相対論入門 第10章 §10.4 ★★ 半径 a の球面で Riemann テンソル・Ricci テンソル・スカラー曲率 2/a2 を最後まで計算し、平行移動の回転と測地線の収束で確かめる
曲率の成分
半径 a の球面の計量は、第8章 §8.2 で求めたとおり
ds2=a2(dθ2+sin2θdφ2),gθθ=a2,gφφ=a2sin2θ(10.31)
で、0 でない Christoffel 記号は
Γθφφ=−sinθcosθ,Γφθφ=Γφφθ=cotθ(10.32)
である(第8章 §8.3 の例題)。2次元では独立な成分は1つなので、Rθφθφ を求めれば十分である。(10.7) で (ρ,σ,μ,ν)=(θ,φ,θ,φ) とおく。
Rθφθφ=∂θΓθφφ−∂φΓθθφ+ΓθθλΓλφφ−ΓθφλΓλθφ.
各項を順に計算する。
- 第1項:∂θ(−sinθcosθ)=−cos2θ+sin2θ。
- 第2項:Γθθφ=0 なので 0。
- 第3項:Γθθθ=Γθθφ=0 なので 0。
- 第4項:λ=φ だけが残り、ΓθφφΓφθφ=−sinθcosθ⋅cotθ=−cos2θ。
したがって
Rθφθφ=−cos2θ+sin2θ+cos2θ=sin2θ(10.33)
を得る。添字を下げると Rθφθφ=gθθRθφθφ=a2sin2θ である。残りの0でない成分は、対称性から
Rφθφθ=a2sin2θ,Rθφφθ=Rφθθφ=−a2sin2θ
である。上付きの形では
Rφθφθ=gφφRφθφθ=a2sin2θa2sin2θ=1
となる。直接 (10.7) から計算しても、次のように同じ値になる。
−∂θcotθ−cot2θ=sin2θ1−cot2θ=1
Ricci テンソルは (10.26) から
Rθθ=Rφθφθ=1,Rφφ=Rθφθφ=sin2θ,Rθφ=0(10.34)
で、まとめると Rμν=gμν/a2 である。スカラー曲率は
R=gθθRθθ+gφφRφφ=a21+a2sin2θsin2θ=a22(10.35)
となる。曲率は場所によらない一定値で、球面がどこでも同じ形をしていることに対応する。半径が大きいほど曲率は小さい。
符号の注意
- 正定値の計量 (10.31) の球面では R=+2/a2 である。
- 同じ球面を時空の空間部分として −a2(dθ2+sin2θdφ2) と書いたとする。Christoffel 記号と Rρσμν は計量の全体の符号によらないので変わらない。しかし R=gμνRμν は逆計量の符号が反転して、−2/a2 になる(確認テスト 10.4-4)。
- 「正の曲率」と言うときは、正定値の計量で述べる。
2次元の曲率は Gauss 曲率1つで決まる
2次元では独立な成分が1つなので、Riemann テンソルは計量と1つのスカラーで書ける。対称性 (10.21)〜(10.23) を満たす計量の組み合わせ gρμgσν−gρνgσμ に比例するはずである。比例係数を K とおくと
Rρσμν=K(gρμgσν−gρνgσμ)(10.36)
となる。縮約すると
Rσν=gρμRρσμν=K(2gσν−gσν)=Kgσν,R=2K
なので、K=R/2 である。K を Gauss 曲率と呼ぶ。球面では K=1/a2 である。(10.36) の θφθφ 成分は Kgθθgφφ=a2sin2θ となり、(10.33) を下げたものと一致する。
この式から、2次元では Einstein テンソルが恒等的に 0 になることも分かる。
Gμν=Kgμν−21gμν⋅2K=0
2次元では Einstein 方程式の左辺が何の情報も持たないので、一般相対論は4次元(少なくとも3次元以上)で初めて意味のある理論になる。
第8章 §8.2 の例題で、球面上に描いた半径 ρ の円の周が次のようになることを見た。
C(ρ)=2πasin(ρ/a)=2πρ(1−6a2ρ2+⋯)
1/a2=K と書けば、周の相対的な不足は Kρ2/6 である。Gauss 曲率は「円の周が平面の値からどれだけずれるか」という、曲面の上だけで測れる量で決まる。これは曲面を3次元の空間に置かずに、曲面の中の測定だけで曲率を決められることの1つの例である。
平行移動の回転と曲率
命題 10.4 を球面に当てはめる。点 (θ,φ) から小さな長方形を1周する。まず南に δθ 進み、次に東に δφ 進む。δaμ=(δθ,0)、δbμ=(0,δφ) を (10.10) に入れると、
δVθ=−RθφθφVφδθδφ=−sin2θVφδθδφ,δVφ=−RφθθφVθδθδφ=Vθδθδφ
である(2つ目では Rφθθφ=−Rφθφθ=−1 を使った)。長さ 1 の基底(南向きの eθ^ と東向きの eφ^、第8章 §8.4)での成分
Vθ^=aVθ,Vφ^=asinθVφ
に直すと
δVθ^=−ϵVφ^,δVφ^=+ϵVθ^,ϵ=sinθδθδφ(10.37)
となる。これは、ベクトルが角 ϵ だけ、南から東へ向かう向きに回ったことを表す。長方形の面積は δA=aδθ⋅asinθδφ なので、
ϵ=a2δA=KδA(10.38)
である。回転の角は Gauss 曲率と囲んだ面積の積に等しく、回る向きは周回の向き(南へ進んでから東へ進む向き)と同じである。
小さな長方形をタイルのように並べると、大きな領域を1周したときの回転は、各タイルの回転の和になる(内側の辺は隣り合う2枚で逆向きに進むので打ち消し合う)。球面では K が一定なので、回転は K と面積の積になるはずである。第8章 §8.4 の2つの結果で確かめる。
- 極角 θ0 の緯線で囲まれた北極のまわりの領域(極冠)の面積は
∫02π∫0θ0a2sinθdθdφ=2πa2(1−cosθ0)
である。Gauss 曲率を掛けると 2π(1−cosθ0) で、第8章の緯線の1周の回転に一致する。
- 北極と赤道上の2点で作る八分円の三角形の面積は 4πa2/8 である。Gauss 曲率を掛けると π/2、つまり 90∘ で、第8章の結果に一致する。この三角形の3つの角はどれも 90∘ である。角の和は 270∘ で、平面の値 180∘ との差も同じ直角になっている。
後の方は、測地線で囲まれた三角形の角の和の超過が K×(面積) に等しいという、Gauss–Bonnet の定理の最も簡単な場合にあたる。
球面上の測地線偏差
§10.2 の測地線偏差を球面で確かめる。経線(子午線)は大円で、測地線である。赤道上で互いに平行に北へ向かって出発した2本の経線は、北極で交わる。この収束が (10.16) で表されることを次の例題で示す。
例題 10.4 経線の収束を測地線偏差で求める ★★★
オリジナル半径 a の球面で、隣り合う2本の経線を考える。経度はそれぞれ φ と φ+δφ である。赤道から北へ測った弧の長さ s をパラメータにとり、経線を θ=π/2−s/a と表す。
- 経線の族の接ベクトル uμ=∂xμ/∂s と、偏差ベクトル ξμ=∂xμ/∂φ の成分を書け。
- (10.16) の右辺を計算し(固有時を弧の長さに読み替える)、D2ξφ/ds2=−ξφ/a2 となることを示せ。
- 2本の経線の間の距離 η=asinθδφ が、d2η/ds2=−η/a2 を満たすことを示せ。その解から、2本の経線が北極で交わることを確かめよ。
- 地球の半径を a=6.371×106 m とする。赤道で 1.000 km 離れた2本の経線は、赤道から北へ 1000 km 進んだ所で何 m 離れているか。
解答
- 経線では θ=π/2−s/a で経度は一定なので、uμ=(uθ,uφ)=(−1/a,0) である。接ベクトルの長さは gθθuθ=1 で、s は弧の長さになっている。隣の経線へは経度だけが変わるので、ξμ=(0,1) である(間隔は ξδφ)。
- 接ベクトルは θ 成分だけ、偏差ベクトルは経度の成分だけを持つ。したがって右辺は
Rρσμνuσuμξν=Rρθθφ(uθ)2ξφ.
ρ=θ では Rθθθφ=0 である(前の2つの添字を下げると、反対称な組で同じ値になる)。ρ=φ では Rφθθφ=−1 なので
ds2D2ξφ=−1⋅a21⋅ξφ=−a2ξφ,ds2D2ξθ=0.
3. 長さ 1 の東向きの基底 eφ^ は、経線(大円)に沿って平行移動される(経線の接ベクトルが平行移動され、eφ^ はそれと直角を保つ)。そのため、ξ の東向きの成分 ξφ^=asinθξφ について、共変微分は普通の微分に等しい。
ds2D2ξφ^=ds2d2ξφ^
2の結果に asinθδφ を掛けると、間隔 η=asinθδφ について
ds2d2η=−a2η
を得る。実際に sinθ=sin(π/2−s/a)=cos(s/a) なので、η=aδφcos(s/a) である。これを2回微分すると −η/a2 になり、確かに満たしている。
初期条件は、赤道 s=0 で次のとおりである(平行に出発)。
η=aδφ,dsdη=0
解は η=aδφcos(s/a) である。s=πa/2 で η=0 となり、これは北極の位置である。平行に出発した2本の測地線が、正の曲率によって引き寄せられて交わった。4. 間隔は
η=1.000 km×cos(6.371×106106)=1.000 km×cos(0.15696)=0.9877 km
で、987.7 m 離れている。縮んだ量は 12.3 m である。進んだ距離が小さいときの近似 η≃aδφ(1−s2/(2a2)) を使うと 1000 m×21(0.157)2=12.3 m で、一致する。

図 10.3 赤道で平行に北へ出発した2本の経線(青と赤)。間隔 η は測地線偏差の方程式 d2η/ds2=−Kη(K=1/a2)に従って cos(s/a) の形で縮み、s=πa/2 の北極で 0 になる。
時空でも同じことが起こる。§10.2 の例で、地球のまわりで水平に並んで落下する2つの粒子が互いに近づくのは、2本の経線が北極へ向かって近づくのと同じ型の、正の曲率による測地線の収束である。違いは、時空では曲率の符号が方向ごとに異なりうることで、鉛直方向には測地線は離れていく(引き伸ばし)。
確認テスト
オリジナル
- 10.4-1 地球を半径 6.371×106 m の球とみなす。地表に3本の大円の弧で、面積 1.0×104 km2 の三角形を描く。3つの角の和が 180∘ を超える量を、秒角(3600分の1度)で求めよ。
- 10.4-2 定数 b>0 を使った計量
ds2=b2(dθ2+sinh2θdφ2)
を考える。Christoffel 記号、Rθφθφ、スカラー曲率 R を求めよ。Gauss 曲率の符号を球面と比べよ。3. 10.4-3 2次元では、どんな計量に対しても Einstein テンソル Gμν が恒等的に 0 になることを、(10.36) を使って示せ。4. 10.4-4 球面を時空の空間部分として、次のように書く。
ds2=−a2(dθ2+sin2θdφ2)
Christoffel 記号、Riemann テンソル、Ricci テンソル、スカラー曲率のうち、どれが変わりどれが変わらないかを答えよ。また R=−2/a2 となることを示せ。5. 10.4-5 極角 θ0 の緯線で囲まれた極冠の面積に Gauss 曲率を掛けた量が、第8章で求めた緯線の1周の回転の角 2π(1−cosθ0) に一致することを示せ。また θ0=π/2(赤道)のときの値を答え、赤道を1周したベクトルの向きが変わるかどうかを説明せよ。
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