相対論入門 第10章 §10.3 ★★★ Riemann テンソルの対称性から独立な成分を数え、縮約して Ricci テンソルとスカラー曲率を作る。縮約した Bianchi 恒等式は Einstein 方程式の左辺を決める
局所慣性系での形と対称性
Riemann テンソルの性質を調べるには、点 p で Γ(p)=0 になる座標を使うのが便利である。言い換えると ∂λgμν(p)=0 になる座標で、第8章 §8.2 の局所平坦性の定理の座標である。この座標では、その点で ΓΓ の項が消え、(10.7) は
Rρσμν=∂μΓρνσ−∂νΓρμσ
になる。
添字を下げた Rρσμν=gραRασμν を計算する。∂g(p)=0 なので、計量を微分の中に入れてもその点では値が変わらない。したがって
Rρσμν=∂μ(gραΓανσ)−∂ν(gραΓαμσ),gραΓανσ=21(∂νgρσ+∂σgρν−∂ρgνσ)
となる。微分すると ∂μ∂νgρσ の項は μ,ν について対称なので引き算で消え、
Rρσμν=21(∂μ∂σgρν−∂μ∂ρgσν−∂ν∂σgρμ+∂ν∂ρgσμ)(点 p で、∂g(p)=0 の座標)(10.20)
が残る。Riemann テンソルは計量の2階微分で書け、第8章で「消せない」とした2階微分の組み合わせがこれである。
(10.20) の右辺を見ると、次の対称性が読み取れる。どれもテンソルの等式なので、この座標で示せばどの座標でも成り立つ。
定理 10.8(Riemann テンソルの対称性)
RρσμνRρσμνRρσμνRρσμν+Rρμνσ+Rρνσμ=−Rρσνμ,=−Rσρμν,=Rμνρσ,=0.(10.21)(10.22)(10.23)(10.24)
最後の式を第1 Bianchi 恒等式と呼ぶ。
証明
(10.20) の4つの項を、順に (1)(2)(3)(4) と呼ぶ。
- μ↔ν で、(1) と (3)、(2) と (4) が入れ替わる。それぞれ符号が逆なので、全体が −1 倍になる。これが (10.21)。
- ρ↔σ で、(1) と (2)、(3) と (4) が入れ替わる(g の対称性を使う)。全体が −1 倍になる。これが (10.22)。
- 組の入れ替え (ρσ)↔(μν) を考える。(1) ∂μ∂σgρν は ∂ρ∂νgμσ、つまり (4) になる。 (2) と (3) は自分自身に移る。全体は変わらない。これが (10.23)。
- (10.24) は、ρ を固定して後ろの3つの添字 (σ,μ,ν) を巡回させた和である。3つの項を (10.20) で書くと、それぞれの 2 倍は
2Rρσμν2Rρμνσ2Rρνσμ=∂μ∂σgρν−∂μ∂ρgσν−∂ν∂σgρμ+∂ν∂ρgσμ,=∂ν∂μgρσ−∂ν∂ρgμσ−∂σ∂μgρν+∂σ∂ρgμν,=∂σ∂νgρμ−∂σ∂ρgνμ−∂μ∂νgρσ+∂μ∂ρgνσ
である。12個の項は、次の6組がそれぞれ打ち消し合う(偏微分の順序の交換と g の対称性を使う)。
- 1行目の第1項と2行目の第3項。
- 1行目の第2項と3行目の第4項。
- 1行目の第3項と3行目の第1項。
- 1行目の第4項と2行目の第2項。
- 2行目の第1項と3行目の第3項。
- 2行目の第4項と3行目の第2項。
独立な成分の数
対称性を使って、n 次元での独立な成分を数える。
- (10.21)・(10.22) により、前の組 (ρσ) と後ろの組 (μν) はどちらも反対称な組である。それぞれ N=n(n−1)/2 通りの値をとる。
- (10.23) により、Riemann テンソルは組を添字とする N×N の対称行列とみなせる。成分は N(N+1)/2 個になる。
第1 Bianchi 恒等式は、この3つの対称性のもとでは、4つの添字がすべて異なるときにだけ新しい条件になり、その数は4つの添字の選び方 (4n) である(確認テスト 10.3-3)。したがって独立な成分の数は
2N(N+1)−(4n)=12n2(n2−1)(10.25)
で、n=2,3,4 に対して 1,6,20 である。4次元では N=6、21−1=20 となる。これは第8章 §8.2 の数え上げで「座標をどう選んでも消せない計量の2階微分」の数と一致する。第8章で数えた消せない量は、Riemann テンソルの独立な成分そのものだったことになる。
Ricci テンソルとスカラー曲率
Riemann テンソルを縮約して、添字の少ないテンソルを作る。前の組の2つの添字の縮約 Rρρμν=gρσRρσμν は、対称な逆計量と反対称な組の縮約なので 0 である。後ろの組の縮約も同じく 0 である。0 にならないのは、前の組の1つと後ろの組の1つを縮約するもので、対称性によってどれを選んでも符号を除いて同じになる。
定義 10.9(Ricci テンソルとスカラー曲率)
Rμν=Rρμρν,R=gμνRμν(10.26)
をそれぞれ Ricci テンソル、スカラー曲率と呼ぶ。1番目と3番目の添字を縮約する。
Ricci テンソルは対称である。
Rνμ=gρσRσνρμ=gρσRρμσν=Rμν
2つ目の等号で (10.23) を使い、和の添字 ρ,σ の名前を入れ替えた。4次元では、Ricci テンソルは 10 個の成分を持ち、Riemann テンソルの 20 個の成分のうち半分を担う。残りの 10 個を担うのは Weyl テンソルと呼ばれる部分で、真空中でも 0 にならない曲率(潮汐力・重力波)を表す。
Ricci テンソルの物理的な意味を、§10.2 の弱い場で確かめる。静止した観測者 uμ=(c,0,0,0) に対して
R00=Rρ0ρ0=i∑Ri0i0=c21∇2Φ=c24πGρm(10.27)
である。各等号の理由は次のとおりである。
- ρ=0 の項 R0000 は、(10.8) で 0 である。
- 3つ目の等号は (10.18) による。
- 最後は Poisson 方程式 ∇2Φ=4πGρm による(ρm は質量密度)。
潮汐の行列 ∂i∂jΦ の跡が R00 になり、それは物質の密度で決まる。物質の無い所では R00=0 だが、成分 Ri0j0 そのものは 0 でない。点質量のまわりの潮汐 (+2,−1,−1)GM/r3 は、跡が 0 になっている。第11章では、この関係を手がかりに Ricci テンソルを物質のエネルギー運動量テンソルに結びつける。
Ricci テンソルと体積の変化
- 互いに静止した自由粒子の小さな球を考える。各粒子の偏差は (10.19) の形 ξ¨i=−∑jAijξj に従うとする(Aij=∂i∂jΦ)。
- 静止から出発した瞬間には、球の体積の2階微分は V¨/V=−∑iAii=−c2R00 である(第7章の確認テスト 7.2-4 と同じ行列式の計算)。
- 一般に、互いに静止して放した粒子の雲の体積は V¨/V=−Rμνuμuν に従って変わり始める。Ricci テンソルは体積の縮み方を、Weyl の部分は体積を変えない形の歪みを表す。
第2 Bianchi 恒等式と Einstein テンソル
Riemann テンソルの共変微分には、次の恒等式がある。
定理 10.10(第2 Bianchi 恒等式)
∇λRρσμν+∇μRρσνλ+∇νRρσλμ=0.(10.28)
証明
左辺はテンソルなので、点 p で Γ(p)=0 となる座標で示せばよい。その点では共変微分の Christoffel 記号の項が消え、∇λRρσμν=∂λRρσμν である。さらに (10.7) の ΓΓ の項は、微分しても Γ(p)=0 が掛かる項しか出さない。したがってその点では
∇λRρσμν=∂λ∂μΓρνσ−∂λ∂νΓρμσ
となる。(λ,μ,ν) を巡回させて足すと、
(∂λ∂μΓρνσ−∂λ∂νΓρμσ)+(∂μ∂νΓρλσ−∂μ∂λΓρνσ)+(∂ν∂λΓρμσ−∂ν∂μΓρλσ)
で、偏微分の順序が交換できるので、6つの項は2つずつ打ち消し合い 0 になる。
第2 Bianchi 恒等式を2回縮約すると、次の重要な結果が得られる。
系 10.11(縮約した Bianchi 恒等式)
Einstein テンソル
Gμν=Rμν−21gμνR(10.29)
は対称で、発散が恒等的に 0 である:
∇μGμν=0.(10.30)
証明
(10.28) の添字を下げた形
∇λRρσμν+∇μRρσνλ+∇νRρσλμ=0
に gρμ を掛けて縮約する。計量は共変微分と交換する(∇g=0)ので、g を微分の中に入れてよい。3つの項は順に
gρμ∇λRρσμν=∇λRσν,gρμ∇μRρσνλ=∇ρRρσνλ,gρμ∇νRρσλμ=−∇νRσλ
となる(3つ目は (10.21) で後ろの2つを入れ替えてから Ricci テンソルの定義を使った)。したがって
∇λRσν+∇ρRρσνλ−∇νRσλ=0.
さらに gσν を掛けて縮約する。第1項は ∇λR、第3項は −∇σRσλ になる。第2項は、(10.23) と (10.21) を使って
gσνRρσνλ=gσνRνλρσ=Rσλρσ=−Rσλσρ=−Rλρ
となるので −∇ρRρλ である。まとめると ∇λR−2∇ρRρλ=0、つまり
∇ρ(Rρλ−21gρλR)=0
を得る(∇ρ(gρλR)=∇λR)。Gμν が対称なのは、Ricci テンソルと計量が対称だからである。
(10.30) は、計量がどんな形であっても成り立つ恒等式である。一方、第6章 §6.3・§6.4 で見たように、物質のエネルギーと運動量の保存は、平らな時空で ∂μTμν=0 と書かれ、曲がった時空では ∇μTμν=0 になる(第11章 §11.1)。
第11章では、重力の場の方程式の左辺に、計量の2階微分までを含み、対称で、発散が恒等的に 0 になる (0,2) 型テンソルを置く。Gμν はその条件を満たし、右辺のエネルギー運動量テンソルの保存則と矛盾しない。4次元での Gμν の跡は gμνGμν=R−2R=−R である(確認テスト 10.3-4)。
例題 10.3 地球の内部の Ricci 曲率 ★★
オリジナル地球を密度 ρm=5514 kg/m3 の一様な球とみなす。定数は次の値を使う。
G=6.674×10−11 m3kg−1s−2,c=2.998×108 m/s
- 地球の内部で静止した観測者に対する R00 を (10.27) から求めよ。その −1/2 乗(曲率の長さの目安)を、天文単位 1.496×1011 m と比べよ。
- 地球の内部に掘ったトンネルの中で、互いに静止した自由粒子の小さな雲を放す。放した瞬間の体積の相対的な加速度 V¨/V を求めよ。
- 地球の外では R00=0 である。それでも地表の近くで自由粒子の雲の形が変わることを、Riemann テンソルの成分で説明せよ。
解答
- 4πGρm=4π×6.674×10−11×5514 s−2=4.624×10−6 s−2 なので
R00=c24πGρm=(2.998×108)24.624×10−6 m−2=5.15×10−23 m−2,R00−1/2=1.39×1011 m.
これは天文単位の 0.93 倍である。地球の大きさ(6.4×106 m)に比べて曲率の長さははるかに大きく、地球の内部の時空はほとんど平坦である。2. §10.3 の注意の箱(Ricci テンソルと体積の変化)のとおり、V¨/V=−c2R00=−4πGρm=−4.62×10−6 s−2 である。一様な球の内部では Φ=32πGρmr2+(定数) なので、∂i∂jΦ=34πGρmδij である。雲は3方向に等しく 1.54×10−6 s−2 ずつ縮む。この値は地表での g/RE=9.81/(6.371×106) s−2=1.54×10−6 s−2 に一致する(GM/RE3=34πGρm だから)。雲は形を保ったまま一様に縮み始める。3. 地球の外では ∇2Φ=0 なので、跡 R00=∑iRi0i0 は 0 である。しかし個々の成分 c2Ri0j0=∂i∂jΦ は 0 でない。鉛直方向に +2GM/r3 の引き伸ばし、水平方向に −GM/r3 の圧縮がはたらき、体積を保ったまま雲は鉛直方向に細長くなる。これは Ricci テンソルでなく、Riemann テンソルの残りの部分(Weyl の部分)が担う曲率である。
確認テスト
オリジナル
10.3-1 次を示せ。
- (a) 対称性 (10.23) だけを使って、Ricci テンソルが対称であること。
- (b) (10.23) を仮定しないとき、第1 Bianchi 恒等式と (10.21)・(10.22) から (10.23) が導けること。
10.3-2 Rρρμν=0 を示せ。また、Riemann テンソルの1番目と4番目の添字の縮約 Rρμνρ を Ricci テンソルで表せ。
10.3-3 (10.21)〜(10.23) を満たすテンソルについて、次に答えよ。
- (a) 4つの添字のどれか2つが等しいとき、第1 Bianchi 恒等式の左辺は自動的に 0 になることを示せ。
- (b) 独立な条件の数が (4n) であることを説明せよ。
- (c) N=n(n−1)/2 として、次を確かめよ。
2N(N+1)−(4n)=12n2(n2−1)
4. 10.3-4 n 次元で、Einstein テンソルの跡 gμνGμν をスカラー曲率で表せ。4次元で Gμν=0 と Rμν=0 が同値であることを示せ。5. 10.3-5 点質量 M の外の Newton のポテンシャル Φ=−GM/r を考える。
- (a) ∑i∂i∂iΦ=0 を示せ。
- (b) 第3軸上の点 (0,0,r) で、行列 ∂i∂jΦ を求めよ。
- (c) 測地線偏差の方程式から、どの向きに引き伸ばしと圧縮が生じるかを答えよ。
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