確率論入門 第13章 §13.4 ★★★ 推定量の誤差の分布が正規分布に近づくなら、微分可能な関数に通した g(Tn) の誤差も同じく正規分布に近づき、分散は g′(θ)2 倍になる。推定量の関数の誤差を見積もる標準の道具
1変数のデルタ法
中心極限定理によって標本平均 Xˉn の近似分布が分かる。しかし実際に関心があるのは、Xˉn そのものよりその関数であることが多い。たとえば次の2つである。
- 指数分布のレート λ は平均の逆数なので、1/Xˉn で推定する。
- 成功確率の対数オッズ log(p/(1−p)) は、相対頻度 p^n を代入して推定する。
g が θ の近くで滑らかなら、次の1次近似ができる。
g(Tn)−g(θ)≈g′(θ)(Tn−θ)
したがって、ずれの分布は g′(θ) 倍に伸び縮みするだけだと予想される。これを正確に述べたものがデルタ法である。
まず、n 倍して分布収束する量は、元の尺度では 0 に近づくことを確かめておく。
補題 13.18
ある確率変数 Y について n(Tn−θ)dY とする。このとき TnPθ である。
証明
Tn−θ=n−1/2⋅n(Tn−θ) と書く。定数の列 n−1/2 は 0 に(確率)収束するので、Slutsky の定理(第11章 §11.4)から Tn−θd0⋅Y=0 である。極限が定数なので確率収束に格上げされ(第11章 §11.2)、TnPθ を得る。
定理 13.19(デルタ法)
n(Tn−θ)dN(0,σ2) とする。Borel 可測な関数 g:R→R が θ で微分可能であるとする。このとき
n(g(Tn)−g(θ))dN(0, g′(θ)2σ2)(13.16)
が成り立つ(g′(θ)=0 なら極限は定数 0)。
証明
次のように r を定める。
r(h)=hg(θ+h)−g(θ)−g′(θ)(h=0),r(0)=0
微分可能性から r は 0 で連続であり、すべての h で
g(θ+h)−g(θ)=g′(θ)h+hr(h)
が成り立つ。h=Tn−θ を代入して両辺を n 倍する。Wn=n(Tn−θ) と置くと
n(g(Tn)−g(θ))=g′(θ)Wn+Wnr(Tn−θ)(13.17)
である。第1項は、連続写像定理から g′(θ)W∼N(0,g′(θ)2σ2)(W∼N(0,σ2))に分布収束する。
第2項を調べる。ε>0 を与える。r は 0 で連続なので、ある η>0 がとれる。この値について、∣h∣<η なら ∣r(h)∣<ε となる。したがって
P(∣r(Tn−θ)∣≥ε)≤P(∣Tn−θ∣≥η)→0
であり(補題 13.18)、r(Tn−θ)P0 である。Wn は分布収束するので緊密であり、第11章 §11.4 の補題(緊密な列と 0 に確率収束する列の積は 0 に確率収束する)から第2項は 0 に確率収束する。最後に、同じ補題の「分布収束する列に 0 に確率収束する列を足しても極限は変わらない」から、(13.17) の左辺は第1項と同じ極限に分布収束する。
分散安定化変換
X1,X2,… を独立な Po(λ) とする。中心極限定理から n(Xˉn−λ)dN(0,λ) である。極限の分散が未知の λ に依存している。このままでは、λ の信頼区間の幅が λ によって変わる。g(x)=x とすると g′(λ)=2λ1 なので、デルタ法から
n(Xˉn−λ)dN(0, 4λ1⋅λ)=N(0,41)
となり、分散が λ によらなくなる。一般に極限の分散が σ2(θ) のときは、g′(θ)=1/σ(θ) となる関数を選べば、次が成り立つ。
n(g(Tn)−g(θ))dN(0,1)
この g を分散安定化変換と呼ぶ。
例題 13.5 対数オッズの近似分布と信頼区間 ★★
オリジナル成功確率 p∈(0,1) の試行を独立に n 回行う。成功の相対頻度を p^n とする。対数オッズを ℓ(p)=log1−pp と置く。
- (1) n(ℓ(p^n)−ℓ(p)) の極限分布を求めよ。
- (2) 次を示せ。
np^n(1−p^n)(ℓ(p^n)−ℓ(p))dN(0,1)
(p^n∈{0,1} となる確率は 0 に近づくので、その場合の値は任意に定めてよい。)3. (3) n=400 回のうち 80 回成功した。(2) を使って対数オッズの近似 95% 区間を作り、それを p の区間に戻せ。最後に、その区間を p^±1.96p^(1−p^)/n と比べよ。
解答
(1) 系 13.11 から n(p^n−p)dN(0,p(1−p)) である。対数オッズの微分は
ℓ′(p)=p1+1−p1=p(1−p)1
なので、デルタ法から
n(ℓ(p^n)−ℓ(p))dN(0, p2(1−p)2p(1−p))=N(0, p(1−p)1)
である。
(2) (1) を標準化すると np(1−p)(ℓ(p^n)−ℓ(p))dN(0,1) である。弱法則から p^nPp である。関数 x↦x(1−x)/(p(1−p)) は p で連続なので、連続写像定理から
Yn=p(1−p)p^n(1−p^n)P1
である。Slutsky の定理から、積 Yn⋅np(1−p)(ℓ(p^n)−ℓ(p)) は 1⋅N(0,1) に分布収束する。これが示すべき式である。
(3) p^=0.2 である。対数オッズの推定値と標準誤差は
ℓ(p^)=log(0.25)≈−1.3863,400⋅0.2⋅0.81=641=0.125
である。対数オッズの区間は
−1.3863±1.96×0.125=[−1.6313, −1.1413]
である。ℓ は狭義増加で、逆関数は p=ex/(1+ex) である。したがって p の区間は [0.1637, 0.2421] となる。
一方、対数オッズを経由しない区間は
p^±1.964000.2⋅0.8=0.2±0.0392=[0.1608, 0.2392]
で、こちらは p^ について対称である。対数オッズを経由した区間は右に長く、p が 0 に近い側で縮む。また区間が [0,1] からはみ出すことがない。
多変数のデルタ法
定理 13.20(多変数のデルタ法)
Rd 値の Tn について、次を仮定する。
n(Tn−θ)dNd(0,Σ)
Borel 可測な g:Rd→R が θ で(全)微分可能であるとする。そこでの勾配を ∇g(θ) と書く。このとき
n(g(Tn)−g(θ))dN(0, ∇g(θ)⊤Σ∇g(θ))(13.18)
が成り立つ。
証明
次のように r を定める。
r(h)=∣h∣g(θ+h)−g(θ)−∇g(θ)⊤h(h=0),r(0)=0
微分可能性から r は 0 で連続で、
g(θ+h)−g(θ)=∇g(θ)⊤h+∣h∣r(h)
である。Wn=n(Tn−θ) と置くと
n(g(Tn)−g(θ))=∇g(θ)⊤Wn+∣Wn∣r(Tn−θ)
である。
W∼Nd(0,Σ) とする。第1項は定理 13.15 の ⇒ から ∇g(θ)⊤W に分布収束する。その分布は N(0,∇g⊤Σ∇g) である。
∣Wn∣ は連続写像 (13.12) で ∣W∣ に分布収束するので、緊密である。各成分に補題 13.18 を使うと、Tn−θ の各成分は 0 に確率収束する。したがって
P(∣Tn−θ∣≥η)≤j∑P(Tn(j)−θ(j)≥dη)→0
である。あとは定理 13.19 の証明と同じ順に進めばよい。
- r(Tn−θ)P0 を示す。
- 第2項が 0 に確率収束することを示す。
- 和の極限が第1項の極限に等しいことを示す。
例題 13.6 標本分散の近似分布 ★★
オリジナルX1,X2,… を独立同分布で E[X14]<∞ とし、次のように置く。
μ=E[X1],σ2=V[X1]>0,μ4=E[(X1−μ)4],σ^n2=n1k=1∑n(Xk−Xˉn)2
- (1) n(σ^n2−σ2)dN(0,μ4−σ4) を示せ。
- (2) X1∼N(μ,σ2) と X1∼Ex(1) の場合に、極限の分散を求めよ。
- (3) 不偏分散 sn2=n−1nσ^n2 についても同じ極限分布になることを示せ。
解答
(1) 各 Xk から定数 μ を引いても偏差は変わらないので、標本分散は変わらない。そこで μ=0 としてよい。このとき σ2=E[X12]、μ4=E[X14] である。Xk=(Xk,Xk2)⊤ は独立同分布で、平均は θ=(0,σ2)⊤ である。共分散行列は
Σ=(σ2E[X13]E[X13]μ4−σ4)
である。定理 13.16 から n(Xˉn−θ)dN2(0,Σ) となる。g(a,b)=b−a2 と置くと、次のように書ける。
σ^n2=n1∑Xk2−Xˉn2=g(Xˉn),∇g(θ)=(−2⋅0, 1)⊤=(0,1)⊤
定理 13.20 から、極限は
N(0, (0,1)Σ(0,1)⊤)=N(0,μ4−σ4)
となる。
(2) 2つの場合を順に見る。
- 正規分布。μ4=3σ4 なので、極限の分散は 2σ4 である。
- Ex(1)。σ2=1 である。キュムラントは κ2=1、κ4=6 なので(第8章 §8.4)、平均まわりの4次モーメントは
μ4=κ4+3κ22=9
である。極限の分散は 9−1=8 である。
Ex(1) の値は正規分布の4倍であり、裾の厚い分布ほど分散の推定がばらつくことを示す。
(3) 2つの推定量の差は
n(sn2−σ^n2)=n−1nσ^n2
である。σ^n2Pσ2(補題 13.18)と n/(n−1)→0 から、この差は 0 に確率収束する。Slutsky の定理から、次の和は (1) と同じ極限に分布収束する。
n(sn2−σ2)=n(σ^n2−σ2)+n(sn2−σ^n2)
微分係数が 0 のとき
g′(θ)=0 なら定理 13.19 の極限は定数 0 で、n の拡大では足りない。このときは2次の項が主になり、拡大率は n になる。
命題 13.21(2次のデルタ法)
n(Tn−θ)dN(0,σ2) とする。g は θ で2回微分可能で、そこでの微分係数が 0 であるとする。このとき
n(g(Tn)−g(θ))d2g′′(θ)σ2χ12(13.19)
が成り立つ(右辺は Z∼N(0,1) について 2g′′(θ)σ2Z2 の分布)。
証明
Taylor の定理(Peano の剰余)から、次のように書ける。
g(θ+h)−g(θ)=2g′′(θ)h2+h2r(h),r(h)→0 (h→0),r(0)=0
Wn=n(Tn−θ) と置くと
n(g(Tn)−g(θ))=2g′′(θ)Wn2+Wn2r(Tn−θ)
である。連続写像定理から Wn2dσ2Z2 で、Wn2 は緊密である。また r(Tn−θ)P0 なので、定理 13.19 の証明と同じ議論で結論を得る。
確認テスト
オリジナル
- 13.4-1 X1,X2,… を独立同分布とし、平均 0、分散 σ2>0 とする。g(x)=x2 と置く。ng(Xˉn) と ng(Xˉn) の極限分布をそれぞれ求めよ。P(nXˉn2≤3.84σ2) の極限も求めよ。
- 13.4-2 独立な Ex(λ) の標本から、レートを λ^n=1/Xˉn で推定する。n(λ^n−λ) と n(logλ^n−logλ) の極限分布を求めよ。n=100、Xˉ=0.5 のとき、両方の方法でレートの近似 95% 区間を作れ。
- 13.4-3 二項の相対頻度 p^n について、g(p)=arcsinp が分散安定化変換であることを示せ。すなわち次を示せ。
2n(g(p^n)−g(p))dN(0,1)
n=100、p^=0.36 のとき、この変換で成功確率の近似 95% 区間を作れ。4. 13.4-4 補題 13.18 を、Slutsky の定理を使わずに、n(Tn−θ) の緊密性だけから直接示せ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com