確率論入門 第8章 §8.4 ★★ 積率母関数の対数の Taylor 係数。独立和で足し算になり、3次と4次で分布の形(歪度・尖度)を測る
定義
独立和では積率母関数が積になる(命題 8.11)。積は対数をとると和になる。したがって、積率母関数の対数の Taylor 係数は、独立和で足し算になる量になる。これがキュムラントである。
定義 8.21(キュムラント)
ある δ>0 について (−δ,δ)⊂DX とする。∣t∣<δ で
KX(t):=logMX(t)(8.20)
を X のキュムラント母関数と呼ぶ。また次の値を n 次のキュムラントと呼ぶ。
κn=κn(X):=KX(n)(0)
MX>0 である。定理 8.10 から MX は無限回微分可能だから、KX も無限回微分可能である。さらに MX(t)−1 は、0の近くで絶対値が1より小さい収束べき級数である。これを log(1+u)=u−2u2+⋯ に代入した級数も収束する。したがって原点の近くで
KX(t)=n=1∑∞n!κntn
と展開できる。定数項は KX(0)=log1=0 である。
積率母関数が無い場合のキュムラント
- E[∣X∣n]<∞ だけを仮定する場合も、n 次までのキュムラントは定義できる。定理 8.18 から、原点に近づくと特性関数は1に近づく。したがって0の近くで主値の対数 logφX(t) が定まり、n 回微分可能である。
- 次の展開によって κ1,…,κn を定める。
logφX(t)=k=1∑nk!κk(it)k+o(∣t∣n)
積率母関数がある場合は、次の小節のモーメントとの関係式が同じになるので、2つの定義は一致する。
モーメントとの関係
キュムラントはモーメントの多項式で書ける。平均を E[X]、平均のまわりの k 次モーメントを
μk:=E[(X−E[X])k]
と書く。μ2=V[X] である。正規分布の平均の μ とは、添字の有無で区別する。
命題 8.22(低次のキュムラント)
κ1=E[X],κ2=V[X]=μ2,κ3=μ3,κ4=μ4−3μ22.(8.21)
証明
まず平行移動の効果を調べる。定数 c について MX+c(t)=ectMX(t) だから、次が成り立つ。
KX+c(t)=ct+KX(t)
したがって κ1 だけが c ずれ、2次以上のキュムラントは変わらない。
κ1=KX′(0)=MX′(0)/MX(0)=E[X] である。2次以上については、X を X−E[X] に置き換えてよい。そこで E[X]=0 とする。このとき E[Xk]=μk である。
定理 8.10 から、次のように書ける。
MX(t)=1+u(t),u(t)=2μ2t2+6μ3t3+24μ4t4+O(t5)
u=O(t2) なので、次が成り立つ。
u2=4μ22t4+O(t5),u3=O(t6)
log(1+u)=u−2u2+O(u3) に代入すると
KX(t)=2μ2t2+6μ3t3+(24μ4−8μ22)t4+O(t5)
となる。n!κntn と係数を比べると、次を得る。
κ2=μ2,κ3=μ3,κ4=24(24μ4−8μ22)=μ4−3μ22
高次の関係も、展開を続ければ求められる。一般の次数では、次の漸化式を使うほうが計算が短い。
命題 8.23(モーメントとキュムラントの漸化式)
mk=E[Xk] と書く(m0=1)。n≥1 で
mn=k=1∑n(k−1n−1)κkmn−k.(8.22)
平均のまわりのモーメントについても、κ1=0 として同じ式が成り立つ。ただし μ0=1、μ1=0 とする。
μn=k=2∑n(k−1n−1)κkμn−k
証明
MX=eKX を微分すると MX′=KX′MX である。この両辺を n−1 回微分し、右辺に Leibniz の公式を使うと
MX(n)=j=0∑n−1(jn−1)KX(j+1)MX(n−1−j)
となる。原点を代入して k=j+1 と置けば、(8.22) を得る。後半は、X−E[X] に前半を使えばよい。そのキュムラントは、2次以上では X のものに等しく、1次は0である。
たとえば4次の後半の式は、次のとおりである。これは (8.21) を逆向きに書いたものになる。
μ4=3κ2μ2+3κ3μ1+κ4=3κ22+κ4
(8.22) を n=1,2,… と順に使えば、キュムラントを1つずつ求めることもできる。
κn=mn−k=1∑n−1(k−1n−1)κkmn−k
独立和で足し算になる
命題 8.24(キュムラントの加法性と斉次性)
X,Y が独立で、どちらも0の近くで積率母関数が有限なら、すべての次数で
κn(X+Y)=κn(X)+κn(Y).(8.23)
また定数 a,c について、次が成り立つ(2つ目は n≥2 で)。
κn(aX)=anκn(X),κn(X+c)=κn(X)
証明
命題 8.11 から、0の近くで MX+Y=MXMY である。対数をとって KX+Y=KX+KY となる。n 回微分して原点を代入すればよい。
MaX(t)=MX(at) から KaX(t)=KX(at) である。連鎖律により KaX(n)(0)=anKX(n)(0) である。平行移動は命題 8.22 の証明で示した。
分散が独立和で足し算になることはよく知られているが、これは κ2 の加法性の特別な場合である。モーメント E[(X+Y)k] そのものは交差項を含むので、足し算にならない。
- 平均のまわりの3次モーメント μ3=κ3 は加法的である。
- 4次の μ4 は κ4+3κ22 なので、加法的でない。
代表的な分布のキュムラントを、表 8.1 の積率母関数の対数から求めておく。
- 正規分布 N(μ,σ2):K(t)=μt+2σ2t2 は2次式である。したがって κ1=μ、κ2=σ2 で、3次以上はすべて0である。
- Poisson 分布 Po(λ):次の展開から、すべてのキュムラントが λ に等しい。
K(t)=λ(et−1)=λn≥1∑n!tn
- ガンマ分布 Ga(α,λ):次の展開から、κn=α(n−1)!/λn である。
K(t)=−αlog(1−t/λ)=αn≥1∑n1(λt)n
3次以上のキュムラントがすべて0になるのは正規分布(と定数)の特徴である。より強く、次の主張が知られている。
定理 8.25(Marcinkiewicz の定理(主張))
ある確率変数について logφX(t) が多項式なら、その次数は2以下である。つまりその確率変数は、正規分布に従うか定数である。
証明の筋を3段で書く。完全な証明は確率論の専門書に譲る。
- 特性関数の対数が、d 次の多項式 P だとする。特性関数は、複素平面全体で正則な関数 eP(z) に延長される。
- 整関数に延長される特性関数には、次の不等式が成り立つ。左辺は E[eixXe−yX]≤E[e−yX] で評価できる。
∣φX(x+iy)∣≤φX(iy)
3. これを ReP(x+iy)≤ReP(iy) と書き直す。d≥3 のとき、最高次の項が実部を大きくする方向を選ぶと、この不等式が破れる。
この定理から、3次以上のキュムラントの有限個だけが0でない分布は存在しない。3次以上のキュムラントは「正規分布からのずれ」を測る量とみなせる。
統計力学の分配関数とキュムラント
- カノニカル分布では、エネルギー E の値 ϵ の重みと分配関数は次のとおりである。
Z(β)g(ϵ)e−βϵ,Z(β)=ϵ∑g(ϵ)e−βϵ
エネルギーの積率母関数とキュムラント母関数は、次のようになる。
ME(t)=Z(β)Z(β−t),KE(t)=logZ(β−t)−logZ(β)
- したがって、キュムラントは logZ の微分で書ける。
κn=(−1)n∂βn∂nlogZ,⟨E⟩=−∂β∂logZ,V[E]=∂β2∂2logZ=kBT2CV
エネルギーの揺らぎが熱容量に比例するという関係は、2次のキュムラントの式である。
- 相互作用の無い2つの部分系では Z=Z1Z2 で、logZ が足し算になる。これは独立和でキュムラントが足し算になる (8.23) と同じ構造である。
歪度と尖度
3次と4次のキュムラントを、尺度に依存しない形に直したものが歪度と尖度である。
定義 8.26(歪度と尖度)
κ2=V[X]>0 のとき、
γ1:=κ23/2κ3=μ23/2μ3,γ2:=κ22κ4=μ22μ4−3(8.24)
をそれぞれ歪度・尖度と呼ぶ。
μ4/μ22 を尖度と呼び、γ2 を超過尖度と呼ぶ流儀もある。本書では、正規分布で0になる γ2 を尖度と呼ぶ。
a>0 とし、X↦aX+c と変換する。命題 8.24 から、2次以上のキュムラントは an 倍になる。(8.24) の分子と分母が同じ冪で変わるので、歪度と尖度は変わらない(a<0 では歪度の符号だけが反転する)。つまり、歪度と尖度は、位置と尺度を取り除いた「分布の形」だけを測る量である。
2つの量の符号は、次のことを表す。
- 歪度 γ1>0。平均から右へ離れた値の3乗が、左側より大きく寄与する。つまり右に長い裾をもつ。対称な分布では μ3=0 で、歪度は0である。
- 尖度 γ2>0。同じ分散をもつ正規分布より、4次モーメントが大きい。つまり平均から大きく離れた値が出やすい(裾が重い)。
尖度には下限がある。V[(X−E[X])2]=μ4−μ22≥0 から μ4/μ22≥1 である。つまり γ2≥−2 である。等号は (X−E[X])2 が定数のとき、すなわち2点を等確率でとるときに限る。
ガンマ分布では、歪度と尖度は次のようになり、レートによらない。
γ1=(α/λ2)3/22α/λ3=α2,γ2=α2/λ46α/λ4=α6
形のパラメータが大きくなるほど0に近づくことは、次の独立和の性質から理解できる。
命題 8.27(独立同分布の和の歪度と尖度)
X1,…,Xn が独立で X と同分布であるとする。Sn=X1+⋯+Xn とすると
γ1(Sn)=nγ1(X),γ2(Sn)=nγ2(X).(8.25)
より一般に、標準化した和 (Sn−nE[X])/nκ2 の3次以上のキュムラントは、次の値をとる。
n1−k/2κ2k/2κk(k≥3)
これは n→∞ で0に収束する。
証明
(8.23) から κk(Sn)=nκk である。標準化は、和を平行移動して (nκ2)−1/2 倍することである。したがって2次以上のキュムラントは
nκk⋅(nκ2)−k/2=n1−k/2κ2k/2κk
となる。3次と4次が、それぞれ (8.25) である。
標準化した和のキュムラントは、2次が1、3次以上が0に近づく。これは標準正規分布のキュムラントの並び(2次が1、それ以外は0)である。
独立和が正規分布に近づくという中心極限定理の主張を、キュムラントの言葉で見たものになっている。ただし「キュムラントが収束すれば分布が収束する」ことは、ここでは示していない。厳密な証明は第13章 §13.2 で特性関数を使って行う。
形のパラメータ α が整数のとき、Ga(α,λ) は、独立な指数分布をその個数だけ足した和である。指数分布の歪度2・尖度6に (8.25) を使えば、上で求めた 2/α、6/α が再現される。3次以上のキュムラントを独立性の判定に使う考え方は、第9章 §9.4 の独立成分分析で扱う。
例題 8.7 二項分布のキュムラントと形 ★★
オリジナル
- 成功確率 p の Bernoulli 分布の、4次までのキュムラントを求めよ。q=1−p を用いて書け。
- Bin(n,p) の歪度と尖度を求めよ。
- n=10、p=0.1 のときの値を小数第3位まで求めよ。また、n→∞ での振る舞いと、p=21 の場合を述べよ。
解答
- K(t)=log(q+pet) である。次のように置く。
π(t):=K′(t)=q+petpet
商の微分から
π′=(q+pet)2pet(q+pet)−pet⋅pet=π(1−π)
となる。これを繰り返し微分すると
π′′π′′′=π′(1−π)−ππ′=π(1−π)(1−2π),=π′[(1−2π)2−2π(1−π)]=π(1−π)(1−6π(1−π))
を得る。π(0)=p だから
κ1=p,κ2=pq,κ3=pq(1−2p)=pq(q−p),κ4=pq(1−6pq)
である。2. 二項分布は独立な n 個の Bernoulli の和なので、(8.23) から各キュムラントは n 倍になる。したがって
γ1=(npq)3/2npq(q−p)=npqq−p,γ2=(npq)2npq(1−6pq)=npq1−6pq.
3. npq=0.9 だから、次のようになる。
γ1=0.90.8≈0.843,γ2=0.91−0.54≈0.511
成功が少ない側に分布が寄り、右に裾を引く。
- 試行回数を増やすと、γ1=O(n−1/2)、γ2=O(n−1) である。どちらも0に近づく(命題 8.27)。
- p=21 では、分布は n/2 について対称で、歪度は0である。尖度は γ2=n/41−3/2=−n2 である。n=1 では γ2=−2 となり、2点が等確率の場合の下限に一致する。
確認テスト
オリジナル
- 8.4-1 a=0 とし、Y=aX+c と置く。κ2(Y)=a2κ2(X) と κ3(Y)=a3κ3(X) を使って、次を確かめよ。
γ1(Y)=sgn(a)γ1(X),γ2(Y)=γ2(X)
2. 8.4-2 X∼Po(λ) の歪度と尖度を求めよ。λ=4 のときの値を答えよ。3. 8.4-3 X∼U(−21,21) の積率母関数は、MX(t)=t/2sinh(t/2) である。KX(t) を4次の項まで展開せよ。それを使って κ2、κ4 を求め、尖度を求めよ。4. 8.4-4 漸化式 (8.22) の後半を用いて、次の2式を導け。
μ5=κ5+10κ2κ3,μ6=κ6+15κ2κ4+10κ32+15κ23
5. 8.4-5 密度 21e−∣x∣ の Laplace 分布を考える。KX(t)=−log(1−t2) から、2次と4次のキュムラントと尖度を求めよ。また独立な n 個の和の尖度を求めよ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com