物理のための微分幾何入門 第7章 §7.5 ★★ 表面張力のある界面では圧力差が 2σH に等しい(Young–Laplace の式)。泡・液滴・毛管現象はこの1式で見積もれる
Young–Laplace の式
液体と気体の界面には、面積に比例するエネルギー σA がある。係数 σ が表面張力で、単位は N/m=J/m2 である。界面が釣り合っているとき、界面を少し動かしたときのエネルギーの変化は0になる。この条件から、界面の両側の圧力差が曲率で決まる。
界面の内側(領域 I)の圧力を pI、外側(領域 II)の圧力を pII とする。両側の体積を変えたときの仕事まで含めたエネルギーは
F=σA−pIVI−pIIVII(7.28)
である。圧力一定の気体を体積 δV だけ膨らませると、気体は外へ pδV の仕事をする。(7.28) の圧力の項は、その仕事の分だけエネルギーを下げる。
補題 7.20(体積の第1変分)
界面の法線 n を領域 I の側に向け、界面を (7.22) のようにずらす。このとき領域 I の体積の変化は
δVI=−t∬ϕdA+O(t2)
である。
証明
界面の面積要素 dA が法線方向に tϕ だけ動くと、その厚さの薄い柱を掃く。柱の体積は tϕdA+O(t2) で、ϕ>0 ならこの柱は領域 I に食い込むので I の体積が減る。面積要素について足し合わせると主張を得る。
定理 7.21(Young–Laplace の式 ★★★)
界面の法線 n を領域 I の側に向けて平均曲率 H を計算する。(7.28) が界面のすべての小さな変形について停留するのは、界面の各点で
pI−pII=2σH=σ(κ1+κ2)(7.29)
が成り立つときである。
証明
定理 7.17 から δA=−2t∬HϕdA である。補題 7.20 から δVI=−t∬ϕdA、全体の体積は一定なので δVII=−δVI である。これらを (7.28) に代入すると
δF=t∬(−2σH+pI−pII)ϕdA+O(t2)
となる。これがすべての ϕ について0になる条件は、系 7.19 と同じ議論で、括弧の中が恒等的に0であることである。
法線を圧力の高い側に向けると H>0 になるので、曲率の中心は圧力の高い側にあり、界面は圧力の低い側へ膨らむ。石鹸膜のように両側の圧力が等しい界面では H=0 で、§7.4 の極小曲面になる。半径 R の球面の界面に中心へ向かう法線をとると、H=1/R である。したがって内側の圧力は 2σ/R だけ高い。
円柱の液柱
半径 a の円柱状の液柱では、例題 7.2 により軸に向かう法線について κ1=1/a,κ2=0 である。したがって液柱の内部の圧力は外より σ/a だけ高い。同じ体積の球の液滴に比べてどちらの圧力が高いかを比べると、蛇口から出た細い水流が液滴に分かれる理由の見当がつく。この不安定性は Rayleigh–Plateau 不安定性と呼ばれる。
例題 7.5 水滴と泡の圧力差の見積もり ★★
オリジナル室温の水の表面張力を σ=0.072 N/m、石鹸水の表面張力を σs=0.025 N/m とする。
- 半径 1 mm の雨粒の内部は、外の空気よりどれだけ圧力が高いか。
- 水の中にできた半径 1 μm の気泡の内部は、まわりの水よりどれだけ圧力が高いか。大気圧 1.013×105 Pa と比べよ。
- 半径 2 cm のシャボン玉の内部の圧力は、外よりどれだけ高いか。膜には表と裏の2つの界面があることに注意せよ。
解答
どの場合も界面は球面で、法線を中心(内側)に向けると H=1/R である。
(1) (7.29) から
Δp=R2σ=1×10−32×0.072 Pa=144 Pa
である。大気圧の約 0.14% にあたる。
(2) 気泡でも、内側の気体の側に法線を向けると H=1/R なので
Δp=1×10−62×0.072 Pa=1.44×105 Pa
である。これは大気圧の約 1.4 倍で、小さな気泡ほど内部の圧力が高い。
(3) シャボン玉の膜は厚さが半径に比べて十分小さいので、外側の界面と内側の界面の半径はどちらも R とみなせる。外の空気から膜の中の液体へ移るときに 2σs/R、液体から玉の内部の空気へ移るときにさらに 2σs/R だけ圧力が上がる。したがって
Δp=R4σs=2×10−24×0.025 Pa=5.0 Pa
である。
膜の曲げエネルギー
脂質二重膜のような生体膜では、表面張力より曲げにくさのほうが形を決めることが多い。膜の曲げのエネルギーは、局所的には曲率の2次式で書けると考える。曲率について2次までの量で座標の取り方によらないものは、平均曲率とその2乗と Gauss 曲率の組み合わせである。
Canham–Helfrich の曲げエネルギー
Fb=∬[2kc(2H−c0)2+kˉK]dA
- 係数 kc を曲げ弾性率、kˉ を Gauss 曲げ弾性率と呼ぶ。定数 c0 は自発曲率と呼ぶ。
- 第2項の ∬KdA は、第15章の Gauss–Bonnet の定理により閉じた膜の形を連続的に変えても変わらない。したがって膜の形の釣り合いには第1項だけが関わる。
- 赤血球の円盤の形は、このエネルギーを体積と面積の制約のもとで最小にした形として調べられている。
確認テスト
オリジナル
- 7.5-1 半径 a の円柱状の液柱の内外の圧力差を、Young–Laplace の式から1行で求めよ。
- 7.5-2 半径 1 cm と 2 cm のシャボン玉の、内外の圧力差をそれぞれ求めよ。石鹸水の表面張力は σs=0.025 N/m とする。2つを細い管でつなぐと空気はどちらからどちらへ流れるか。
- 7.5-3 半径 r の細い管を水に立てると、水は高さ h まで上がる。水が管の壁を完全にぬらす(接触角 0)とし、水面を半径 r の半球とみなす。Young–Laplace の式と静水圧 ρgh の釣り合いから h=2σ/(ρgr) を導き、高さの値を求めよ。数値は r=0.1 mm, σ=0.072 N/m, ρ=1.0×103 kg/m3, g=9.8 m/s2 とせよ。
- 7.5-4 半径 R の球の液滴の半径を dR だけ増やす。表面エネルギーの増加と、圧力差のする仕事を比べて、Δp=2σ/R を直接導け。
- 7.5-5 c0=0 とする。半径 R の球面の膜について、曲げエネルギーの第1項 ∬2kc(2H)2dA を求め、半径によらないことを示せ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com