確率論入門 第13章 §13.3 ★★ 確率ベクトルの分布収束を、すべての1次元射影の分布収束に帰着させる(Cramér–Wold)。これで多変量の中心極限定理が1次元の定理から出る
確率ベクトルの分布収束
確率ベクトル Xn が X に分布収束するとは、次が成り立つことであった(第11章 §11.4)。
E[g(Xn)]→E[g(X)](すべての有界連続関数 g:Rd→R)
この定義からは、連続写像定理がそのまま出る。h:Rd→Rm を連続とする。有界連続な g:Rm→R をとると、合成 g∘h も有界連続関数である。したがって
XndX ⟹ h(Xn)dh(X)(13.12)
である。とくに、成分ごとの分布収束 Xn(j)dX(j) は XndX から出る。しかし逆は成り立たない(確認テスト 13.3-1)。成分の分布は同時分布を決めないからである。
多変量の連続性定理と Cramér–Wold の方法
定理 13.14(多変量の Lévy の連続性定理)
Rd 値の確率ベクトルの列 Xn を考え、その特性関数を次のように書く。
φXn(t)=E[eit⊤Xn]
(i) 次の2つを仮定する。
- 各点 t∈Rd で、φXn(t) がある極限をもつ。極限を φ(t) と書く。
- 極限 φ が t=0 で連続である。
このとき φ はある確率ベクトル X の特性関数である。さらに XndX である。2. (ii) 逆に XndX なら φXn(t)→φX(t) である。
証明の筋を述べる。
- 逆向き (ii)。x↦cos(t⊤x) と x↦sin(t⊤x) は有界連続なので、命題 13.1 と同じである。
- 各成分の緊密性。第 j 成分の特性関数は s↦φXn(sej) である。これが 0 で連続な φ(sej) に収束するので、定理 13.7 の第1段から各成分の列が緊密になる。
- ベクトルの緊密性。次の不等式から、ベクトルの列も緊密である。
P(∣Xn∣>M)≤j∑P(Xn(j)>dM)
4. 収束する部分列。有理数の座標をもつ点で同時分布関数が収束する部分列を、対角線論法でとる。Helly の選出定理と同じ構成で、ある確率分布に分布収束する部分列が得られる。5. 極限の特定。その極限の特性関数は φ に等しい。第9章の多変量の一意性定理から、極限の分布は部分列によらない。6. まとめ。補題 13.6 の証明は実数列 E[g(Xn)] の議論だけなので、そのまま Rd でも成り立つ。
Rd の Helly の定理の細部(同時分布関数の右連続な修正と、長方形の確率の非負性の確認)は、完全な証明を測度論の本に譲る。
定理 13.15(Cramér–Wold の方法)
確率ベクトル Xn と X について
XndX⟺すべての t∈Rd について t⊤Xndt⊤X(13.13)
が成り立つ。
証明
⇒ は (13.12) で h(x)=t⊤x としたものである。
⇐ を示す。t を固定する。仮定と命題 13.1 から、1次元の確率変数 t⊤Xn の特性関数の s=1 での値が収束する。
φXn(t)=E[ei⋅1⋅t⊤Xn]=φt⊤Xn(1)→φt⊤X(1)=φX(t).
極限 φX は特性関数なので 0 で連続である。定理 13.14 から XndX である。
この定理は、第9章 §9.2 で示した「分布は1次元射影の分布の全体で決まる」ことの分布収束版である。ベクトルの問題を、すべての方向 t についての1次元の問題に置き換えることができる。
多変量の中心極限定理
定理 13.16(多変量の中心極限定理)
X1,X2,… を Rd 値の独立同分布の確率ベクトルとし、各成分の2次モーメントが有限であるとする。平均ベクトルと共分散行列を次のように書く。
μ=E[X1],Σ=E[(X1−μ)(X1−μ)⊤]
このとき、Xˉn=n1∑k=1nXk について
n(Xˉn−μ)dNd(0,Σ)(13.14)
が成り立つ(Σ は正則でなくてよい)。
証明
Z∼Nd(0,Σ) とし、t∈Rd を固定する。Yk=t⊤Xk は独立同分布の実数値確率変数で、
E[Yk]=t⊤μ,V[Yk]=E[(t⊤(Xk−μ))2]=t⊤Σt
である。t⊤n(Xˉn−μ)=n(Yˉn−t⊤μ) と書ける。
分散 t⊤Σt が正か 0 かで分ける。
- t⊤Σt>0 のとき。定理 13.10 と定数倍の連続写像から
t⊤Σtn(Yˉn−t⊤μ)dN(0,1),n(Yˉn−t⊤μ)dN(0,t⊤Σt)
である。
- t⊤Σt=0 のとき。Yk=t⊤μ がほとんど確実に成り立つ。したがって左辺は恒等的に 0 であり、N(0,0)(定数 0)に収束する。
どちらの場合も、極限は t⊤Z∼N(0,t⊤Σt) の分布である。t は任意なので、定理 13.15 から結論を得る。
応用:Pearson のカイ二乗統計量
結果が k 通りある試行を考える。結果 j の起きる確率を pj とする(すべて正、和は 1)。この試行を独立に n 回くり返す。結果 j の起きた回数を Nj とする。仮定した確率と観測が合っているかを測る量として、Pearson の統計量
Qn=j=1∑knpj(Nj−npj)2(13.15)
がある。この極限分布を多変量の中心極限定理から導く。
命題 13.17
Qn は自由度 k−1 のカイ二乗分布に分布収束する。
Qndχk−12=Ga(2k−1,21)
証明
ej を第 j 成分だけが 1 の単位ベクトルとする。各回の試行で起きた結果を単位ベクトルで表し、m 回目のものを ξm と書く。結果が j のときは ξm=ej である。
ξm は独立同分布で、(N1,…,Nk)⊤=∑m=1nξm である。平均は E[ξm]=p=(p1,…,pk)⊤ である。ξ(i)ξ(j)=δijξ(i) だから
Σ=E[ξξ⊤]−pp⊤=diag(p)−pp⊤
である。定理 13.16 から次が成り立つ。
Wn=n(nN−p)dW∼Nk(0,Σ)
D=diag(p1−1/2,…,pk−1/2) と置くと Qn=∣DWn∣2 である。x↦∣Dx∣2 は連続なので、(13.12) から Qnd∣DW∣2 である。
DW の分布は Nk(0,DΣD) である。u=(p1,…,pk)⊤ と置くと、DΣD=I−uu⊤ である。
∣u∣2=∑pj=1 なので、Π=I−uu⊤ は直交射影である。像は u に直交する (k−1) 次元部分空間である。とくに Π⊤=Π=Π2 を満たす。
u1,…,uk−1,u を正規直交基底とし、G∼Nk(0,I) をとる。ΠG の共分散は ΠIΠ⊤=Π である。多変量正規の分布は共分散で決まるので(第9章)、DW=dΠG である。
ΠG は次のように展開できる。
ΠG=i=1∑k−1(ui⊤G)ui
係数の組 (u1⊤G,…,uk−1⊤G) は共分散が単位行列の多変量正規なので、独立な N(0,1) である。したがって
∣DW∣2=d∣ΠG∣2=i=1∑k−1(ui⊤G)2∼χk−12
である(独立な標準正規の2乗の和。第9章 §9.3 のカイ二乗分布の再生性)。
自由度が1つ減るのは、∑jNj=n という1本の拘束があるからである。この拘束のために、DW は u の方向にゆらがない。Σ が正則でないことがその現れである。
例題 13.4 サイコロの公正さとカイ二乗統計量 ★★
オリジナルサイコロを 600 回投げたところ、1から6の目の回数が順に 90,110,95,105,92,108 であった。
- (1) すべての目の確率が 61 であるとして、Pearson の統計量 Q を計算せよ。
- (2) 命題 13.17 の極限分布を使い、公正なサイコロで Q がこの値以上になる確率を近似せよ。χ52 の上側 5% 点は約 11.07 である。
- (3) k=6 のとき、射影 Π=I−uu⊤ の跡(対角成分の和)を計算し、それが自由度に等しいことを確かめよ。
解答
(1) 期待される回数はどの目も npj=100 なので、
Q=100(−10)2+102+(−5)2+52+(−8)2+82=100100+100+25+25+64+64=3.78
である。
(2) Q≈χ52 と近似すると、P(χ52≥3.78)≈0.58 である(数値積分による)。3.78 は上側 5% 点 11.07 よりずっと小さく、この観測は公正なサイコロで普通に起きる程度のばらつきである。なお χ52 の平均は 5 で、観測値 3.78 はむしろ平均より小さい。
(3) trΠ=trI−tr(uu⊤)=6−∣u∣2=6−1=5 である。直交射影の跡はその像の次元に等しいので、像は 5 次元であり、自由度 k−1=5 と一致する。
確認テスト
オリジナル
- 13.3-1 Z∼N(0,1) とし、Xn=(Z,(−1)nZ)⊤ と置く。各成分は N(0,1) に分布収束するが、Xn はどんな確率ベクトルにも分布収束しないことを、定理 13.15 を使って示せ。
- 13.3-2 U1,U2,… を独立な U(0,1) とする。Xk=(Uk,Uk2)⊤ と置く。n(Xˉn−μ) の極限分布の共分散行列 Σ と、2成分の相関係数を求めよ。また次の量の極限分布の分散を求めよ。
n(n1∑Uk2−Uˉn−(31−21))
3. 13.3-3 3つの結果の確率が p=(21,31,61) のとき、n(N/n−p) の極限の共分散行列を書き下し、各行の和が 0 であることを確かめよ。また n((N1−N2)/n−(p1−p2)) の極限分布の分散を求めよ。4. 13.3-4 Rd 値の確率ベクトルが XndNd(0,Σ) を満たすとする。A を m×d 行列とする。ベクトル b∈Rm をとる。次を Cramér–Wold の方法で示せ。
AXn+bdNm(b,AΣA⊤)
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