確率論入門 第1章 §1.3 ★★★ 確率を割り当てる事象の族が満たす3条件。生成されたσ加法族は「最小の」σ加法族として定義する
定義
§1.1 の結論は、確率を割り当てる集合を、補集合と可算個の和で閉じた族に制限することだった。これを定義にする。
定義 1.4(σ加法族・可測空間)
集合 Ω を固定する。その部分集合の族 F が次の3条件を満たすとき、これをσ加法族と呼ぶ。別名は σ集合体、σ代数である。
- (F1) Ω∈F。
- (F2) A∈F ならば Ac∈F。
- (F3) A1,A2,⋯∈F ならば ⋃n=1∞An∈F。
組 (Ω,F) を可測空間と呼び、F の要素を可測集合(確率論では事象)と呼ぶ。
(F3) を有限個の和に弱めたものを有限加法族(集合代数)と呼ぶ。接頭辞の σ は「可算個の和」を表す慣用の記号である(ドイツ語の Summe の頭文字に由来する)。
3つの条件から、ほかの演算についても閉じていることが導ける。
命題 1.5(σ加法族の基本性質)
F を (F1)〜(F3) を満たす族とする。
- ∅∈F。
- A1,…,An∈F ならば
k=1⋃nAk∈F,k=1⋂nAk∈F.
3. A1,A2,⋯∈F ならば ⋂n=1∞An∈F。4. A,B∈F ならば
A∖B∈F,A△B∈F.
5. A1,A2,⋯∈F ならば
nlimsupAn∈F,nliminfAn∈F.
証明
(F1) と (F2) から ∅=Ωc∈F。
An+1=An+2=⋯=∅ とおいて (F3) を使えば、有限個の和が F に入る。共通部分は De Morgan の法則で ⋂kAk=(⋃kAkc)c と書け、(F2) と和の場合から F に入る。
同様に ⋂nAn=(⋃nAnc)c に (F2)・(F3)・(F2) を順に使う。
A∖B=A∩Bc は 2 から F に入る。A△B=(A∖B)∪(B∖A) も、それと 2 から入る。
各 n で ⋃k≥nAk∈F が (F3) から従う。その可算個の共通部分は 3 から F に入る。下極限も同様である。
σ加法族の例
- {∅,Ω}:最小の σ加法族。自明な σ加法族とも呼ぶ。何も観測しない状態を表す。
- 2Ω:最大の σ加法族。Ω のすべての部分集合の族(冪集合)である。Ω が可算なら、通常これを使う。
- A⊂Ω を1つ固定する。{∅,A,Ac,Ω} は「A が起こったかどうか」だけを観測できる状態を表す。
- Ω が非可算のとき、「可算集合、または補集合が可算な集合」の全体(確認テスト 1.3-3)。
有限加法族では足りない例
Ω=N で、「有限集合、または補集合が有限な集合」の全体 A は有限加法族である。しかし偶数全体 {2,4,6,…}=⋃n{2n} は1点集合の可算個の和なのに、有限でも補集合が有限でもないので A に入らない。有限加法族は (F3) を満たさないので、極限の操作で作った事象が族から外れることがある。
σ加法族は「どの事象について情報を得られるか」を表すと読める。例3の {∅,A,Ac,Ω} は「A が起こったかどうかだけを知っている」状態に対応する。σ加法族を大きくすることは、情報が増えることに対応する。この読み方は第14章でフィルトレーション(時刻とともに増える σ加法族の列)として使う。
生成された σ加法族
実際に使う σ加法族は、要素を全部書き並べて与えることがほとんどない。代わりに「この集合たちは事象であってほしい」という集合の族 C を指定し、それを含む最小の σ加法族を使う。その存在を保証するのが次の補題である。
補題 1.6(σ加法族の共通部分)
添字集合 Λ は空でないとする。σ加法族の族 {Fλ}λ∈Λ を考える。どれも Ω 上の族とする。
このとき共通部分 ⋂λ∈ΛFλ も σ加法族である。ここで共通部分とは、すべての Fλ に属する集合の全体のことである。
証明
G=⋂λFλ とおき、3条件を確かめる。
- (F1) どの Fλ も Ω を含む。よって Ω∈G。
- (F2) A∈G とする。A はどの Fλ にも属する。各 Fλ は (F2) を満たすので、Ac もそれぞれに属する。よって Ac∈G。
- (F3) An∈G(n=1,2,…)とする。すべての An はどの Fλ にも属する。各 Fλ は (F3) を満たすので、⋃nAn もそれぞれに属する。よって ⋃nAn∈G。
定義 1.7(生成された σ加法族)
C⊂2Ω を部分集合の族とする。C を含む σ加法族すべての共通部分
σ(C)=⋂{F: F は Ω 上の σ加法族で C⊂F}(1.10)
を、C が生成する σ加法族と呼ぶ。
冪集合 2Ω は C を含む。しかも冪集合は σ加法族なので、右辺は空でない族についての共通部分である。よって補題 1.6 から、σ(C) は σ加法族になる。作り方から、σ(C) は次の2つの性質を持つ。
- C⊂σ(C)。
- 任意の σ加法族 F について、次が成り立つ。
C⊂F ⟹ σ(C)⊂F.
つまり σ(C) は、C を含むものの中で最小である。2番目の性質は証明でよく使う形をしているので、要点として書いておく。
生成された σ加法族についての定石
示したい包含を σ(C)⊂F とする。それには次の2つを示せば足りる。
- F が σ加法族である。
- C⊂F。
σ(C) の要素を1つずつ調べる必要はない。とくに次の2つが成り立てば、σ(C1)=σ(C2) である。
C1⊂σ(C2),C2⊂σ(C1).
一方、σ(C) の要素を具体的に書き並べるのは一般には難しい。C から補集合と可算個の和を「1回」取っただけでは閉じず、それを繰り返しても可算回では閉じないことが知られている。ただし Ω が有限個の集合に分割される場合は、要素を完全に書ける。
命題 1.8(有限分割が生成する σ加法族)
集合 E1,…,Ek は空でなく、互いに交わらないとする。さらに、それらの和は Ω に等しいとする。このとき
σ({E1,…,Ek})={i∈I⋃Ei: I⊂{1,…,k}}(1.11)
であり、要素の個数は 2k である(I=∅ は空集合に対応する)。
証明
右辺を G とおく。
- G は σ加法族である。 I={1,…,k} とすれば Ω∈G となる。⋃i∈IEi の補集合は、分割であることから ⋃i∈/IEi となり、やはり右辺の形をしている。G の要素を可算個取って和をとると、添字集合の和 ⋃nIn に対応する要素になる。
- σ({Ei})⊂G。 Ei∈G は明らかなので、要点の箱の定石から従う。
- G⊂σ({Ei})。 {Ei} を含む σ加法族は有限個の和で閉じている。したがって G のすべての要素を含む。
- 要素の個数は 2k。 Ei は空でなく互いに交わらないので、異なる I からは異なる集合が得られる。よって要素の個数は、{1,…,k} の部分集合の個数 2k に等しい。
分割の各集合 Ei を、この σ加法族の原子と呼ぶ。原子より細かい情報は、この σ加法族からは得られない。

図 1.1 2つの事象 A,B が作る4つの原子。σ({A,B}) の要素は、これらの原子のいくつかの和である。
例題 1.3 2つの事象が生成する σ加法族 ★★★
オリジナル事象 A,B⊂Ω を考える。次の4つの集合はどれも空でないとする。
A∩B,A∩Bc,Ac∩B,Ac∩Bc.
- σ({A,B}) が、図 1.1 の4つの原子が生成する σ加法族に等しいことを示せ。
- σ({A,B}) の要素の個数を求めよ。また、次の3つの集合がそれぞれどの原子の和かを答えよ。
A∪B,A△B,(A∩B)∪(Ac∩Bc).
解答
- 4つの原子を次のようにおく。
E1=A∩B,E2=A∩Bc,E3=Ac∩B,E4=Ac∩Bc.
さらに C1={A,B}、C2={E1,E2,E3,E4} とする。要点の箱の定石を両方向に使う。
- 各 Ei は、A,B とその補集合の共通部分である。よって命題 1.5 により σ(C1) に入り、C2⊂σ(C1) となる。
- A=E1∪E2 と B=E1∪E3 が成り立つ。よって C1⊂σ(C2)。
したがって σ(C1)=σ(C2) である。2. E1,…,E4 は空でなく互いに交わらず、和は Ω である。実際、どの標本点も、A に入るか入らないか、B に入るか入らないかの4通りのどれか1つに当てはまる。命題 1.8 から、要素の個数は 24=16 である。各集合は
A∪B=E1∪E2∪E3,A△B=E2∪E3,(A∩B)∪(Ac∩Bc)=E1∪E4
と書ける。最後の集合は「A と B が同時に起こるか、同時に起こらないか」を表す。これは A△B の補集合である。
一般に n 個の事象が「どの組み合わせの共通部分も空でない」位置にあるとする。このとき原子は 2n 個ある。生成される σ加法族の要素は 22n 個になる。
確認テスト
オリジナル
1.3-1 Ω={1,2,3} とする。次の族が σ加法族かどうかを判定せよ。
- {∅,{1},{2,3},{1,2,3}}
- {∅,{1},{2},{1,2,3}}
1.3-2 Ω={1,2,3,4,5,6} とする。事象 A={1,2} と B={2,3} を考える。σ({A,B}) の原子をすべて求め、要素の個数を答えよ。また、{1,3} が σ({A,B}) に入るかどうかを答えよ。{4} についても同じことを答えよ。
1.3-3 Ω=R とし、F を「可算集合、または補集合が可算な集合」の全体とする(有限集合も可算集合に含める)。F が σ加法族であることを示せ。また、区間 (0,1) が F に入らないことを示せ。
1.3-4 Ω={1,2,3} とする。2つの族 F1=σ({{1}}) と F2=σ({{2}}) を考える。F1∪F2 が σ加法族でないことを示せ。また、σ(F1∪F2) を求めよ。
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