光学と量子エレクトロニクス 第6章 §6.2 ★★★ モードの伝わり方を位置の言葉に戻すと、開口の各点から出る2次波の重ね合わせになる。円開口の軸上の場は閉じた形で求まり、Fresnel 数 NF が近似の目安になる
伝達関数を位置の言葉に戻す
式 (6.3) は角スペクトルに伝達関数 eikzz を掛けたものの逆変換なので、位置の言葉では z=0 の場と、伝達関数の逆変換 h(x,z) との畳み込みになる:
U(x,z)=∫d2x′U(x′,0)h(x−x′,z),h(x,z)=∫(2π)2d2qeikzzeiq⋅x.(6.5)
h を求めるには、球面波を平面波に分ける Weyl の展開
reikr=2πi∫d2qkzei(q⋅x+kz∣z∣),r=∣x∣2+z2(6.6)
を使う。右辺の各項は Helmholtz 方程式を満たし、z=0 で ∂z が跳ぶ量が点源の強さに当たる(式の証明は面の上の Fourier 変換を極座標で実行するもので、ここでは結果だけ使う)。z>0 で両辺を z で微分すると、右辺の 1/kz が消えて
−2π1∂z∂reikr=∫(2π)2d2qeikzzeiq⋅x=h(x,z)
となる。左辺の微分を実行すれば次の結果を得る。
命題 6.2(Rayleigh–Sommerfeld の積分(第1種) ★★★)
z>0 の場は z=0 の面の上の場だけで決まり、
U(x,z)=∫d2x′U(x′,0)rziλreikr(1+kri),r=∣x−x′∣2+z2(6.7)
と書ける。z=0 の場を与えれば、この式は Helmholtz 方程式の厳密な解になる。
核の形を読む。kr≫1(観測点が開口から波長より十分遠い)なら括弧は 1 で、核は eikr/(iλr) に z/r=cosθ を掛けたものになる。開口の各点 x′ から、振幅 U(x′,0) の球面波 eikr/r が出て、それを全部足し合わせたものが観測点の場である、という形をしている。前の 1/(iλ) は、2次波の位相が入射波より π/2 進み、大きさが波長に反比例することを表し、cosθ は斜めに出る2次波が弱いこと(傾斜因子)を表す。学部の光学で Huygens–Fresnel の原理として習う形は、この核の kr≫1 の形である(6.6節)。
数値で確かめておく。式 (6.5) の h を、伝わるモード(∣q∣<k)とエバネッセント波(∣q∣>k)の両方を含めて数値積分すると、∣x∣=1.3λ, z=2λ の点で式 (6.7) の核と 10−6 の精度で一致する(verify_ch06.py)。エバネッセント波を落とすと一致しない。開口のすぐ近く(z∼λ)では括弧の i/(kr) の項もエバネッセント波も残り、それらを含めて初めて式 (6.7) は厳密になる。
円開口の軸上の場
半径 a の円い穴に振幅 1 の平面波が垂直に入り、穴の中では U(x′,0)=1、穴の外では 0 とする(この置き方を Kirchhoff の境界条件と呼ぶ。6.5節)。光軸の上(x=0)では r が穴の中の点までの距離 ρ=∣x′∣ だけで決まるので、r=ρ2+z2 を変数にとると ρdρ=rdr で、
U(0,z)=∫0a2πρdρrziλreikr(1+kri)=∫zRadrr2zeikr(−ik+r1)=[−rzeikr]zRa
となる(Ra=a2+z2 は軸上の点から穴の縁までの距離)。被積分関数がちょうど −zeikr/r の微分になっているので積分は閉じた形で求まり、
U(0,z)=eikz−RazeikRa(6.8)
を得る。第1項は穴の中心から来た波、第2項は穴の縁から来た波と読める。軸上の明るさは2つの波の干渉で決まり、縁までの光路が中心までより半波長の奇数倍だけ長いと明るく、偶数倍だと暗い。
Fresnel 近似と Fresnel 数
観測点が開口に比べて十分遠いと、r を ∣x−x′∣2/z2 について展開できる:
r=z+2z∣x−x′∣2−8z3∣x−x′∣4+⋯.(6.9)
振幅の 1/r と z/r では最初の項 z だけを残し、位相 kr では2番目の項まで残し、括弧の i/(kr) を落とす。これを Fresnel 近似と呼び、
U(x,z)≈iλzeikz∫d2x′U(x′,0)exp[2zik∣x−x′∣2](6.10)
を得る。この核の Fourier 変換は近軸の伝達関数 eikze−i∣q∣2z/(2k) そのもので、Fresnel 近似は式 (6.4) の近軸近似を位置の言葉で書いたものになっている。位相で落とした3番目の項が 1 ラジアンより十分小さい、つまり開口と観測の範囲で ∣x−x′∣ の最大値を ρmax として
8z3kρmax4≪1⟺z3≫4λπρmax4(6.11)
が、Fresnel 近似を使ってよい十分条件である。
円開口の軸上では、式 (6.8) の Ra≈z+a2/(2z)、z/Ra≈1 と置くことに当たり、
U(0,z)≈eikz(1−eiπNF),I0I(0,z)≈4sin22πNF,NF=λza2(6.12)
となる。NF を Fresnel 数と呼ぶ。開口の縁と中心の光路差 a2/(2z) が半波長の何倍かを表す無次元量で、回折の様子は NF でほぼ決まる。NF が奇数の所で軸上は入射光の4倍の明るさになり、偶数の所で真っ暗になる。NF≫1 の近い所では、開口の影がほぼ幾何光学のとおりにでき、縁の近くだけに縞が出る。NF≪1 の遠い所では、開口全体が1つの点のように振る舞い、次の節の Fraunhofer 回折になる。

図 6.1 半径 a=10λ の円開口の軸上の強度。実線は Fresnel 近似 (6.12)、点線は Rayleigh–Sommerfeld の積分の厳密な値 (6.8)。NF≤1(z≥100λ)では差は 0.05 未満で、NF が大きい(開口に近い)ほど明暗の位置がずれ、NF=5(z=20λ)の明るい所は厳密には 2.95 になる
図 6.1 は a=10λ の場合を比べたもので、開口に近づく(NF が大きくなる)ほど Fresnel 近似は厳密な値から外れる。近くでは式 (6.9) の3番目の項が位相を数ラジアンずらし、振幅の z/Ra も 1 から離れるからである。
命題 6.3(Babinet の原理 ★★)
開口の透過の関数が t1(x′) の板と、それを反転した t2(x′)=1−t1(x′) の板(相補的な板)に同じ光を入れると、z>0 の場は U1+U2=Uinc(板が無いときの場)を満たす。
証明
式 (6.7) は z=0 の場について線形で、U1(x′,0)+U2(x′,0)=(t1+t2)Uinc(x′,0)=Uinc(x′,0) だからである。
例題 6.2 円い穴と円い板の軸上の明るさ ★★★
オリジナル波長 λ=500nm の平面波が半径 a=1mm の円い穴に垂直に入る。
- (1) 軸上の強度が入射光の4倍になる距離と 0 になる距離を、遠い方から4つ求めよ。z=2m と 1m で、厳密な式 (6.8) の値も求めよ。
- (2) 穴の代わりに同じ大きさの不透明な円板を置く。円板の影の中心(軸上)の強度を厳密に求め、z=1m の値を出せ。
解答
(1) NF=a2/(λz)=2m/z なので、NF=1,2,3,4 の z=2, 1, 0.667, 0.5m が順に明・暗・明・暗の位置である。厳密な式では z=2m で I/I0=4.000、z=1m で 0.000(どちらも 10−6 以下のずれ)。a/z∼10−3 なので、式 (6.9) の3番目の項は位相で 10−6 ラジアンの桁しかない。穴を通った光が、穴の真後ろの軸上で入射光より明るくなることも、真っ暗になることもある。中心から来た波と縁から来た波が強め合えば振幅は 2 倍、強度は 4 倍になる。
(2) Babinet の原理(命題 6.3)から、円板の後ろの場は板が無いときの eikz から穴の場 (6.8) を引いたもので、
U円板(0,z)=eikz−(eikz−RazeikRa)=RazeikRa,I0I=z2+a2z2.
z=1m で 0.999999。不透明な円板の影の真ん中に、どの距離でも入射光とほぼ同じ明るさの点ができる。これを Arago の点(Poisson の点)と呼ぶ。縁から来る波は円板の全周で軸上に同じ位相で届くので、強め合って中心を照らす。幾何光学の影の中に光がある、という結果は、光が波であることの最もはっきりした証拠の1つである。
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