相対論入門 第5章 §5.2 ★★★ 4元運動量の時間成分はエネルギーで、E2=(pc)2+(mc2)2 は4元運動量の大きさが一定であることの言い換え
仕事とエネルギー
4元運動量の時間成分 p0=γumc の意味を、仕事とエネルギーの関係から決める。粒子に働く3次元の力 F を、Newton の第2法則と同じ形で
F=dtdp,p=γumu(5.11)
と定める(この定義が4元ベクトルの言葉でどう表されるかは §5.4 で扱う)。Newton 力学と同じく、力が単位時間あたりにする仕事 F⋅u が運動エネルギー T の増える割合だと定める。F⋅u を計算する。γu を時間で微分すると、u2=u⋅u に注意して
dtdγu=dtd(1−c2u⋅u)−1/2=−21(1−c2u2)−3/2(−c22u⋅u˙)=c2γu3u⋅u˙
である(u˙=du/dt)。これを使うと
F⋅u=mu⋅dtd(γuu)=mγuu⋅u˙+mu2c2γu3u⋅u˙=mγuu⋅u˙(1+c2γu2u2).
括弧の中は 1+γu2u2/c2=γu2(1−u2/c2+u2/c2)=γu2 なので
F⋅u=mγu3u⋅u˙=mc2dtdγu=dtd(γumc2)(5.12)
となる。したがって、静止状態(γu=1)から速さ u まで加速するあいだに力がした仕事は
T=(γu−1)mc2(5.13)
で、これが相対論的な運動エネルギーである。
(5.12) が示すように、仕事によって増えるのは γumc2 という量であり、これは cp0 に等しい。そこで、粒子のエネルギーを
E=cp0=γumc2=mc2+T(5.14)
と定める。運動エネルギー T に定数 mc2 を足したものをエネルギーと呼ぶのには理由がある。こう定めると E/c が4元運動量の成分になり、命題 5.4 の保存則に組み込める。定数を変えて E=T と定めると、(E/c,p) は4元ベクトルにならず、エネルギー保存が系によって成り立ったり成り立たなかったりする。以後、4元運動量を
pμ=(cE, p)(5.15)
と書く。mc2 は粒子が静止しているときのエネルギーなので静止エネルギーと呼ぶ。
遅い粒子では、γu を u2/c2 で展開して
E=mc2(1+21c2u2+83c4u4+⋯)=mc2+21mu2+83c2mu4+⋯(5.16)
となる。第2項が Newton 力学の運動エネルギーで、第3項が相対論の最初の補正である。
エネルギーと運動量の関係
(5.9) に (5.15) を入れると E2/c2−∣p∣2=m2c2 である。p=∣p∣ と書いて整理する。
定理 5.5(エネルギーと運動量の関係 ★★★)
質量 m の粒子を考える。そのエネルギー E と運動量の大きさ p は、どの慣性系でも
E2=(pc)2+(mc2)2(5.17)
を満たす。粒子の速度は
u=Epc2(5.18)
で表される。
証明
(5.17) は上で示した。速度は、(5.8) と (5.14) の比 p/E=γumu/(γumc2)=u/c2 から出る。
エネルギーと運動量の大きさは、慣性系ごとに値が違う。しかし組み合わせ E2−(pc)2 は質量だけで決まり、系によらない。
(pc,E) の平面で (5.17) を描くと、図 5.1 の双曲線になる。この双曲線を質量殻と呼ぶ。ブーストは双曲線の上で点を動かすだけで、点を双曲線の外へ出さない。第3章 §3.1 の目盛りの双曲線と同じ形である。

図 5.1 質量殻。質量 m の粒子のエネルギーと運動量は実線の双曲線の上にあり、静止したとき頂点 (0,1) にある。速さ 0.6c の粒子は (γuβu,γu)=(0.75,1.25) の点にある。破線は質量0の粒子の E=∣pc∣ で、双曲線の漸近線になっている。
質量0の粒子
(5.17) は m=0 でも意味を持つ。そのとき E=pc で、(5.18) から速さは u=pc2/E=c である。質量0の粒子はどの慣性系でも光速で動き、静止系を持たない。光子がその例で、第4章 §4.2 の4元波数 kμ=(ω/c,k) と Planck 定数 ℏ を使って
pμ=ℏkμ,E=ℏω,p=ℏk(5.19)
と書ける。4元波数が4元ベクトルなので、光子の pμ も4元ベクトルである。それは pμpμ=0 を満たす光的なベクトルである。
質量を持つ粒子の4元速度 uμ=pμ/m は、m=0 では定義することができない。質量0の粒子には固有時が経過しないからである(世界線上で dτ=0)。
静止エネルギーと系の質量
複数の粒子からなる系の質量 M を、全4元運動量 (5.10) の大きさで
M2c2=PμPμ=c2E全2−∣P∣2,E全=a∑Ea,P=a∑pa(5.20)
と定める。Pμ が4元ベクトルなので M は系によらない。全運動量が0になる系(重心系。§5.3 で存在を示す)では Mc2=E全 で、系の質量は系の全エネルギーを c2 で割ったものである。各粒子のエネルギーは静止エネルギーと運動エネルギーの和なので
Mc2=a∑mac2+a∑Ta(重心系での運動エネルギー Ta)(5.21)
となる。系の質量は構成要素の質量の和に、重心系での内部の運動エネルギーを c2 で割ったものを足した値である。
粒子の間に引力の位置エネルギーがあって束縛されているときは、そのエネルギー(負の値)も Mc2 に入り、系の質量は構成要素の質量の和より小さくなる。この差 Δmc2 を結合エネルギーと呼ぶ。例題 5.2 の M=2.5m は、(5.21) で2粒子の運動エネルギー 2×0.25mc2 が質量に入った例である。
重陽子の結合エネルギー
陽子・中性子・重陽子の静止エネルギーの測定値は次のとおりである。
mpc2=938.272MeV,mnc2=939.565MeV,mdc2=1875.613MeV
重陽子(陽子1つと中性子1つの束縛状態)の質量はばらばらの2粒子の質量の和より小さく、差は
(mp+mn−md)c2=938.272+939.565−1875.613=2.224MeV
である。重陽子を陽子と中性子に分けるには、少なくともこのエネルギーを外から加える必要がある。
「速さとともに質量が増える」という言い方
古い本には、γum を「相対論的質量」と呼び、速く動く物体は質量が増えると書くものがある。この本ではその言い方を使わない。質量 m は静止系で測ったスカラーで、どの系でも同じ値である。
速さとともに増えるのはエネルギー E=γumc2 と運動量 γumu である。γum という量に独立の名前を付けても、新しい情報は無い。さらに、§5.4 で示すように、力と加速度の比は速度に平行な向きと垂直な向きで違うので、「質量 γum の物体として Newton の法則が成り立つ」と考えることはできない。
一方、系の質量 (5.20) は内部の運動エネルギーとともに増える。これは系の静止系での全エネルギーが増えるという意味で、個々の粒子の質量が変わるのではない。
例題 5.3 電圧で加速した電子 ★★
オリジナル静止していた電子を 1.00 MV の電位差で加速した。mec2=0.511MeV とする。
- (1) 電子のエネルギー・運動量・速さを求めよ。
- (2) Newton 力学の 21meu2=T から求めた速さと比べよ。
解答
電荷 e の電子は、電位差 1.00 MV を通ると T=1.00MeV の運動エネルギーを得る。(5.14) から
E=mec2+T=0.511+1.000=1.511MeV.
(5.17) から
pc=E2−(mec2)2=1.5112−0.5112 MeV=2.283−0.261 MeV≈1.422MeV,
すなわち p≈1.422MeV/c である。速さは (5.18) から u/c=pc/E=1.422/1.511≈0.941 である。γu=E/(mec2)=1.511/0.511≈2.96 で、1/1−0.9412≈2.96 と合っている。
Newton 力学の式では u/c=2T/(mec2)=2/0.511≈1.98 となり、光速の約2倍という答えになる。運動エネルギーが静止エネルギーと同じ程度以上になると、Newton 力学の式を使うことはできない。
例題 5.4 太陽が失う質量 ★★
オリジナル太陽の放射の出力(光度)は L⊙=3.828×1026W、質量は M⊙=1.989×1030kg である。c=2.998×108m/s、1年を 3.156×107s とする。
- (1) 放射によって太陽の質量は1秒あたり何 kg 減るか。
- (2) 太陽は 1.0×1010 年で、質量のどれだけの割合を失うか。
解答
太陽は静止しているとみなし、太陽の静止系で考える。1秒あたりに出ていくエネルギーは L⊙ である。したがって系の質量の定義 (5.20) から、Mc2 が1秒あたり L⊙ だけ減る。
dtdM=−c2L⊙=−(2.998×108)23.828×1026kg/s≈−4.26×109kg/s.
1.0×1010 年は 3.156×1017s である。失う質量と、M⊙ に対する割合は
4.26×109×3.156×1017≈1.34×1027kg,1.989×10301.34×1027≈6.8×10−4
である。毎秒40億トン以上という量は日常の感覚では大きいが、太陽の一生を通じても質量の0.1%に満たない。
確認テスト
オリジナル
- 5.2-1 質量 m の粒子の運動量が p=mc のとき、エネルギーと速さを求めよ。
- 5.2-2 陽子(mpc2=938.272MeV)を運動エネルギー 7.00TeV まで加速した。γu と 1−u/c を有効数字3桁で求めよ。
- 5.2-3 Newton 力学の運動エネルギー 21mu2 と、相対論の T=(γu−1)mc2 の比を考える。比 21mu2/T が 0.99 になる速さ u/c を求めよ。電子ではそれは何 keV の運動エネルギーにあたるか。
- 5.2-4 2粒子の質量を m1、m2 とする。その2粒子からなる系の質量を M とする。M≥m1+m2 を示せ。等号はどんなときに成り立つか(5.1-4 の結果を使ってよい)。
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