確率論入門 第6章 §6.1 ★★★ 成功・失敗の試行の繰り返しから生まれる分布の一族。数えるだけで平均と分散まで出る
第3章で、確率変数の分布は分布関数と一対一に対応し、離散分布は確率関数で、絶対連続分布は密度で書けることを見た。第5章では、その分布に対する期待値を Lebesgue 積分として作った。この章では、その一般論の上で、実際の計算に繰り返し現れる分布を名前つきで並べる。
扱う分布は次の13個である。
- 離散分布:Bernoulli・二項・幾何・負の二項・Poisson・超幾何の6つ。
- 連続分布:一様・指数・正規・ガンマ・ベータ・Cauchy と多変量正規の7つ。
どの分布についても、それがどういう試行から生じるか、確率の総和が 1 になること、平均と分散を、途中の計算を省かずに確かめる。最後の節では、これらの分布が互いにどう結びついているか(二項の極限としての Poisson、指数の和としてのガンマ、正規の和がまた正規であること)を示す。
この章で使う前の章の結果を、式の形で先に書いておく。第3章 §3.4 の離散分布の確率関数 p(x)=P(X=x) と密度 f については、
P(X∈B)=x∈B∑p(x),P(X∈B)=∫Bf(x)dx(B∈B(R))(6.1)
が成り立つ。第5章 §5.3 の変数変換公式により、Borel 可測な関数 g について次が成り立つ(右辺が絶対収束するとき)。
E[g(X)]=x∑g(x)p(x)(離散),E[g(X)]=∫Rg(x)f(x)dx(密度あり)(6.2)
分散と共分散は
V[X]=E[(X−E[X])2]=E[X2]−E[X]2,Cov(X,Y)=E[XY]−E[X]E[Y]
であり、第5章 §5.4 から
V[aX+b]=a2V[X],V[i=1∑nXi]=i=1∑nV[Xi]+2i<j∑Cov(Xi,Xj)(6.3)
が成り立つ。X1,…,Xn が独立なら、共分散はすべて 0 である。非負の関数の重積分は、積分の順序を交換してよい(第5章の Tonelli の定理)。
独立性については、第4章 §4.3 の次の判定法を使う。独立であることは、同時分布が周辺分布の積であることと同値である。密度があれば、同時密度が周辺密度の積であることと同値である。
この章の分布は以後のほぼすべての章に現れる。
- 第7章では、変数変換と畳み込みで分布を作り直す。第8章と第9章では、母関数と特性関数でこの章の結果を別の道から導き直す。
- 第12章・第13章の極限定理では、二項分布と Poisson 分布と正規分布が具体例として使われる。
- 第14章では、指数分布とガンマ分布と Poisson 分布が Poisson 過程の中で組み合わさる。
この節の分布は、Poisson 分布を除いて、すべて「成功か失敗かが決まる試行」から作られる。同じ試行を独立に繰り返すとき、何を数えるかで分布が決まる。
- 何回のうち何回成功したかを数えれば、二項分布になる。
- 初めて成功するまで何回かかったかを数えれば、幾何分布になる。
- r 回目の成功まで何回かかったかを数えれば、負の二項分布になる。
試行が独立でなく、有限個のものから戻さずに取り出す場合が超幾何分布である。
Bernoulli 分布と二項分布
定義 6.1(Bernoulli 分布・二項分布)
0≤p≤1 とする。P(X=1)=p, P(X=0)=1−p を満たす確率変数の分布をBernoulli 分布と呼ぶ。これを X∼Ber(p) と書く。自然数 n について、確率関数が
P(X=k)=(kn)pk(1−p)n−k(k=0,1,…,n)(6.4)
で与えられる分布を二項分布と呼び、X∼Bin(n,p) と書く。
(6.4) の総和が 1 になることは、二項定理そのものである。
k∑(kn)pk(1−p)n−k=(p+(1−p))n=1
二項分布がどこから来るかを確かめておく。X1,…,Xn を独立で、どれも Ber(p) に従うとする。Sn=X1+⋯+Xn と置く。Sn=k となるのは、ちょうど k 個が 1 で残りが 0 のときである。
1 になる番号の組を1つ決めると、独立性からその並びの確率は pk(1−p)n−k である。番号の組の選び方は (kn) 通りある。異なる並びは互いに素な事象なので、
P(Sn=k)=(kn)pk(1−p)n−k
となり、Sn∼Bin(n,p) である。成功確率 p の試行を独立に n 回行ったときの成功の回数が二項分布に従う、と言い換えてもよい。
命題 6.2(二項分布の平均と分散)
X∼Ber(p) なら、E[X]=p, V[X]=p(1−p) である。X∼Bin(n,p) なら
E[X]=np,V[X]=np(1−p).(6.5)
証明
Bernoulli 分布では E[X]=1⋅p+0⋅(1−p)=p、E[X2]=p である。よって V[X]=p−p2 である。
二項分布の平均と分散は分布だけで決まるので、上の和 Sn で計算してよい。期待値の線形性から E[Sn]=np である。独立性と (6.3) から V[Sn]=np(1−p) である。
和に分けずに確率関数から直接計算することもできる。k≥1 について k(kn)=n(k−1n−1) が成り立つので、
E[X]=k=1∑nk(kn)pk(1−p)n−k=npk=1∑n(k−1n−1)pk−1(1−p)(n−1)−(k−1)=np
となる(最後の和は Bin(n−1,p) の確率の総和)。同じく k(k−1)(kn)=n(n−1)(k−2n−2) から、E[X(X−1)]=n(n−1)p2 である。よって
V[X]=E[X(X−1)]+E[X]−E[X]2=n(n−1)p2+np−n2p2=np(1−p)
を得る。
E[X(X−1)] のように、X(X−1)⋯(X−r+1) の期待値を階乗モーメントと呼ぶ。整数値の分布では、二項係数や階乗と相性がよいので、E[X2] を直接計算するより短く済むことが多い。
幾何分布と負の二項分布
成功確率 p∈(0,1] の試行を独立に繰り返す。初めて成功した回の番号を X とする。X=k となるのは、最初の k−1 回が失敗し、その次が成功したときである。よって P(X=k)=(1−p)k−1p である。
定義 6.3(幾何分布・負の二項分布)
確率関数が
P(X=k)=(1−p)k−1p(k=1,2,…)(6.6)
の分布を幾何分布と呼び、X∼Geo(p) と書く。自然数 r について、確率関数が
P(X=k)=(r−1k−1)pr(1−p)k−r(k=r,r+1,…)(6.7)
の分布を負の二項分布と呼び、X∼NB(r,p) と書く。NB(1,p)=Geo(p) である。
(6.7) が「r 回目の成功が k 回目に起きる確率」であることを確かめる。そうなるのは、k 回目が成功で、それより前にちょうど r−1 回の成功があるときである。前の k−1 回の中の成功の位置の選び方は、(r−1k−1) 通りある。どの並びも確率 pr(1−p)k−r を持つ。
総和が 1 になることは、幾何分布では等比級数で確かめられる。
k≥1∑(1−p)k−1p=1−(1−p)p=1
負の二項分布の総和は、次の命題の表し方から自動的に従う。
命題 6.4(負の二項分布は独立な幾何分布の和)
成功確率 p の試行の独立な列を考える。j 回目の成功の回の番号を Tj とする。ただし T0=0 とする。Gj=Tj−Tj−1 と置く。
このとき G1,…,Gr は独立で、どれも Geo(p) に従う。したがって Tr=G1+⋯+Gr は NB(r,p) に従い、
E[G1]=p1,V[G1]=p21−p,E[Tr]=pr,V[Tr]=p2r(1−p).(6.8)
証明
自然数 k1,…,kr を固定する。事象 {G1=k1,…,Gr=kr} は、最初の k1+⋯+kr 回の並びを1通りに決める。その並びは r 個の成功と ∑j(kj−1) 個の失敗からなる。独立性から
P(G1=k1,…,Gr=kr)=j=1∏r(1−p)kj−1p
である。右辺は各 kj の関数の積になっている。1つの番号以外について和をとると、各 Gj の確率関数が (6.6) だと分かる。同時確率関数が周辺確率関数の積に分かれるので、G1,…,Gr は独立である(第4章 §4.3)。
平均と分散を計算する。∣x∣<1 で ∑k≥0xk=1/(1−x) を項別に微分すると、
k≥1∑kxk−1=(1−x)21,k≥2∑k(k−1)xk−2=(1−x)32
である。q=1−p と置くと
E[G1]=k≥1∑kqk−1p=(1−q)2p=p1,E[G1(G1−1)]=pqk≥2∑k(k−1)qk−2=p32pq=p22q
となり、
V[G1]=p22q+p1−p21=p2q
を得る。和の平均と分散は線形性と (6.3) から出る。
幾何分布は「すでに m 回失敗した」という情報を受けても、残りの待ち回数の分布が変わらない。実際、最初の n 回がすべて失敗する確率は P(X>n)=(1−p)n なので
P(X>m+n∣X>m)=(1−p)m(1−p)m+n=(1−p)n=P(X>n)(6.9)
が成り立つ。この性質を無記憶性と呼ぶ。正の整数に値をとる分布で無記憶性を持つものは、幾何分布に限られる(確認テスト 6.1-4)。連続分布での同じ性質は §6.2 で指数分布を特徴づける。
パラメータの流儀
同じ名前の分布でも、本によって何を数えるかが違う。
- 幾何分布を「初めて成功するまでの失敗の回数」Y=X−1 で定める流儀がある。そのとき値は 0, 1, 2, … で、E[Y]=(1−p)/p になる。
- 負の二項分布も「r 回成功するまでの失敗の回数」で定めることが多い。そのときは j≥0 で次の形になる。
P(Y=j)=(jj+r−1)pr(1−p)j
この形では、r を正の実数にまで広げることができる。
- 指数分布とガンマ分布にも、パラメータをレート λ にするか平均 1/λ にするかの2つの流儀がある。本書はレートを使う。
公式を本から借りるときは、分布の名前でなく確率関数・密度の式を照らし合わせる。
例題 6.1 サイコロで6の目が3回出るまで ★★
オリジナル公正なサイコロを、6の目が3回出るまで振り続ける。振った回数を X とする。
- P(X=5) を求めよ。
- E[X] と V[X] を求めよ。
- P(X>6) を、最初の6回の中の6の目の回数に言い換えて求めよ。
解答
X∼NB(3,1/6) である。
- (6.7) で r=3, k=5 と置くと
P(X=5)=(24)(61)3(65)2=6⋅6525=7776150=129625≈0.0193.
2. 命題 6.4 から、E[X]=3/(1/6)=18、V[X]=3⋅65⋅36=90 である。3. X>6 は「6回振り終えた時点で6の目がまだ2回以下」と同じ事象である。最初の6回の中の6の目の回数を Y とすると、Y∼Bin(6,1/6) である。よって
P(X>6)=P(Y≤2)=6656+6⋅55+15⋅54=4665615625+18750+9375=4665643750=2332821875≈0.938.
負の二項分布の裾の確率を、二項分布の分布関数で書く言い換えである。一般に次の形で成り立つ。
P(Tr>n)=P(Bin(n,p)≤r−1)
Poisson 分布
定義 6.5(Poisson 分布)
λ>0 とする。確率関数が
P(X=k)=e−λk!λk(k=0,1,2,…)(6.10)
の分布をPoisson 分布と呼び、X∼Po(λ) と書く。
総和が 1 になることは、指数関数の級数 ∑kλk/k!=eλ から従う。Poisson 分布は、多数回の独立な試行のそれぞれで、まれにしか起きない事象が起きる回数の分布として現れる。これは §6.3 で、np を一定に保って n→∞ とした二項分布の極限として示す。
一定時間内の放射性崩壊の数、ある日の問い合わせの件数のように、機会は多いが1回ごとの確率が小さい数え上げの標準的なモデルになっている。
命題 6.6(Poisson 分布の平均と分散)
X∼Po(λ) なら E[X]=V[X]=λ である。より一般に、r=1,2,… について
E[X(X−1)⋯(X−r+1)]=λr.
証明
k<r の項は k(k−1)⋯(k−r+1)=0 なので、
E[X(X−1)⋯(X−r+1)]=k≥r∑(k−r)!k!e−λk!λk=λre−λk≥r∑(k−r)!λk−r=λr.
とくに E[X]=λ、E[X(X−1)]=λ2 である。よって V[X]=λ2+λ−λ2=λ である。
平均と分散が等しいことは、Poisson 分布をデータに当てはめるときの簡単な点検に使われる。数えたデータの分散が平均より明らかに大きければ(過分散)、Poisson 分布より裾の広い負の二項分布などを考える。
超幾何分布
N 個のもののうち K 個に印がついているとする。そこから n 個を戻さずに無作為に取り出す。どの組も同じ確率 1/(nN) で選ばれるとし、取り出した中の印つきの個数を X とする。印つきから k 個、印なしから n−k 個を選ぶ組の数を数えると、次の確率関数を得る。
定義 6.7(超幾何分布)
自然数 N と、0≤K≤N, 1≤n≤N を満たす整数について、確率関数が
P(X=k)=(nN)(kK)(n−kN−K)(max(0,n−N+K)≤k≤min(n,K))(6.11)
の分布を超幾何分布と呼び、X∼HG(N,K,n) と書く。
総和が 1 であることは、選ぶ組を「印つきから何個選んだか」で分類したと考えれば明らかである。式としては Vandermonde の恒等式 ∑k(kK)(n−kN−K)=(nN) である。
命題 6.8(超幾何分布の平均と分散)
X∼HG(N,K,n) とし、p=K/N と置くと
E[X]=np,V[X]=np(1−p)N−1N−n(N≥2).(6.12)
証明
取り出す操作を「全部を無作為に1列に並べ、先頭の n 個を取る」と言い換える。番号 i のものが印つきなら Ii=1、そうでなければ 0 と置く。X=I1+⋯+In である。並べ方の対称性から、次のようになる。
- i 番目が印つきである確率は K/N。
- i=j のとき、2つがともに印つきである確率は NK⋅N−1K−1。
よって E[X]=nK/N=np で、
Cov(Ii,Ij)=N(N−1)K(K−1)−N2K2=NK⋅N(N−1)N(K−1)−K(N−1)=−N2(N−1)K(N−K)=−N−1p(1−p).
(6.3) に V[Ii]=p(1−p) と、組の数 n(n−1)/2 を入れると
V[X]=np(1−p)−n(n−1)N−1p(1−p)=np(1−p)(1−N−1n−1)=np(1−p)N−1N−n
となる。
平均は戻して取り出す場合(Bin(n,p))と同じだが、分散には N−1N−n という 1 以下の因子がつく。戻さずに取り出すと、印つきを1つ取ったぶんだけ次に印つきを取る確率が下がる。そのため Ii どうしが負の相関を持つからである。
この因子を有限母集団修正と呼ぶ。n=N なら全部を取り出すので X=K が確定し、分散は 0 になる。
例題 6.2 抜き取り検査 ★★
オリジナル50個の部品の中に不良品が5個混じっている。10個を戻さずに無作為に抜き取る。抜き取った中の不良品の個数を X とする。
- P(X=0) を求め、戻して抜き取る場合の値と比べよ。
- E[X] と V[X] を求めよ。
解答
X∼HG(50,5,10) であり、p=5/50=0.1 である。
- (6.11) から
P(X=0)=(1050)(1045)=50⋅49⋅48⋅47⋅4640⋅39⋅38⋅37⋅36≈0.3106.
2つ目の等号では、(1045)/(1050)=35!50!45!40! を約分して分子と分母に5個ずつの因子を残した。戻して抜き取るなら Bin(10,0.1) なので、確率は 0.910≈0.3487 である。戻さない場合は良品を1つ取るたびに残りの不良品の割合が上がるので、不良品を1つも引かない確率は小さくなる。2. (6.12) から、E[X]=10×0.1=1 であり、
V[X]=10×0.1×0.9×50−150−10=0.9×4940=4936≈0.735
である。戻す場合の分散 0.9 より約 18% 小さい。
表 6.1 この節の離散分布の一覧。| 分布 | 値 | 確率関数 | 平均 | 分散 |
| Ber(p) | 0,1 | pk(1−p)1−k | p | p(1−p) |
| Bin(n,p) | 0,…,n | (kn)pk(1−p)n−k | np | np(1−p) |
| Geo(p) | 1,2,… | (1−p)k−1p | 1/p | (1−p)/p2 |
| NB(r,p) | r,r+1,… | (r−1k−1)pr(1−p)k−r | r/p | r(1−p)/p2 |
| Po(λ) | 0,1,… | e−λλk/k! | λ | λ |
| HG(N,K,n) | 式 (6.11) の範囲 | (kK)(n−kN−K)/(nN) | nK/N | nNKNN−KN−1N−n |
確認テスト
オリジナル
- 6.1-1 X∼Ber(p) なら X2=X である。これを使って V[X]=p(1−p) を示せ。また分散が最大になる p と最大値を答えよ。
- 6.1-2 X∼Po(λ) とする。(a) P(X=k)/P(X=k−1) を計算せよ。λ=3.5 のとき、確率を最大にする k とその確率(小数第4位まで)を求めよ。(b) E[X3] を λ で表せ。
- 6.1-3 X∼Geo(p) とする。非負整数値の確率変数について成り立つ E[X]=∑n≥0P(X>n) を示せ。これを使って E[X]=1/p を導け。
- 6.1-4 正の整数に値をとる確率変数 X が、すべての非負整数 m,n で次を満たすとする。
P(X>m)>0,P(X>m+n∣X>m)=P(X>n)
X が幾何分布に従うことを示せ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com