確率論入門 第9章 §9.4 ★★ 独立なら混合キュムラントはすべて 0 になる。4次のキュムラントで、無相関なだけの成分と独立な成分を見分ける
同時キュムラント
第8章 §8.4 では、1つの確率変数 X のキュムラント κn(X) を、次の関数の 0 での微分係数として定めた。
KX(t)=logMX(t)
そして、キュムラントが独立和で足し算になることを示した。これを複数の確率変数へ広げる。この節では簡単のため、扱う確率変数はすべて 0 の近くで積率母関数が有限であるとする(第8章 §8.4 の注意と同じく、4次までの量については4次のモーメントが有限であれば足りる)。
定義 9.14(同時キュムラント)
X=(X1,…,Xd)⊤ について、原点の近くで
KX(t):=logE[et⊤X]
と置く。添字 j1,…,jn∈{1,…,d}(重複してよい)について
κ(Xj1,…,Xjn):=∂tj1⋯∂tjn∂nKX(0)(9.23)
を同時キュムラントと呼ぶ。2つ以上の異なる確率変数を含むものを混合キュムラントと呼ぶ。
同じ確率変数を n 個並べた同時キュムラントを考える。X=Xj とする。κ(X,…,X) は、キュムラント母関数を tj だけの関数とみたときの高階の微分係数である。よってこれは第8章の κn(X) に一致する。
2つの引数の κ(X,Y) は、共分散 Cov(X,Y) に一致する。下の (9.24) の導出と同じ展開で、2次の項から分かる。
命題 9.15(同時キュムラントの性質)
- (対称性)κ(Xj1,…,Xjn) は引数の並べ替えで変わらない。
- (多重線形性)Y=∑kckXk なら、次が成り立つ。他の引数についても同じである。
κ(Y,Xj2,…,Xjn)=k∑ckκ(Xk,Xj2,…,Xjn)
3. (独立なら混合キュムラントは 0)添字の集合が2組 J1,J2 に分かれ、それぞれに属する確率変数の組どうしが独立であるとする。このとき、両方の組から少なくとも1つずつ引数を含む同時キュムラントは、すべて 0 である。4. (平均が 0 の場合の4次)すべての j で E[Xj]=0 なら
κ(X1,X2,X3,X4)=E[X1X2X3X4]−E[X1X2]E[X3X4]−E[X1X3]E[X2X4]−E[X1X4]E[X2X3].(9.24)
証明
(1) 偏微分の順序を入れ替えてよいことによる。KX は原点の近くで何回でも微分できる(第8章 §8.2 の議論を各変数に使う)。
(2) 正方行列 B をとり、Y=BX とすると、
KY(u)=logE[eu⊤BX]=KX(B⊤u)
である。連鎖律から ∂ua∂=∑jBaj∂tj∂ である。よって Y の同時キュムラントは、X の同時キュムラントの各引数について線形な組み合わせになる。
B の第1行を (c1,…,cd)、他の行を単位行列の行にとればよい。同じ確率変数を何度も並べたベクトルを考えれば、重複のある添字も扱える。
(3) 独立性から(第5章 §5.4)
E[et⊤X]=E[e∑J1tjXj]E[e∑J2tjXj]
である。対数をとると、KX(t)=K1(tJ1)+K2(tJ2) と、片方の組の変数だけの関数どうしの和になる。
- 前者を J2 の変数で微分すると 0 である。
- 後者を J1 の変数で微分すると 0 である。
よって両方の変数を含む偏微分は 0 である。
(4) mij=E[XiXj]、mijkl=E[XiXjXkXl] と書く。平均が 0 なので、原点の近くで
E[et⊤X]=1+u,u=21i,j∑mijtitj+61i,j,k∑mijktitjtk+241i,j,k,l∑mijkltitjtktl+⋯
である。対数の展開は
log(1+u)=u−2u2+3u3−⋯
である。u は2次から始まるので、4次の項は次の2つだけから来る。
(u の4次の項),−21(21∑mijtitj)2
(9.23) の4階の偏微分 ∂t1∂t2∂t3∂t4 は、展開での単項式 t1t2t3t4 の係数に等しい(各変数について1次なので階乗が出ない)。2つの項から来る係数を順に求める。
- 第1の項。241∑mijkltitjtktl の中で、添字が (1,2,3,4) の並べ替えになる項は 24 個ある。よって係数は m1234 である。
- 第2の項。∑i,jmijtitj=2∑i<jmijtitj なので、第2の項は
−21⋅41⋅4(i<j∑mijtitj)2
となる。その中の t1t2t3t4 の係数は −21⋅2(m12m34+m13m24+m14m23) である。
合わせて (9.24) を得る。
平均 0 の X,Y について、(9.24) をベクトル (X,X,Y,Y) に使うと
κ(X,X,Y,Y)=E[X2Y2]−E[X2]E[Y2]−2E[XY]2(9.25)
となる。さらに Y=X と置けば
κ4(X)=E[X4]−3E[X2]2
で、第8章 §8.4 の κ4=μ4−3μ22 に一致する。
性質 (3) は、混合キュムラントが「独立からのずれ」を測る量であることを示している。
- 2次の混合キュムラントは共分散なので、無相関は2次の混合キュムラントが 0 であることにあたる。
- 独立であるには、すべての次数の混合キュムラントが 0 でなければならない。
- 逆に、積率母関数が有限な場合は、すべての混合キュムラントが 0 なら独立である。
最後の主張の証明の筋を書く。混合キュムラントがすべて 0 なら、K(X,Y)(s,t) の原点のまわりの冪級数に混合項が無い。よって原点の近くで
K(X,Y)(s,t)=KX(s)+KY(t),つまりE[esX+tY]=MX(s)MY(t)
となる。定理 9.7 の証明を2変数に移すと、同時積率母関数が原点の近くで一致する2つの確率ベクトルは同分布であることが示せる。右辺は独立なコピーの同時積率母関数なので、(X,Y) は独立なコピーと同分布である。つまり2つは独立である。
独立成分分析
2人が同時に話している部屋に2本のマイクを置くと、それぞれのマイクには2人の声が異なる割合で混ざって記録される。混ざった記録から2人の声を分離する問題を、確率論の言葉で書く。次の2つがあるとする。
- 独立な確率変数 S1,…,Sd(源信号)を並べたベクトル S。
- 正則な d×d 行列 A(混合行列)。
観測できるのは
X=AS(9.26)
だけであるとする。混合行列も源信号も知らずに、観測の分布だけから S を復元したい。これを独立成分分析(independent component analysis、ICA)と呼ぶ。
源信号の大きさと符号は A の列に吸収できる。よって E[Sk]=0、V[Sk]=1 と仮定してよい。このとき S の共分散行列は単位行列 I である。
第1段:白色化(2次の情報)
観測 X の共分散行列は
Σ=E[XX⊤]=AE[SS⊤]A⊤=AA⊤
で、正定値である。VΣV⊤=I となる行列 V を選ぶ。たとえば Σ=LL⊤ と Cholesky 分解して、V=L−1 とすればよい。Z=VX と置くと、その共分散行列は VΣV⊤=I である(白色化)。
Z=(VA)S で、Q:=VA は
QQ⊤=VAA⊤V⊤=VΣV⊤=I
を満たすので直交行列である。こうして問題は、直交行列 Q による混合 Z=QS を解くことに帰着する。
ここで2次の情報は使い切っている。直交行列 R をどれだけ掛けても、共分散行列は RR⊤=I のままである。共分散だけを見ても、回転は決められない。
とくに源信号がすべて正規分布なら、S∼Nd(0,I) である。(9.20) から
φQS(t)=e−∣Q⊤t∣2/2=e−∣t∣2/2
となり、定理 9.10 から QS=dS である。観測の分布が Q によらないので、Q を推定することは原理的にできない。
源信号が正規分布でないことが、分離のための条件になる。正規分布では3次以上のキュムラントがすべて 0 である(第8章 §8.4)。このことから、高次のキュムラントを使うことが自然に考えられる。
第2段:4次のキュムラントの最大化
単位ベクトル v について、射影 Y=v⊤Z の4次のキュムラントを考える。
定理 9.16(尖度による源信号の復元)
S=(S1,…,Sd)⊤ の成分は独立で、平均 0、分散 1 とする。各成分の4次のキュムラントとその最大値を
kj:=κ4(Sj),M:=jmax∣kj∣>0
と書く。Q を直交行列とし、Z=QS とする。
- 単位ベクトル w について、次が成り立つ。
κ4(w⊤S)=j=1∑dwj4kj
2. 単位ベクトル v について κ4(v⊤Z)≤M である。等号が成り立つのは、∣kj∣=M となるある添字について v⊤Z=±Sj となるとき、かつそのときに限る。
証明
(1) 第8章 §8.4 のキュムラントの加法性と斉次性を、独立な wjSj の和に使う。
κ4(j∑wjSj)=j∑κ4(wjSj)=j∑wj4κ4(Sj)
(2) w=Q⊤v と置くと、v⊤Z=v⊤QS=w⊤S である。Q が直交行列なので、w も単位ベクトルである。(1) から
κ4(v⊤Z)=j∑wj4kj≤j∑wj4∣kj∣≤Mj∑wj4≤M(j∑wj2)2=M
である。最後の不等号は次の恒等式による。
(j∑wj2)2=j∑wj4+i=j∑wi2wj2
等号が成り立つには、次の2つが必要である。
- 最後の不等号で、i=j について wi2wj2=0 となること。つまり w のただ1つの成分だけが 0 でなく、w=±ej であること。
- 2つ目の不等号で ∣kj∣=M となること。
逆にそのとき w⊤S=±Sj で、∣κ4∣=∣kj∣=M となる。
この定理から、白色化した Z について、κ4(v⊤Z) を最大にする単位ベクトルを探せばよい。そうすれば、源信号の1つが符号を除いて得られる。見つけた v に直交する部分空間に話を限って同じことを繰り返せば、4次のキュムラントが 0 でない源信号はすべて取り出せる。実際のデータでは κ4 を標本の4次モーメントから推定して、最大化を数値的に行う(FastICA などの算法がこの原理に基づく)。
4次のキュムラントが 0 でも、その源信号が正規分布とは限らない。確認テスト 9.4-2 の射影のように、4次のキュムラントだけが 0 になる分布はある。その場合は他の次数のキュムラントを使えばよい。本質的に分離できないのは、正規分布の源信号が2つ以上ある場合だけであることが知られている。
識別可能性(主張)
- Darmois–Skitovich の定理:独立な S1,…,Sd をとる。その2つの1次結合 ∑ajSj と ∑bjSj が独立であるとする。このとき、ajbj=0 となるすべての添字について、その源信号は正規分布に従う。
- この定理から、(9.26) の源信号のうち正規分布に従うものが高々1つなら、S は成分の並べ替えと符号・尺度を除いて X の分布から一意に定まる(Comon の定理)。
- 証明は特性関数の対数についての関数方程式を解くもので、ここでは扱わない。完全な証明は確率論・統計学の専門書に譲る。
例題 9.7 回転で混ぜた一様分布の分離 ★★
オリジナルS1,S2 を独立で U(−3,3) に従うとし、
X1=2S1+S2,X2=2S1−S2
と置く。
- S1 の平均が 0、分散が 1 であることを示せ。また κ4(S1)=−56 を示せ。
- X1,X2 は平均 0、分散 1 で無相関であることを示せ。
- κ(X1,X1,X2,X2) を計算し、2つの観測が独立でないことを示せ。
- 射影 Yθ=cosθX1+sinθX2 を考える。κ4(Yθ) を θ の関数として求めよ。また、その絶対値を最大にする θ∈[0,π) と、そのときの Yθ を求めよ。
解答
- 密度は 231 で対称なので、平均は 0 である。2次と4次のモーメントは
E[S12]E[S14]=231∫−33x2dx=3(3)2=1,=5(3)4=59
である。よって κ4=E[S14]−3E[S12]2=59−3=−56 である。2. 平均が 0 なのは明らかである。独立性から E[S1S2]=0 なので、
E[X12]E[X1X2]=21(1+0+1)=1,E[X22]=1,=21(E[S12]−E[S22])=0
である。3. 命題 9.15 (2) で、各引数を S1,S2 の1次結合として展開する。(3) から、両方の源信号を含む項はすべて 0 で、片方だけの項が残る。4つの引数 X1,X1,X2,X2 の係数は次のとおりである。
- S1 の係数:21,21,21,21
- S2 の係数:21,21,−21,−21
よって
κ(X1,X1,X2,X2)=41κ4(S1)+41κ4(S2)=41(−56−56)=−53
である。0 でないので、命題 9.15 (3) の対偶から2つの観測は独立でない。
(9.25) で直接確かめると、
E[X12X22]=41E[(S12−S22)2]=41(59−2+59)=52
で、52−1⋅1−2⋅0=−53 と一致する。4. Yθ の各源信号の係数は
S1: 2cosθ+sinθ=cos(θ−4π),S2: 2cosθ−sinθ=−sin(θ−4π)
である。定理 9.16 (1) から、ψ=θ−4π と書いて
κ4(Yθ)=−56(cos4ψ+sin4ψ)=−56(1−21sin22ψ)=−56(1−21cos22θ)
となる。ここで次の2つを使った。
cos4ψ+sin4ψ=(cos2ψ+sin2ψ)2−2cos2ψsin2ψ,sin2ψ=−cos2θ
絶対値 ∣κ4∣ は、cos2θ=0 のとき最大値 6/5 をとる。その角度は θ=4π,43π である。そのときの射影は
Yπ/4=2X1+X2=S1,Y3π/4=2−X1+X2=−S2
で、源信号が符号を除いて復元される。θ=0(観測そのもの)では ∣κ4∣=53 で最小になる。

図 9.3 例題 9.7 の射影 Yθ=cosθX1+sinθX2 の4次のキュムラント。∣κ4∣ が最大になる2つの方向(点)で、射影は源信号 S1、−S2 に一致する。観測の方向 θ=0,2π では ∣κ4∣ が最小になる。
確認テスト
オリジナル
9.4-1 平均 0 の X,Y が独立なら、(9.25) の右辺が 0 になることを、期待値の計算だけで直接確かめよ。
9.4-2 S1∼U(−3,3) をとる。それと独立に、分散 1 の Laplace 分布(密度 21e−2∣x∣)に従う S2 をとる。
- κ4(S2)=3 を示せ。
- 射影 Yθ=cosθS1+sinθS2 について、κ4(Yθ) を求めよ。また、その絶対値が最大になる θ∈[0,π) を求めよ。
- κ4(Yθ)=0 となる θ∈(0,2π) を求めよ。また、そのとき Yθ は正規分布に従わないことを示せ。
9.4-3 次の混合行列と観測を考える(S の共分散行列は I)。
A=(2011),X=AS
Σ=AA⊤ を Cholesky 分解して、Σ=LL⊤ と書く(下三角行列の対角成分は正にとる)。L−1A を計算して、直交行列であることを確かめよ。4. 9.4-4 S∼N2(0,I) とし、Q を2次の直交行列とする。Z=QS と置く。4次の同時キュムラント κ(Zi,Zj,Zk,Zl) がすべて 0 であることを示せ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com