量子力学入門 第7部 第6章 §7.6.2 ★★ 透過率 T∼e−2∫∣p∣dx/ℏ の導出
III → II. 進行波の接続には第3の公式 (7.4.4) を(回帰点 b について)使う:
φII(x)=ρ−iCexp(+ℏ1∫xbρdx′)=ρ−iCeLexp(−ℏ1∫axρdx′), L:=ℏ1∫abρ(x′)dx′
(第2の等号は ∫xb=∫ab−∫ax の書き換え)。障壁内の解は x=b 側から見ると増大解、x=a 側から見ると「係数 eL 付きの減衰解」である。
II → I. 回帰点 a について「−」型 (7.4.2) を(左右を反転した形で)使うと
φI(x)=p−2iCeLcos(ℏ1∫xapdx′−4π)=p−iCeL[ei(ℏ1∫xapdx′−4π)+e−i(ℏ1∫xapdx′−4π)].
cos を指数に開いた第1項は左向き位相(x が減ると位相が増える)=入射波、第2項は反射波である。入射波の振幅は ∣C∣eL、透過波(III)の振幅は ∣C∣。よって透過率は
T=∣入射波∣2∣透過波∣2=e−2L=exp(−ℏ2∫ab2m(V(x′)−E)dx′) (7.6.1)
指数の中身は「障壁の高さの平方根を幅にわたって積分したもの」——障壁の面積が大きいほど指数的に透過しにくい。なお (7.6.1) と同時に反射率 R=1 が出てしまう(∣入射∣=∣反射∣)のは矛盾ではない:WKB は T を指数の精度で与える近似であり、R=1−T=1−e−2L の e−2L は指数的に小さい補正として WKB の精度の外にある。(7.6.1) が信頼できるのは L≫1(T≪1)の「厚い障壁」の場合である。
例題 6.1(アルファ崩壊と Gamow 因子 ★★)
オリジナル原子核(電荷 Z2e、半径 a)から α 粒子(電荷 Z1e=2e、質量 m、エネルギー E>0)が放出される過程を考える。核力の井戸の外側では、障壁は Coulomb 斥力
V(r)=4πε0rZ1Z2e2(r>a)
である。透過率 (7.6.1) を計算し、崩壊率のエネルギー依存性を論ぜよ。
解答
外側の回帰点 b は V(b)=E より b=4πε0EZ1Z2e2。V(r)−E=E(rb−1) と書けるので
2L=ℏ2∫ab2m(4πε0rZ1Z2e2−E)dr=ℏ22mEb∫abr1−b1dr.
残った積分は r=bsin2θ の置換で初等的に求まり
∫abr1−b1dr=b[arccosba−ba(1−ba)]
(この閉じた式は、微分が被積分関数に戻ること・数値積分との一致の両方を SymPy/SciPy で検証済み)。よって
2L=ℏ22mEb[arccosba−ba(1−ba)].
低エネルギー(E 小 ⇒ b≫a)では arccosa/b→π/2 で
2L ≃ ℏπ2mEb=4πε0ℏπZ1Z2e2E2m⟹T≃exp(−4πε0ℏπZ1Z2e2E2m)
——Gamow 因子である。α 粒子が井戸内を往復して壁に衝突する頻度を f とすれば崩壊率は w≃fT、寿命は τ∼1/w。したがって
lnτ ≃ const+4πε0ℏπZ1Z2e2E2m(lnτ∝E1)
——寿命の対数が 1/E に比例する。これは実験的に知られる Geiger–Nuttall 則そのものであり、E が数 MeV の範囲で変わるだけで寿命がマイクロ秒から数十億年まで20桁以上動く、という異常な感度が指数関数 (7.6.1) で一挙に説明される。トンネル効果の最初の定量的勝利(Gamow, 1928)である。 ■
トンネル効果のまとめ
厚い障壁の透過率は T=e−2L、L=ℏ1∫ab2m(V−E)dx——障壁の「面積」の指数減衰。接続は「透過波しかない III」から第3公式で II(増大解)、さらに「−」型で I(入射+反射)へと、右から左へ決める。WKB の T は指数の精度:L≫1 でのみ信頼できる。応用:アルファ崩壊(Gamow 因子・Geiger–Nuttall 則)、電界放出、走査トンネル顕微鏡、Josephson 接合。
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