相対論入門 第12章 §12.4 ★★ 静止した観測者の振動数の比 g00 の比を Schwarzschild 計量で厳密に書き、弱い場の近似が破れる中性子星まで使えるようにする
静止した観測者の時計と振動数
第9章 §9.4 では、静的な時空で、静止した2人の観測者が測る光の角振動数が
ωg00=一定(12.33)
を満たすことを、Killing ベクトル ∂0 の保存量 k0 から導いた。この式は弱い場の近似を使っていない。Schwarzschild 計量の g00=1−rs/r を入れると、次の厳密な式を得る。
定理 12.7(Schwarzschild 時空の重力赤方偏移 ★★★)
面積半径 r1 に静止した観測者が、角振動数 ω1 で光を送る。それを面積半径 r2 に静止した観測者が受けると、その角振動数は
ω1ω2=1−rs/r21−rs/r1(12.34)
である。とくに半径 R の星の表面から出て無限遠で受ける光の赤方偏移 z≡λ受/λ発−1=ω発/ω受−1 は
1+z=1−rs/R1(12.35)
である。
同じ比は、静止した時計の進み方の比としても読める。面積半径 r に静止した時計の固有時は、dr=dθ=dφ=0 を計量に入れて
dτ=1−rrsdt(12.36)
である。計量は時刻によらないので、光の山が送り手から受け手に届くまでの座標時間は、どの山についても同じである。したがって、送り手が座標時間 Δt のあいだに出した山の数は、受け手が同じ長さの座標時間のあいだに受ける山の数に等しい。両者の固有時は (12.36) で異なるので、山の数を各自の固有時で割った振動数の比が (12.34) になる(確認テスト 12.4-4)。
rs/r≪1 では、(12.34) を1次まで展開して
ω1ω2≃1−2r1rs+2r2rs=1+c2Φ(r1)−Φ(r2)(Φ=−rGM)
となり、第7章 §7.3 の Δf/f=−ΔΦ/c2 に戻る。地上の Pound–Rebka の実験や GPS の補正(第7章)は、この1次の範囲で十分であった。
強い場での赤方偏移
(12.35) の赤方偏移は、星の半径が rs に近づくと無限大になる。z を rs/R の関数として描くと、弱い場の近似との差は図 12.4 のようになる。白色矮星では rs/R∼10−4 で近似は十分によいが、中性子星では rs/R∼0.3 で、近似は3割ほど小さな値を与える(例題 12.5)。r→rs で赤方偏移が発散することは、r=rs の面から外へ届く光が無いこと(事象の地平面)の最初の手がかりで、第13章 §13.1 で詳しく扱う。

図 12.4 星の表面から無限遠へ届く光の赤方偏移 z。実線は厳密な式 (12.35)、破線は弱い場の1次の近似。点は質量 1.4M⊙、半径 12km の中性子星(例題 12.5)。
動く時計
円軌道を回る時計の進みも、Schwarzschild 計量から厳密に求められる。円軌道では
dr=0,θ=2π,dtdφ=Ω
なので、計量 (12.13) を c2dt2 で割って
(dtdτ)2=1−rrs−c2r2Ω2
である。測地線の円軌道では (12.19) により r2Ω2=GM/r なので、
dtdτ=1−c2r3GM=1−2r3rs(12.37)
を得る。重力による遅れ rs/r と速さによる遅れ GM/(c2r) が、近似なしにこの形でまとまる。第7章 §7.3 の dτ/dt≃1+Φ/c2−u2/(2c2) はこの式の1次の展開である。
例題 12.5 白色矮星と中性子星の赤方偏移 ★★
オリジナルGM⊙=1.3271×1020m3/s2、c=2.998×108m/s とする。太陽の Schwarzschild 半径は 2.953km である。
- (1) 白色矮星(質量 1.0M⊙、半径 5.8×106m)の表面から出た光の赤方偏移を求めよ。これを Doppler 効果の速さ cz に直せ。
- (2) 中性子星(質量 1.4M⊙、半径 12km)について、赤方偏移を2通りに求めて比べよ。1つは厳密な式 (12.35)、もう1つは弱い場の近似 z≃rs/(2R) である。
解答
(1) rs/R=2.953×103/(5.8×106)=5.09×10−4 である。(12.35) から
z=1−5.09×10−41−1=2.55×10−4,cz=2.998×108×2.55×10−4=7.6×104m/s=76km/s
である。弱い場の近似 rs/(2R)=2.55×10−4 とは有効数字3桁で一致する。白色矮星のスペクトル線は、星が静止していても秒速数十キロメートルで遠ざかる Doppler 効果と同じだけ長い波長の側にずれる。
(2) rs=1.4×2.953=4.134km で、rs/R=4.134/12=0.3445 である。厳密な式では
z=1−0.34451−1=0.80961−1=0.235
である。弱い場の近似では z≃0.3445/2=0.172 で、厳密な値より 27% 小さい。中性子星の表面では、重力赤方偏移に1次の近似は使えない。
例題 12.6 GPS の時計の厳密な補正 ★★
オリジナルGPS 衛星は軌道半径 r=2.656×107m の円軌道を回る。地表の時計は静止しているとする(自転は無視する)。定数は次の値を使う。
GM⊕=3.986×1014m3/s2,R⊕=6.371×106m,c=2.998×108m/s
(12.36) と (12.37) を使って、衛星の時計が地表の時計に比べて1日(86400s)あたりどれだけ進むかを求め、第7章 §7.3 の値 38.5μs と比べよ。
解答
地球の GM/c2=3.986×1014/(2.998×108)2=4.435×10−3m である。地表の静止した時計と衛星の時計の進みは
(dtdτ)地表=1−6.371×1062×4.435×10−3=1−6.960×10−10,(dtdτ)衛星=1−2.656×1073×4.435×10−3=1−2.505×10−10
である(10−9 の大きさなので 1−x=1−x/2 で十分である)。比は
(dτ/dt)地表(dτ/dt)衛星=1+(6.960−2.505)×10−10=1+4.455×10−10
で、1日あたり 4.455×10−10×86400s=3.85×10−5s=38.5μs 進む。第7章の値と一致する。地上の重力場では rs/r∼10−9 なので、2次の項は 10−18 の大きさである。1日あたりにして 0.1 ピコ秒程度にしかならない。
確認テスト
オリジナル
- 12.4-1 重力赤方偏移の式 (12.34) が、弱い場の近似なしに成り立つ理由を、第9章のどの性質を使ったかを挙げて答えよ。
- 12.4-2 太陽の表面から出て無限遠で受ける光の赤方偏移 z を求め、Doppler 効果の速さ cz に直せ。数値は次の値とする。
rs=2.953×103m,R⊙=6.957×108m,c=2.998×108m/s
3. 12.4-3 半径 R の星のまわりの円軌道を回る時計の進みが、星の表面に静止した時計の進みとちょうど等しくなる軌道半径を、(12.37) を使って近似なしに求めよ。4. 12.4-4 静止した観測者が測る振動数の比が、それぞれの位置に静止した時計の進みの比の逆数になることを、計量が t によらないことから示せ。また、赤方偏移が z=1 になる発射位置の面積半径を rs で表せ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com