電磁気学入門 第8章 §8.4 ★★★ 電荷に働く力を場だけで書くと、運動量密度 ε0E×B と運動量の流れ(応力テンソル)の保存則になる
場は運動量を持つ
§8.3 ではエネルギーについて、電荷の力学的エネルギーと場のエネルギーの和が保存することを見た。運動量についても同じことを考える。
離れた2つの電荷が互いに及ぼす電磁的な力は、一般には作用・反作用の法則を満たさない。例えば、ある瞬間に一方の電荷がもう一方の位置につくる磁場はその電荷の速度と位置で決まり、2つの電荷に働く Lorentz 力は大きさが同じで向きが逆になるとは限らない。それでも全運動量が保存するためには、電荷の運動量の不足分を場が持っていなければならない。§8.3 と同じ方法で、Lorentz 力を場だけで書き直すと、その運動量の形が分かる。
力の密度を場で書く
電荷と電流が場から受ける力の密度(単位体積あたりの力)は
f=ρE+J×B(8.31)
である。(8.6) と (8.9) で、源を場で置き換える。
ρ=ε0∇⋅E,J=μ01∇×B−ε0∂t∂E.
すると
f=ε0(∇⋅E)E+μ01(∇×B)×B−ε0∂t∂E×B.
最後の項は、積の微分と (8.8) を使って
∂t∂E×B=∂t∂(E×B)−E×∂t∂B=∂t∂(E×B)+E×(∇×E)
と書き換える。さらに (∇×B)×B=−B×(∇×B) とする。電場と磁場の式の形をそろえるために、0 に等しい項 μ0−1(∇⋅B)B を足すと
f=ε0[(∇⋅E)E−E×(∇×E)]+μ01[(∇⋅B)B−B×(∇×B)]−ε0∂t∂(E×B)(8.32)
となる。
括弧の中を発散の形に直す。第1章 §1.1 の ϵkijϵklm=δilδjm−δimδjl を使うと、任意のベクトル場 V について
[V×(∇×V)]i=ϵijkVjϵklm∂lVm=(δilδjm−δimδjl)Vj∂lVm=Vj∂iVj−Vj∂jVi=21∂i(V2)−(V⋅∇)Vi
となる(同じ添字について 1 から 3 まで和をとる)。したがって
(∇⋅V)Vi−[V×(∇×V)]i=(∂jVj)Vi+Vj∂jVi−21∂i(V2)=∂j(ViVj−21δijV2).(8.33)
定義 8.8(Maxwell 応力テンソル)
Tij=ε0(EiEj−21δijE2)+μ01(BiBj−21δijB2)(i,j=1,2,3)(8.34)
を Maxwell 応力テンソルと呼ぶ。Tij=Tji で、単位は圧力の単位 N/m2 である。
(8.33) を電場と磁場のそれぞれに使い、ε0E×B=S/c2 に注意すると、(8.32) は
fi=∂jTij−c21∂t∂Si(8.35)
となる。
運動量保存則
定理 8.9(電磁場の運動量保存則)
電磁場の運動量密度を
g=ε0E×B=c2S(8.36)
と定めると、Maxwell 方程式から
∂t∂gi−∂jTij=−fi(8.37)
が成り立つ。体積 V の中の電荷の力学的運動量を Pmech とすると、
dtd(Pmech,i+∫VgidV)=∮∂VTijnjdS.(8.38)
証明
(8.37) は (8.35) を移項したものである。体積の中の電荷が受ける力の合計 ∫VfdV は、Newton の運動方程式により dPmech/dt に等しい。(8.35) を体積で積分し、応力の項に発散定理を使えば (8.38) を得る。発散定理は、i ごとにベクトル (Ti1,Ti2,Ti3) へ適用する。
(8.37) をエネルギーの式 (8.27) と並べると、次のように対応している。
| エネルギーの式 | u | Sj | J⋅E |
| 運動量の式 | gi | −Tij | fi |
したがって −Tij は「運動量の i 成分が、単位時間に、ある方向の単位面積を通って流れる量」を表す。その方向が添字 j である。
(8.38) の右辺は、体積の外の場が表面を通して中へ及ぼす力として読める。外向き法線が n の面素に働く力は、dFi=TijnjdS である。
運動量密度 g=S/c2 とエネルギーの流れの関係は、静止質量を持たない粒子の関係 p=E/c と同じ形をしている。エネルギー密度 u が光速で進むとき、その流れは S=cu である。その運動量密度は g=u/c になる。
応力の読み方
- 電場だけがあって E=Ez^ のとき、応力の成分は次のとおりで、非対角成分は 0 である。
Tzz=2ε0E2,Txx=Tyy=−2ε0E2.
- 法線が z^ の面には、外の場から Tzz>0 の力、つまり外へ引く力が働く。電気力線の向きには張力 ε0E2/2 が働いている。
- 法線が x^ の面には Txx<0、つまり面を押す力が働く。電気力線に垂直な向きには圧力 ε0E2/2 が働いている。
- 第3章 §3.1 の導体表面に働く力 σ2/(2ε0)=ε0E2/2(外へ引く向き)は、この張力の例である。磁場についても同じで、磁力線の向きに張力、垂直な向きに圧力 B2/(2μ0) が働く。
相対論との関係と符号
- エネルギー密度・エネルギーの流れ・運動量密度・応力は、第10章と『相対論入門』第6章 §6.3 で1つの 4×4 の対称テンソル Tμν にまとまる。これをエネルギー運動量テンソルと呼び、成分は次のとおりである。
T00=u,T0i=cSi=cgi,Tij=−Tij.
- 空間成分の符号が逆になるのは、Tij を「運動量の流れ」、Tij を「面に働く力」として定義しているためである。
- 『相対論入門』第6章では、Maxwell 応力テンソルを σij と書く(Tij=−σij)。4次元のテンソルの添字を下げた成分と区別するためで、この巻の Tij と同じ量である。
- 2つの保存則 (8.27) と (8.37) は、∂μTμν=−FνλJλ という1本の式の時間成分と空間成分になる。

図 8.3 z=±d に置いた同じ電荷 q。上の電荷を含む半空間 V(z>0)の表面は平面 z=0 で、外向き法線は n=−z^。平面の上の電場は面に平行で、中心から外へ向かう。
例題 8.7 応力テンソルで2つの電荷の間の力を求める ★★
オリジナル図 8.3 のように、点 (0,0,±d) に同じ電荷 q を置く。上の電荷に働く力を、平面 z=0 の上の Maxwell 応力テンソルの面積分で求め、Coulomb の法則の結果と一致することを確かめよ。
解答
静的な場なので運動量密度は時間変化せず、磁場も無い。(8.38) により、上の電荷に働く力は、上の電荷を含む半空間の表面での∮TijnjdS に等しい。表面は平面 z=0 と、遠方の半球面からなる。
遠方では E∝1/r2 なので、応力は Tij∝1/r4 である。半球面の面積は r2 に比例するので、半球面の寄与は r→∞ で 0 になる。
平面 z=0 の上で、軸からの距離 s の点を考える。2つの電荷の電場の z 成分は打ち消し合い、面に平行な成分は足し合わされる。1つの電荷からの距離は s2+d2 なので
Es=2⋅4πε0q(s2+d2)3/2s=2πε0q(s2+d2)3/2s,Ez=0.
外向き法線は n=−z^ なので、力の z 成分と応力は
Fz=∫TzjnjdS=−∫TzzdS,Tzz=ε0(0−21Es2)=−2ε0Es2
である(Ez=0 を使った)。よって
Fz=∫0∞2ε0Es22πsds=2ε04π2ε02q22π∫0∞(s2+d2)3s3ds.
積分は w=s2 とおくと
∫0∞(s2+d2)3s3ds=21∫0∞(w+d2)3wdw=21∫0∞[(w+d2)21−(w+d2)3d2]dw=21(d21−2d4d2)=4d21
となる。したがって
Fz=4πε0q2⋅4d21=4πε0(2d)2q2.
力の x,y 成分は 0 である。電場の軸方向の成分が 0 なので、Txz=ε0ExEz も同様の Tyz も 0 になるからである。力は +z 向き(上の電荷を押し上げる斥力)で、大きさは距離 2d の Coulomb 力に一致する。面の上では電気力線は面に平行なので、その垂直な向きの圧力 ε0Es2/2 が面を押し、2つの電荷を引き離していると読める。
放射圧
平面波が物体の表面に垂直に当たると、場の運動量が物体に移り、物体は押される。これが放射圧である。+z 向きに進む平面波では、電場と磁場はともに z 軸に垂直である。Ez=Bz=0 だから
Tzz=−2ε0E2−2μ01B2=−u
である。
−Tzz=u は、進む向きの運動量が、単位時間にその向きの単位面積を通って流れる量である。これは c⋅g=c⋅u/c=u と一致する。光を完全に吸収する面では、流れ込んだ運動量がすべて面に移るので、面が受ける圧力は時間平均で ⟨u⟩=⟨S⟩/c である。完全に反射する面では、運動量の向きが逆になるので、圧力はその2倍の 2⟨S⟩/c になる。
例題 8.8 太陽光の放射圧と光の帆 ★★
オリジナル例題 8.6 の太陽光(⟨S⟩=1361W/m2)について答えよ。
- 太陽光を完全に吸収する面と、完全に反射する面が受ける放射圧を求めよ。
- 一辺 100m の正方形の完全反射の帆を、太陽光に垂直に向ける。帆が受ける力を求めよ。帆と探査機を合わせた質量を 100kg として加速度を求めよ。
それを、地球の軌道の位置での太陽の重力加速度 GM⊙/r2 と比べよ。値は次のとおりである。
GM⊙=1.327×1020m3/s2,r=1.496×1011m.
解答
- 2つの面の放射圧は次のとおりである。
吸収面:p反射面:p=⟨S⟩/c=1361/(2.998×108)Pa=4.54×10−6Pa,=2⟨S⟩/c=9.08×10−6Pa.
大気圧 1.0×105Pa の約 10−10 倍である。2. 面積は 1.0×104m2 なので、力と加速度は
F=(9.08×10−6)(1.0×104)N=9.08×10−2N,mF=9.08×10−4m/s2
である。太陽の重力加速度は
r2GM⊙=(1.496×1011)21.327×1020m/s2=5.93×10−3m/s2
で、放射圧による加速度はその約 0.15 倍になる。放射圧も重力も太陽からの距離の2乗に反比例するので、この比は距離によらない。加速度は小さいが燃料を使わずに働き続けるので、1年(3.16×107s)続けば速度の変化は 2.9×104m/s に達する(向きや距離の変化を無視した見積もり)。
場の角運動量
- 運動量密度 g を持つ場は、原点のまわりの角運動量密度 r×g を持つ。
- 静止した電荷と磁石のように、静的で E×B=0 の配置では、場の角運動量が 0 でないことがある。このとき磁場を切ると、誘導電場が電荷にトルクを及ぼし、場の角運動量が電荷の力学的な角運動量に移る。全体の角運動量は保存する。
確認テスト
オリジナル
- 8.4-1 運動量密度 g=ε0E×B の単位が kg/(m2⋅s)(運動量/体積)であることを確かめよ。また、エネルギー U を運ぶ光のパルスが壁に完全に吸収されたとき、壁が受け取る運動量の大きさを求めよ。
- 8.4-2 出力 1.0W のレーザー光を鏡に垂直に当てて完全に反射させる。鏡が受ける力を求めよ。
- 8.4-3 内部に一様な磁場 B=10T をつくる長いソレノイドがある。外部の磁場は無視できるとする。巻き線の単位面積が外向きに受ける力(磁気圧)を応力テンソルから求め、気圧(1atm=1.013×105Pa)で表せ。
- 8.4-4 任意の(滑らかな)ベクトル場 V について、恒等式 (8.33) を、V×(∇×V) を経由せず成分の計算で直接確かめよ。すなわち右辺 ∂j(ViVj−21δijV2) を展開し、左辺に一致することを示せ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com