物理のための微分幾何入門 第7章 §7.4 ★★ 面積の第1変分は −2∫HϕdA。面積が停留する曲面は H=0 で、針金の枠に張った石鹸膜の形になる
面積の第1変分
針金の枠に石鹸膜を張ると、膜は表面張力でできるだけ面積を小さくする形に落ち着く。膜の両側はどちらも大気圧なので、膜の形を決める条件は面積の停留だけである。この節では、面積が停留する条件を曲率で書く。
曲面片 r(u,v) と滑らかな関数 ϕ(u,v) をとり、法線の向きにずらした曲面の族
rt(u,v)=r(u,v)+tϕ(u,v)n(u,v)(7.22)
を考える。枠を固定する場合には、領域の境界で ϕ=0 とする。
定理 7.17(面積の第1変分 ★★★)
領域 Ω は有界とする。曲面 rt の面積を A(t) と書く。このとき
dtdt=0A(t)=−2∬ΩHϕdA(7.23)
が成り立つ。ここで H は法線 n について計算した平均曲率である。面積要素は dA=EG−F2dudv である。
証明
偏微分は
(rt)u=ru+t(ϕun+ϕnu),(rt)v=rv+t(ϕvn+ϕnv)
である。法線は ru,rv と直交する。そのため内積をとると、t の1次の項には ru⋅nu=−L の形の項だけが残る。
(7.12) を使うと
Et=E−2tϕL+O(t2),Ft=F−2tϕM+O(t2),Gt=G−2tϕN+O(t2)
となる。行列式を展開すると
EtGt−Ft2=EG−F2−2tϕ(EN−2FM+GL)+O(t2)=(EG−F2)(1−4tϕH)+O(t2)
である。最後の等号には (7.20) の H の式を使った。
平方根をとると EtGt−Ft2=EG−F2(1−2tϕH)+O(t2) になる。これを Ω の上で積分し、t で微分してから0とおけば (7.23) を得る。
接線方向のずらしと符号の確かめ
- 一般のずらし r+tV では、V の接平面の成分は1次の近似では座標の付け替えにしかならない。そのため面積の変化には境界での寄与しか残らず、枠を固定すれば寄与は0である。面積の停留を調べるには法線方向のずらし (7.22) だけで足りる。
- 符号を球面で確かめる。半径 R の球面に外向きの法線をとると、H=−1/R である。
- ϕ=1 とすると球の半径は R+t になる。面積 4π(R+t)2 を微分すると A′(0)=8πR である。右辺も −2⋅(−1/R)⋅4πR2=8πR で一致する。
定義 7.18(極小曲面)
平均曲率が恒等的に0の曲面を極小曲面と呼ぶ。
系 7.19(面積の停留と極小曲面)
次の2つは同値である。
- 境界で0となるすべての ϕ について A′(0)=0 が成り立つ。
- 曲面の各点で H=0 である。
証明
H≡0 なら (7.23) の右辺は0である。逆に、ある内点で H=0 とすると、連続性からその近くで H は符号を変えない。その近くだけで正になり境界で0となる ϕ をとれば、右辺は0でない。
名前は「極小」だが、条件は面積の停留であって、面積が最小であることまでは言っていない。停留する曲面が実際に最小かどうかは面積の第2変分で決まり、後で見るように同じ枠に停留曲面が2つある場合もある。
カテノイドと螺旋面
回転面 r=(r(z)cosv,r(z)sinv,z) の平均曲率を計算する。法線を軸に向かう向き n=(−cosv,−sinv,r′)/1+r′2 にとる。2階の偏微分と法線の内積をとると
L=1+r′2−r′′,M=0,N=1+r′2r
となる。E=1+r′2,F=0,G=r2 と合わせると、主曲率は経線方向と緯線方向の
κ1=(1+r′2)3/2−r′′,κ2=r1+r′21(7.24)
である。
H=0 は κ1+κ2=0 のことで、分母を払うと
rr′′=1+r′2(7.25)
となる。この方程式の解を求める。両辺に r′/{r(1+r′2)} を掛けると
1+r′2r′r′′=rr′
となる。両辺を積分すると 21ln(1+r′2)=lnr−lna を得る。すなわち r/1+r′2=a(a>0 は定数)である。
この1階の方程式で r=acoshw とおくと、1+r′2=cosh2w になる。よって r′=±sinhw である。一方 r′=asinhw⋅w′ なので w′=±1/a となる。したがって解は
r(z)=acoshaz−z0(7.26)
である。懸垂線 r=acosh(z/a) を z 軸のまわりに回した曲面をカテノイドと呼ぶ。平面を除くと、カテノイドは回転面の極小曲面のすべてである。
同じ式は面積の汎関数からも出る。回転面の面積は A=2π∫r1+r′2dz で、被積分関数が z を陽に含まない。そのため Euler–Lagrange 方程式は1回積分でき、r/1+r′2=a が第一積分として得られる。この変分の計算と、停留曲線が2本または0本になることの解析は、虎の巻『解析力学から様々な理論分野を組み立てる』第1部第4章にある。
螺旋面
螺旋面 r=(ucosv,usinv,cv) では、確認テスト 7.1-3 のとおり E=1,F=0,G=u2+c2 である。単位法線は n=(csinv,−ccosv,u)/u2+c2 で、2階の偏微分との内積から
L=0,M=u2+c2−c,N=0
を得る。EN=GL=0 かつ F=0 なので (7.20) の分子は0で、螺旋面は極小曲面である。Gauss 曲率は K=−c2/(u2+c2)2 である。カテノイドと螺旋面が局所的に等長であることは第8章 §8.1 の例で扱う。

図 7.5 2つの極小曲面。左は r=coshz を回したカテノイド、右は c=1/(2π) の螺旋面を1周半描いたもの。どちらも各点で κ1=−κ2 が成り立ち、Gauss 曲率は負である。
2つの輪に張った石鹸膜
半径 R の2つの輪を、共通の軸に垂直に間隔 2h だけ離して置く。輪の間に張った石鹸膜は回転対称なカテノイド (7.26) になり、対称性から z0=0 である。境界条件は acosh(h/a)=R である。s=h/a とおくと、この条件は
scoshs=hR(7.27)
と書ける。
左辺の関数 coshs/s は、s が0に近づくときも無限大に向かうときも無限大になる。導関数 (ssinhs−coshs)/s2 が0になるのは stanhs=1 のときである。その解は s∗≃1.1997 で、最小値は coshs∗/s∗≃1.5089 になる。
したがって (7.27) の解は、R/h>1.5089 なら2つ、R/h<1.5089 なら無い。
解が2つあるとき、s の小さい解は首の太いカテノイド、大きい解は首の細いカテノイドである。面積の第2変分を調べると、首の太いほうだけが安定であることが知られている。間隔を広げて 2h/R>2/1.5089≃1.3255 になると停留するカテノイドが無くなり、膜はちぎれて2枚の円板になる。

図 7.6 輪に張った石鹸膜の条件 (7.27)。破線は例題 7.4 の R/h=2.5 で、交点が2つのカテノイドに対応する。破線が白丸より下に来ると解は無い。
例題 7.4 2つの輪に張った石鹸膜の見積もり ★★
オリジナル半径 5 cm の2つの輪を、軸をそろえて 4 cm 離して置き、その間に石鹸膜を張る。
- 停留するカテノイドの首の半径 a を2つ求めよ。
- それぞれの面積を求め、2枚の円板の面積の和と比べよ。
- 輪を引き離していくとき、膜がちぎれる間隔を求めよ。
解答
(1) R=5 cm、h=2 cm なので、条件 (7.27) の右辺は 2.5 である。数値的に解くと s≃0.4392 と s≃2.5322 の2解がある。首の半径は a=h/s なので、4.554 cm と 0.790 cm になる。
(2) カテノイドでは 1+r′2=cosh(z/a) なので、面積は
A=2π∫−hhacosh2azdz=πa(2h+asinha2h)
である。首の太い解では A≃122.1 cm2、細い解では A≃165.0 cm2 になる。2枚の円板の面積は 2πR2≃157.1 cm2 である。首の太いカテノイドは円板より面積が小さく、細いカテノイドは円板より大きい。
(3) 解が存在するのは R/h≥1.5089 のときなので、限界の間隔は
2h=1.50892R≃1.3255×5 cm≃6.63 cm
である。これより離すと停留するカテノイドが無くなり、膜はちぎれる。
確認テスト
オリジナル
- 7.4-1 半径 R の球面は極小曲面ではない。その理由を平均曲率で1行で述べよ。
- 7.4-2 グラフ z=f(x,y) の面積 ∬1+fx2+fy2dxdy の Euler–Lagrange 方程式が
(1+fy2)fxx−2fxfyfxy+(1+fx2)fyy=0
であることを導け。また、これがグラフの H=0 と同値であることを示せ。グラフの L,M,N は、2階の偏導関数を 1+fx2+fy2 で割ったものである。3. 7.4-3 Scherk の曲面 z=lncosy−lncosx(∣x∣,∣y∣<π/2)が 7.4-2 の方程式を満たすことを確かめよ。4. 7.4-4 半径1の2つの輪を間隔1で置く(R=1, h=0.5)。2つのカテノイドの首の半径と面積を求め、2枚の円板の面積 2π と比べよ。
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