電磁気学入門 第1章 §1.2 ★★★ 発散定理と Stokes の定理は、Maxwell 方程式の微分形と積分形をつなぐ
前節では、発散が小さな箱からの流出、回転が小さな閉曲線に沿った循環であることを見た。大きな領域をたくさんの小さな箱に分けて流出を足し合わせると、内側の面での出入りは打ち消し合い、外側の表面からの流出だけが残る。これを定理の形にしたものが Gauss の発散定理であり、同じことを曲面と閉曲線について行ったものが Stokes の定理である。
線積分と勾配の定理
曲線を C: r(t), a≤t≤b とパラメータで表す。ベクトル場 A の C に沿った線積分を
∫CA⋅dr=∫abA(r(t))⋅dtdrdt
で定める。パラメータの取り替えで値が変わらないことは、置換積分から従う。ただし曲線をたどる向きを逆にすると符号が変わる。
定理 1.6(勾配の定理)
曲線 C の始点を a とする。終点を b とすると、
∫C∇f⋅dr=f(b)−f(a).(1.18)
証明
(1.3) より ∇f(r(t))⋅dtdr=dtdf(r(t)) である。よって左辺は
∫abdtdf(r(t))dt=f(r(b))−f(r(a))
に等しい。
勾配の場の線積分は端点だけで決まり、途中の道筋によらない。とくに閉曲線についての勾配の場の線積分は 0 である。
Gauss の発散定理
定理 1.7(Gauss の発散定理)
有界な領域 V の境界が、区分的に滑らかな閉曲面 ∂V であるとする。ベクトル場 A は、V とその境界を含む範囲で連続的に微分できるとする。法線を外向きにとると
∫V∇⋅AdV=∮∂VA⋅dS.(1.19)
証明
両辺は A について線形なので、A=Azez の場合
∫V∂z∂AzdV=∮∂VAznzdS(1.20)
を示し、x 成分・y 成分についても同じ式を示して足せばよい。
まず V が「z 方向に単純」な場合を考える。これは、V を底の平面へ射影した領域を D として
V={(x,y,z):(x,y)∈D, g1(x,y)≤z≤g2(x,y)}
と書ける場合のことである。z について先に積分すると、微分積分学の基本定理から
∫V∂z∂AzdV=∫D[Az(x,y,g2(x,y))−Az(x,y,g1(x,y))]dxdy
となる。境界の各部分で、面積要素を xy 平面へ射影したものは次のとおりである。
- 上の面 z=g2:外向き法線が上を向く(nz>0)。よって nzdS=dxdy。
- 下の面 z=g1:外向き法線が下を向くので、nzdS=−dxdy。
- 側面(あれば):nz=0 なので寄与しない。
したがって右辺の第1項は上の面での ∮AznzdS に等しい。第2項(負号を含めて)は下の面での ∮AznzdS に等しく、(1.20) が成り立つ。
一般の領域は、有限個の「z 方向に単純」な小領域に切り分けられるとする(入門で扱う領域はすべてこの形にできる)。各小領域で (1.20) が成り立ち、左辺を足すと V 全体の積分になる。右辺を足すと、切り口の面は隣り合う2つの小領域の両方の表面に、逆向きの外向き法線で現れるので打ち消し合い、もとの境界 ∂V の寄与だけが残る。
(1.6) はこの定理を小さな領域に当てはめたものと見ることもでき、発散の定義が座標の取り方によらないことを示している。
例題 1.2 球での発散定理の確認 ★★
オリジナル半径 R の球 r≤R をとる。ベクトル場 A=(x3,y3,z3) について、(1.19) の両辺を別々に計算して一致することを確かめよ。球面上の積分には ∫r=Rx4dS=54πR6 を使ってよい(確認テスト 1.2-4 で示す)。
解答
左辺:∇⋅A=3x2+3y2+3z2=3r2 である。球の体積要素を dV=4πr2dr の球殻に分けると
∫V3r2dV=∫0R3r2⋅4πr2dr=512πR5.
右辺:球面上の外向き単位法線は n=r/R なので
A⋅n=Rx4+y4+z4.
球の対称性から x4,y4,z4 の球面積分は等しく、
∮A⋅dS=R3⋅54πR6=512πR5.
両辺は一致する。
例題 1.3 地球の帯びている電荷の見積もり ★★
オリジナル晴れた日の地表付近には、鉛直下向きに大きさ E0≈100Vm−1 程度の電場がある。電場は Gauss の法則の微分形 ∇⋅E=ρ/ε0(第2章 §2.2 で導く)に従うものとする。
発散定理を使ってこれを積分形に書き直し、地球(大気の下層を含めない固体の地球)が帯びている全電荷 Q を見積もれ。地球を半径 R=6.37×106m の球とし、電場は地表のどこでも同じ大きさで球面に垂直とする。ε0=8.85×10−12Fm−1 である。
解答
地表のすぐ外側の球面 S で囲まれた領域 V に発散定理を当てはめると
∮SE⋅dS=∫V∇⋅EdV=ε01∫VρdV=ε0Q
となる。電場は下向き、つまり外向き法線と逆向きなので E⋅n=−E0 であり、左辺は −E0⋅4πR2 である。したがって
Q=−4πε0R2E0=−4π×(8.85×10−12)×(6.37×106)2×100C≈−4.5×105C.
地球は約 4.5×105C の負電荷を帯びている。これを地表の面積 4πR2≈5.1×1014m2 で割ると、表面電荷密度は
−ε0E0≈−8.9×10−10Cm−2
である。これは 1m2 あたり電子約 5.5×109 個の過剰に当たる。
Green の恒等式
発散定理を A=ϕ∇ψ に当てはめると、静電場の理論でくり返し使う2つの恒等式が得られる。
系 1.8(Green の恒等式)
領域 V で2回連続的に微分できるスカラー場 ϕ,ψ について
∫V(ϕ∇2ψ+∇ϕ⋅∇ψ)dV∫V(ϕ∇2ψ−ψ∇2ϕ)dV=∮∂Vϕ∇ψ⋅dS,=∮∂V(ϕ∇ψ−ψ∇ϕ)⋅dS.(1.21)(1.22)
証明
(1.14) で f=ϕ、A=∇ψ とおくと
∇⋅(ϕ∇ψ)=ϕ∇2ψ+∇ϕ⋅∇ψ
である。これを発散定理に入れると (1.21) を得る。(1.22) の証明は確認テスト 1.2-3 とする。
(1.21) で ϕ=ψ とおくと
∫V∣∇ψ∣2dV=∮∂Vψ∇ψ⋅dS−∫Vψ∇2ψdV
となる。第2章では、この式を2つの解の差に当てはめて、Poisson 方程式の解が境界条件で一意に決まることを示す。
Stokes の定理
定理 1.9(Stokes の定理)
向きのついた区分的に滑らかな曲面 S の縁を、閉曲線 ∂S とする。その向きは、法線 n の向きに右ねじが進むように回す向きにとる(図 1.2)。A が S を含む範囲で連続的に微分できるとき
∫S(∇×A)⋅dS=∮∂SA⋅dr.(1.23)

図 1.2 Stokes の定理の向きの約束。曲面 S の法線 n が上を向くとき、縁 ∂S は上から見て反時計回りにたどる。
証明は2段に分ける。まず平面の場合(Green の定理)を示し、次に曲面をパラメータで平面の領域に写して一般の場合に帰着させる。
補題 1.10(平面の Green の定理)
uv 平面の有界な領域を D とする。その縁 ∂D を反時計回りにたどる。滑らかな関数 P(u,v)、Q(u,v) について
∮∂D(Pdu+Qdv)=∫D(∂u∂Q−∂v∂P)dudv.(1.24)
証明
P の項を示す。D が v 方向に単純で、次の形に書けるとする。
D={a≤u≤b, h1(u)≤v≤h2(u)}
v について先に積分すると
−∫D∂v∂Pdudv=−∫ab[P(u,h2(u))−P(u,h1(u))]du.
反時計回りにたどるとき、縁の各部分は次のように進む。
- 下の縁 v=h1(u):u の増える向き。
- 上の縁 v=h2(u):u の減る向き。
- 左右の縁(直線 u=a, u=b の上の線分。あれば):du=0 なので寄与しない。
したがって
∮Pdu=∫abP(u,h1)du−∫abP(u,h2)du
となり、上の式と一致する。
Q の項も u 方向に単純な形で同様に示せる。一般の D は単純な小領域に切り分け、内側の切り口が逆向きに2回たどられて打ち消し合うことを使う。
Stokes の定理の証明
曲面 S を、平面の領域 D からの写像で表す。写像を r(u,v) と書く。偏微分を ru=∂u∂r、rv=∂v∂r と書くと、面積要素ベクトルは
dS=(ru×rv)dudv
である。パラメータは、D の縁を反時計回りにたどると ∂S が定理の向きにたどられるように選んでおく。縁の上では dr=rudu+rvdv なので、右辺は
∮∂SA⋅dr=∮∂D[(A⋅ru)du+(A⋅rv)dv]
となる。補題 1.10 を P=A⋅ru、Q=A⋅rv で使うと、
∂u∂Q−∂v∂P=∂u∂A⋅rv+A⋅rvu−∂v∂A⋅ru−A⋅ruv=∂u∂A⋅rv−∂v∂A⋅ru
となる(2階の混合偏微分 ruv=rvu の項が消えた)。一方、任意のベクトル a,b について (1.17) から
(∇×A)⋅(a×b)=i,j,k,l,m∑ϵijkϵilm∂jAkalbm=b⋅((a⋅∇)A)−a⋅((b⋅∇)A)(1.25)
が成り立つ。ここで (a⋅∇)A は、場を a 方向に方向微分したベクトルである。a=ru、b=rv とすると、連鎖律から
(ru⋅∇)A=∂u∂A,(rv⋅∇)A=∂v∂A
なので、
(∇×A)⋅(ru×rv)=∂u∂A⋅rv−∂v∂A⋅ru
となる。これは上で得た ∂u∂Q−∂v∂P に等しい。D で積分すれば左辺 ∫S(∇×A)⋅dS に一致する。曲面全体を1つのパラメータで覆えないときは、覆える小片に分け、内側の縁が逆向きに2回たどられて打ち消し合うことを使う。
この証明は、小さな平面片についての (1.10) がどんな向きでも成り立つことも同時に示している。Stokes の定理から、同じ閉曲線 C を縁とする2つの曲面 S1,S2 では、回転の流束が等しい。左辺は曲面の形によらず、縁だけで決まる。
例題 1.4 半球面と円板での Stokes の定理 ★★
オリジナルベクトル場を A=(−y,x,0) とする。xy 平面上の半径 R の円を考え、上から見て反時計回りにたどる。これを C とする。
循環 ∮CA⋅dr を直接計算せよ。
C を縁とする次の2つの曲面のそれぞれで、∫(∇×A)⋅dS を計算し、1 と一致することを確かめよ。
- 上半球面 S1:球面 r=R の上半分。法線は外向き。
- 円板 S2:z=0。法線は +ez。
解答
- 円を r(t)=(Rcost,Rsint,0)(0≤t≤2π)と表すと
dtdr=(−Rsint,Rcost,0),A=(−Rsint,Rcost,0)
となる。したがって
∮CA⋅dr=∫02π(R2sin2t+R2cos2t)dt=2πR2.
- 前節の例のとおり ∇×A=2ez である。円板 S2 では ∫2ez⋅ezdS=2πR2 となる。半球面 S1 では外向き法線が n=r/R である。z 軸からの角を θ とすると
ez⋅n=Rz=cosθ
となる。球面の面積要素 dS=R2sinθdθdφ(1.4 節で導く)を使うと
∫S12ez⋅dS=2R2∫02πdφ∫0π/2cosθsinθdθ=2R2⋅2π⋅21=2πR2.
どちらも 1 の循環に等しい。cosθdS は、面積要素を xy 平面へ射影したものである。そのため半球面の結果も、円板の面積 πR2 に 2 を掛けたものになっている。
確認テスト
オリジナル
- 1.2-1 f=xyz とする。原点から点 (1,2,3) へ向かう任意の曲線を C とする。∫C∇f⋅dr を求めよ。
- 1.2-2 単位立方体 0≤x,y,z≤1 とベクトル場 A=(x2,y2,z2) について、発散定理の両辺をそれぞれ計算して一致を確かめよ。
- 1.2-3 Green の第1恒等式 (1.21) から第2恒等式 (1.22) を導け。
- 1.2-4 半径 R の球面上の積分 ∫r=Rx4dS=4πR6/5 を示せ。
- 1.2-5 A=(−y3,x3,0) とする。xy 平面上の半径 a の円(上から見て反時計回り)について、Stokes の定理の両辺をそれぞれ計算して一致を確かめよ。
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