統計熱力学入門 第7章 §7.4 ★★ χ=μ02D(εF)=3Nμ02/2εF。温度に鈍い常磁性。Curie の縮退版。
磁場 H 中では、電子のスピン磁気モーメントと磁場の相互作用(Zeeman 効果)により、各電子の準位がスピンの向きに応じて上下にずれる:
εσ(k)=2mℏ2k2−σμ0H(σ=+1:平行, σ=−1:反平行).
μ0 は電子の磁気モーメントの大きさ、μ0H はエネルギーの次元をもつ。運動項は磁場に依らないとする。平行なモーメント(σ=+1)はエネルギーが μ0H 下がり、反平行(σ=−1)は μ0H 上がる。
分裂は何を引き起こすか。磁場がなければ上向き・下向きスピンの準位はまったく同じで、両者の電子数は等しく N+=N−=N/2、正味の磁気モーメントは 0 である。磁場をかけると平行スピンの方がエネルギー的に得になるので、電子はできるだけ平行に揃いたい。ところが排他律のせいで全員が平行に転じることはできない――低い平行状態はすでに埋まっているからである。スピンを反転できるのは、移り先の空席がある Fermi 面近傍の電子だけ。その結果、平行がわずかに多い状態 N+>N− に落ち着き、この差が正味の磁化M=μ0(N+−N−) を生む。これが Pauli 常磁性である。
スピン種とその粒子数(積分の出どころ)。上向き・下向きの電子を、それぞれ一つの Fermi 気体(スピン種)とみなす。スピンは 2 つの内部状態なので、各スピン種の状態密度は全体(g=2)の半分 D1(ε)=21D(ε) である。スピン種 σ の電子は、運動エネルギー εk の状態にいても全エネルギーはεk−σμ0H で、それが μ 以下なら占有される。よって占有率は運動エネルギーの関数としてfF(εk−σμ0H) となり、そのスピン種の電子数は「状態密度 × 占有率」を足し上げた
Nσ=∫0∞D1(εk)fF(εk−σμ0H)dεk
で与えられる(T=0 なら「運動エネルギーを μ+σμ0H まで詰める」――平行は上限が高く反平行は低い――と同じこと)。Zeeman ずれは、この詰める上限を σμ0H だけずらす効果として入る。
磁化と磁化率。M=μ0(N+−N−) を低磁場について H の 1 次まで展開する。f(εk∓μ0H)≃f(εk)∓μ0Hf′(εk) より
M=μ0∫0∞D1[f(εk−μ0H)−f(εk+μ0H)]dεk≃2μ02H∫0∞D1(εk)(−f′(εk))dεk.
低温では −f′≃δ(εk−εF)(Fermi 面に鋭く局在)だから∫D1(−f′)dεk≃D1(εF)=21D(εF)。ゆえに
★★ 結果:Pauli 常磁性磁化率
M=μ02D(εF)H,χ=HM=μ02D(εF)=2εF3Nμ02=2kBTF3Nμ02

図 7.1 Pauli 常磁性の幾何。両スピン種は同じ状態密度曲線 21D(εk) を共有し、平行スピンは運動エネルギーを μ+μ0H まで、反平行は μ−μ0H まで詰める。両者の差=上端の幅 2μ0H・高さ 21D(εF) の薄いスライバー(オレンジ)が正味のモーメント μ02D(εF)H を与える。
図7.1のとおり、磁化は「上端の薄いスライバーの差」として現れる。磁化率は最低次では温度に依らない定数で、これが Pauli 常磁性である。古典的な Curie 常磁性 χ∝1/T が、縮退により χ∝1/TF(T の代わりに TF)へ「凍結」した姿と見なせる。磁場に応答してスピンを反転できるのが Fermi 面近傍の ∼D(εF)μ0H 個だけで、その数が温度に依らないことが、χ が定数になる理由である。
磁化率の比較:Curie 常磁性・Pauli 常磁性・Landau 反磁性
磁化 M は系の磁気モーメントの和で、弱い磁場への応答を磁化率 χ=limH→0∂M/∂H で表す。χ>0 を常磁性、χ<0 を反磁性という。電子の磁気モーメントの源は、スピン(この節の Zeeman 項)と、軌道運動(磁場の中の円運動の電流。量子力学では Landau 準位に量子化される)の2つである。
比較の基準は、互いに独立な N 個の局在したモーメントである。各モーメントは2つの準位 ∓μ0H をとるので、
M=Nμ0tanhkBTμ0H,χC=kBTNμ02(Curie 常磁性),χCχP=2εF3kBT=2TF3T.
Pauli の磁化率は、Curie の式の kBT を 32εF に置き換えた形をしている。局在したモーメントは熱揺らぎ kBT と競い合って向きを変えるが、伝導電子で向きを変えられるのは Fermi 面付近の電子だけである。その数は温度によらないので、χP は温度によらず、χC よりはるかに小さい。次節のナトリウム(TF≃3.75×104K)では、室温 300K で比は約 0.012 である。
軌道運動からは、自由電子ではLandau 反磁性 χL=−χP/3 が出る(結果だけ書き、導出は Landau 準位とその縮退度を使う)。和は 32χP である。古典統計力学では軌道運動の磁化は厳密に0になる(Bohr–van Leeuwen の定理。証明は 虎の巻『解析力学から様々な理論分野を組み立てる』第3部第3章)ので、Landau 反磁性は量子力学に固有の効果である。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com