光学と量子エレクトロニクス 第12章 §12.3 ★★★ 実数性で負の振動数を消すと、測定できる ω>0 だけの式になる。吸収の山はその外側の屈折率を持ち上げ、透明な領域では屈折率が必ず振動数とともに増える
正の振動数だけで書く
実験で測れるのは ω>0 の量だけである。式 (12.8) の積分を ω′<0 と ω′>0 に分け、負の側で ω′→−ω′ と置き換えて実数性 (12.5)(虚部は奇、実部は偶)を使う。第1式では Imχ(ω′)[1/(ω′−ω)+1/(ω′+ω)]=2ω′Imχ(ω′)/(ω′2−ω2)、第2式では Reχ(ω′)[1/(ω′−ω)−1/(ω′+ω)]=2ωReχ(ω′)/(ω′2−ω2) がまとまり、
Kramers–Kronig の関係(正の振動数の形)
ε1(ω)−1=π2P∫0∞ω′2−ω2ω′ε2(ω′)dω′,ε2(ω)=−π2ωP∫0∞ω′2−ω2ε1(ω′)−1dω′(12.10)
を得る。この形は因果律と実数性の両方を使っている。数値で計算するときは、P∫0∞dω′/(ω′2−ω2)=0 を使って被積分関数の分子から ω=ω′ での値を引いておくと、特異点の無い普通の積分になる。
図 12.2 は、Lorentz 振動子(γ=0.1ω0、ωp=1.5ω0)の ε1 と ε2 を、式 (12.10) で ε2 から作った ε1 と比べたものである。ただし実際の測定をまねて、ε2 を ω≤1.6ω0 の範囲だけで与え、その外を 0 として積分した。厳密な ε1 との差は低い振動数で 0.02、ω=2ω0 で 0.02 の程度で、共鳴の形はほぼ完全に再現される。打ち切った先の吸収は小さいが、それを捨てたことで低い振動数の ε1 が一様に少し下がった。式 (12.10) の分母が ω′2 の程度なので、高い振動数の吸収は低い振動数の屈折率に正の定数を足す形で入るからである。

図 12.2 Lorentz 振動子(γ=0.1ω0、ωp=1.5ω0)の誘電関数。破線は与えた ε2、点線は厳密な ε1、実線は ω≤1.6ω0 の ε2 だけから式 (12.10) で作った ε1(打ち切りの近似)。共鳴の手前で ε1 が増え(正常分散)、山の幅の中でだけ減る(異常分散)
細い吸収線と Sellmeier の式
吸収が角周波数 ωj の細い線に集まっている場合を考える。線の重みを振動子強度 fj で表し、ω>0 の側でε2(ω)=2πωjfjωp2δ(ω−ωj) とおく(係数の選び方は 12.4節の総和則で意味が分かる)。式 (12.10) の第1式に入れると
ε1(ω)−1=j∑ωj2−ω2fjωp2(12.11)
となる。減衰の無い Lorentz 振動子の和と同じ形で、波長で書けば光学ガラスの屈折率を表す Sellmeier の式になる。第11章ではこの形を振動子の運動方程式から出したが、ここでは「吸収が ωj に集まっている」ことだけから出た。物質の中身が何であっても、吸収線の位置と重みが分かれば、その外側の屈折率が決まる。
透明な領域では屈折率が必ず増える
ω の近くに吸収が無い透明な領域では、式 (12.10) の第1式の被積分関数は ω′=ω で特異にならず、ω で微分して積分の中へ入れることができる。∂ω[1/(ω′2−ω2)]=2ω/(ω′2−ω2)2>0 なので
dωdε1=π4ω∫0∞(ω′2−ω2)2ω′ε2(ω′)dω′>0(透明な領域・ε2≥0)(12.12)
である。受動的な物質の透明な領域では、ε1 は振動数とともに必ず増える。これが正常分散で、ガラスが青い光を赤い光より強く曲げる理由である。ε1 が振動数とともに減る異常分散は、ε2 がゼロでない所、つまり吸収のある所でしか起きない(図 12.2 の山の幅の中)。第11章で Lorentz 振動子について見た正常分散と異常分散の配置は、この不等式によってどの物質でも同じになる。反転分布のある利得媒質では ε2<0 の線があり、その外側で ε1 が振動数とともに減ることがある。これは第11章の遅い光と速い光の話につながる。
金属:原点の極
金属では直流の伝導度 σ0 のために、ω→0 で εr≈iσ0/(ε0ω) と発散する。この極は実軸の上にあるので、図 12.1 の積分路で原点も小さな半円で避ける必要がある。極の部分を引いた χ(ω)−iσ0/(ε0ω) は原点で正則で、これに KK の関係を当てればよい。引いた項は実軸の上で純虚数なので実部は変わらず、虚部だけが σ0/(ε0ω) だけ変わる。正の振動数の形に直すと
ε1(ω)−1=π2P∫0∞ω′2−ω2ω′ε2(ω′)dω′,ε2(ω)=ε0ωσ0−π2ωP∫0∞ω′2−ω2ε1(ω′)−1dω′(12.13)
である。第1式が変わらないのは、引いた項 σ0/(ε0ω′) を第1式に入れると ω′ と打ち消して定数になり、P∫0∞dω′/(ω′2−ω2)=0 で消えるからである。第2式の σ0/(ε0ω) は、ε1 を知っても直流の伝導度が決まらないことを表す。ε1 から作れるのは、直流の極を除いた吸収だけである。Drude 模型 εr=1−ωp2/[ω(ω+iγ)](σ0=ε0ωp2/γ)で式 (12.13) を数値で確かめると、どちらの式も成り立つ(検算に入れた)。
例題 12.3 1本の紫外の吸収線で決まるガラスの屈折率 ★★
オリジナル可視光で透明なガラスの吸収が、波長 λ1=0.100μm の紫外の1本の細い線に集まっているとみなす(赤外の吸収は無視する)。波長 589nm で屈折率が 1.500 だった。
- (1) 式 (12.11) を波長 λ=2πc/ω で書き直し、n2−1=Bλ2/(λ2−λ12) の形にせよ。B は何を表すか。
- (2) B を求め、波長 400nm と 700nm の屈折率、および静的な極限 λ→∞ の屈折率を求めよ。可視域の屈折率の順序が式 (12.12) と合うことを確かめよ。
- (3) 吸収が少しでもある実際のガラスでも、(2) の順序は変わらないと言えるか。式 (12.12) の仮定に照らして述べよ。
解答
(1) 透明な領域では κ=0 で ε1=n2 である。ω=2πc/λ、ω1=2πc/λ1 を入れると
n2−1=ω12−ω2f1ωp2=ω12f1ωp2⋅λ2−λ12λ2,B=ω12f1ωp2.
B は λ→∞ での n2−1、つまり紫外の線が静的な比誘電率に寄与する分である。
(2) λ=0.589μm で λ2/(λ2−λ12)=0.346921/0.336921=1.02968 なので、B=(1.5002−1)/1.02968=1.214。400nm では 0.16/0.15=1.06667 で n=1+1.214×1.06667=1.515、700nm では 0.49/0.48=1.02083 で n=1.496、λ→∞ では n=1+B=1.488 である。λ が短い(ω が大きい)ほど屈折率が大きく、式 (12.12) の正常分散と合う。
(3) 式 (12.12) は、注目する振動数の近くで ε2=0 であることと、どこでも ε2≥0 であることだけを仮定している。吸収線がいくつあっても、形がどうであっても、可視域に吸収が無い限り被積分関数は正なので、可視域で ε1 が振動数とともに増えることは変わらない。ただし ε1=n2−κ2 なので、可視域にわずかな吸収 κ がある場合に n の増加まで保証するには、κ が小さく κ2 の変化が無視できることを別に確かめる必要がある。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com