相対論入門 第6章 §6.3 ★★★ エネルギー密度・Poynting ベクトル・Maxwell 応力は1つの対称テンソルの成分で、その発散が電荷に働く力の密度になる
密度と流れを並べる
3次元の電磁気学には、場のエネルギーと運動量について次の量がある。
- エネルギー密度 uem=ε0E2/2+B2/(2μ0)。
- エネルギーの流れの密度である Poynting ベクトル S=E×B/μ0。
- 運動量密度 g=S/c2。
- 運動量の流れを表す Maxwell 応力
σij=ε0(EiEj−21δijE2)+μ01(BiBj−21δijB2).(6.19)
出典は『電磁気学入門』第8章 §8.3・§8.4 である。uem の添字 em は、4元速度の uμ と区別するために付けた。
エネルギーは1つの数の密度で、その流れは3次元のベクトルである。運動量は3次元のベクトルの密度で、その流れは 3×3 の行列になる。合わせると 1+3+3+9=16 個の数で、4元運動量の4つの成分それぞれについて「密度」と「3方向の流れ」がある。
これを 4×4 の配列 Tμν に並べる。行の添字 μ は、4元運動量のどの成分かを表す。列の添字 ν は、密度(0)か流れの向き(j)かを表す。
定義 6.2(エネルギー運動量テンソル)
4元運動量の μ 成分に c を掛けて、エネルギーの次元にそろえた量を考える。Tμν を、この量について次のように定める。
- (i) ν=0 なら、その密度。
- (ii) ν=j なら、j 方向の流れの密度を光速で割ったもの。
具体的には、各成分は次の量である。
- T00:エネルギー密度。
- T0i:エネルギーの流れの密度を c で割ったもの。
- Ti0:運動量密度の c 倍。
- Tij:運動量の流れの密度。添字 i が運動量の成分を、j が流れの向きを表す。
記号 T の使い分け
第5章では運動エネルギーを T=(γu−1)mc2 と書いた。この章の Tμν は添字を2つ持つエネルギー運動量テンソルで、運動エネルギーとは別の量である。この章では運動エネルギーに T を使わず、添字のない T は書かない。トレース Tμμ も必ず添字をつけて書く。
この約束では、保存則が ∂νTμν=0 の形になる。μ=0 について書くと
c1∂tT00+∂jT0j=0
である。T0j=Sj/c なら、これは Poynting の定理の場の部分 ∂tuem+∇⋅S=0 になる。
以下で見るように、電磁場の Tμν は対称である。したがって、どちらの添字で発散をとるかを区別しなくてよい。対称であることは、次の2つを表している。
- T0i=Ti0:エネルギーの流れと運動量密度が S=c2g で結ばれていること。
- Tij=Tji:角運動量が保存されるための条件。

図 6.2 電磁場のエネルギー運動量テンソル Tμν の成分の意味。左上が密度、上の行がエネルギーの流れ、左の列が運動量密度、右下の 3×3 が運動量の流れ(応力)である。対称なので上の行と左の列は等しい。
電磁場の Tμν
これらの量を Fμν から作る式は次のとおりである。
Tμν=μ01(FμαFαν+41ημνFαβFαβ)(6.20)
右辺は F の2次で、自由添字 μ,ν が上の2階のテンソルである。FμαFαν=FμαηαβFβν で、行列で書けば FηF である。転置すると (FηF)T=FTηFT=(−F)η(−F)=FηF なので対称である。
命題 6.3(成分 ★★★)
(6.20) の成分は
T00=2ε0E2+2μ0B2=uem,T0i=Ti0=cSi,Tij=−σij(6.21)
である。またトレースは Tμμ=0 である。
証明
(FηF)μν=∑αFμαηααFαν を成分ごとに計算する(η は対角)。
(FηF)00=i∑F0i(−1)Fi0=i∑(−cEi)(−1)cEi=c2E2.
これに 41η00FαβFαβ=21(B2−E2/c2) を足す。1/(μ0c2)=ε0 を使うと
T00=2ε0E2+2μ0B2
である。
(0,j) 成分は η0j=0 なので第1項だけで、
(FηF)0j=i∑F0i(−1)Fij=−i,k∑(−cEi)(−ϵijkBk)=−c1i,k∑ϵijkEiBk.
外積の成分は
(E×B)j=i,k∑ϵjikEiBk=−i,k∑ϵijkEiBk
なので、(FηF)0j=(E×B)j/c である。したがって T0j=(E×B)j/(μ0c)=Sj/c である。
(i,j) 成分は、和を時間の添字の項と空間の添字の項に分けて
(FηF)ij=Fi0F0j−k∑FikFkj=−c2EiEj−k∑ϵiklϵkjmBlBm.
ϵiklϵkjm=ϵkliϵkjm=δljδim−δlmδij なので、最後の和は BiBj−δijB2 である。41ηijFαβFαβ=−21δij(B2−E2/c2) を足すと
μ0Tij=−c2EiEj−BiBj+δij(2B2+2c2E2)
となる。真空の透磁率で割り、1/(μ0c2)=ε0 を使うと Tij=−σij である。
トレースは、ημνημν=4 を使って
Tμμ=ημνTμν=μ01(FμαFαμ+41⋅4FαβFαβ)
である。FμαFαμ=−FμαFμα なので、これは0になる。
Tij=−σij の符号は、運動量の流れと応力の向きの約束の違いによる。σij は「面の外側の場が内側に及ぼす力」を表すので、運動量が面を通って外へ流れ出す向きと逆符号になる。
たとえば一様な電場 E=E0z^ では
T33=−2ε0E02<0,T11=T22=+2ε0E02>0
で、場は力線の向きに張力、垂直な向きに圧力をおよぼす(確認テスト 6.3-2)。トレースが 0 であることは、電磁場の量子である光子の質量が 0 であることに対応する。§6.4 の気体の例で、この対応をもう一度見る。
保存則と電荷に働く力
電荷や電流があると場のエネルギーと運動量だけでは保存せず、電荷とのあいだでやり取りが起きる。その割合は次の式で与えられる。
定理 6.4(エネルギー運動量の収支 ★★★)
Maxwell 方程式 (6.10) が成り立つとき
∂μTμν=−FνλJλ(6.22)
である。
証明
(6.20) を微分する。添字 ν を下げた Tμν で計算すると見通しがよい。
μ0∂μTμν=(∂μFμα)Fαν+Fμα∂μFαν+41∂ν(FαβFαβ).
第1項は Maxwell 方程式から μ0JαFαν である。第3項は 21Fαβ∂νFαβ と書ける。第2項は、ダミー添字の名前を μ→α、α→β と替える。そのうえで Fαβ の反対称性を使って
Fαβ∂αFβν=21Fαβ(∂αFβν−∂βFαν)=21Fαβ(∂αFβν+∂βFνα)
とする。第2項と第3項を合わせると
21Fαβ(∂αFβν+∂βFνα+∂νFαβ)=0
で、括弧の中は Bianchi 恒等式 (6.11) により 0 である。残るのは ∂μTμν=JαFαν である。添字 ν を上げると ∂μTμν=JαFαν である。Fαν=−Fνα なので (6.22) を得る。
右辺の意味を成分で読む。時間成分は
F0λJλ=i∑F0iηiiJi=i∑cEiJi=cJ⋅E
なので、ν=0 の式を c 倍すると
∂tuem+∇⋅S=−J⋅E(6.23)
となる。これは Poynting の定理で、右辺は場が電荷にする仕事の割合(Joule 熱など)だけ場のエネルギーが減ることを表す。空間成分は
FiλJλ=Fi0cρ−j∑FijJj=ρEi+j,k∑ϵijkJjBk=(ρE+J×B)i
なので
∂tgi−j∑∂jσij=−(ρE+J×B)i(6.24)
となる。右辺の ρE+J×B は電荷と電流に働く Lorentz 力の密度で、それが電荷の運動量の増える割合である。場の運動量密度 g の増加と、応力による流れ込みと、電荷が受け取る運動量の和は 0 になる。
(6.22) の右辺は、§6.2 の1個の粒子の式 dpν/dτ=qFνλuλ を密度に直したものと符号が逆である。電荷が場から受け取る4元運動量の割合 FνλJλ だけ、場の4元運動量が減る。
§6.4 では、荷電したダストについて「物質の Tμν の発散 =+FνλJλ」を確かめる。そして、物質と場を合わせた全体が保存することを見る。Tμν を作用(Noether の定理)から導く道は、虎の巻『解析力学から様々な理論分野を組み立てる』第2部第7章にある。
平面波のエネルギー運動量テンソル
x 方向に進む直線偏光の平面波を (6.21) に入れる。電場と磁場は
E=Ey^,B=cEz^,E=E0cos(kx−ωt)
である。B2/μ0=E2/(μ0c2)=ε0E2 なので
T00=ε0E2,T01=μ0cEB=ε0E2,T11=−σxx=2ε0E2+2μ0B2=ε0E2,T22=−2ε0E2+2μ0B2=0,T33=2ε0E2−2μ0B2=0
で、ほかの成分も0である。まとめると
Tμν=ε0E2nμnν,nμ=(1,1,0,0)=ωckμ(6.25)
となる。nμ は光的な4元ベクトルで、波は自分の進む向きにだけエネルギーと運動量を運ぶ。T11=T00 は、運動量の流れ(単位面積を単位時間に通る運動量)がエネルギー密度に等しいことを表す。これが放射圧の起源である。
例題 6.3 太陽光の放射圧 ★★
オリジナル地球の軌道の位置で太陽光に垂直な面が受ける放射のエネルギーの流れの密度(時間平均)を I=1361 W/m2 とし、太陽光を平面波で近似する。
- 時間平均したエネルギー密度 ⟨T00⟩ と、電場の振幅 E0 を求めよ。
- 光を完全に吸収する面と完全に反射する面が受ける圧力を求めよ。
- 面積 1 km2 の完全反射の帆が受ける力を求めよ。
解答
- (6.25) から T01=T00 で、T01=Sx/c である。したがって
⟨T00⟩=cI=2.998×1081361 J/m3=4.54×10−6 J/m3
である。⟨cos2⟩=1/2 から ⟨T00⟩=ε0E02/2 なので
E0=cε02I=2.998×108×8.854×10−122×1361 V/m=1.01×103 V/m.
2. 光を吸収する面には、単位面積・単位時間に運動量 ⟨T11⟩ が流れ込んで止まる。この運動量の変化の割合が圧力なのでPabs=⟨T11⟩=I/c=4.54×10−6 Pa である。反射する面では入ってきた運動量 +⟨T11⟩ が逆向きに出ていくので、運動量の変化は2倍になり、Pref=2I/c=9.08×10−6 Pa である。3. F=Pref×106 m2=9.08 N である。大気圧(約 105 Pa)と比べて10桁小さい圧力でも、空気抵抗のない宇宙空間では長い時間をかけて帆を加速することができる。
確認テスト
オリジナル
- 6.3-1 電磁場の Tμν のトレースが0であることを、成分 (6.21) から T00−∑iTii として確かめよ。
- 6.3-2 一様な電場 E=E0z^ だけがあるときの Tμν の全成分を求めよ。z 方向の張力と、x,y 方向の圧力の大きさを答えよ。E0=1.0×106 V/m の数値も求めよ。
- 6.3-3 (6.25) の平面波で、Tμν の2つの不変量がともに0であることを示せ。不変量は Tμμ と TμνTμν である。
- 6.3-4 (6.25) の平面波を、標準配置で速さ β の K′ 系で見る。エネルギー密度 T′00 をテンソルの変換則から求めよ。結果を第3章の縦の Doppler 効果と比べ、β=0.6 の数値を求めよ。
- 6.3-5 (6.23) を有限の領域 V で積分し、領域の中の場のエネルギーが減る割合が、境界から出ていくエネルギーの流れと電荷にする仕事の和に等しいことを示せ。
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