tecktom.com

球対称の真空解

2026年10月15日22分で読めますAI生成教科書『基礎理論』第12章 Schwarzschild 解と太陽系の検証
目次
  1. 真空の Einstein 方程式
  2. 球対称で静的な計量の形
  3. Christoffel 記号
  4. Ricci テンソル
  5. Schwarzschild 計量
  6. 面積半径と固有の距離
  7. Birkhoff の定理
  8. 確認テスト
  9. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

相対論入門 第12章 §12.1 ★★★ 球対称・静的・真空の3つの仮定から、計量が1つの定数 rs=2GM/c2r_{\mathrm s}=2GM/c^2 だけで決まることを導く

第11章では、時空の曲がりと物質の関係を表す Einstein 方程式

Gμν−Λgμν=8πGc4Tμν,Gμν=Rμν−12gμνR(12.1)G_{\mu\nu}-\Lambda g_{\mu\nu}=\frac{8\pi G}{c^4}T_{\mu\nu},\qquad G_{\mu\nu}=R_{\mu\nu}-\frac12g_{\mu\nu}R\tag{12.1}

を立てた。この章では、この方程式を太陽のような球対称な星の外側で解き、得られた計量(Schwarzschild 計量)の上で粒子と光の運動を調べる。得られる結果は、水星の近日点移動、太陽の縁をかすめる光の曲がり、太陽の近くを通る電波の遅れ(Shapiro 遅延)、重力赤方偏移の4つで、どれも観測された値と一致する。

前の章から借りる道具は次のとおりである。第8章の Christoffel 記号

Γρμν=12gρσ(∂μgσν+∂νgσμ−∂σgμν)(12.2)\Gamma^\rho{}_{\mu\nu}=\frac12g^{\rho\sigma}\bigl(\partial_\mu g_{\sigma\nu}+\partial_\nu g_{\sigma\mu}-\partial_\sigma g_{\mu\nu}\bigr)\tag{12.2}

と、第10章の Riemann テンソルと Ricci テンソル

Rρσμν=∂μΓρνσ−∂νΓρμσ+ΓρμλΓλνσ−ΓρνλΓλμσ,Rμν=Rρμρν(12.3)R^\rho{}_{\sigma\mu\nu}=\partial_\mu\Gamma^\rho{}_{\nu\sigma}-\partial_\nu\Gamma^\rho{}_{\mu\sigma}+\Gamma^\rho{}_{\mu\lambda}\Gamma^\lambda{}_{\nu\sigma}-\Gamma^\rho{}_{\nu\lambda}\Gamma^\lambda{}_{\mu\sigma},\qquad R_{\mu\nu}=R^\rho{}_{\mu\rho\nu}\tag{12.3}

を使って、計量から曲率を計算する。第9章 §9.2 の弱い場の関係 g00≃1+2Φ/c2g_{00}\simeq1+2\Phi/c^2 で、解の中の定数を Newton の重力と結びつける。第9章 §9.3 の Killing ベクトルから作る保存量(エネルギーと角運動量)で、軌道の問題を1次元の問題に帰着させる。光の曲がりと重力赤方偏移は、第9章 §9.4 で弱い場の計量について導いた式を、ここで厳密な計量に当てはめ直す。

この章の結果のうち、地平面 r=rsr=r_{\mathrm s} の近くの振る舞い(事象の地平面・最内安定円軌道・光子球)は第13章でブラックホールとして扱う。ここでは r≫rsr\gg r_{\mathrm s} の太陽系の範囲で、一般相対論の補正を Newton 力学の結果への小さな上乗せとして求めることに集中する。

真空の Einstein 方程式

星の外側には物質が無いので Tμν=0T_{\mu\nu}=0 である。太陽系の大きさでは宇宙定数の影響は無視できるので、Λ=0\Lambda=0 とする。観測から求められている Λ≈1.2×10−52 m−2\Lambda\approx1.2\times10^{-52}\,\mathrm{m^{-2}} による加速度は、惑星の軌道の範囲で太陽の重力より 17 桁以上小さい。このとき (12.1) は Rμν−12gμνR=0R_{\mu\nu}-\frac12g_{\mu\nu}R=0 となる。両辺に gμνg^{\mu\nu} をかけて縮約すると、4次元では gμνgμν=4g^{\mu\nu}g_{\mu\nu}=4 なので

R−12⋅4R=−R=0R-\frac12\cdot4R=-R=0

となり、R=0R=0 である。これを元の式に戻すと

Rμν=0(12.4)R_{\mu\nu}=0\tag{12.4}

を得る。逆に Rμν=0R_{\mu\nu}=0 ならスカラー曲率も 0 なので Gμν=0G_{\mu\nu}=0 である。したがって、真空の Einstein 方程式は (12.4) と同値である。

Rμν=0R_{\mu\nu}=0 は Riemann テンソルが 0 であることを意味しない。第10章 §10.2 で見たように、潮汐力は Riemann テンソルで表され、星の外の真空でも潮汐力ははたらく。(12.4) は、Newton の重力で真空の Poisson 方程式が ∇2Φ=0\nabla^2\Phi=0 になる(Φ\Phi そのものは 0 でない)ことに対応している。

球対称で静的な計量の形

(12.4) は10個の連立偏微分方程式で、一般に解くことは難しい。対称性を仮定して計量の形を絞り込む。

  1. 静的であることを仮定する。すなわち、計量の成分が時刻 x0=ctx^0=ct によらず、dt dxi\mathrm{d} t\,\mathrm{d} x^i の交差項も無いとする。交差項が無いことは、t→−tt\to-t の時間反転で計量が変わらないことを意味する。
  2. 球対称であることを仮定する。空間を回転しても計量が変わらないので、角度の部分は球面の計量 dθ2+sin⁡2θ dφ2\mathrm{d}\theta^2+\sin^2\theta\,\mathrm{d}\varphi^2 に比例する。その係数と残りの成分は、中心からの距離を表す1つの変数だけの関数になる。

その変数 rr は、時刻とその変数が一定の球面の面積が 4πr24\pi r^2 になるように選ぶ(確認テスト 12.1-1)。この rr を面積半径と呼ぶ。

平らな空間では面積半径は中心からの距離そのものであるが、曲がった空間では中心までの距離とは一致しない。以上の仮定で、計量は2つの関数 α(r)\alpha(r)、β(r)\beta(r) を使って

ds2=e2α(r)c2dt2−e2β(r)dr2−r2(dθ2+sin⁡2θ dφ2)(12.5)\mathrm{d} s^2=\mathrm{e}^{2\alpha(r)}c^2\mathrm{d} t^2-\mathrm{e}^{2\beta(r)}\mathrm{d} r^2-r^2\bigl(\mathrm{d}\theta^2+\sin^2\theta\,\mathrm{d}\varphi^2\bigr)\tag{12.5}

と書ける。g00g_{00} と grrg_{rr} を指数関数で書いたのは、2つの成分の符号(正と負)を保ったまま計算を簡単にするためである。この形の計量を、静的で球対称な時空の一般形として採用する。

Christoffel 記号

(12.5) の計量は対角で、成分は

g00=e2α,grr=−e2β,gθθ=−r2,gφφ=−r2sin⁡2θ,g_{00}=\mathrm{e}^{2\alpha},\quad g_{rr}=-\mathrm{e}^{2\beta},\quad g_{\theta\theta}=-r^2,\quad g_{\varphi\varphi}=-r^2\sin^2\theta,

逆計量は各成分の逆数

g00=e−2α,grr=−e−2β,gθθ=−1r2,gφφ=−1r2sin⁡2θg^{00}=\mathrm{e}^{-2\alpha},\quad g^{rr}=-\mathrm{e}^{-2\beta},\quad g^{\theta\theta}=-\frac{1}{r^2},\quad g^{\varphi\varphi}=-\frac{1}{r^2\sin^2\theta}

である。対角の計量では、(12.2) の和 σ\sigma は σ=ρ\sigma=\rho の1項だけが残る。微分の記号を ′=d/dr'=\mathrm{d}/\mathrm{d} r と書く。たとえば

Γ00r=12g00∂rg00=12e−2α⋅2α′e2α=α′,Γr00=−12grr∂rg00=12e−2β⋅2α′e2α=α′e2(α−β)\Gamma^0{}_{0r}=\frac12g^{00}\partial_rg_{00}=\frac12\mathrm{e}^{-2\alpha}\cdot2\alpha'\mathrm{e}^{2\alpha}=\alpha',\qquad \Gamma^r{}_{00}=-\frac12g^{rr}\partial_rg_{00}=\frac12\mathrm{e}^{-2\beta}\cdot2\alpha'\mathrm{e}^{2\alpha}=\alpha'\mathrm{e}^{2(\alpha-\beta)}

である。同じ計算で、0 でない成分は(下の2つの添字の入れ替えを除いて)次の9個である。

Γ00r=α′,Γr00=α′e2(α−β),Γrrr=β′,Γrθθ=−re−2β,Γrφφ=−rsin⁡2θ e−2β,Γθrθ=Γφrφ=1r,Γθφφ=−sin⁡θcos⁡θ,Γφθφ=cot⁡θ.(12.6)\begin{gathered} \Gamma^0{}_{0r}=\alpha',\qquad \Gamma^r{}_{00}=\alpha'\mathrm{e}^{2(\alpha-\beta)},\qquad \Gamma^r{}_{rr}=\beta',\\ \Gamma^r{}_{\theta\theta}=-r\mathrm{e}^{-2\beta},\qquad \Gamma^r{}_{\varphi\varphi}=-r\sin^2\theta\,\mathrm{e}^{-2\beta},\qquad \Gamma^\theta{}_{r\theta}=\Gamma^\varphi{}_{r\varphi}=\frac1r,\\ \Gamma^\theta{}_{\varphi\varphi}=-\sin\theta\cos\theta,\qquad \Gamma^\varphi{}_{\theta\varphi}=\cot\theta . \end{gathered}\tag{12.6}

最後の行の2つは、第8章の例題で求めた球面の Christoffel 記号と同じものである。

Ricci テンソル

(12.3) の Ricci テンソルを縮約の形で書き直すと

Rμν=∂ρΓρνμ−∂νΓρρμ+ΓρρλΓλνμ−ΓρνλΓλρμR_{\mu\nu}=\partial_\rho\Gamma^\rho{}_{\nu\mu}-\partial_\nu\Gamma^\rho{}_{\rho\mu}+\Gamma^\rho{}_{\rho\lambda}\Gamma^\lambda{}_{\nu\mu}-\Gamma^\rho{}_{\nu\lambda}\Gamma^\lambda{}_{\rho\mu}

である。縮約した Christoffel 記号は第8章の公式 Γρρλ=∂λln⁡∣g∣\Gamma^\rho{}_{\rho\lambda}=\partial_\lambda\ln\sqrt{\left\vert g\right\vert } で求めるのが早い。∣g∣=e2α+2βr4sin⁡2θ\left\vert g\right\vert =\mathrm{e}^{2\alpha+2\beta}r^4\sin^2\theta なので、

Γρρr=α′+β′+2r,Γρρθ=cot⁡θ,Γρρ0=Γρρφ=0\Gamma^\rho{}_{\rho r}=\alpha'+\beta'+\frac2r,\qquad \Gamma^\rho{}_{\rho\theta}=\cot\theta,\qquad \Gamma^\rho{}_{\rho0}=\Gamma^\rho{}_{\rho\varphi}=0

である。

R00R_{00} を例に、計算を最後まで追う。μ=ν=0\mu=\nu=0 として、4つの項を順に見る。

  • 第1項は ∂rΓr00\partial_r\Gamma^r{}_{00} だけが残る。
  • 第2項は時刻での微分なので 0 である。
  • 第3項は ΓρρrΓr00\Gamma^\rho{}_{\rho r}\Gamma^r{}_{00} である。
  • 第4項は Γρ0λΓλρ0\Gamma^\rho{}_{0\lambda}\Gamma^\lambda{}_{\rho0} である。0 でない組は (ρ,λ)=(0,r)(\rho,\lambda)=(0,r) とその逆の2つで、どちらも Γ00rΓr00\Gamma^0{}_{0r}\Gamma^r{}_{00} である。

したがって

R00=(α′e2(α−β))′+(α′+β′+2r)α′e2(α−β)−2α′⋅α′e2(α−β)=e2(α−β)[α′′+2α′(α′−β′)+α′2+α′β′+2α′r−2α′2]=e2(α−β)[α′′+α′2−α′β′+2α′r]\begin{aligned}R_{00}&=\bigl(\alpha'\mathrm{e}^{2(\alpha-\beta)}\bigr)'+\Bigl(\alpha'+\beta'+\frac2r\Bigr)\alpha'\mathrm{e}^{2(\alpha-\beta)}-2\alpha'\cdot\alpha'\mathrm{e}^{2(\alpha-\beta)}\\ &=\mathrm{e}^{2(\alpha-\beta)}\Bigl[\alpha''+2\alpha'(\alpha'-\beta')+\alpha'^2+\alpha'\beta'+\frac{2\alpha'}{r}-2\alpha'^2\Bigr] =\mathrm{e}^{2(\alpha-\beta)}\Bigl[\alpha''+\alpha'^2-\alpha'\beta'+\frac{2\alpha'}{r}\Bigr]\end{aligned}

となる。同じ手順で残りの成分も求まる。非対角成分はすべて 0 で、Rφφ=sin⁡2θ RθθR_{\varphi\varphi}=\sin^2\theta\,R_{\theta\theta} である。結果は次のとおりである。

R00=e2(α−β)[α′′+α′2−α′β′+2α′r],Rrr=−α′′−α′2+α′β′+2β′r,Rθθ=e−2β[r(β′−α′)−1]+1.\begin{align*}R_{00}&=\mathrm{e}^{2(\alpha-\beta)}\Bigl[\alpha''+\alpha'^2-\alpha'\beta'+\frac{2\alpha'}{r}\Bigr],\tag{12.7}\\R_{rr}&=-\alpha''-\alpha'^2+\alpha'\beta'+\frac{2\beta'}{r},\tag{12.8}\\R_{\theta\theta}&=\mathrm{e}^{-2\beta}\bigl[r(\beta'-\alpha')-1\bigr]+1.\tag{12.9}\end{align*}

3つの式は検算スクリプトで成分ごとに確かめてある。

計量の符号の流儀を (−,+,+,+)(-,+,+,+) に変えても、Christoffel 記号と Riemann・Ricci テンソルは変わらない。理由は2つある。

  • Γ\Gamma は逆計量と計量の微分の積なので、計量の符号が打ち消し合う。
  • Riemann テンソルと Ricci テンソルは Γ\Gamma だけで書ける。

したがって、この3式は逆の符号の流儀の教科書の式と成分まで一致する。

Schwarzschild 計量

Rμν=0R_{\mu\nu}=0 の3つの式を解く。まず、(12.7) に e2(β−α)\mathrm{e}^{2(\beta-\alpha)} をかけて (12.8) に足す。α\alpha の2階微分と α′,β′\alpha',\beta' の積の項が打ち消し合って

e2(β−α)R00+Rrr=2r(α′+β′)=0\mathrm{e}^{2(\beta-\alpha)}R_{00}+R_{rr}=\frac{2}{r}(\alpha'+\beta')=0

が残る。よって α+β\alpha+\beta は定数である。r→∞r\to\infty で時空が平らになる(α,β→0\alpha,\beta\to0)ことを要求すると、その定数は 0 で

β=−α(12.10)\beta=-\alpha\tag{12.10}

である。無限遠で α→α∞≠0\alpha\to\alpha_\infty\neq0 となる解を選んでも、時刻を t→e−α∞tt\to\mathrm{e}^{-\alpha_\infty}t と目盛り直せば同じことになる。

次に、(12.9) に β=−α\beta=-\alpha を入れると

Rθθ=e2α(−2rα′−1)+1=1−(re2α)′=0R_{\theta\theta}=\mathrm{e}^{2\alpha}(-2r\alpha'-1)+1=1-\bigl(r\mathrm{e}^{2\alpha}\bigr)'=0

となる。(re2α)′=e2α+2rα′e2α(r\mathrm{e}^{2\alpha})'=\mathrm{e}^{2\alpha}+2r\alpha'\mathrm{e}^{2\alpha} を使った。これを積分すると、積分定数を rsr_{\mathrm s} と書いて re2α=r−rsr\mathrm{e}^{2\alpha}=r-r_{\mathrm s}、すなわち

e2α=1−rsr,e2β=(1−rsr)−1(12.11)\mathrm{e}^{2\alpha}=1-\frac{r_{\mathrm s}}{r},\qquad \mathrm{e}^{2\beta}=\Bigl(1-\frac{r_{\mathrm s}}{r}\Bigr)^{-1}\tag{12.11}

を得る。残る Rrr=0R_{rr}=0 は、この解で自動的に満たされる(確認テスト 12.1-2)。式が3つで未知関数が2つなのに矛盾しないのは、3つの式のあいだに縮約した Bianchi 恒等式 ∇μGμν=0\nabla^\mu G_{\mu\nu}=0 による関係があるからである。

積分定数 rsr_{\mathrm s} を Newton の重力と結びつける。r≫rsr\gg r_{\mathrm s} では重力は弱いので、第9章 §9.2 の Newton 極限

g00≃1+2Φc2(12.12)g_{00}\simeq1+\frac{2\Phi}{c^2}\tag{12.12}

が使える。星の質量を MM とすると、星の外の Newton のポテンシャルは Φ=−GM/r\Phi=-GM/r である。これを g00=1−rs/rg_{00}=1-r_{\mathrm s}/r と比べて

rs=2GMc2r_{\mathrm s}=\frac{2GM}{c^2}

である。

定理 12.1(Schwarzschild 計量 ★★★)

球対称で静的な時空の、真空の Einstein 方程式 Rμν=0R_{\mu\nu}=0 の解で、無限遠で平らになるものは

ds2=(1−rsr)c2dt2−dr21−rs/r−r2(dθ2+sin⁡2θ dφ2),rs=2GMc2(12.13)\mathrm{d} s^2=\Bigl(1-\frac{r_{\mathrm s}}{r}\Bigr)c^2\mathrm{d} t^2-\frac{\mathrm{d} r^2}{1-r_{\mathrm s}/r}-r^2\bigl(\mathrm{d}\theta^2+\sin^2\theta\,\mathrm{d}\varphi^2\bigr),\qquad r_{\mathrm s}=\frac{2GM}{c^2}\tag{12.13}

である。rsr_{\mathrm s} を Schwarzschild 半径と呼ぶ。この計量は星の外側 r>Rr>R(RR は星の半径)で成り立つ。

証明

上の計算で、(12.5) の形の計量で R00=Rrr=Rθθ=0R_{00}=R_{rr}=R_{\theta\theta}=0 を満たすものが (12.10)・(12.11) に限ることを示した。係数 rsr_{\mathrm s} は Newton 極限 (12.12) との比較で決まる。

計量の中で、光速と重力定数と質量は rsr_{\mathrm s} の組み合わせでしか現れない。太陽では rs≈2.95 kmr_{\mathrm s}\approx2.95\,\mathrm{km}、地球では 8.9 mm8.9\,\mathrm{mm} で、どちらも星の半径よりはるかに小さい(例題 12.1)。したがって太陽系のどこでも rs/r≪1r_{\mathrm s}/r\ll1 で、一般相対論の効果は rs/rr_{\mathrm s}/r の1次の小さな補正として現れる。

r=rsr=r_{\mathrm s} では

g00=0,grr→∞g_{00}=0,\qquad g_{rr}\to\infty

となり、計量の成分が特異になる。太陽系の天体ではこの半径は星の内部にあって外側の真空解の範囲に入らないが、星がこの半径より小さく縮むと r=rsr=r_{\mathrm s} が時空の中に現れる。これがブラックホールで、r=rsr=r_{\mathrm s} が座標の取り方による見かけの特異点にすぎないことは第13章 §13.1 で示す。

面積半径と固有の距離

計量 (12.13) の rr は面積半径で、2つの球面のあいだの距離は rr の差ではない。時刻 tt を一定にして半径の向きに測った固有の距離は

dl=dr1−rs/r,l(r1,r2)=[r(r−rs)+rsln⁡(r+r−rs)]r1r2(12.14)\mathrm{d} l=\frac{\mathrm{d} r}{\sqrt{1-r_{\mathrm s}/r}},\qquad l(r_1,r_2)=\Bigl[\sqrt{r(r-r_{\mathrm s})}+r_{\mathrm s}\ln\bigl(\sqrt r+\sqrt{r-r_{\mathrm s}}\bigr)\Bigr]_{r_1}^{r_2}\tag{12.14}

である。不定積分は、右辺を rr で微分して r/(r−rs)\sqrt{r/(r-r_{\mathrm s})} に戻ることで確かめられる(確認テスト 12.1-3)。r≫rsr\gg r_{\mathrm s} では

dl≃(1+rs2r)dr,l(r1,r2)≃r2−r1+rs2ln⁡r2r1\mathrm{d} l\simeq\Bigl(1+\frac{r_{\mathrm s}}{2r}\Bigr)\mathrm{d} r,\qquad l(r_1,r_2)\simeq r_2-r_1+\frac{r_{\mathrm s}}{2}\ln\frac{r_2}{r_1}

である。

面積が 4πr124\pi r_1^2 と 4πr224\pi r_2^2 の2つの球面のあいだは、平らな空間で同じ面積の球面の間隔より長い。これは空間そのものが曲がっていることの表れで、第9章 §9.4 で見たように、光の曲がりの半分はこの空間の曲がりから生じる(§12.3)。

Birkhoff の定理

上の導出では、計量が静的であることを仮定した。実はこの仮定は不要である。

定理 12.2(Birkhoff の定理 ★★)

球対称な真空の Einstein 方程式 Rμν=0R_{\mu\nu}=0 の解は、時間に依存してよいと仮定しても、局所的に Schwarzschild 計量 (12.13) に一致する。

証明の筋を述べる。球対称だけを仮定する。面積半径 rr が空間的に変化する領域では、面積半径と、それが一定の面に直交する時刻 tt を座標に選べる。この座標で計量を

ds2=e2α(t,r)c2dt2−e2β(t,r)dr2−r2(dθ2+sin⁡2θ dφ2)\mathrm{d} s^2=\mathrm{e}^{2\alpha(t,r)}c^2\mathrm{d} t^2-\mathrm{e}^{2\beta(t,r)}\mathrm{d} r^2-r^2\bigl(\mathrm{d}\theta^2+\sin^2\theta\,\mathrm{d}\varphi^2\bigr)

と書ける。この計量で Ricci テンソルを計算すると、静的な場合には無かった非対角成分

R0r=2r ∂0βR_{0r}=\frac2r\,\partial_0\beta

が現れる(検算スクリプトで確かめてある)。ここから次の順に絞り込む。

  1. R0r=0R_{0r}=0 から、β\beta は時刻によらない。
  2. すると Rθθ=0R_{\theta\theta}=0 は静的な場合と同じ式になり、その解は e−2β=1−rs/r\mathrm{e}^{-2\beta}=1-r_{\mathrm s}/r である。
  3. 00 成分と rrrr 成分の組み合わせから、α+β\alpha+\beta が動径によらないことが出る。よって α=−β(r)+f(t)\alpha=-\beta(r)+f(t) となる。
  4. 最後の f(t)f(t) は、時刻を dt′=ef(t)dt\mathrm{d} t'=\mathrm{e}^{f(t)}\mathrm{d} t と取り直せば消える。

こうして計量は静的な Schwarzschild 計量に戻る。座標を選ぶ段階の細部(∇r\nabla r が光的になる場合や、rr が一定になる特別な時空の扱い)は省いた。完全な証明は一般相対論の本に譲る。

Birkhoff の定理から、次のことが分かる。

Birkhoff の定理の帰結

  • 球対称を保ったまま脈動したり崩れたりする星の外側の計量は、時間によらない Schwarzschild 計量である。したがって、球対称な運動は重力波を出さない(重力波は第13章 §13.3)。
  • 外側の重力場は全質量 MM だけで決まり、星の内部の密度分布によらない。Newton の重力で球殻の定理が成り立つことの一般相対論版である。
  • 物質の無い球殻の内側の空洞は、平らな時空になる(確認テスト 12.1-4)。

例題 12.1 Schwarzschild 半径と固有の距離 ★★

オリジナル数値は次の値を使う。

GM⊙=1.3271×1020 m3/s2,R⊙=6.957×108 m(太陽の半径),GM⊕=3.986×1014 m3/s2,R⊕=6.371×106 m(地球の半径),c=2.998×108 m/s\begin{gathered}GM_\odot=1.3271\times10^{20}\,\mathrm{m^3/s^2},\qquad R_\odot=6.957\times10^8\,\mathrm m\quad\text{(太陽の半径)},\\ GM_\oplus=3.986\times10^{14}\,\mathrm{m^3/s^2},\qquad R_\oplus=6.371\times10^6\,\mathrm m\quad\text{(地球の半径)},\qquad c=2.998\times10^8\,\mathrm{m/s}\end{gathered}

  1. (1) 太陽と地球の Schwarzschild 半径と、表面での比 rs/Rr_{\mathrm s}/R を求めよ。
  2. (2) 太陽のまわりで、面積半径が太陽の半径の1倍と2倍の2つの球面を考える。そのあいだの半径方向の固有の距離は、面積半径の差 R⊙R_\odot よりどれだけ長いか。rs/rr_{\mathrm s}/r の1次まで求めよ。
解答

(1) rs=2GM/c2r_{\mathrm s}=2GM/c^2 に数値を入れる。太陽は

rs=2×1.3271×1020(2.998×108)2=2.953×103 m,rsR⊙=2.953×1036.957×108=4.24×10−6r_{\mathrm s}=\frac{2\times1.3271\times10^{20}}{(2.998\times10^8)^2}=2.953\times10^3\,\mathrm m,\qquad \frac{r_{\mathrm s}}{R_\odot}=\frac{2.953\times10^3}{6.957\times10^8}=4.24\times10^{-6}

である。地球は

rs=2×3.986×1014(2.998×108)2=8.87×10−3 m,rsR⊕=8.87×10−36.371×106=1.39×10−9r_{\mathrm s}=\frac{2\times3.986\times10^{14}}{(2.998\times10^8)^2}=8.87\times10^{-3}\,\mathrm m,\qquad \frac{r_{\mathrm s}}{R_\oplus}=\frac{8.87\times10^{-3}}{6.371\times10^6}=1.39\times10^{-9}

である。太陽の表面でも計量のずれは 10−610^{-6} 程度、地表では 10−910^{-9} 程度である。

(2) (12.14) を rs/rr_{\mathrm s}/r の1次まで展開すると dl=(1+rs/(2r))dr\mathrm{d} l=(1+r_{\mathrm s}/(2r))\mathrm{d} r なので、

l−R⊙=∫R⊙2R⊙rs2r dr=rs2ln⁡2=2.953×1032×0.6931=1.02×103 ml-R_\odot=\int_{R_\odot}^{2R_\odot}\frac{r_{\mathrm s}}{2r}\,\mathrm{d} r=\frac{r_{\mathrm s}}{2}\ln2=\frac{2.953\times10^3}{2}\times0.6931=1.02\times10^3\,\mathrm m

である。約 1 km1\,\mathrm{km} 長い。比で表すと 1.02×103/6.957×108=1.5×10−61.02\times10^3/6.957\times10^8=1.5\times10^{-6} である。厳密な式 (12.14) で計算した値との差は 1 m1\,\mathrm m よりはるかに小さい(検算スクリプト)。

確認テスト

オリジナル

  1. 12.1-1 計量 (12.5) で、次の2つを示せ。

    1. (i) 時刻と rr が一定の球面の面積は 4πr24\pi r^2 である。
    2. (ii) その球面の赤道 θ=π/2\theta=\pi/2 の円周は 2πr2\pi r である。
  2. 12.1-2 β=−α\beta=-\alpha、e2α=1−rs/r\mathrm{e}^{2\alpha}=1-r_{\mathrm s}/r とする。このとき (12.8) の RrrR_{rr} が 0 になることを示せ。

  3. 12.1-3 (12.14) の不定積分を微分して確かめよ。また、面積半径 r=2rsr=2r_{\mathrm s} から r=3rsr=3r_{\mathrm s} までの固有の距離を、Schwarzschild 半径を単位にして小数第3位まで求めよ。

  4. 12.1-4 質量 MM の薄い球殻(半径 RR)があり、内側には物質が無い。Birkhoff の定理を使って、内側の時空が平らであることを示せ。また、内側に静止した時計は、無限遠に静止した時計に比べて1秒あたりどれだけ遅れるか。g00g_{00} が球殻をまたいで連続であることを使ってよい。

木下の勉強ステータス

木下はまだこの記事を勉強していません。

AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com

← AI生成教科書『基礎理論』の記事一覧へ