応用数学入門 第8章 §8.6 ★★★ 最急降下路の選択・経路変形・主要項まで扱う本教材の中心
例題 3(エアリー関数) ★★★
エアリー関数(t>0)
Ai(t)=∫0∞πdscos(3s3+ts)
の t→+∞ における漸近形を、鞍点法(最急降下法)を用いて求めよ。
変数変換と積分表示
★★ s=t1/2x で λ=t3/2、g=i(x3/3+x) の形に整える
コサインを実部表示 cosθ=Reeiθ で書き、s=t1/2x と変換すると、
Ai(t)=2πt1/2∫−∞∞exp[t3/2i(3x3+x)]dx.(30)
λ=t3/2、g(x)=i(x3/3+x)、f(x)=1 の形である。
実軸上ではこの被積分関数は激しく振動し(図8.2左)、正確な数値の算出は計算機を以てしても難しい。鞍点法の目標は、積分路を変形してこの振動を除去することにある。
鞍点の計算
★★★ x+=i が減衰側で支配的と判定、g′′(i)=−2 を得る
g′(x)=i(x2+1)=0⟹x±=±i.
鞍点は純虚数である。各鞍点での Reg の値:
g(i)=i(−3i+i)=−32,g(−i)=i(3i−i)=32.
Re[g(i)]=−2/3<0、Re[g(−i)]=2/3>0 であるから、t3/2→∞ では鞍点 x+=i からの寄与(指数減衰側)が支配的となる。
g′′(x)=2ix,g′′(i)=−2.
問題 (1):鞍点と最急降下路
★★★ Imf=0 から虚軸と双曲線の2枝を出す(最急降下路の候補)
f(z)=iz3/3+iz とおき z=x+iy として分解する:
u(x,y)v(x,y):=Ref(z)=−x2y+3y3−y,:=Imf(z)=3x3−xy2+x.
鞍点は f′(z)=iz2+i=0⇒z=±i(=(x,y)=(0,±1))。
鞍点 z0=i を通る最急降下・最急上昇線は Imf=Imf(i)=v(0,1)=0 を満たす曲線、すなわち
v(x,y)=x(3x2−y2+1)=0.
これは
- x=0(虚軸)、
- y2=3x2+1(双曲線)
の2つの曲線族を与え、どちらも鞍点 (0,±1) を通る(図8.1)。

図 8.1 Ref(z)=u(x,y) のカラーマップ。赤実線が最急降下路y=x2/3+1、黒点線が虚軸(最急上昇路)。黒丸は鞍点 z0=±i。赤破線は下側の双曲線の枝。
なぜ虚軸は積分路に選べないのか
★★ 等位相=必要条件にすぎず、無限遠で Ref→−∞ の枝を選ぶ
虚軸 x=0 も v=0 の等位相線であり鞍点 z0=i を通るのに、なぜ双曲線の方だけが積分路として使えるのか。鍵は無限遠での Ref の挙動である。
虚軸上では z=iy(y∈R)として
f(iy)=3i(iy)3+i(iy)=3y3−y⟹Ref(iy)=3y3−yy→+∞+∞.
被積分関数 et3/2f(z) が無限遠で発散するため、虚軸に沿った積分は収束しない。
一方、双曲線 y2=x2/3+1 上では(後述の式 (31) の指数部)
Ref=−(98x2+32)3x2+1∣x∣→∞−∞
となり、被積分関数が急速に減衰して積分が収束する。
| 経路 | v=Imf | 無限遠での Ref | 積分の収束 |
| 虚軸 x=0 | =0(等位相) | →+∞ | 発散 |
| 双曲線 y2=x2/3+1 | =0(等位相) | →−∞ | 収束 |
鞍点の局所構造で見ても、虚軸に沿って u(0,y)=y3/3−y は y=1 で極小(∂y2u=2>0)となるから、虚軸は鞍点から Ref が増加する方向、すなわち最急上昇路である。等位相線であることは必要条件にすぎず、積分路には Ref が減少する最急降下路の枝を選ばなければならない。
問題 (2):積分路変形と式 (31) の導出
★★★ 双曲線枝へ変形し、偶奇対称性で虚部を消して式 (31) を得る
積分路を双曲線の上側の枝z(x)=x+iy(x)、y(x)=x2/3+1(x∈R)に変形する(コーシーの定理による。円弧部分の寄与が R→∞ で消えることは認める)。
この曲線上では Imf=0 であるから f(z(x))=u(x,y(x)) は実数。y=x2/3+1 を代入して計算すると、
u(x,y(x))=−x23x2+1+31(3x2+1)3/2−3x2+1.
3x2+1 を因数としてくくり出して整理すると、
u(x,y(x))=−(98x2+32)3x2+1.
積分の測度は dz=(1+iy′(x))dx、y′(x)=3x2/3+1x である。ここで u(x,y(x)) は x の偶関数、y′(x) は奇関数であるから、
∫−∞∞et3/2u(x,y(x))iy′(x)dx=0
となり、虚部の寄与は対称性により消える。よって
Ai(t)=2πt1/2∫−∞∞exp[−t3/2(98x2+32)3x2+1]dx.(31)
経路変形後の被積分関数は鞍点 x=0 で最大値をとる急峻な関数となっており(図8.2右)、積分値はほとんど鞍点近傍の関数形で決まる。

図 8.2 被積分関数の比較(t=5)。左:実軸上(式 (30))では激しく振動する。右:最急降下路上(式 (31))では鞍点 x=0 に鋭く集中した正値関数となる。
問題 (3):漸近展開の主要項
★★★ h(x) 展開で β=1、ガウス積分で Ai∼t−1/4e−2t3/2/3
式 (31) の指数部
h(x):=(98x2+32)3x2+1
を x=0 近傍でテイラー展開する。1+s=1+s/2−s2/8+⋯(s=x2/3)より、
3x2+1=1+6x2−72x4+⋯
これを掛けると、
h(x)=32+=1(98+91)x2+365x4+O(x6)=32+x2+365x4+O(x6).
よって α=2/3、β=1 である。x4 以上の項をまとめて h(x)=α+βx2+ρ(x)(ρ(x)=365x4+⋯)と書き、指数法則で
e−t3/2h(x)=e−t3/2(α+βx2)⋅e−t3/2ρ(x)
と積に分解する。第2因子をテイラー展開すると
e−t3/2ρ(x)=1−365t3/2x4+⋯=:1+a4(t)x4+a6(t)x6+⋯
となり、問題の式 (32) の形が得られる。「指数の中の高次項」が「指数にかかる多項式」に化けるのは、このように指数法則で積に分けてから第2因子を展開しているだけである。
主要項(初項)の計算: a4(t)x4 以降を無視してガウス積分を実行する。
∫−∞∞e−t3/2x2dx=t3/2π=πt−3/4.
したがって、
Ai(t)≈2πt1/2e−32t3/2⋅πt−3/4=2π1t−1/4e−32t3/2.
Ai(t)∼2π1t−1/4e−32t3/2,t→+∞.(8.8)
検証: 一般式 (8.2) に λ=t3/2、g′′(z0)=−2 を代入すると、2π/(−λg′′)=π/t3/2=πt−3/4、前置因子 t1/2/(2π) との積は t−1/4/(2π)、一致する。数値的にも t=20 で主要項と Ai(t) の比は 1.0012 となり、t−3/2 のオーダーで 1 に収束することが確認できる。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com