光学と量子エレクトロニクス 第6章 §6.6 ★★ 学部の光学の Huygens–Fresnel の原理と Kirchhoff の回折積分は、この章の核 (6.7) の kr≫1 の形で、傾斜因子の違いは境界で何を与えるかの違い
Huygens–Fresnel の原理と傾斜因子
学部の光学では、回折を Huygens–Fresnel の原理から始めることが多い。波面の各点が2次波の波源になり、観測点の場は2次波の重ね合わせである、という原理で、式にすると
U(P)=iλ1∫開口U(x′)reikrK(θ)d2x′(6.23)
と書く。K(θ) は傾斜因子で、Fresnel はその形を決めず、後に Kirchhoff が Green の定理から、垂直に入る平面波に対して K=(1+cosθ)/2 を導いた(Kirchhoff の回折積分)。
この章の式 (6.7) は、kr≫1 で K=cosθ の場合にあたる。これを Rayleigh–Sommerfeld の第1種の積分と呼ぶ。同じ考え方で、z=0 の場 U の代わりに ∂zU を与えることもできる。角スペクトルでは U~(q;z)=∂zU~(q;0)eikzz/(ikz) で、eikzz/(ikz) の逆 Fourier 変換は Weyl の展開 (6.6) から −eikr/(2πr) なので
U(x,z)=−2π1∫d2x′∂zU(x′,0)reikr
を得る(第2種の積分)。垂直に入る平面波なら開口の中で ∂zU=ikU で、−ik/(2π)=1/(iλ) だから、式 (6.23) で K=1 の形になる。Kirchhoff の傾斜因子は2つの平均 (1+cosθ)/2 で、Kirchhoff の積分は第1種と第2種の積分の平均になっている。
3つの式の違いは、z=0 の面で何を与えるかにある。第1種は U だけ、第2種は ∂zU だけを与え、どちらも与えたものについて厳密な解になる。Kirchhoff は U と ∂zU の両方を、開口では入射波の値、板の上では 0 と置いた。ところが Helmholtz 方程式の解は、面の上で U と ∂zU の両方が 0 になる部分があると、全空間で 0 になる(Cauchy の問題の解の一意性)。したがって Kirchhoff の置き方は厳密には両立しない値を同時に与えていて、得られた式は開口の面に近づいても与えた値に戻らない。この矛盾は、U だけを与える第1種の積分にすると無くなる。ただし開口の上の値を入射波で置き換えること自体は第1種でも同じ近似で(6.5節の札)、開口が波長より十分大きく角度が小さい範囲では cosθ≈(1+cosθ)/2≈1 なので、3つの式の答えはほとんど変わらない。
Fresnel 帯
学部の光学では、円開口の軸上の明暗を Fresnel 帯で説明する。軸上の点 P(開口から z)から開口の面の点までの距離が z+λ/2, z+λ, z+3λ/2,… になる円で、開口の面を輪に分ける。m 番目の円の半径は、ρm2+z2−z=mλ/2 から ρm2=mλz+(mλ/2)2≈mλz である。隣り合う帯から来る2次波は半波長ずれて打ち消し合い、各帯の面積 πλz は m によらないので、各帯の寄与は大きさがほぼ同じで符号が交互に変わる。開口が奇数個の帯を含めば1つ分が残って明るく、偶数個なら打ち消して暗い。開口に含まれる帯の数は a2/(λz)=NF で、式 (6.12) の明暗の規則と同じ結果になる。この章の式 (6.8) は、この帯の足し算を傾斜因子 cosθ と 1/r の変化まで含めて厳密に実行したもので、残るのは中心の波と縁の波の2項だけだった。連続な帯の寄与の和が、両端の値(中心と縁)だけで決まるのは、被積分関数が全微分になっていたからである。
例題 6.7 傾斜因子と Fresnel 帯を数える ★
オリジナル
- (1) θ=30∘ の向きの2次波について、Rayleigh–Sommerfeld 第1種・第2種・Kirchhoff の傾斜因子を比べよ。
- (2) 波長 500nm、z=1m のとき、2番目の Fresnel 帯の外側の半径を近似の式と厳密な式で求めよ。半径 1mm の円開口の軸上は明るいか暗いか。
解答
(1) 第1種 cos30∘=0.866、第2種 1、Kirchhoff (1+cos30∘)/2=0.933。30∘ という大きな角度でも差は 15 パーセント以内で、普通の回折の実験(角度が数度以下)では区別することができない。
(2) ρ2=2λz=1.00mm。厳密な式 ρ22=2λz+λ2 との相対的な差は λ/(4z)∼10−7 の桁である。半径 1mm の開口はちょうど2つの帯を含むので、軸上は暗い。例題 6.2 の z=1m(NF=2)で強度が 0 になったことと同じである。
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