統計熱力学入門 第7章 §7.3 ★★★ Sommerfeld 展開→μ(T)・C=2π2NkBT/TF。金属電子比熱の核心。
有限だが十分低温 kBT≪εF では、Fermi 分布の「なまり」は Fermi 面のごく近傍(幅 ∼kBT)に限られる。この事実を定量化するのが Sommerfeld 展開で、まずその形を導く。
展開の導出(μ 基準)。ε<0 で h(ε)=0 となる h に対しI=∫0∞hfFdε=∫−∞∞hfFdε を考える(下限を −∞ にできるのは h=0(ε<0) だから)。H(ε)≡∫−∞εhdε′(H′=h、H(−∞)=0)で部分積分すると、境界項は H(−∞)=0 と f(+∞)=0 で消え、I=−∫−∞∞Hf′dε。ここで −f′=−∂f/∂ε は ε=μ に鋭く尖った幅 ∼kBT の偶関数で ∫−∞∞(−f′)dε=1 だから、H を ε=μのまわりで Taylor 展開してよい:
I=n≥0∑n!H(n)(μ)∫−∞∞(ε−μ)n(−f′)dε=n≥0∑n!H(n)(μ)(kBT)nan.
x=β(ε−μ) と置くと −f′dε=ex/(ex+1)2dx で、モーメントはa0=1、a1=0(奇関数)、a2=∫−∞∞x2ex/(ex+1)2dx=π2/3、以下奇数次は 0。H(μ)=∫0μhdε、H′′(μ)=h′(μ) を使い a2/2!=π2/6 だから、
∫0∞hfFdε=∫0μhdε+6π2h′(μ)(kBT)2+O((kBT)4)(7.7)
を得る。これが μ を基準にした Sommerfeld 展開である。
εF 基準への書き換えと μ(T)。実用上は T 依存の μ でなく T に依らない εF を基準にしたい。まず μ(T) を粒子数保存から決める。(7.7)に h=D を入れると左辺は N、右辺第1項は∫0μD=∫0εFD+D(εF)(μ−εF)+⋯=N+D(εF)(μ−εF)(∫0εFD が絶対零度の N)なので、
N=N+D(εF)(μ−εF)+6π2D′(εF)(kBT)2 ⇒ μ−εF=−6π2D(εF)D′(εF)(kBT)2.
D∝ε1/2 より D′/D=1/2ε だから
μ(T)=εF[1−12π2(εFkBT)2],
温度が上がると μ はわずかに下がる。この μ−εF を(7.7)の一般の h に戻すと(∫0μh=∫0εFh+h(εF)(μ−εF)、h′(μ)≃h′(εF))、
∫0∞h(ε)fF(ε)dε=∫0εFh(ε)dε+6π2[h′(εF)−D(εF)D′(εF)h(εF)](kBT)2+O((kBT)4)(7.9)
となり、問題で与えられた εF 基準の形が再現される。余分な −DD′h の項は、μ の T ずれを吸収した名残である。
条件の確認。(7.9)が使えるのは、h が (i) ε<0 でゼロ、(ii) εF 近傍で滑らか、の 2 条件を満たすときである。本問で使う h=D=Cε1/2 と h=εD=Cε3/2 は、ε<0 では D=0 ゆえ (i) を満たし、εF>0 の近傍では ε1/2,ε3/2 とも解析的なので (ii) も満たす。ε=0(バンド底)で ε1/2 の高階微分は発散するが、そこは Fermi 面から εF≫kBT だけ離れていて −f′ が ∼e−εF/kBT と指数的に小さいので、その非解析性の寄与は無視できる。要するに、条件 (i) は積分の下限を −∞ に伸ばして境界項を消すための大域的な要請、(ii) は μ≃εF のまわりで Taylor 展開するためのεF 近傍だけの局所的な要請であって、ε=0 での滑らかさは必要ない――展開に効くのは Fermi 面近傍だけだからである。逆にこの前提は、化学ポテンシャルがバンド端のすぐ近く(μ−ε端≲kBT)に来ると崩れる。そのときは端が「指数的に遠い」とは言えず、Sommerfeld 展開は使えない。第5章のバンドギャップ系でSommerfeld でなく Boltzmann 近似を用いたのはこのためで、金属(μ=εF が連続スペクトルの奥深くにある)だからこそ Sommerfeld が効く。
エネルギーと比熱。h(ε)=εD(ε) を式(7.9)に代入する。h′=D+εD′ より h′(εF)=D(εF)+εFD′(εF)、また D(εF)D′(εF)h(εF)=εFD′(εF) だから、角括弧はD(εF)+εFD′(εF)−εFD′(εF)=D(εF) と、εFD′ の項がみごとに相殺する。したがって
E(T)=E0+6π2D(εF)(kBT)2+O(T4).
これを温度で微分し、式(7.4)の D(εF)=3N/2εF を代入すると比熱が得られる:
★★★ 結果:低温比熱
E(T)=53NεF+6π2D(εF)(kBT)2,C(T)=3π2D(εF)kB2T=2π2NkBTFT
ただし kBTF=εF。比熱は温度に比例(C∝T)する。
古典理想気体の C=23NkB と比べると、係数が 3π2TFT≪1だけ抑えられている。これは「熱で励起できるのは Fermi 面近傍の幅 ∼kBT にいる∼NkBT/εF 個の粒子だけ」という描像で理解できる。この ∼NT/TF 個がそれぞれ ∼kBT のエネルギーをもらうので E−E0∼NkBT2/TF、比熱 C∼NkBT/TF と、数係数を除いて上式が再現される。金属の電子比熱が室温でDulong–Petit 則からずれて小さいのはこのためである。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com