\frac{N k_{\mathrm B} T}{V}=-p.

これは熱力学の基本関係式 dU=T dS−p dV\mathrm{d} U=T\,\mathrm{d} S-p\,\mathrm{d} V から読める値と一致する。同じ内部エネルギーが、チャート (T,V)(T,V) では体積に陽に依存せず、チャート (S,V)(S,V) では陽に依存する。

図

図 2.4 単原子理想気体の状態の平面(横軸 VV、縦軸 TT)。点線は等温線 T=一定T=\text{一定}、青の実線は断熱線 TV2/3=一定TV^{2/3}=\text{一定}。点 (V0,1.5T0)(V_0,1.5T_0) で、TT を止める ∂V∣T\partial_V|_T は水平、SS を止める ∂V∣S\partial_V|_S は断熱線に接して傾き −23T/V=−1-\frac23T/V=-1 を持つ。U∝TU\propto T は縦の位置だけで決まるので、∂V∣TU=0\partial_V|_T U=0、∂V∣SU<0\partial_V|_S U<0 となる。

例題 2.3 理想気体で断熱と等温の偏微分を比べる ★★

オリジナル単原子理想気体 1 mol1\,\mathrm{mol} が、温度 T=300 KT=300\,\mathrm{K} の状態にある。体積は V=2.24×10−2 m3V=2.24\times10^{-2}\,\mathrm{m^3}、気体定数は R=8.314 J/(mol K)R=8.314\,\mathrm{J/(mol\,K)} とする。

  1. 偏微分 (∂U/∂V)T(\partial U/\partial V)_T と (∂U/∂V)S(\partial U/\partial V)_S を求めよ。
  2. 断熱的に体積を ΔV=1.0×10−5 m3\Delta V=1.0\times10^{-5}\,\mathrm{m^3} だけ増やしたときの内部エネルギーの変化を、1次の近似で見積もれ。
  3. 同じ体積の変化を等温で行うときの内部エネルギーの変化と比べ、違いを図 2.4 の矢印で説明せよ。
解答
  1. 内部エネルギー U=32RTU=\frac32RT は温度だけの関数である。したがって (∂U/∂V)T=0(\partial U/\partial V)_T=0 である。(2.13) と (∂T/∂V)S=−2T/(3V)(\partial T/\partial V)_S=-2T/(3V) から

(∂U∂V)S=−RTV=−8.314×3002.24×10−2 Pa≈−1.11×105 Pa.\left(\frac{\partial U}{\partial V}\right)_S=-\frac{RT}{V}=-\frac{8.314\times300}{2.24\times10^{-2}}\,\mathrm{Pa}\approx-1.11\times10^{5}\,\mathrm{Pa}.

これは圧力にマイナスを付けた値である。2. 1次の近似で

ΔU≈(∂U∂V)SΔV≈−1.11×105×1.0×10−5 J≈−1.1 J.\Delta U\approx\left(\frac{\partial U}{\partial V}\right)_S\Delta V\approx-1.11\times10^{5}\times1.0\times10^{-5}\,\mathrm{J}\approx-1.1\,\mathrm{J}.

気体は外へ仕事 pΔVp\Delta V をし、熱の出入りが無いので、その分だけ内部エネルギーが減る。3. 等温では ΔU=0\Delta U=0 である。等温の変化は図の水平の矢印 ∂V∣T\partial_V|_T に沿い、内部エネルギーを決める温度が変わらない。断熱の変化は傾いた矢印 ∂V∣S\partial_V|_S に沿い、温度が下がる。同じ「体積を増やす」でも、止める座標が違うので状態の動く向きが違う。

「陽に依存する」は関数と座標の組の性質

ここまでの例をまとめると、次の定義と命題になる。

定義 2.9(陽に依存しない)

関数 ff と、座標 q1,…,qnq^1,\dots,q^n のチャートが与えられているとする。チャートの定義域で ∂f/∂qj=0\partial f/\partial q^j=0 が恒等的に成り立つとする。このとき、この関数はこのチャートで座標 qjq^j に陽に依存しないという。

この定義には、関数と1つの座標のほかに、相方の座標 qkq^k(k≠jk\neq j)が入っている。相方を取り替えると、答えも変わりうる。

命題 2.10(陽な依存は相方の選び方で変えられる)

次元は n≥2n\ge2 とする。

関数 ff と座標 q1q^1 が、ある点の近くで独立であるとする。

ここで独立とは、2つの偏微分の組 (∂if)(\partial_if) と (∂iq1)(\partial_iq^1) が一次独立であることをいう。このとき任意の実数 cc について、次の性質を持つチャートがこの点の近くにある。すなわち、最初の座標が q1q^1 で、偏微分が ∂f/∂q1=c\partial f/\partial q^1=c となるチャートである。特に c=0c=0 ととれば、関数がこの座標に陽に依存しないチャートがある。

証明

関数 u=f−cq1u=f-cq^1 をとる。偏微分の組は (∂iu)=(∂if)−c(∂iq1)(\partial_iu)=(\partial_if)-c(\partial_iq^1) である。したがって、組 (∂iq1)(\partial_iq^1) と組 (∂iu)(\partial_iu) も一次独立である。2つの一次独立な行ベクトルに、n−2n-2 本の座標の偏微分の行ベクトルを足して、正則な正方行列にできる。

足した座標を qk3,…,qknq^{k_3},\dots,q^{k_n} とする。第1章 §1.1 の逆関数定理により、組 (q1,u,qk3,…,qkn)(q^1,u,q^{k_3},\dots,q^{k_n}) はこの点の近くのチャートになる。このチャートでは f=u+cq1f=u+cq^1 と書け、右辺の2つの関数は別々の座標である。したがって ∂f/∂q1=c\partial f/\partial q^1=c となる。

偏微分の記号を読むときの要点

  • 偏微分 ∂/∂q1\partial/\partial q^1 は、相方の座標を止めてこの座標を動かす曲線の速度である。相方を取り替えると (2.9) のように向きが変わる。
  • 「関数が座標に陽に依存しない」は、関数と座標の組の性質である。関数とその1つの座標だけからは決まらない(命題 2.10)。
  • 熱力学の添字 (⋅)S(\cdot)_S と (⋅)T(\cdot)_T は、相方の座標を書き添える記法である。力学では、相方を書かずにチャートを文脈で決めていることが多い。

落とし穴

ラグランジアンの偏微分 ∂L/∂q\partial L/\partial q と ∂L/∂q˙\partial L/\partial\dot q でも、相方の座標が決まっている。ラグランジアンは (q,q˙,t)(q,\dot q,t) を座標とする空間の関数である。偏微分 ∂L/∂q\partial L/\partial q は、速度と時刻を止めた偏微分である。この空間が何で、なぜ位置と速度を独立に動かせるかは第3章 §3.5 で扱う。

確認テスト

オリジナル

  1. 2.2-1 平面にチャート (x,y)(x,y) と (u,y)(u,y) を入れる。ここで u=x+yu=x+y とする。後者のチャートでの縦の偏微分 ∂/∂y\partial/\partial y を、前者のチャートの座標基底で書け。
  2. 2.2-2 直交座標の座標基底 ∂x\partial_x と ∂y\partial_y を考える。これらを、極座標の座標基底で書け。
  3. 2.2-3 van der Waals 気体の内部エネルギーとエントロピーは、次の式で与えられる。

U=CVT−aN2V,S=CVln⁡T+NkBln⁡(V−Nb)+定数.U=C_VT-\frac{aN^2}{V},\qquad S=C_V\ln T+N k_{\mathrm B}\ln(V-Nb)+\text{定数}.

熱容量 CVC_V と定数 a,ba,b は正の定数である。偏微分 (∂U/∂V)T(\partial U/\partial V)_T と (∂U/∂V)S(\partial U/\partial V)_S を求めよ。後者が次の圧力にマイナスを付けた値になることを確かめよ。

p=NkBTV−Nb−aN2V2.p=\frac{N k_{\mathrm B} T}{V-Nb}-\frac{aN^2}{V^2}. 4. 2.2-4 平面に、慣性系の座標 (x,y)(x,y) と、回る系の座標 (X,Y)(X,Y) を入れる。回る系の角速度は Ω\Omega とする。2つは次の式で結ばれる。

x=Xcos⁡Ωt−Ysin⁡Ωt,y=Xsin⁡Ωt+Ycos⁡Ωt.x=X\cos\Omega t-Y\sin\Omega t,\qquad y=X\sin\Omega t+Y\cos\Omega t.

時刻も座標に含め、回る系のチャートでの時間の偏微分を、慣性系のチャートの座標基底で書け。関数 xx と関数 x2+y2x^2+y^2 が、回る系のチャートで時刻に陽に依存するかどうかを答えよ。5. 2.2-5 2次元で、チャート (q1,q2)(q^1,q^2) と (q1,q′2)(q^1,q'^2) を考える。2つのチャートでの最初の座標の偏微分が、凸な近傍のすべての点で一致するとする。そのための必要十分条件は、新しい座標 q′2q'^2 がその近傍で q2q^2 だけの関数であることを示せ。

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