光学と量子エレクトロニクス 第2章 §2.4 ★★ 光の束の太さを決める絞りと、その像である瞳。2本の光線の Lagrange の不変量は行列式 1 の言い換えで、視野と明るさの上限を決める
開口絞りと瞳
実際のレンズ系では、レンズの縁や鏡筒、光学系の途中に置いた穴が、通れる光線を制限する。光軸上の物体点から出た光の束の太さを決めている穴を開口絞りと呼ぶ。開口絞りを、それより前にある光学系を通して物体の側から見た像を入射瞳、後ろにある光学系を通して像の側から見た像を射出瞳と呼ぶ。物体の側から見ると、光の束は入射瞳という穴を通って系に入るように見える。
光の束を代表する2本の光線を決めておく。周縁光線は、光軸上の物体点から出て開口絞りの縁を通る光線で、光の束の太さを表す。主光線は、視野の端の物体点から出て開口絞りの中心を通る光線で、視野の広さを表す。主光線は入射瞳と射出瞳の中心も通る。
Lagrange の不変量
2本の光線 (xa,pa), (xb,pb) から
I(a,b):=xapb−xbpa(2.13)
を作る。
定理 2.2(Lagrange の不変量 ★★★)
近軸の光学系のどの面で測っても、I(a,b) は同じ値をとる。
証明
2本の光線を列に並べた行列 (xapaxbpb) の行列式が I である。光学系はこの行列に左から M を掛けるので、行列式は detM=AD−BC=1 倍になり、変わらない。
I は、2本の光線が相空間 (x,p) で張る平行四辺形の符号つきの面積である。解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部第10章の Lagrange–Helmholtz の不変量 nyu=n′y′u′ は、物体面と像面でこの量を書いたものにあたる。物体面では周縁光線の高さが 0、主光線の高さが物体の高さ y なので ∣I∣=ypm=nyu(u は周縁光線の角)で、像面でも同じ形になる。瞳の面では逆に主光線の高さが 0 で、周縁光線の高さが瞳の半径 a なので ∣I∣=apc=naθc(θc は主光線の角、つまり視野の半角)になる。したがって、どの系でも
naEPθ=n′aXPθ′(2.14)
が成り立つ(aEP, aXP は入射瞳と射出瞳の半径、θ, θ′ はそこで測った視野の半角)。瞳を小さくすると、その分だけ視野の角が広がる。回転対称な系では x と y の2つの向きに同じ面積が保たれ、4次元の相空間の体積、すなわちエタンデュはおよそ (πI)2 になる。
F 値・開口数と像の明るさ
像の側で周縁光線が光軸となす角を θ′ とし、NA′=n2sinθ′ を像の側の開口数と呼ぶ。無限遠の物体を写すときは、入射瞳の直径 DEP で
N:=DEPf′(2.15)
をF 値と呼ぶ。近軸では周縁光線は入射瞳の縁の高さ DEP/2 から F′ へ向かうので p′≈DEPΦ/2 で、両側が空気なら NA′≈1/(2N) になる。近軸を超えてもこの関係を保つためにレンズに課す条件(正弦条件)は、第3章で扱う。
像の明るさを決める照度(単位面積あたりに入射するパワー)は、放射輝度の保存から出る。解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第2部第10章で示したように、吸収の無い系では放射輝度を屈折率の2乗で割った Le/n2 が光線に沿って変わらない。物体の放射輝度を Le とすると像の側の放射輝度は Len22/n12 で、半角 θ′ の円錐から届く照度は∫cosθdΩ=∫02πdφ∫0θ′cosθsinθdθ=πsin2θ′ を掛けて
E′=πLen12n22sin2θ′=πLen12NA′2≈4N2πLe(2.16)
になる(最後は両側が空気で無限遠の物体)。像の明るさは被写体の放射輝度と F 値だけで決まり、焦点距離や被写体までの距離にはよらない。F 値を 2 倍にするごとに照度は半分になる。カメラの絞りの目盛り 1.4,2,2.8,4,5.6,… が 2 倍ずつ並ぶのはこのためである。
例題 2.4 絞りがレンズの後ろにあるときの入射瞳 ★★
オリジナル空気中の焦点距離 f=50mm の薄いレンズの後ろ 10mm に、直径 12.5mm の開口絞りを置く。
- (1) 入射瞳の位置と直径を求めよ。
- (2) 無限遠の物体に対する F 値と、像の側の開口数(近軸)を求めよ。
- (3) F 値を 2.8 から 4 に絞ると、像の照度は何倍になるか。
解答
(1) 入射瞳は、絞りを物体の側からレンズ越しに見た像である。光を逆にたどると、絞りはレンズから 10mm の所にある物体で、101+s′1=501 から s′=−12.5mm。負なので像は物体と同じ側、つまりレンズの後ろ 12.5mm にできる虚像である。倍率は −s′/s=12.5/10=1.25 で、入射瞳の直径は 12.5×1.25=15.625mm。物体の側から見ると、絞りは実物より大きく、少し奥にあるように見える。
(2) N=f/DEP=50/15.625=3.2。開口数は NA′≈1/(2N)=0.156。絞りの実物の直径 12.5mm で計算した 50/12.5=4 は誤りで、F 値は入射瞳で決まる。
(3) 照度は 1/N2 に比例するので (2.8/4)2=0.49 倍、ほぼ半分になる。2.8×2=3.96 なので、F 値の 2.8 と 4 は絞りの目盛りの1段にあたる。
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