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なぜ測度から始めるか

2026年10月15日10分で読めますAI生成教科書『基礎理論』第1章 確率空間
目次
  1. 数え上げの確率とその限界
  2. 可算加法性が要る理由
  3. すべての部分集合には確率を割り当てられない
  4. 確認テスト
  5. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

確率論入門 第1章 §1.1 ★★ 数え上げの確率では連続な現象と極限の議論を扱えない。σ加法性を要求すると、確率を割り当てられる集合を制限する必要が生じる

確率論の対象は、偶然に左右される現象である。サイコロの目、粒子が崩壊するまでの時間、株価の動き、無限に続けるコイン投げの表の割合など、扱う現象は多様だが、数学の側から見ると必要な材料は次の3つしかない。

  1. 起こりうる結果をすべて集めた集合 Ω\Omega。
  2. 確率を割り当てたい部分集合(事象)の集まり F\mathcal F。
  3. 各事象に 0 以上 1 以下の数を割り当てる関数 PP。

この3つ組 (Ω,F,P)(\Omega,\mathcal F,P) を確率空間と呼ぶ。

この章では、なぜ3つ目の材料だけでなく2つ目の F\mathcal F が要るのかを説明する。そのうえで F\mathcal F が満たすべき条件(σ\sigma加法族)を定める。次に PP が満たすべき条件(確率測度の公理)を定める。

そこから包除原理・単調性・劣加法性・連続性といった、あとの全章で使う基本公式を導く。最後に、実数の上の確率を扱うための標準的な事象の族である Borel 集合族を定義する。

この章は前提知識として、集合の演算(和・共通部分・補集合)と、実数の級数の収束だけを使う。ここで作った確率空間の上に、第2章では区間の長さから出発して確率測度を実際に構成し、第3章では確率変数を「Ω\Omega 上の関数で、Borel 集合の逆像が事象になるもの」として定義する。第4章の Borel–Cantelli の補題は、§1.2 で導入する事象の上極限と、§1.4 の連続性をそのまま使う。

数え上げの確率とその限界

標本空間が有限集合 Ω={ω1,…,ωN}\Omega=\{\omega_1,\dots,\omega_N\} で、どの結果も同じくらい起こりやすいときは、部分集合 A⊂ΩA\subset\Omega の確率を

P(A)=∣A∣N(1.1)P(A)=\frac{\left\vert A\right\vert }{N}\tag{1.1}

で定めればよい(∣A∣\left\vert A\right\vert は AA の要素の個数)。これは Laplace 以来の古典的な定義で、サイコロやトランプの問題はこれで足りる。この PP は Ω\Omega のすべての部分集合に定義される。さらに、互いに交わらない A,BA,B について次の加法性を満たす。

P(A∪B)=P(A)+P(B).P(A\cup B)=P(A)+P(B).

ところが「区間 [0,1][0,1] から一様に1点を選ぶ」という現象を考えると、この方法は使えなくなる。Ω=[0,1]\Omega=[0,1] は無限集合なので、要素の個数の比を取ることができない。代わりに自然な要請として、部分区間に入る確率はその長さに等しいとする。

P([a,b])=b−a(0≤a≤b≤1).(1.2)P\bigl([a,b]\bigr)=b-a\qquad(0\le a\le b\le1).\tag{1.2}

すると a=ba=b とおいて、1点 {x}\{x\} の確率は 0 になる。1点の確率がすべて 0 なのに全体の確率は 1 なので、確率を「1点ずつの確率の和」として求めることはできない。数え上げの確率と同じ考え方で全体を組み立てることは、ここで不可能になる。

可算加法性が要る理由

区間の長さだけを決めても、それだけでは「有理数が選ばれる確率」のような量が決まらない。有理数の集合 Q∩[0,1]\mathbb Q\cap[0,1] は区間ではないからである。そこで、確率の規則として次の可算加法性(σ\sigma加法性)を要求する。互いに交わらない集合の列 A1,A2,…A_1,A_2,\dots について

P(⋃n=1∞An)=∑n=1∞P(An).(1.3)P\Bigl(\bigcup_{n=1}^{\infty}A_n\Bigr)=\sum_{n=1}^{\infty}P(A_n).\tag{1.3}

有理数は r1,r2,…r_1,r_2,\dots と番号を付けて並べられる(可算である)。そこで (1.3) を1点集合 {rn}\{r_n\} の列に使えば、次を得る。

P(Q∩[0,1])=∑n0=0.P(\mathbb Q\cap[0,1])=\sum_n 0=0 .

有限個の和についての加法性だけでは、この結論は出ない。

可算加法性は、極限を含む事象を扱うためにも欠かせない。たとえば、コインを投げ続けて「いつかは表が出る」という事象は、「第 nn 回に初めて表が出る」という互いに交わらない事象 BnB_n の可算個の和である。公平なコインなら P(Bn)=2−nP(B_n)=2^{-n} なので、(1.3) から

P(⋃n=1∞Bn)=∑n=1∞2−n=1P\Bigl(\bigcup_{n=1}^\infty B_n\Bigr)=\sum_{n=1}^\infty 2^{-n}=1

が出る。大数の法則(第12章)や中心極限定理(第13章)のように無限個の試行を扱う定理は、すべてこの種の議論の上に成り立っている。

すべての部分集合には確率を割り当てられない

ここで問題が起こる。区間の長さを延長する関数 Leb\mathrm{Leb} を、[0,1)[0,1) のすべての部分集合に可算加法性を保って定義することはできない。さらに一様分布として自然な性質、すなわち「集合を(端で折り返しながら)平行移動しても確率は変わらない」を課すと、矛盾が導ける。その筋を示す(この節の議論は証明の細部まで追わなくても、以下の章の理解に支障はない)。

2点 x,y∈[0,1)x,y\in[0,1) の差が有理数のとき、x∼yx\sim y と書く。∼\sim は同値関係になるので、[0,1)[0,1) は互いに交わらない同値類に分かれる。各同値類から代表を1つずつ選んで集めた集合を VV とする(G. Vitali による構成。すべての同値類から一斉に1つずつ選ぶ操作には選択公理を使う)。

有理数 q∈Q∩[0,1)q\in\mathbb Q\cap[0,1) を1つ取る。VV を qq だけずらす。1 を超えた分は 0 の側へ折り返す。こうして集合

Vq={ v+q−⌊v+q⌋:v∈V }V_q=\{\,v+q-\lfloor v+q\rfloor : v\in V\,\}

を作る。このとき次の2つが成り立つ。

  1. VqV_q たちは互いに交わらない。 VqV_q と Vq′V_{q'} が共通の点を持つとする。すると VV の2つの代表の差が有理数になる。代表の選び方から2つは同じ点なので、q=q′q=q' となる。
  2. VqV_q たちの和は [0,1)[0,1) 全体になる。任意の点 zz はどれかの同値類に属する。その代表を vv とすると、差 z−vz-v は有理数である。よって zz はある VqV_q に入る。

もし VV に平行移動で不変な長さ Leb(V)\mathrm{Leb}(V) が割り当てられたなら、可算加法性から

1=Leb([0,1))=∑q∈Q∩[0,1)Leb(Vq)=∑q∈Q∩[0,1)Leb(V)(1.4)1=\mathrm{Leb}\bigl([0,1)\bigr)=\sum_{q\in\mathbb Q\cap[0,1)}\mathrm{Leb}(V_q)=\sum_{q\in\mathbb Q\cap[0,1)}\mathrm{Leb}(V)\tag{1.4}

となる。右辺は次のどちらかで、どちらも 1 にならない。

  • Leb(V)=0\mathrm{Leb}(V)=0 なら、右辺は 0。
  • Leb(V)>0\mathrm{Leb}(V)>0 なら、右辺は +∞+\infty。

したがって VV には長さを割り当てられない。

この矛盾を避ける方法は、確率を割り当てる集合を初めから制限することである。ただし制限しすぎると、有理数の集合や「いつかは表が出る」のような、可算個の操作で作られる事象まで扱えなくなる。そこで「補集合と可算個の和を取る操作で閉じた集合族」に話を限る。

これが §1.3 の σ\sigma加法族であり、その上に可算加法的な関数として確率を定める。長さ・面積・体積と同じ構造を持つこの関数を測度と呼び、確率論を測度から始める理由はここにある。

この節の論点の整理

  • 連続な現象では1点の確率が 0 になるので、確率を1点ずつの和として作れない。
  • 極限を含む事象を扱うには、有限加法性でなく可算加法性 (1.3) が必要になる。
  • 可算加法性と平行移動不変性を両方満たす長さは、すべての部分集合には定義できない(Vitali 集合)。
  • したがって、確率を割り当てる集合の族 F\mathcal F を、可算個の操作で閉じた範囲に制限する。

例題 1.1 有理数を覆う短い区間の列 ★★

オリジナル[0,1][0,1] から一様に1点を選ぶ確率 PP は、区間に対して (1.2) を満たし、さらに次の2つの性質を持つとする。

  • 単調性:A⊂BA\subset B なら P(A)≤P(B)P(A)\le P(B)。
  • 可算劣加法性:任意の集合の列 A1,A2,…A_1,A_2,\dots について P(⋃nAn)≤∑nP(An)P\bigl(\bigcup_n A_n\bigr)\le\sum_n P(A_n)。

(どちらも §1.4 で公理から導く。)

  1. Q∩[0,1]\mathbb Q\cap[0,1] を、長さの合計が ε\varepsilon 以下の区間の列で覆えることを示せ。ここで ε>0\varepsilon>0 は任意とする。
  2. P(Q∩[0,1])=0P(\mathbb Q\cap[0,1])=0 と、無理数が選ばれる確率が 1 であることを示せ。
解答
  1. Q∩[0,1]\mathbb Q\cap[0,1] は可算なので、r1,r2,r3,…r_1,r_2,r_3,\dots と番号を付けて並べる。kk 番目の有理数のまわりに

Ik=[ rk−ε2k+1, rk+ε2k+1 ]∩[0,1]I_k=\Bigl[\,r_k-\frac{\varepsilon}{2^{k+1}},\ r_k+\frac{\varepsilon}{2^{k+1}}\,\Bigr]\cap[0,1]

という区間を置く。rk∈Ikr_k\in I_k なので Q∩[0,1]⊂⋃kIk\mathbb Q\cap[0,1]\subset\bigcup_k I_k である。IkI_k の長さは高々 ε/2k\varepsilon/2^{k} なので、長さの合計は

∑k=1∞ε2k=ε∑k=1∞12k=ε\sum_{k=1}^\infty\frac{\varepsilon}{2^k}=\varepsilon\sum_{k=1}^\infty\frac1{2^k}=\varepsilon

以下になる。2. 単調性と可算劣加法性を順に使うと、

P(Q∩[0,1])≤P(⋃kIk)≤∑k=1∞P(Ik)≤∑k=1∞ε2k=ε.P(\mathbb Q\cap[0,1])\le P\Bigl(\bigcup_k I_k\Bigr)\le\sum_{k=1}^\infty P(I_k)\le\sum_{k=1}^\infty\frac{\varepsilon}{2^k}=\varepsilon .

ε>0\varepsilon>0 は任意なので P(Q∩[0,1])=0P(\mathbb Q\cap[0,1])=0 である。無理数の集合は [0,1][0,1] から Q∩[0,1]\mathbb Q\cap[0,1] を除いたもので、両者は交わらないから、加法性により

P([0,1]∖Q)=P([0,1])−P(Q∩[0,1])=1−0=1.P([0,1]\setminus\mathbb Q)=P([0,1])-P(\mathbb Q\cap[0,1])=1-0=1 .

有理数は [0,1][0,1] のどこにでも稠密に存在するが、確率は 0 である。「どこにでもある」ことと「確率が正である」ことは別の性質であり、確率は集合の要素の個数(可算か非可算か)を反映する。

確認テスト

オリジナル

  1. 1.1-1 [0,1][0,1] 上の一様な確率を PP とする。1点 x∈[0,1]x\in[0,1] の確率が 0 であることを、区間 [x−ε,x+ε]∩[0,1][x-\varepsilon,x+\varepsilon]\cap[0,1] の確率と単調性から示せ。
  2. 1.1-2 [0,1][0,1] から一様に選んだ点が、区間の和

E=⋃n=1∞[12n+1, 12n]E=\bigcup_{n=1}^{\infty}\Bigl[\frac1{2n+1},\ \frac1{2n}\Bigr]

に入る確率を、可算加法性を使って求めよ(区間どうしが交わらないことも確かめよ)。3. 1.1-3 [0,1][0,1] から一様に選んだ点の10進展開に、数字 7 が一度も現れない確率を求めよ(10進展開が2通りある点は可算個しかないので、確率に影響しない)。4. 1.1-4 自然数全体 N={1,2,3,… }\mathbb{N}=\{1,2,3,\dots\} の上で、どの1点にも同じ確率を割り当てる可算加法的な確率は存在しないことを示せ。

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