相対論入門 第6章 §6.4 ★★★ 物質のエネルギー運動量テンソルは、静止系での形(密度と圧力)を4元速度と計量で共変に書いて作る。第11章の Einstein 方程式の右辺になる
前節では、場から Tμν を作った。第11章で Einstein 方程式を書くときは、星や宇宙の中の物質についても同じ形の Tμν が必要になる。物質を、たくさんの粒子の集まりとして平均した連続体(流体)として扱う。
この節の ρ は流体の静止系で測った質量密度(エネルギー密度を c2 で割ったもの)で、前の節までの電荷密度とは別の量である。この節では、最後の注意を除いて電荷は出てこない。
粒子の数の流れ
まず粒子の数を数える。流体の各点に4元速度 uμ(x) があり、その点と一緒に動く系(局所的な静止系)で測った粒子の数密度を n とする。n は静止系で測ると決めたのでスカラーである。
実験室系では、流れの向きの長さが 1/γu に縮むので、数密度は γun に見える。単位時間に単位面積を通る粒子の数は γunu である。そこで
Nμ=nuμ=(γunc, γunu)(6.26)
とおく。N0/c が実験室系の数密度で、Ni がその流れの密度である。Nμ はスカラーと4元ベクトルの積なので4元ベクトルである。粒子が生まれも消えもしなければ、連続の式は
∂μNμ=0(6.27)
になる。これは4元電流の (6.4) と同じ形である。
ダスト
粒子どうしが互いに力をおよぼさず、各点の粒子がすべて同じ速度で動く流体をダストと呼ぶ。圧力のない流体である。
ダストの静止系では、エネルギー密度は ρc2 で、運動量密度も運動量の流れも 0 なので、Tμν=diag(ρc2,0,0,0) である。静止系で uμ=(c,0) なので、これは ρuμuν と書くことができる。どの系でも成り立つ形にするには、この式をそのまま採用すればよい。
Tdustμν=ρuμuν(6.28)
右辺はスカラー ρ と2つの4元ベクトルの積なので2階のテンソルで、静止系で正しい成分を持つ。テンソルの成分は1つの系で決まれば変換則で全部の系に決まるので、これが唯一の答えである。
実験室系での成分は
T00=γu2ρc2,T0i=γu2ρcui,Tij=γu2ρuiuj
である。エネルギー密度に γu が2つ掛かる理由は2つある。数密度が γu 倍に見えることと、粒子1個のエネルギーが γumc2 になることである。
ダストの保存則 ∂μTμν=0 を展開すると
∂μ(ρuμ)uν+ρuμ∂μuν=0
となる。これに uν を掛けて縮約する。uνuν=c2 を微分すると
uν∂μuν=21∂μ(uνuν)=0
なので、第2項が消えて
∂μ(ρuμ)=0(6.29)
を得る(静止質量の保存。ρ=mn なら (6.27) と同じ式)。これを元の式に戻すと
uμ∂μuν=0(6.30)
が残る。uμ∂μ は流体と一緒に動く粒子に沿った固有時の微分 d/dτ なので、(6.30) は「各粒子の4元速度が変わらない」、すなわち力を受けない粒子の運動方程式である。第9章で時空が曲がると、∂μ が共変微分に替わり、(6.30) は測地線の方程式になる。物質の運動方程式は、別に仮定しなくても Tμν の保存則から導かれる。
荷電したダストと電磁場を合わせた保存
- 各粒子が電荷 q を持つダストでは、4元電流は Jμ=qnuμ である。
- 各粒子は mduν/dτ=qFνλuλ に従う。(6.29) を使うと
∂μTdustμν=ρuμ∂μuν=mndτduν=qnFνλuλ=FνλJλ
となる。
- これを定理 6.4 の ∂μTemμν=−FνλJλ と足すと、
∂μ(Tdustμν+Temμν)=0
である。物質と場の全体のエネルギーと運動量が保存する。
完全流体
粒子が流体の各点でばらばらの向きに動いている場合を考える。局所的な静止系(その点の粒子の平均の運動量が0になる系)で、次の3つが成り立つ流体を完全流体と呼ぶ。
- (i) 熱の流れがない(T0i=0)。
- (ii) 粘性がない(Tij に非対角成分がない)。
- (iii) 等方的である(T11=T22=T33)。
このとき静止系での成分は、エネルギー密度 ρc2 と圧力 P だけで
Tμν=diag(ρc2, P, P, P)(6.31)
と書ける。Tij=Pδij が圧力である理由は次のとおりである。運動量の i 成分が、その向きに垂直な単位面積を、単位時間に P だけ流れる。これは壁に圧力 P をおよぼすことと同じである。
これを共変な形に書く。使える部品は4元速度 uμ と計量 ημν だけである。したがって対称な2階のテンソルは、uμuν と計量の線形結合しかない。そこで
Tμν=Auμuν+Cημν
とおき、静止系で (6.31) と合わせる。空間成分から −C=P、時間成分から Ac2+C=ρc2 を得る。よって
Tμν=(ρ+c2P)uμuν−Pημν(6.32)
である。P=0 でダスト (6.28) に戻る。トレースは Tμμ=(ρ+P/c2)c2−4P=ρc2−3P である。第8章以降で計量が gμν に替わったときは、平らな計量をそのまま置き換える。
完全流体の運動方程式
∂μTμν=0 を (6.32) に当てはめる。w:=ρ+P/c2 と書くと
∂μ(wuμ)uν+wuμ∂μuν−∂νP=0
である。ダストのときと同じく uν を掛けて縮約すると、第2項が消えて
c2∂μ(wuμ)−uμ∂μP=0⟹∂μ(ρc2uμ)+P∂μuμ=0
を得る。これはエネルギーの式で、静止系に移ると「体積が ∂μuμ の割合で膨らむとき、内部のエネルギーが圧力のする仕事 PdV だけ減る」という熱力学の第1法則の形をしている。この式を元の式に戻すと
(ρ+c2P)uμ∂μuν=(ηνμ−c2uνuμ)∂μP(6.33)
が残る。右辺の括弧は、4元速度に垂直な方向への射影である(uν を掛けると 0 になる)。流れが遅く(∣u∣≪c)、圧力がエネルギー密度より十分小さい(P≪ρc2)ときを考える。このとき uμ∂μ≃∂t+u⋅∇ で、∂iP=−∂iP である。したがって空間成分は
ρ(∂t+u⋅∇)u=−∇P
となり、圧力だけを力とする Euler 方程式に戻る。相対論的な式 (6.33) では、慣性を表す係数が ρ ではなく ρ+P/c2 になっている。圧力も慣性と重力の源になることは、第11章以降の星の構造や宇宙論で数として現れる。

図 6.3 6本のビームで作った等方的な気体(例題 6.4)。各ビームはダストで、足し合わせると運動量の流れが打ち消し合い、圧力だけが残る。
例題 6.4 6本のビームで作る気体の圧力 ★★★
オリジナル実験室系で、6本の粒子のビームが重なっている(図 6.3)。向きは各座標軸の正負の6つ(±x, ±y, ±z)である。速さはどれも u である。
各ビームの実験室系での数密度は n/6、粒子の質量は m とする。粒子のエネルギーを E=γumc2、運動量の大きさを p=γumu と書く。
- 1本のビームのエネルギー運動量テンソルを、実験室系の数密度 na と粒子の4元運動量 pμ で書け。
- 6本を足した Tμν を求め、それが静止した完全流体の形 (6.31) になることを示し、エネルギー密度と圧力を求めよ。
- 光速に近い粒子(u→c)と遅い粒子(u≪c)で、圧力とエネルギー密度の関係を求めよ。
解答
- 1本のビームはダストで、Tμν=ρauμuν である。ρa はビームの静止系の質量密度である。静止系の数密度は、実験室系の数密度 na の 1/γu 倍である。したがって ρa=mna/γu である。uμ=pμ/m を入れると
Taμν=γumnam2pμpν=γumnapμpν=Enac2pμpν
である。Ta00=naE で、実験室系の数密度に粒子1個のエネルギーを掛けたものになっている。2. +x のビームでは pμ=(E/c, p,0,0) である。c2p/E=u を使うと
T01=nacp,T11=Enac2p2=napu
で、ほかの空間成分は0である。−x のビームでは運動量の符号が変わる。したがって T01 が逆符号になり、T11 は同じである。
6本を足すと、次のようになる。
- T0i は打ち消し合って0になる。
- 空間成分の非対角成分は、初めから0である。
- T11 には ±x の2本が寄与する。ほかの対角成分も同様である。
したがって
T00=6⋅6nE=nE,T11=T22=T33=2⋅6npu=31npu
となる。これは (6.31) の形で、エネルギー密度 ρc2=nE、圧力 P=31npu である。3. 速さの場合分けで読む。
- 光速に近い粒子(u→c):pu→pc→E である。したがって P=31nE=31ρc2 である。トレース ρc2−3P は0になる。光子の気体(放射)はこの場合で、電磁場の Tμν のトレースが0であることと一致する。
- 一般の速さ:トレースは
ρc2−3P=n(E−pu)=nγumc2(1−c2u2)=γunmc2≥0
で、質量のある粒子では P<ρc2/3 である。
- 遅い粒子(u≪c):P≃31nmu2 である。これは運動エネルギーの密度 21nmu2 の3分の2である。温度を T と書き、粒子1個の運動エネルギーを 23kBT と置く。すると理想気体の P=nkBT になる。
遅い粒子では P/(ρc2)≃u2/(3c2) は非常に小さい。
確認テスト
オリジナル
6.4-1 完全流体 (6.32) の静止系での成分を書き、トレースを求めよ。トレースが0になる P と ρ の関係を答えよ。
6.4-2 質量密度 ρ(静止系)のダストが、実験室系で x 方向に流れている。速さは 0.6c である。成分 T00,T01,T11 が、それぞれ ρc2 の何倍か答えよ。
6.4-3 実験室系 K で静止している完全流体を、別の系 K′ で見る。K′ は標準配置で、速さは β である。成分 T′00,T′01,T′11 を、次の2通りで求め、一致することを確かめよ。
- (a) (6.32) に、K′ での4元速度を入れる方法。
- (b) ΛTΛT を計算する方法。
6.4-4 ダストの保存則 ∂μ(ρuμuν)=0 から、(6.29) と (6.30) の2つが従うことを示せ。どこで uμuμ=c2 を使うかを明示すること。
6.4-5 1 気圧(1.013×105 Pa)の水(ρ=1.0×103 kg/m3)を考える。P/(ρc2) を求め、地上の物質の Tμν で何が主な成分になるかを述べよ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com