物理のための微分幾何入門 第5章 §5.3 ★★★ 発散とラプラシアンの一般の公式 g1∂i(ggij∂jf) を計量から導く。スケール因子の公式はその特別な場合
発散を流束から定める
ベクトル場 V の発散は、小さな領域から外へ出る流束を、その領域の体積で割った極限である。この定義は座標を使わない。座標の小さな箱を領域にとって極限を計算すると、計量を使った公式が得られる。
流束を計量で表すには、補題 5.4 を使う。面 x1=c の小さな片をとり、その辺を Δx2∂2,…,Δxn∂n とする。短い時間 Δτ の間に、流れがこの片を通って運ぶ体積を考える。それは、辺 VΔτ とこの片の辺が張る平行体の体積である。
補題の行列 M の第1列は VΔτ の成分である。残りの列は Δxa∂a の成分になる。したがって detM=V1ΔτΔx2⋯Δxn である。単位時間あたりに直すと、面の片を x1 の増える向きへ通る流束は
Φ1=gV1Δx2⋯Δxn(5.11)
となる。V1<0 なら負の値になり、逆向きに通ることを表す。
定理 5.9(発散とラプラシアンの一般形)
Riemann 計量のもとで、ベクトル場 V の発散と関数 f のラプラシアンは
divV=g1∂i(gVi),Δf=divgradf=g1∂i(ggij∂jf)(5.12)(5.13)
である。
証明
点 x を頂点とし、辺が Δx1,…,Δxn の座標の箱をとる。x1 方向に向かい合う2つの面を通って外へ出る流束は、(5.11) から
[gV1]x1+Δx1Δx2⋯Δxn−[gV1]x1Δx2⋯Δxn=∂1(gV1)Δx1⋯Δxn+O(Δn+1)
である。ここで O(Δn+1) は、箱の辺について n+1 次以上の項を表す。
ほかの方向の面の組も同じように計算して、すべてを足す。外へ出る流束の合計は ∂i(gVi)Δx1⋯Δxn になる。箱の体積は gΔx1⋯Δxn なので、比をとって箱を小さくすると (5.12) を得る。(5.13) は、(5.12) に勾配の成分 (5.10) を代入した式である。
直交座標の Euclid 空間では、g=1 で逆計量は単位行列である。このとき (5.12) は ∂iVi に戻り、(5.13) は ∑i∂i2f に戻る。第9章で共変微分を定義すると、(5.12) は ∇iVi と同じ式であることが示せる。相対論入門 第8章でも、同じ公式を Christoffel 記号から導いている。
座標基底と正規直交枠
計量が対角になる座標を直交座標系と呼ぶ(直線の格子とは限らない)。
g=diag(h12, h22,…,hn2),hi=∥∂i∥=gii
hi をスケール因子と呼ぶ。座標基底を長さ1にそろえた e^i=∂i/hi を正規直交枠と呼ぶ。
物理の本でベクトルの「成分」と言うときは、多くの場合、正規直交枠での成分 Ai^ を指す。座標基底での成分 Ai との関係は、A=Ai∂i=∑iAi^e^i から決まる。答えは Ai^=hiAi(和をとらない)である。これを定理 5.9 に代入すると、直交座標系での公式が出る。
系 5.10(スケール因子の公式)
3次元の直交座標系で、h=h1h2h3 と書く。このとき
∇f=i∑hi1∂xi∂fe^i,∇⋅A=h1i∑∂xi∂(hihAi^),∇2f=h1i∑∂xi∂(hi2h∂xi∂f)(5.14)(5.15)
が成り立つ。
証明
対角の計量では g=h で、逆計量は gii=1/hi2 である。勾配の座標基底の成分は (gradf)i=hi−2∂if である。正規直交枠の成分はその hi 倍で、hi−1∂if になる。
発散は、(5.12) に Ai=Ai^/hi を入れて得られる。ラプラシアンは、(5.13) に gii=1/hi2 を入れれば得られる。
電磁気学入門 第1章 §1.4 の曲線座標の公式は、この系の円柱座標と球座標の場合である。球座標のスケール因子は (hr,hθ,hφ)=(1, r, rsinθ) である。

図 5.3 平面の極座標の座標基底。どの点でも ∂r と ∂θ は直交するが、∂θ の長さは r で、原点から離れるほど長い(図では全体を 0.6 倍して描いた)。r=1 では ∂θ は長さ1だが、r=2.2 では長さ 2.2 で、長さ1の e^θ(破線)とは異なる。極座標の座標基底は直交するが、正規ではない。
正規直交枠は座標基底とは限らない
正規直交枠は、どの点でも Gram–Schmidt の方法で作れる。しかし、それが何かの座標の座標基底になっているとは限らない。
命題 5.11(極座標の正規直交枠は座標基底でない)
平面の極座標の正規直交枠を e^r=∂r, e^θ=∂θ/r とする。この2つがある座標 (u,w) の座標基底 ∂u, ∂w になることはない。これは原点を含まないどんな開集合の上でも成り立つ。
証明
そのような座標があったとする。双対基底は du, dw である。一方、正規直交枠の双対基底は dr, rdθ である。双対基底は基底から一通りに決まるので、dw=rdθ でなければならない。
成分で書くと ∂w/∂r=0 と ∂w/∂θ=r である。2つ目の式を r で微分すると、混合偏微分 ∂2w/∂r∂θ は1になる。1つ目の式を θ で微分すると、同じ混合偏微分は0になる。滑らかな関数の2階偏微分は順序によらないので、これは矛盾である。
座標基底は正規直交か
座標 xi の座標基底 ∂i について、次の3つが成り立つ。
- 座標基底が直交するのは、計量の非対角の成分がすべて0のときだけである。斜交座標や二重振り子の配位空間では直交しない。
- 座標基底が正規直交になるのは、gij=δij のときだけである。極座標は直交だが、∥∂θ∥=r なので正規でない。
- 正規直交枠はいつでも作れる。しかし命題 5.11 のように、一般には座標基底にならない。
ある領域で gij=δij となる座標が存在するのは、その領域が平坦なときに限る(第11章の Riemann テンソルが0)。球面では第8章の驚異の定理から曲率が0でない。そのため、正規直交な座標基底を持つ座標はどこにも無い。
Lie 括弧で言い直す
命題 5.11 の証明は、第13章の Lie 括弧を使うと短く書ける。
- 座標基底どうしは、偏微分の順序交換から [∂i,∂j]=0 を満たす。
- 一方、正規直交枠の括弧は [∂r,r−1∂θ]=−r−2∂θ で、0でない。
- したがって、正規直交枠はどの座標の座標基底にもならない。
例題 5.4 球座標のラプラシアンと一様に帯電した球 ★★★
オリジナル3次元の球座標 (r,θ,φ) を考える。
- 一般形 (5.13) から、球座標のラプラシアンを書け。
- r>0 で、関数 1/r, r2 のラプラシアンを求めよ。
- 半径 R で一様に帯電した球(電荷密度 ρ)の内部の電位を、次の形とおく。
ϕ=ϕ0−6ε0ρr2
この電位が Poisson 方程式 ∇2ϕ=−ρ/ε0 を満たすことを確かめよ。
解答
(1) 計量は diag(1,r2,r2sin2θ) で、g=r2sinθ である。逆計量を掛けると、ggij の対角成分は次のようになる。
ggrr=r2sinθ,ggθθ=sinθ,ggφφ=sinθ1
(5.13) に入れて g で割ると
∇2f=r21∂r∂(r2∂r∂f)+r2sinθ1∂θ∂(sinθ∂θ∂f)+r2sin2θ1∂φ2∂2f
を得る。
(2) どちらも r だけの関数なので、第1項だけが残る。f=1/r では r2∂rf=−1 が定数なので、ラプラシアンは0である。f=r2 では r2∂rf=2r3 である。ラプラシアンは r−2∂r(2r3)=6 になる。
直交座標で x2+y2+z2 のラプラシアンを計算しても、2+2+2=6 で一致する。
(3) (2) の結果から、∇2ϕ=−6ε0ρ⋅6=−ρ/ε0 となる。したがって Poisson 方程式を満たす。定数 ϕ0 は、球の表面で外部の電位 ρR3/(3ε0r) とつながるように選ぶ。値は ϕ0=ρR2/(2ε0) である。
例題 5.5 斜交座標のラプラシアン ★★
オリジナル角 α の斜交座標(§5.1)で、ラプラシアンを ∂1, ∂2 で書け。得た式を f=(x1)2 に使い、直交座標の計算と一致することを確かめよ。
解答
計量の行列とその逆行列は次のとおりで、行列式は sin2α である。
(gij)=(1cosαcosα1),(gij)=sin2α1(1−cosα−cosα1)
g=sinα は定数なので、(5.13) の g は約分できる。
Δf=gij∂i∂jf=sin2α1(∂12f−2cosα∂1∂2f+∂22f)
非対角の計量の成分から、混合偏微分の項が出る。
f=(x1)2 を入れると Δf=2/sin2α である。直交座標で確かめる。a1=(1,0), a2=(cosα,sinα) とする。
x=x1+x2cosα,y=x2sinα
これを解くと x1=x−ycotα なので、f=(x−ycotα)2 である。直交座標のラプラシアンは 2+2cot2α=2/sin2α となり、一致する。
確認テスト
オリジナル
- 5.3-1 平面の極座標の点 (r,θ)=(3,π/4) で、ベクトル v=∂θ の長さを答えよ。正規直交枠での成分 vθ^ も答えよ。
- 5.3-2 円柱座標(確認テスト 5.1-2)のラプラシアンを、一般形 (5.13) から書け。さらに、正の整数 m について ρmcosmϕ のラプラシアンが0になることを示せ。
- 5.3-3 3次元の球座標で、2つのベクトル場 V=∂r, W=r−2∂r の発散を求めよ(原点を除く)。W の発散が0になることを、原点を中心とする球面を通る流束の言葉で説明せよ。
- 5.3-4 2次元で、計量が ds2=h2(du2+dw2) の形(等角な座標)とする。ラプラシアンが h−2(∂u2+∂w2) になることを示せ。これを平面の対数極座標 u=lnr, w=θ に使い、ラプラシアンが e−2u(∂u2+∂w2) になることを導け。
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