相対論入門 第6章 §6.1 ★★★ 電場と磁場は1つの反対称テンソル Fμν の成分で、Maxwell 方程式の4本は2本のテンソルの式にまとまる
第4章では、4元ベクトルとテンソルの変換則・縮約・双対を整え、反対称テンソルが2つの3次元ベクトルの組として書けることを見た。第5章では、4元速度 uμ と4元運動量 pμ=(E/c,p) を定義した。そして運動方程式を、4元力 fμ=dpμ/dτ の式に書いた。
この章では、その2つの道具を電磁気学に当てはめる。電磁気学は Lorentz 変換のもとで初めから形を変えない理論なので、相対論の文法に書き直すと、3次元の式のあいだの関係が1本のテンソルの式の別々の成分として見えるようになる。
§6.1 では、電磁場テンソル Fμν と共変な Maxwell 方程式を結果として書き、場の変換を行列の積で計算する。導出は『電磁気学入門』第10章 §10.3〜§10.5 にあるので、ここでは式の形と成分の読み方だけを確認する。
§6.2 では Lorentz 力を4元力の形 fμ=qFμνuν に書き、一様な磁場と一様な電場の中の運動を解く。§6.3 では、電磁場のエネルギー密度・Poynting ベクトル・Maxwell 応力を1つの対称テンソル Tμν にまとめ、その発散が電荷に働く力になることを示す。§6.4 では、同じ考え方で物質(ダストと完全流体)のエネルギー運動量テンソルを作る。
第11章では、この Tμν が Einstein 方程式の右辺に入り、§11.4 では曲がった時空の Maxwell 方程式を扱う。
この章で借りる前の章の結果は次のとおりである。第4章では、反対称テンソル Aμν の成分を2つの3次元ベクトル a,b で
A0i=−ai,Aij=−ϵijkbk(6.1)
と書いた。そこから次の3つを借りる。
AμνAμν=2(∣b∣2−∣a∣2),ϵμνρσAμνAρσ=−8a⋅b.
- 双対 A~μν=21ϵμνρσAρσ の成分は、元の成分で置き換え (a,b)→(b,−a) をしたものであること。
- 商定理(第4章 §4.3)。
第5章からは、粒子の速さ u に対する γu=(1−u2/c2)−1/2 を使った
uμ=(γuc, γuu),uμuμ=c2,fμ=dτdpμ=γu(cF⋅u, F)(6.2)
を使う(F=dp/dt は3次元の力)。ブーストはこれまでどおり標準配置で、K′ 系は速度 vx^ で動く。電磁気は SI 単位で書き、ε0μ0=1/c2 を何度も使う。
3次元の成分の書き方
3次元のベクトル E、B の成分は、2通りに書く。Ex のように下付きの文字で書くか、Ei(添字は1,2,3)と書く。どちらも3次元のデカルト成分そのもので、4元の共変成分のような符号の反転は含まない。4元の量の添字の上下を表すのは、ギリシャ文字か数字(0〜3)で書いたものだけである(Fμν、uν など)。
4元電流と4元ポテンシャル
電荷密度 ρ と電流密度 J を並べた
Jμ=(cρ, J)(6.3)
は4元ベクトルである(『電磁気学入門』第10章 §10.2)。電荷保存の連続の式 ∂tρ+∇⋅J=0 は、第4章 §4.4 の4元発散を使って
∂μJμ=0(6.4)
と書かれる。同じくスカラーポテンシャル ϕ とベクトルポテンシャル A を並べた
Aμ=(ϕ/c, A),Aμ=(ϕ/c, −A)
も4元ベクトルである(右は共変成分)。
電磁場テンソル
電場と磁場はポテンシャルから E=−∇ϕ−∂tA、B=∇×A で作られる。この2つの式は、4元ポテンシャルの反対称な微分
Fμν=∂μAν−∂νAμ(6.5)
の成分としてまとめて書ける。∂μ=(∂t/c, −∇) に注意して、(0,i) 成分を計算すると
F0i=c1∂tAi−(−∂i)cϕ=c1(∂tAi+∂iϕ)=−cEi
となる。(i,j) 成分は Fij=−∂iAj+∂jAi である。たとえば F12=−(∂xAy−∂yAx)=−Bz である。まとめると
F0i=−cEi,Fij=−ϵijkBk(6.6)
で、行列の形では(行が μ、列が ν)
Fμν=0Ex/cEy/cEz/c−Ex/c0Bz−By−Ey/c−Bz0Bx−Ez/cBy−Bx0(6.7)
となる。(6.6) は第4章の (6.1) で a=E/c、b=B と置いたものである。下付きの成分は Fμν=ημαηνβFαβ である。添字の一方が0の成分だけ符号が変わるので
F0i=cEi,Fij=−ϵijkBk
である。
Fμν がテンソルであることは、(6.5) の右辺の作り方から分かる。右辺は、4元ベクトル Aν と微分 ∂μ から添字の規則どおりに作られている。§6.2 では、ポテンシャルを使わずに Lorentz 力の形と商定理から同じ結論を出す。電場と磁場が別々の3次元ベクトルとして変換するのではなく、6つの成分が1つのテンソルとしてまとめて変換するという事実が、この節の出発点である。
双対テンソルと2つの不変量
第4章の双対の作り方をそのまま使うと
F~μν=21ϵμνρσFρσ,F~0i=−Bi,F~ij=ϵijkcEk(6.8)
である。(6.6) の E/c→B、B→−E/c の置き換えになっている。第4章の2つの不変量に a=E/c、b=B を入れると
FμνFμν=2(B2−c2E2),FμνF~μν=21ϵμνρσFμνFρσ=−c4E⋅B(6.9)
を得る(2つ目の式では、縮約しきった量は添字の上下をすべて入れ替えても値が変わらないので ϵμνρσFμνFρσ=ϵμνρσFμνFρσ を使った)。したがって E2−c2B2 と E⋅B はどの慣性系で測っても同じ値になる。ある系で電場と磁場が直交していれば、すべての系で直交している。ある系で磁場だけがあるなら、どの系でも E<cB である。
共変な Maxwell 方程式
Maxwell 方程式の4本は、次の2本のテンソルの式にまとまる(導出は『電磁気学入門』第10章 §10.4)。
∂μFμν=μ0Jν,∂μF~μν=0(6.10)
1本目が電荷と電流を源に持つ式、2本目が源を持たない式である。成分を読むと次のようになる。1本目の ν=0 成分を読む。左辺は ∂μFμ0=∂iFi0=∂iEi/c で、右辺は μ0cρ なので
∇⋅E=μ0c2ρ=ε0ρ
(Gauss の法則)を得る。ν=1 では
∂0F01+∂2F21+∂3F31=−c21∂tEx+∂yBz−∂zBy=μ0Jx
で、変位電流を含む Ampère の法則の x 成分
(∇×B)x=μ0Jx+μ0ε0∂tEx
である。
2本目の式は、1本目の式で次の置き換えをしたものである((6.8))。置き換えは (E/c, B)→(B, −E/c) で、右辺は0にする。したがって成分は次の2本になる(確認テスト 6.1-3)。
- ν=0 成分:∇⋅B=0。
- ν=i 成分:Faraday の法則 ∇×E=−∂tB。
2本目の式は、添字を下げて書いた
∂λFμν+∂μFνλ+∂νFλμ=0(6.11)
と同じ内容である(Bianchi 恒等式)。Fμν=∂μAν−∂νAμ を代入すると、偏微分の順序が交換できることから6つの項が2つずつ打ち消し合う。つまり (6.11) はポテンシャルが存在することから自動的に成り立つ式である。
1本目の式から電荷保存も出てくる。両辺の4元発散をとると
μ0∂νJν=∂ν∂μFμν=0
で、右辺は0になる。∂ν∂μ は2つの添字について対称で、Fμν は反対称だからである(第4章 §4.3 の「対称と反対称の縮約は0」)。連続の式 (6.4) は、Maxwell 方程式と両立するための条件として含まれている(確認テスト 6.1-4)。
これらの式を作用から導く道は、虎の巻『解析力学から様々な理論分野を組み立てる』第2部第6章にある。
場の変換を行列の積で計算する
Fμν が2階のテンソルなので、K′ 系での成分は次の式で与えられる。
F′μν=ΛμαΛνβFαβ
行列で書けば F′=ΛFΛT である。x 方向のブースト
Λ=γ−γβ00−γβγ0000100001
を使って成分ごとに計算する。
まず F′01 を求める。Λ0α と Λ1β は、添字が0か1のときしか0でない値を持たない。したがって
F′01=Λ00Λ11F01+Λ01Λ10F10=γ2F01+γ2β2F10=γ2(1−β2)F01=F01
で、Ex′=Ex である。次に F′02 は、Λ2β=δ2β から
F′02=Λ00F02+Λ01F12=γF02−γβF12
で、成分を入れると −Ey′/c=γ(−Ey/c+βBz)、すなわち Ey′=γ(Ey−vBz) である。同じように F′12=Λ10F02+Λ11F12=−γβF02+γF12 から −Bz′=γ(βEy/c−Bz) を得る。F′03、F′13 も同じ計算で求まる。F′23=F23 はブーストで変わらない。結果をまとめると
Ex′Bx′=Ex,=Bx,Ey′By′=γ(Ey−vBz),=γ(By+c2vEz),Ez′Bz′=γ(Ez+vBy),=γ(Bz−c2vEy)(6.12)
となる(『電磁気学入門』第10章 §10.5 と同じ式)。
ブーストの向きの成分は変わらない。垂直な成分は、E+v×B と B−v×E/c2 の形で混ざる。そのうえで γ 倍される。(6.9) の2つの不変量がこの変換で値を変えないことは、(6.12) を代入して直接確かめることもできる。
例題 6.1 動く導体棒の中の電場 ★★
オリジナル実験室系 K に一様な磁場 B=B0z^ があり、電場はない。導体棒が x 軸に沿って速さ v で動く。棒の静止系を K′ とする。
- 系 K′ での電場と磁場を求めよ。
- 棒の中で静止している電荷 q が、K′ で受ける力を求めよ。それを、元の系で同じ電荷が受ける Lorentz 力 qu×B と比べよ。
- v=10 m/s、B0=0.50 T とする。K′ での電場の大きさを求めよ。また、長さ 0.20 m の棒(y 方向に置く)の両端の電位差を求めよ。
解答
- (6.12) に、E=0 と B=(0,0,B0) を入れると
Ey′=γ(0−vB0)=−γvB0,Bz′=γB0,
ほかの成分は0である。元の系には磁場しかないが、K′ には y 方向の電場が現れる。不変量を確かめると
E′2−c2B′2=γ2v2B02−c2γ2B02=−c2B02γ2(1−β2)=−c2B02
で、元の系の値 −c2B02 と一致する。2. 系 K′ で静止した電荷には、磁場の力が働かない。したがって力は F′=qE′=−qγvB0y^ である。元の系では、電荷は速度 vx^ で動いている。したがって力は
F=qvx^×B0z^=−qvB0y^
である。
両者は向きが同じで、大きさは γ 倍だけ違う。この違いは力の変換による。
4元力 (6.2) の y 成分は f2=γuFy である。この成分は x 方向のブーストで変わらない。元の系では γu=γ である。K′ では電荷が静止しているので γu=1 である。
したがって γFy=Fy′ となる。実際 Fy′=−qγvB0=γFy で合っている。
元の系で「磁場が動く電荷に及ぼす力」と見たものは、K′ では「電場が静止した電荷に及ぼす力」として現れる。3. γ−1 を見積もると
γ−1≃2c2v2=2×(2.998×108)2102=5.6×10−16
なので、γ=1 としてよい。電場の大きさは E′=vB0=10×0.50=5.0 V/m である。棒の両端の電位差は E′L=5.0×0.20=1.0 V で、元の系で計算した運動起電力 vB0L と同じ値になる。
確認テスト
オリジナル
- 6.1-1 (6.6) から、4つの成分 F02,F13,F02,F13 を電場と磁場の成分で書け。
- 6.1-2 K 系に一様な電場 E=E0y^ だけがある。β=0.8 の K′ 系での電場と磁場を求め、2つの不変量が一致することを確かめよ。E0=1.0×104 V/m のときの数値も求めよ。
- 6.1-3 式 ∂μF~μν=0 を考える。ν=0 成分が ∇⋅B=0 を与えることを示せ。また、ν=1 成分が Faraday の法則の x 成分を与えることを示せ。
- 6.1-4 ∂μFμν=μ0Jν から ∂νJν=0 が従うことを、3次元の形で直接確かめよ。対称と反対称の縮約は使わず、時間成分と空間成分の式から出すこと。
- 6.1-5 ある慣性系で E⊥B かつ ∣E∣=c∣B∣ であれば、すべての慣性系で同じことが成り立つことを示せ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com