光学と量子エレクトロニクス 第2章 §2.2 ★★★ どれほど複雑な近軸の系も、主面から主面への行列は薄いレンズ1枚と同じ。焦点・主点・節点は ABCD の4成分から決まる
屈折力と焦点
入口の基準面(屈折率 n1 の中)から出口の基準面(屈折率 n2 の中)までの系の行列を M=(AmathbbCBD)、AD−BC=1 とする。光軸に平行に高さ x1 で入った光線(p1=0)は、出口で x2=Ax1, p2=Cx1 になる。C=0 なら、出口の運動量が高さに比例するので、光線はどれも同じ1点で光軸を横切る。
Φ:=−C(2.2)
を系の屈折力と呼ぶ。空気中の薄いレンズでは Φ=1/f で、単位 m−1 をディオプトリーと呼ぶ。
出口から距離 z 進んだ光線の高さは x2+(z/n2)p2=(A−zΦ/n2)x1 で、これが 0 になる
zF′=Φn2A(2.3)
に後ろの焦点 F′ がある。zF′ を後側焦点距離(出口の面から測った焦点の位置)と呼ぶ。同じように、入口の面の前 zF の光軸上の点から出た光線は、入口で x1=(zF/n1)p1 を持ち、出口で p2=(CzF/n1+D)p1 になる。これが 0、つまり光線が平行に出るのは
zF=Φn1D(2.4)
のときで、ここが前の焦点 F である。
主面:薄いレンズに戻す2枚の面
焦点の位置だけでは、系を薄いレンズに置き換えることはできない。光の束が集まる位置と、集まるときの角の両方を合わせるには、もう1組の面が要る。
定理 2.1(主面 ★★★)
入口の面の前 zH の面 H と、出口の面の後ろ zH′ の面 H′ を
zH=Φn1(D−1),zH′=Φn2(A−1)(2.5)
にとると、H から H′ までの行列は
Tn2(zH′)MTn1(zH)=(1−Φ01)(2.6)
になる。ここで Tn(d)=(10d/n1) である。H, H′ を主面、主面が光軸と交わる点を主点と呼ぶ。
証明
C=−Φ と AD−BC=1 から B=−(AD−1)/Φ である。MTn1(zH) は Tn1(zH)=(10(D−1)/Φ1) を右から掛けて
MTn1(zH)=(A−ΦA(D−1)/Φ+B−(D−1)+D)=(A−Φ(1−A)/Φ1).
左から Tn2(zH′)=(10(A−1)/Φ1) を掛けると、1行目は (A−(A−1), (1−A)/Φ+(A−1)/Φ)=(1,0) になり、2行目は変わらない。
主面から主面への行列 (2.6) から、2つのことが分かる。1行目が (1,0) なので、H を高さ x で通った光線は H′ を同じ高さ x で通る(主面は倍率 +1 の共役面)。2行目は薄いレンズそのものなので、主面の間を「厚さの無い1枚のレンズ」とみなしてよい。焦点は主面から f=zF−zH=n1/Φ(前)と f′=zF′−zH′=n2/Φ(後ろ)の所にある。f, f′ を前側と後側の焦点距離と呼ぶ。両側が同じ媒質なら f=f′ で、水中を見るカメラのように両側の屈折率が違うと f′/f=n2/n1 になる(図 2.1)。

図 2.1 近軸の系の基点(両側が空気の場合)。入口と出口の間(青の帯)で光線が実際にどう曲がるかによらず、光軸に平行な光線(赤)は後ろの主面 H′ で1回曲がったように F′ へ向かい、前の焦点 F を通る光線(青)は前の主面 H で1回曲がったように平行に出る。点線は系の内部を主面での1回の屈折に置き換えた仮想の光路
解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部第10章の例題で扱った厚いレンズ(n=1.5、R1=20cm、R2=−20cm、厚さ 1cm)では、A=D=1−1.51×0.025=0.98333、Φ=0.049583cm−1 で、式 (2.5) から主面は両面から 0.336cm ずつレンズの内側に入る。2枚の主面の間隔は 0.328cm で、厚さの約 (n−1)/n=1/3 である。焦点距離 20.17cm は、この主面から測った距離である。
節点
主面は位置の倍率が 1 の共役面だった。角の倍率が 1 の共役点、つまり入った光線と同じ角で出ていく点を節点と呼ぶ。主面から主面への行列は高さ 0 で主点を通る光線については p2=p1 で、角に直すと θ2=(n1/n2)θ1 である。主点から zN だけ後ろの点 N と、H′ から zN′ だけ後ろの点 N′ の間の行列 Tn2(zN′)(1−Φ01)Tn1(−zN) でB=0 と D=n2/n1 を課すと、zN=zN′=(n2−n1)/Φ になる。両側が同じ媒質なら節点は主点に重なり、主点に向かう光線は向きを変えずに出ていく。
2つの系をつなぐ
屈折力 Φ1, Φ2 の2枚の薄いレンズを屈折率 n の媒質の中で距離 d だけ離すと、系の行列は
(1−Φ201)(10d/n1)(1−Φ101)=(1−ndΦ1−Φ1−Φ2+ndΦ1Φ2nd1−ndΦ2)
で、屈折力は
Φ=Φ1+Φ2−ndΦ1Φ2(2.7)
である。2枚が接していれば屈折力は和になり、離すと積の項だけ変わる。厚いレンズは2つの球面を d 離した系なので、解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部第10章のレンズメーカーの式はこの式の特別な場合である。
例題 2.2 望遠型の2枚組 ★★
オリジナル空気中に焦点距離 f1=10cm の凸レンズを置き、その後ろ d=6cm に焦点距離 f2=−5cm の凹レンズを置く。
- (1) 第1レンズの面から第2レンズの面までの行列 M を求め、AD−BC=1 を確かめよ。
- (2) 系の焦点距離 f′ と、第2レンズから後ろの焦点までの距離を求めよ。第1レンズから焦点までの全長と f′ の比(望遠比)はいくらか。
- (3) 主面 H, H′ の位置を求め、全長が焦点距離より短くなる理由を主面の位置から説明せよ。
解答
(1) Φ1=0.1cm−1, Φ2=−0.2cm−1 を上の積の式に入れて
M=(1−6×0.1−0.1+0.2+6×0.1×(−0.2)61−6×(−0.2))=(0.4−0.0262.2).
AD−BC=0.88+0.12=1。
(2) Φ=0.02cm−1 なので f′=50cm。後側焦点距離は式 (2.3) から A/Φ=0.4/0.02=20cm。第1レンズから焦点までの全長は 6+20=26cm で、望遠比は 26/50=0.52 である。
(3) 式 (2.5) から zH′=(A−1)/Φ=−0.6/0.02=−30cm で、H′ は第2レンズの 30cm 前(第1レンズの 24cm 前)にある。zH=(D−1)/Φ=1.2/0.02=60cm で、H は第1レンズの 60cm 前にある。焦点距離は H′ から F′ までの距離なので、H′ がレンズ系よりずっと前に出ていれば、焦点距離 50cm の結像を全長 26cm の筒に収めることができる。凸レンズで光をいったん強く集め、凹レンズで集まり方を緩めることで、平行光線が最後に曲がる位置(H′)を系の前方に移している。この配置を望遠型と呼ぶ。
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