電磁気学入門 第1章 §1.4 ★★ 球対称・軸対称な問題を解くための円柱座標と球座標の公式
点電荷や導体球のまわりの場は球対称であり、直線電流や同軸ケーブルのまわりの場は軸対称である。こうした問題では、対称性に合った座標を使うと方程式が1変数の常微分方程式に帰着する。この節では直交曲線座標の一般論から始め、円柱座標と球座標での勾配・発散・回転・ラプラシアンを導く。
直交曲線座標とスケール因子
3つの数 (u1,u2,u3) で空間の点 r(u1,u2,u3) を表すとする。ui だけを動かしたときに点が描く曲線を ui 曲線と呼ぶ。その接ベクトルを
∂ui∂r=hiei,hi=∂ui∂r(1.34)
と書く。hi をスケール因子と呼ぶ。ei は ui 方向の単位ベクトルである。
各点で e1,e2,e3 が互いに直交し、この順に右手系をなすとき、(u1,u2,u3) を直交曲線座標という。直交座標と違い、ei の向きは点ごとに変わる。
微小変位は dr=∑ihiduiei と書ける。長さの2乗と体積要素は、直交性から
ds2=h12du12+h22du22+h32du32,dV=h1h2h3du1du2du3(1.35)
となる。u1= 一定の面の面積要素は h2h3du2du3 である。
円柱座標 (s,φ,z) は次の式で定める。
x=scosφ,y=ssinφ,z=z
s は z 軸からの距離である。電荷密度の記号と区別するため、この本ではこの距離を s と書く。r を微分すると
∂s∂r=(cosφ,sinφ,0),∂φ∂r=s(−sinφ,cosφ,0),∂z∂r=(0,0,1)
なので、スケール因子は (hs,hφ,hz)=(1,s,1) である。
球座標 (r,θ,φ) は次の式で定める(図 1.4)。
x=rsinθcosφ,y=rsinθsinφ,z=rcosθ
θ は z 軸から測った角である。その範囲は 0≤θ≤π である。φ は、点を xy 平面へ射影したものが横軸となす角である。微分すると
∂r∂r∂θ∂r∂φ∂r=(sinθcosφ, sinθsinφ, cosθ),=r(cosθcosφ, cosθsinφ, −sinθ),=rsinθ(−sinφ, cosφ, 0)
で、3つは互いに直交する。スケール因子は (hr,hθ,hφ)=(1,r,rsinθ) である。体積要素と、半径 R の球面の面積要素は
dV=r2sinθdrdθdφ,dS=R2sinθdθdφ
となる。

図 1.4 球座標 (r,θ,φ) と、点ごとに向きの変わる単位ベクトル er,eθ,eφ。この順に右手系をなす。
一般の公式
定理 1.17(直交曲線座標での微分演算)
直交曲線座標 (u1,u2,u3) をとる。スカラー場 f とベクトル場 A=∑iAiei について次が成り立つ。
∇f∇⋅A(∇×A)1∇2f=i=1∑3hi1∂ui∂fei,=h1h2h31[∂u1∂(h2h3A1)+∂u2∂(h3h1A2)+∂u3∂(h1h2A3)],=h2h31[∂u2∂(h3A3)−∂u3∂(h2A2)](ほかの成分は添字を 1→2→3→1 と巡回),=h1h2h31[∂u1∂(h1h2h3∂u1∂f)+∂u2∂(h2h3h1∂u2∂f)+∂u3∂(h3h1h2∂u3∂f)].(1.36)(1.37)(1.38)(1.39)
証明
勾配:f の変化を2通りに書く。
dfdf=i∑∂ui∂fdui,=∇f⋅dr=i∑(∇f)ihidui.(偏微分の定義)((1.3) と dr=∑ihiduiei)
dui の係数を比べて (∇f)i=hi1∂ui∂f を得る。
発散:(1.6) を、座標の値が ui から ui+Δui までの小さな体積要素に使う。u1 一定の2つの面では、外向き法線が ±e1 である。面積は h2h3Δu2Δu3 である。ここでスケール因子も場所によって変わることに注意すると、2つの面からの流出の和は
[(h2h3A1)u1+Δu1−(h2h3A1)u1]Δu2Δu3≈∂u1∂(h2h3A1)Δu1Δu2Δu3
となる。3組の面を足し、体積 h1h2h3Δu1Δu2Δu3 で割れば (1.37) を得る。
回転:(1.10) を、u1 一定の面上の小さな長方形に使う。その辺の長さは、2番目の座標の方向に h2Δu2、3番目の方向に h3Δu3 である。e1 の向きに右ねじが進む向きにたどると、(1.9) と同じ組み合わせ方で、循環は
[∂u2∂(h3A3)−∂u3∂(h2A2)]Δu2Δu3
となる。辺の長さに含まれるスケール因子が微分の中に入る点が直交座標との違いである。面積 h2h3Δu2Δu3 で割れば (1.38) を得る。
ラプラシアン:(1.37) に Ai=hi1∂ui∂f を入れればよい。
ここでの導出は、発散と回転が座標によらず (1.6) と (1.10) で決まることを使っている。1.2 節の積分定理が、その座標によらない性格を保証している。
円柱座標と球座標の公式
スケール因子を (1.36)〜(1.39) に入れると、次の公式を得る。
円柱座標 (s,φ,z)、(hs,hφ,hz)=(1,s,1)
∇f∇⋅A∇×A∇2f=∂s∂fes+s1∂φ∂feφ+∂z∂fez,=s1∂s∂(sAs)+s1∂φ∂Aφ+∂z∂Az,=(s1∂φ∂Az−∂z∂Aφ)es+(∂z∂As−∂s∂Az)eφ+s1(∂s∂(sAφ)−∂φ∂As)ez,=s1∂s∂(s∂s∂f)+s21∂φ2∂2f+∂z2∂2f.
球座標 (r,θ,φ)、(hr,hθ,hφ)=(1,r,rsinθ)
∇f∇⋅A∇×A∇2f=∂r∂fer+r1∂θ∂feθ+rsinθ1∂φ∂feφ,=r21∂r∂(r2Ar)+rsinθ1∂θ∂(sinθAθ)+rsinθ1∂φ∂Aφ,=rsinθ1(∂θ∂(sinθAφ)−∂φ∂Aθ)er+r1(sinθ1∂φ∂Ar−∂r∂(rAφ))eθ+r1(∂r∂(rAθ)−∂θ∂Ar)eφ,=r21∂r∂(r2∂r∂f)+r2sinθ1∂θ∂(sinθ∂θ∂f)+r2sin2θ1∂φ2∂2f.
球座標の勾配の公式を使うと、たとえば ∇(1/r)=−er/r2 がすぐに得られる。発散の公式で Ar=1/r2、Aθ=Aφ=0 とすると、発散は
r21∂r∂(1)=0
となり、例題 1.1 の 3 と一致する。
単位ベクトルの微分
曲線座標の単位ベクトルは場所によって向きが変わるので、ベクトル場を微分するときは単位ベクトルも微分しなければならない。球座標の単位ベクトルを直交座標の成分で書くと
ereθeφ=(sinθcosφ, sinθsinφ, cosθ),=(cosθcosφ, cosθsinφ, −sinθ),=(−sinφ, cosφ, 0)
であり、これを微分すると次の関係が得られる。
- ∂θ∂er=eθ、∂φ∂er=sinθeφ。
- ∂θ∂eθ=−er、∂φ∂eθ=cosθeφ。
- ∂φ∂eφ=−sinθer−cosθeθ。
- ほかの組み合わせはすべて 0。
このため、ベクトル場のラプラシアン ∇2A を曲線座標の成分ごとに (∇2Ar,∇2Aθ,∇2Aφ) と計算すると誤りになる。曲線座標で ∇2A が必要なときは、(1.16) を逆に使って ∇2A=∇(∇⋅A)−∇×(∇×A) から求める。
例題 1.6 球座標のラプラシアンと調和関数 ★★
オリジナル
- r>0 で f=r2cosθ のラプラシアンを球座標の公式で計算せよ。
- 同じ関数を直交座標で z/r3 と書き、例題 1.1 と恒等式を使って ∇2(z/r3) を計算し、1 と一致することを確かめよ。
- F=−∇f を球座標の成分で求めよ。
解答
- f は φ によらない。動径の項は
r21∂r∂(r2⋅r3−2cosθ)=r21∂r∂(−r2cosθ)=r42cosθ
であり、角度の項は
r2sinθ1∂θ∂(sinθ⋅r2−sinθ)=r4sinθ−2sinθcosθ=−r42cosθ
である。足して ∇2f=0 となる。よって f は r>0 で調和関数である。
- ∂z∂r−1=−z/r3 より、z/r3=∂z∂(−r1) である。ラプラシアンと ∂z∂ は交換するので
∇2r3z=−∂z∂∇2r1
である。例題 1.1 の n=−1 の計算から、原点の外では ∇2(1/r)=0 である。よって結果は 0 となり、1 と一致する。
- 勾配の公式から
F=−∇f=−∂r∂fer−r1∂θ∂feθ=r32cosθer+r3sinθeθ.
これは第3章 §3.5 で扱う電気双極子の電場と同じ角度依存性を持つ。
確認テスト
オリジナル
1.4-1 円柱座標で、半径 a、高さ L の円柱の側面積と体積を、(1.35) の面積要素と体積要素を積分して求めよ。
1.4-2 rn の球座標でのラプラシアンを求めよ。また、r>0 で調和関数になる n をすべて求めよ。
1.4-3 円柱座標で次を計算せよ。
- (a) A=ses の発散と回転。
- (b) B=seφ の回転と、F=eφ/s の回転。後者は s>0 で考える。
1.4-4 円柱座標の単位ベクトルは次のとおりである。
es=(cosφ,sinφ,0),eφ=(−sinφ,cosφ,0)
∂φ∂es と ∂φ∂eφ を求めよ。それを使い、A=Ases の発散を直交座標の発散の定義から計算せよ。ただし As は s だけの関数とする。結果が円柱座標の公式と一致することを示せ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com