物理のための微分幾何入門 第12章 §12.2 ★★★ 関数の微分を k 形式へ広げた演算 d は、3次元では勾配・回転・発散になり、2回続けると必ず0になる
外微分の定義
関数 f の微分 df は、0形式から1形式を作る演算である。これを、k 形式から k+1 形式を作る演算へ広げる。方針は、成分の関数だけを微分し、基底 dxI はそのまま残すことである。
定義 12.7(外微分)
座標の上で ω=∑IωIdxI と書ける k 形式を考える。その外微分を次で定める。
dω=I∑dωI∧dxI=I∑∂xj∂ωIdxj∧dxI(12.11)
この定義は座標を使って書いたが、結果は座標の選び方に依らない。そのことは §12.3 で、引き戻しを使って示す(系 12.11)。
成分 (12.7) で書くと、dω の成分は次の交代和になる。
(dω)i0i1⋯ik=a=0∑k(−1)a∂iaωi0⋯ia⋯ik(12.12)
ここで ia は、その添字を除くという意味である。
(12.12) の導出
(12.7) を (12.11) に入れると、次の形になる。
dω=k!1cmi1⋯ikdxm∧dxi1∧⋯∧dxik,cmi1⋯ik=∂mωi1⋯ik
ここで c は、後ろの k 個の添字についてだけ反対称である。これを座標基底の組に当てると、(12.2) から並べ替えの符号つき和になる。
(dω)j0⋯jk=k!1σ∈Sk+1∑sgnσcjσ(0)jσ(1)⋯jσ(k)
先頭に来る添字 ja ごとに和を分ける。残りの並べ替えは k! 通りあり、c の後ろの添字の反対称性からどれも同じ値になる。この k! が前の 1/k! と打ち消し合う。ja を先頭へ移す並べ替えの符号は (−1)a なので、(12.12) を得る。
1形式なら、(12.12) は (dω)ij=∂iωj−∂jωi である。電磁ポテンシャルの1形式 A=Aμdxμ に当てると、第4章の電磁場テンソルがそのまま現れる。
Fμν=∂μAν−∂νAμ
つまり電磁場は、2形式 F=dA である。
外微分の性質
定理 12.8(外微分の性質)
外微分は、k 形式を k+1 形式へ移す演算として次の4つを満たす。
- (i) 線形である。
- (ii) 関数については、第3章の微分 df=∂ifdxi に一致する。
- (iii) k 形式 ω について、次の Leibniz 則が成り立つ。
d(ω∧η)=dω∧η+(−1)kω∧dη(12.13)
4. (iv) 2回続けると 0 になる。
d(dω)=0(12.14)
証明
(i) と (ii) は定義 (12.11) から明らかである。
(iii) 線形性から、ω=fdxI、η=gdxJ の場合を示せば足りる。積の微分 d(fg)=gdf+fdg から、次のようになる。
d(ω∧η)=d(fg)∧dxI∧dxJ=df∧dxI∧gdxJ+fdg∧dxI∧dxJ
第1項は dω∧η である。第2項では、1形式 dg を dxI の後ろへ移す。このとき (12.5) から符号 (−1)k が出て、結果は (−1)kω∧dη になる。
(iv) 線形性から、ω=fdxI の場合を示せば足りる。基底 dxI の係数は定数なので、(iii) からその外微分は 0 である。
d(dω)=d(∂xj∂fdxj∧dxI)=∂xi∂xj∂2fdxi∧dxj∧dxI
2階の偏微分は i と j について対称である。一方、dxi∧dxj は反対称である。2つの添字を入れ替えた2項が打ち消し合うので、和は 0 になる。
一意性
(i)〜(iv) を満たす演算は1つしかない。(iii) と (iv) を使うと、fdxI の像は df∧dxI に決まるからである。厳密には、作用が局所的(点の近くの値だけで決まる)であることも示す必要がある。
勾配・回転・発散
3次元ユークリッド空間で、(12.9) の対応を使って外微分を書き直す。0形式(関数)の外微分は勾配である。
df=∂x∂fdx+∂y∂fdy+∂z∂fdz=(∇f)♭(12.15)
1形式 a♭ の外微分を計算する。第1成分の項 axdx の外微分では、x 以外の座標についての微分の2項だけが残る。3成分をまとめて基底ごとに整理すると、回転の流束の形になる。
d(a♭)=(∂yaz−∂zay)dy∧dz+(∂zax−∂xaz)dz∧dx+(∂xay−∂yax)dx∧dy=Φ∇×a(12.16)
2形式 Φb の外微分では、第1成分の項から x についての微分だけが残る。ほかの成分も同じである。
dΦb=(∂xbx+∂yby+∂zbz)dx∧dy∧dz=(∇⋅b)dx∧dy∧dz(12.17)

図 12.2 3次元の外微分の列(上段)とベクトル解析の演算(下段)。縦の破線は (12.9) の同一視である。上段で d を2回続けると 0 になるので、下段では ∇×∇f=0 と ∇⋅(∇×a)=0 が成り立つ。
図 12.2 のように、3つの式を並べると d2=0 の意味が読める。関数に d を2回当てると、(12.15) と (12.16) から Φ∇×∇f になる。これが 0 であることが、恒等式 ∇×∇f=0 である。同様に、1形式に2回当てたものの係数は ∇⋅(∇×a) で、これが0であることがもう1つの恒等式である。
2つの恒等式は、ベクトル解析では成分を書き下して別々に確かめるものであった。外微分の言葉では、どちらも「2階の偏微分は順序に依らない」という同じ事実から出る。4次元以上では回転というベクトルが無いが、d と d2=0 はそのまま使える。
静電場と磁場
静電場は電位から E=−∇ϕ と書けるので、E♭=−dϕ である。(12.14) から dE♭=0 となり、これは ∇×E=0 である。
磁場はベクトルポテンシャルから B=∇×A と書ける。流束の形では ΦB=dA♭ である。(12.14) から dΦB=0 となり、これは ∇⋅B=0 である。逆に、dΦB=0 からポテンシャルが存在するかという問いには、§12.5 で答える。
例題 12.2 四重極磁気トラップの中心の磁場 ★★
オリジナル中性原子を閉じ込める四重極磁気トラップの中心付近では、磁場はおよそ次の形をしている(b は定数)。
B=b(−x,−y,2z)
次の1形式を考える。
ω=b(−yzdx+xzdy)
- (1) dω を計算し、それが ΦB に等しいことを示せ。これは ω がこの磁場のベクトルポテンシャルであることを意味する。
- (2) d(dω) を直接計算して 0 になることを確かめよ。それが ∇⋅B=0 を表すことを述べよ。
- (3) B♭ の外微分を求め、この磁場が電流の無い領域の磁場であることを確かめよ。
解答
(1) 成分の関数を微分し、Leibniz 則で基底の前に置く。
dω=bd(−yz)∧dx+bd(xz)∧dy=b(−zdy−ydz)∧dx+b(zdx+xdz)∧dy=b(zdx∧dy−ydz∧dx+zdx∧dy−xdy∧dz)
3行目では、−zdy∧dx=zdx∧dy と xdz∧dy=−xdy∧dz を使った。整理すると次のようになる。
dω=b(−xdy∧dz−ydz∧dx+2zdx∧dy)
(12.9) と見比べると、これは ΦB である。
(2) (1) の結果に d を当てる。各項で残るのは、基底に無い座標についての微分だけである。
d(dω)=b(−1−1+2)dx∧dy∧dz=0
係数 −1−1+2 は ∇⋅B/b そのものである。したがってこれは、(12.17) の形で ∇⋅B=0 を表す。
(3) B♭=b(−xdx−ydy+2zdz) である。各成分はそれぞれ自分の座標だけの関数である。そのため、d(−x)∧dx=−dx∧dx=0 のように全項が消える。
したがって dB♭=0 で、(12.16) から ∇×B=0 である。実際、B♭ は関数 b(−21x2−21y2+z2) の外微分である。
確認テスト
オリジナル
- 12.2-1 2つの関数について、d(fg)=gdf+fdg と d(fdg)=df∧dg を示せ。これを使って d(fdf)=0 を示せ。
- 12.2-2 次の2形式の外微分を求め、(12.17) の発散と一致することを確かめよ。
β=x2dy∧dz+y2dz∧dx+z2dx∧dy
3. 12.2-3 α=xydz、β=yzdx とする。d(α∧β) と dα∧β−α∧dβ をそれぞれ計算せよ。Leibniz 則 (12.13) が成り立つことを確かめよ。4. 12.2-4 n 次元の1形式 ω=ωidxi を考える。成分の式 (12.12) を2回使って、(ddω)ijk=0 を示せ。
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