相対論入門 第12章 §12.3 ★★★ 光の軌道の式から曲がりの角 4GM/(c2b) を厳密な計量で出し直し、同じ計算で太陽の近くを通る電波の遅れを求める
光の軌道の式
光の世界線は光的測地線で、固有時の代わりにアフィン径数 λ を使う(第9章 §9.4)。光の4元波数は kμ=dxμ/dλ である。時刻と方位角の Killing ベクトルから作った
k0=(1−rrs)cdλdt,−kφ=r2dλdφ
が光の進路に沿って一定である(赤道面 θ=π/2 で考える)。その比
b≡k0−kφ(12.24)
は長さの次元をもつ。無限遠では計量は平らで、−kφ/k0 は光の進路の直線と中心との距離(衝突径数)になる。光が中心に最も近づく面積半径を r0 とすると、2つは次の式で結ばれる(確認テスト 12.3-1)。
b2=1−rs/r0r02
光の進路の条件 gμνkμkν=0 は、粒子の規格化の式で c2 を 0 に置き換えたものである。(12.16) と同じ計算で
(dλdr)2=k02−(1−rrs)r2kφ2
を得る。u=1/r として
dλdr=kφdφdu
を使い、kφ2 で割ると
(dφdu)2=b21−u2(1−rsu)(12.25)
であり、これを φ で微分して 2du/dφ で割ると
dφ2d2u+u=23rsu2=c23GMu2(12.26)
となる。粒子の軌道の式 (12.20) で L→∞(光の速さに近づく極限)とした形である。
光の曲がり
rs=0 なら、(12.26) の解は u0=sinφ/b である。これは直線 rsinφ=b、すなわち中心からの距離が b で横軸に平行な直線である。方位角 0 が入射の方角、π が出ていく方角になる。
rs の1次の補正 u1 は
u1′′+u1=2b23rssin2φ=4b23rs(1−cos2φ)
に従う。右辺の2つの項に特解を作る。
- 定数項の特解は 3rs/(4b2) である。
- cos2φ の項の特解は Acos2φ とする。−3A=−3rs/(4b2) から A=rs/(4b2) である。
cos2φ=2cos2φ−1 を使って
u=bsinφ+4b2rs(3+cos2φ)=bsinφ+2b2rs(1+cos2φ)(12.27)
を得る。光が無限遠にあるのは u=0 のときである。入射側では φ=−δ1(δ1 は小さな正の角)として、1次まで
0=−bδ1+2b2rs⋅2⟹δ1=brs
である。出ていく側も対称で、φ=π+δ1 で u=0 になる。直線なら入射と出射の方角の差は π である。実際の差は π+2δ1 で、光は全体として 2δ1 だけ中心の側へ曲がる。
定理 12.5(光の曲がり ★★★)
Schwarzschild 時空を衝突径数 b で通過する光は、中心の側へ
δ=b2rs=c2b4GM(12.28)
だけ曲がる(rs/b の1次まで)。
第9章 §9.4 では、弱い場の計量
g00=1+c22Φ,gij=−(1−c22Ψ)δij
から曲がりの角
δ=c2b2GM(1+ΦΨ)
を導いた。(12.28) は、これで Ψ=Φ とした値と一致する。Schwarzschild 計量の空間部分 −dr2/(1−rs/r)−r2(…) はこの形をしていないが、面積半径 r の代わりに
r=ρ(1+4ρrs)2(12.29)
で定まる ρ を使うと、計量は
ds2=(1+rs/(4ρ)1−rs/(4ρ))2c2dt2−(1+4ρrs)4(dρ2+ρ2dθ2+ρ2sin2θdφ2)
となり、空間部分が平らな計量の定数倍の形(等方座標)になる(確認テスト 12.3-3)。rs/ρ の1次まで展開すると
g00≃1−ρrs,gij≃−(1+ρrs)δij
なので、Φ=Ψ=−GM/ρ である。こうして第9章の計算の前提 Ψ=Φ が Einstein 方程式の解から確かめられた。曲がりの半分は g00(第7章 §7.4 の素朴な評価 2GM/(c2b))、残りの半分は空間の計量のずれから生じる。

図 12.3 太陽の縁をかすめる光の曲がり(曲がりは大きく誇張した)。遠方の星からの光は中心に最も近い面積半径 r0 を通って曲がり、地球からは星が太陽から遠ざかる向きに δ だけずれて見える。衝突径数 b は無限遠での光の直線と太陽の中心との距離である。
光の曲がりの観測
- 太陽の縁をかすめる光の曲がりは 1.75′′ である(例題 12.3)。昼間は星が見えないので、1919 年の皆既日食のときに Eddington らが太陽の近くの星の位置のずれを測り、素朴な値 0.875′′ ではなく一般相対論の値に近いことを示した。
- 現在は、遠方の電波源(クェーサー)が太陽の近くを通るときの見かけの方向の変化を電波干渉計で測り、一般相対論の値と 10−4 程度の精度で一致することが確かめられている。
- 銀河や銀河団の重力で遠方の天体の像が曲がって複数に見えたり、環のように見えたりする現象(重力レンズ)も同じ効果である。
Shapiro 遅延
光の曲がりは光の進路の空間的な形の変化であった。同じ光の測地線から、光が太陽の近くを通るのに要する時間の延びも計算できる。この延びを Shapiro 遅延と呼ぶ。
光の進路の条件と2つの保存量から、座標の時刻 t で測った動径方向の速さを求める。
dtdr=dt/dλdr/dλ,dλdt=c(1−rs/r)k0
なので、
(dtdr)2=k02c2(1−rs/r)2[k02−(1−rrs)r2kφ2]=c2(1−rrs)2[1−r2b2(1−rrs)]
である。衝突径数と最も近い点の関係を入れると、最も近い点から面積半径 r の点まで光が進む座標時間は
t(r,r0)=c1∫r0r(1−rs/r′)1−r′2r021−rs/r01−rs/r′dr′(12.30)
である。被積分関数を rs の1次まで展開する。根号の中は
1−r′2r02(1−r′rs+r0rs)=(1−r′2r02)[1−r′2rsr021−r02/r′21/r0−1/r′]=(1−r′2r02)[1−r′(r′+r0)rsr0]
となる。最後は (1/r0−1/r′)/(1−r02/r′2)=r′/(r0(r′+r0)) を使った。したがって
dr′cdt≃r′2−r02r′[1+r′rs+2r′(r′+r0)rsr0]
である。3つの項を積分すると、それぞれ
r2−r02,rslnr0r+r2−r02,2rsr+r0r−r0
になる(最後の1つは微分して確かめられる)。
命題 12.6(Shapiro 遅延 ★★★)
最も近い面積半径 r0 の点から面積半径 r の点まで光が進む座標時間は、Schwarzschild 半径の1次まで
ct(r,r0)=r2−r02+rslnr0r+r2−r02+2rsr+r0r−r0(12.31)
である。第1項は平らな空間で直線を進む時間で、残りが重力による遅れである。
地球(面積半径 rE)から惑星(rP)へ電波を送り、反射して戻ってくる場合を考える。電波が太陽の近く(r0≪rE,rP)を通るとき、往復の遅れは
Δt≃c2rs[lnr024rErP+1](12.32)
である。
証明
(12.31) の導出は上で済んだ。往復の遅れは、最も近い点から地球までと、最も近い点から惑星までの遅れの和の2倍である。r≫r0 では
lnr0r+r2−r02≃lnr02r,r+r0r−r0≃1
なので、片道の遅れは
crs[lnr02rE+lnr02rP+1]=crs[lnr024rErP+1]
である。これを2倍する。
遅れの主要部分は対数の項で、r0 が小さいほど大きくなる。電波が太陽の縁をかすめるとき(r0≈R⊙)、遅れは 250μs 程度になる(例題 12.4)。
「遅れ」は、面積半径の差を光速で割った値と比べた量である。比較の基準の長さをどう定義するかで、定数の部分([ ] の中の +1)は変わる。観測で確かめるのは、惑星が太陽の向こう側を通過するあいだに r0 が変わることで生じる遅れの時間変化で、これは座標の選び方によらない。
この効果は 1964 年に Shapiro が提案し、金星・水星へのレーダーの往復時間で確かめられた。2002 年には、土星へ向かう探査機 Cassini との電波の往復時間の測定で、一般相対論の値と 10−5 程度の精度で一致することが示された。
例題 12.3 太陽の縁をかすめる光の曲がり ★★★
オリジナル太陽の縁をかすめる光(b=R⊙=6.957×108m)の曲がりの角を秒角で求めよ。rs は例題 12.1 の値 2.953×103m を使え。また、第7章 §7.4 の素朴な評価との比を答えよ。
解答
(12.28) より
δ=b2rs=6.957×1082×2.953×103=8.49×10−6rad=8.49×10−6×206265′′=1.75′′
である。第7章 §7.4 の素朴な評価は 2GM/(c2b)=rs/b で、その値は 0.875′′ である。比は 2 で、等価原理だけから求めた値は正しい値の半分である。
例題 12.4 火星との電波の往復の遅れ ★★★
オリジナル地球(rE=1.496×1011m)から火星(rP=2.279×1011m)へ電波を送り、反射して戻る時間を測る。火星が太陽のちょうど向こう側にあり、電波が太陽の縁をかすめる(r0=R⊙)とき、(12.32) の対数の項による遅れと、+1 の項まで入れた遅れを求めよ。また、往復の時間そのもの(2(rE+rP)/c)と比べよ。
解答
対数の中身は
r024rErP=(6.957×108)24×1.496×1011×2.279×1011=4.840×10171.364×1023=2.82×105,ln(2.82×105)=12.55
である。係数は 2rs/c=2×2.953×103/(2.998×108)=1.970×10−5s なので、
Δtlog=1.970×10−5×12.55=2.47×10−4s=247μs,Δt=1.970×10−5×13.55=267μs
である。往復の時間そのものは 2×3.775×1011/(2.998×108)=2.52×103s(約 42 分)なので、遅れの割合は 10−7 程度である。レーダーの往復時間は 1μs よりよい精度で測れるので、この遅れは十分に検出できる。
確認テスト
オリジナル
- 12.3-1 光が最も近づく点 r0 では dr/dλ=0 である。このことから b2=r02/(1−rs/r0) を導き、b>r0 であることを示せ。太陽の縁をかすめる光で b−r0 はいくらか。
- 12.3-2 木星の縁をかすめる光の曲がりの角を秒角で求めよ。木星の値と光速は次のとおりとする。
GM=1.267×1017m3/s2,半径 7.149×107m,c=2.998×108m/s
3. 12.3-3 (12.29) の変換で、Schwarzschild 計量 (12.13) が等方座標の形になることを示せ。4. 12.3-4 地球から金星(rP=1.082×1011m)へのレーダーの電波が太陽の縁をかすめるとき、(12.32) の対数の項による往復の遅れを求めよ。ほかの値は例題 12.4 と同じとする。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com