量子力学入門 第1部 第6章 §1.6.4 ★★ 次元 2s+1・昇降・測定。
スピン 21 は最小のスピンにすぎない。粒子には一般にスピン量子数 s∈{0,21,1,23,2,…} が備わり、内部 Hilbert 空間の次元・測定の出方・回転の仕方がすべて s で決まる。ここでは s=23 を具体例に据えて、21 で見た構造がどう一般化するかを丁寧に辿る。
次元は 2s+1。
スピンの状態空間は S^z の固有状態 ∣s,m⟩ を基底にとり、磁気量子数 m は
m=−s, −s+1, …, s−1, s(1刻みで 2s+1 個)
を走る。この「−s から s まで1刻み」は§1.7のスピン合成でみた梯子そのものである:最高状態 ∣s,s⟩ から S^− で m を1ずつ下げ、∣s,−s⟩ で S^−∣s,−s⟩=0 と止まる。s=21 なら m=±21 の2次元(Pauli 行列の C2)、s=23 なら m=23,21,−21,−23 の4次元である。スピン角運動量の大きさは
S^2∣s,m⟩=ℏ2s(s+1)∣s,m⟩,S^z∣s,m⟩=ℏm∣s,m⟩
で、昇降演算子は S^±∣s,m⟩=ℏs(s+1)−m(m±1)∣s,m±1⟩(§1.7と同じ公式)。
演算子は (2s+1)×(2s+1) 行列。
s=23 で基底を (∣23⟩,∣21⟩,∣−21⟩,∣−23⟩) と並べ、上の公式を成分に落とすと(ℏs(s+1)−m(m+1) が順に 3,2,3)
S^z=2ℏ31−1−3,S^x=2ℏ0300302002030030,S^y=2ℏ0i300−i302i00−2i0i300−i30.
Pauli 行列(s=21 の 2×2)の一般化であり、直接計算で [S^x,S^y]=iℏS^z と S^2=415ℏ21^(=ℏ2⋅23⋅25、単位行列に比例)が確かめられる。角運動量の代数 [S^i,S^j]=iℏεijkS^k は s によらず同じで、違うのは表現のサイズだけである。
測定:2s+1 択。
どの軸方向に測っても、出る値は S^z の固有値
mℏ∈{23ℏ, 21ℏ, −21ℏ, −23ℏ}
の4択である(一般には 2s+1 択)。確率はいつも通り Born 則 P(m)=∣⟨s,m∣ψ⟩∣2、測定後は ∣s,m⟩ へ収縮する。ここは s=21 と何ら変わらず、選択肢の本数が 2s+1 に増えるだけだ。Stern–Gerlach 実験なら、s=21 でビームが2本に割れたのに対し、s=23 では4本に分裂する——歴史的には、観測された分裂本数から粒子のスピンが読み取られた。
例題 6.1
オリジナル★★ 傾いた軸での測定確率(射影)。z 方向に完全整列した最高状態 ∣23,23⟩ を用意し、z から角 θ 傾いた軸でスピンを測る。各測定値 m′ℏ の出る確率を求めよ。
解答
傾いた軸の固有状態は、元の状態を角 θ 回転した R^∣23,m′⟩。求める確率は P(m′)=∣⟨23,m′∣R^†∣23,23⟩∣2 で、Wigner の回転行列を計算すれば出るが、ここは物理的な近道を使う。最高状態は「揃ったスピン 21 が3個」と同じ変換性をもつ:∣23,23⟩≅∣↑↑↑⟩(§1.7の合成 21⊗21⊗21 の最大成分)。回転後、各 21 は独立に確率 cos22θ で「上」、sin22θ で「下」を向く(s=21 の Bloch 球の結果)。3個中の「上」の数 k が m′=k−23 を決めるので、確率は二項分布
P(m′)=(23+m′3)(cos22θ)23+m′(sin22θ)23−m′
たとえば P(23)=cos62θ, P(−23)=sin62θ。(回転行列を直接計算しても同じ結果になることを確認できる。)θ=0 なら P(23)=1 で当然、θ=π(真反対)なら P(−23)=1。一般のスピンでも測定の骨格は s=21 と同型で、多準位ゆえ確率が二項的に配分されるのが見て取れる。
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